「ナンにでも合う」という言葉を心で理解したあの日から、この作品を書く事が運命づけられていたのかもしれません。
「ふむぅ、我としたことがちょっとばかり油断をしていたようだ。
まさか足を踏み外して落下死しそうになるとは思わなかった」
歌って踊れる仏教系ダンサーのこのトゥルは、いまピンチに陥っていた。
場所は『ハイデ大火塔』。
ゲームをプレイしていた時は、エリアに入るための格子戸を開けるのに、ガシャコンと引っ張るスカイリムめいた吊り輪の仕掛けに気づかずに攻略をだいぶ後回しにしていたエリアだ。
そのエリアに一人で向かった我は、入って早々に足を滑らせて落下しそうになっている。
しかもセスタスを装備しているために掴まるのもしんどい。セスタスは拳を固く強くするための装備であって、手を開いてなにかを掴むのには向かないのだな。
これって、崖のでっぱりにセスタスが引っかかっているだけだし、耐久度がゼロになったらそのまま落下してしまいそうだ。
ゲームではこうやって崖に引っかかって落下死を防ぐことは出来なかったのでラッキーなのかもしれないが、代わりに手に持った武器を素早く交換することも出来ないのでセスタスを外す事は出来ない。
チラリと下を見れば荒波が寄せては返し、マデューラから見た海よりも危険そうだ。「落下=死」というのは、ゲーム時代そのままな感じである。
「誰か助けてくれー!
このまま死んでしまっては死にきれないんだー!」
どうせ死ぬなら飢えた虎にでもこの身を食わせてやりたいものだ。
しかしまぁ、ゲーム時代にこのエリアをプレイした者なら分かるだろうが、スタート地点付近にNPCはいない。
せめて篝火の近くなら白さんや太陽さんを召還することも出来たかもしれないが、それすらも困難。
諦めて運良く助かる可能性を信じて落下しようかと覚悟を決めた我だったが、そこに一人の女性が救いの手を差し伸べてくれた。
「あの、お困りですか?」
現れたのは聖女のフードを被り、全身を聖女シリーズで統一した女性だった。
……え?
「わたくしはリンデルトのリーシュ。
助けを呼ぶ声を耳にして駆けつけさせてもらいました」
「えっと……リーシュさん?
あなたは確か、このエリアのボス“竜騎兵”に道を塞がれた先に居て、ここには物理的に来れないのでは?」
リーシュさんは、我の質問に「何を些細な事を」とでも言うように慈愛にあふれた笑顔で答えてくれた。
ますます分からん。あのリーシュさんが慈愛に溢れた笑みを見せてくれるなんて、ゲームとしてプレイしていた人間には疑問しか浮かばんぞ、おい。
「わたくしにとってはボスや霧の壁など、瑣末な問題です。
信仰のために、ソウルを捧げてくれそうな殿方の声が聞こえましたので来たまでです。
件のエリアボスである“竜騎兵”さんにしても、聖鈴で殴り殺して駆けつけさせてもらいました。
あぁ……、あぁぁ~♪ それにしても貴方は声がとても素晴らしいですね♪
わたくしの好みの声だったので、もしやと思い駆けつけてみましたが、なんて逞しい魅力にあふれたお方♪
わたくし、本気で惚れてしまいそうですわ♪」
うっとりとした表情のリーシュさん。
え? でもゲームでは確かこの人、信仰(ソウル)のために殺人やらナンやらで、相当やらかしてくる人だと思ったけど、根っこの部分はこんなに純粋な人なのか?
しばらくうっとりしていたリーシュさんだが、我の状況を思い出したのか、片手で崖から落ちそうだった我を救い上げてくれた。
なんというアンバサ筋力!
「け、けっこう力があるのだな」
「色々と物騒な土地柄ですからね。
これまでに奇跡を売って得たソウルで自分のソウルレベルも鍛えていますから」
プレイヤーとしての目で見ると、リーシュさんの筋力ステは60は最低でもあるだろう。
信仰ステもそれ以上に高そうだし、体力やスタミナも脳筋レベルに高く設定されているようだ。
もしかすると、この世界は周回済みの世界なのか?
まぁ、詳しい理由は分からんが、とにかく「愛の力」ということで納得しておこう。愛の力は無限大だからな。
「何はともあれ、助けてももらい感謝します、リーシュさん。
我の名はトゥル・トゥルダダダ。気さくにトゥルとでも呼んでくれ」
「まぁ、お名前まで素敵なお方♪ 思わずダンスを踊りたくなりますわ♪
わたくしが貴方様と結婚すると、リーシュ・トゥルダダダになるのですね♪
なんて素敵なことでしょう♪」
うわぁ~、ここまで目を輝かせて手放しに賛辞を送られるというのも変な感じだ。
我は普段、現実世界ではコンちゃんと一緒になって日本文化を学ぶためにゲームに精を出しているからか、女人と接する機会は少ないし、経験に乏しい。
男女の戒律にも厳しく、男女七歳にして席を同じうせず とも言うしな。
世界の歴史はインドが全ての発祥であると我は思い込んでいるため、広い意味で解釈してほしい。
そして、この場合の対処はどうするべきか……、その答えは簡単だ。
かつて、「恋愛ゲームをくだらない」と一蹴しようと思ったが、コンちゃんがプレイしているのを横目で見ていたら割と悪くないかも、と思えるくらいには恋愛経験豊富な我の選択に誤りなど無い!
