エンドコンテンツの雑魚敵になった俺、折角なので主人公の壁になろうと思う。 作:ダイコンハム・レンコーン
『ラストステラー』なるファンタジーなアクションRPGをご存知だろうか。
美麗なグラフィック、流行りの死にゲー要素、細やかな難易度調整。全てを上手く噛み合せた良ゲーだ。ややアクションや武器の幅が弱かったのが良ゲー止まりの理由だったが、DLCと共に大幅なテコ入れが入り、見事神ゲーに昇華された作品と言える。俺もかなりやり込んだゲームだ。
どうしてこんな事を聞くのかと言えば、俺がそんな世界に生まれ変わってしまったからだ。自分の立ち位置を確認したい、仮想の自分と言葉を投げ合いながら、今を整理する。
まずはスタートライン。俺はこのゲームを知っている。知っていて、周りの光景には見覚えがある。
周囲はからくり仕掛け。銃や大砲、果てには人型の機械が朽ち果て散乱している。僅かに動いているのは、皆正気を失ってゾンビの様に辺りを徘徊している。
どこぞのた◯し城を彷彿とさせる殺意の高いアスレチックは勿論の事、陰湿な床ボタン式のトラップも完備された空間。制作者の満ち満ちた害意を感じる。
やはりこの光景、ラストステラーのクリア後に向かう事が出来るダンジョン『閉じし黎明の虚』である。良く似た世界と言う線は捨てきれないが。そうでない可能性の方が今は高く見える。
今の認識としては──この世界はラストステラーの世界である。
次に、自分が何なのかを確かめよう。
このダンジョンは狂気に陥った機械人形が、自らの存在意義を求めて彷徨い歩いている。それは人類の保護なのだが、狂気に染まった彼らは生死を問わず人類を確保しようとする様になっている。だから人間を見かければ迷わず銃を撃つし、首を絞めて殺そうとする。
周りの機械人形の反応を見るに、俺はどうも人間ではないらしい。
けれどお仲間と言うには、些か俺には狂気が足りてない。人類救済に昂る心なんてものはどこにも無いし、殺意の一欠片も無い。
両手は立派に機械人形のソレだ。クローム仕立てのギンギラギン、前腕部から指先の一本一本に至るまで細やかに可動するシリンダやシャフトが、男心を擽ってくれる。両足も同じだった。
この様では、一部分だけ人であるなんて事も無いだろう。他の機械人形と同じく、人工皮膚が腐り落ち鋼の骨格が剥き出しになっているのだろう。
今の認識としては──俺は機械人形の一員である。
最後に、時系列を確かめよう。
既にここが物語の主人公に暴かれた後なのか、否か。
俺はダンジョンの上階へ向かう。俺が目覚めたのはダンジョン最下層、雑魚でも相当に強いエリアだ