よし、とりあえず抱き寄せてみよう。
そう決意した我は、瞳を艶っぽく濡らした聖職者とは思えないほどに色気に溢れたリーシュさんの手に自分の手を絡め、そのまま抱き寄せる。
「あっ」
驚かしてしまったようだが、特に抵抗されることもなく、我の分厚い胸板に顔を埋めて幸せそうな顔をする。
手を解き、そのまま腕全体で彼女を背中まで包むようにギュッとする。ギュ~っと。
それだけのことだというのに、リーシュさんは本当に嬉しそうに、期待が確信に変わったかのようにこちらを見上げてくる。
おいおい、ここまでされたら我も男だ。責任を取るべきかもしれんな。
「我はこの地――ドラングレイグの全てのボス(気が向いたボスだけ)を倒し、デュナシャンドラも倒す。
その旅路は危険が多いため、リーシュさんのような腕の良い祈祷戦士アンバサの女性には仲間として、時には心の支えとしてそばに居て欲しいと思う。
どうか、この無骨な脳筋に少しでも情が湧いたならば、手を貸してはもらえないだろうか?」
「もちろん、喜んで♪」
わっほい♪ 最強のNPCであるリーシュさんが仲間になってくれたぞ♪
さぁ、エリアの攻略が二人になったが楽しく続けていこうじゃないか♪
◆ ◆ ◆
さっそくやってきた『青聖堂』。跳ね橋の仕掛けも起動し、中へと向かう。
すると早々に“古い竜狩り”(オーンスタインっぽい奴)が槍を振るいながらダイナミック出迎えをしてくれたが、我はその突進を避けることなく、脳筋らしく素手で捕まえて止める。
ふっ、女性を守るのは男の務め、そして後衛型の聖職者は我が守る!
「リーシュさん! 我の後ろに隠れ……」
彼女を庇って前に立った! 突き出された槍を力強く掴んだ! そこまでは我の――いや、前衛の仕事だから良いのだが、彼女はその隙に奇跡『輝かしい雷球』を詠唱していた。
その数ナンと9つ! 9つの雷球全てからアホみたいにばら撒かれる雷は“古い竜狩り”に全弾命中。
かつて、ロードランに居た頃のオーンスタインならば平気だったかもしれないが、リーシュさんの奇跡によって生じた雷により、そのまま爆発四散!
「あは♪ トゥルさんを傷つけようとする奴は殺す。
トゥルさんの手を煩わせる奴は殺す。
わたくしとトゥルさんの間を邪魔しようとする奴は殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すすすすすすコロコロコロコロ……」
「おい、リーシュ! 我は大丈夫だ!
敵も爆発四散したから落ち着け!」
“古い竜狩り”は最初の一撃以外に反撃すらも出来ずに雷球のパターンにハマって爆発四散。我は思わず敬礼のポーズで見送った。
「……ふぅ、失礼致しました。トゥルさん。
あなたの背中は本当に頼りがいがありますね。
これから先も、わたくしのことを守ってくださいまし」
落ち着いたのか、しおらしい態度に戻ったリーシュ。
ふ~む、彼女はゲームとはずいぶんとキャラが違うような気もするが、よくよく考えるとゲームでも結構過激なところはあったしな。
大体こんなものだろう。
さて、次の旅路に進むとしようか。
なお、オーンスタインもどきを倒したあと、話しかけた“青の騎士”ガラインドークだが、誓約を結ばなければまともに相手をしてくれなかった。同じセリフを狂ったように繰り返す始末。これはバグですか?
仕方がないのでこちらも同じように、仏教の良さを説いてみたら、頭から煙を吹き出して暴走。
そのことに、「トゥルさんが蔑ろにされた!」と激怒したリーシュが放電して攻撃。
そのことが引き金になったのか、はたまた「青の守護者」と「仏教」という誓約の二つが合わさって、頭がおかしくなって死んだのか。
飛び散るネジなどの部品から推測するに、ガラインドークはロボットだったのだろう。
「あはっ♪ トゥルさんを無視するだなんて酷いクソ虫ですよね♪
つい、殺しちゃいましたけどこの人は何の役にも立たない人ですから構いませんよね♪」
「あー……、リーシュさん?
言いたい事は色々あるが、我に付いてくるというのなら『なん』という言葉を使う時は『ナン』と表現してくれ。
ナンとは、我の故郷の完全栄養食であり国民食の名前であり、ソウルフードなのだ」
「はい、分かりました!
ソウルフードということは食べるとソウルレベルが上がるんですね! 流石はトゥルさん♪」
「これがインドの力だ!
(ガラインドークはそもそもモブに近いNPCだし別にいっか)」
ガラインドークの返り血(オイル? ナンか粘度が高いな)で全身を真っ赤に染めた我ら二人は、特に問題なく次のエリアへと進んでいく。
それにしてもリーシュさん……めちゃくちゃ強くて可愛いな。
リーシュさんって、零崎だと思うんですよね。だから内面に隠した殺人衝動とかを許容できれば単純に可愛くて素敵な聖女だと思うのですよ。
『討鬼伝極』では金砕棒を使い初めてみましたが、これも面白いですねぇ~♪ 楠木正成の合成武器から強化した麻痺属性の金棒なので、麻痺効果も便利です♪
ミタマも癒属性に変えてみたらパーティプレイも順調ですし、しばらくはこれでいきましょう。
さぁ~てと、今日も今日とてかる~く零崎を始めるっちゃ。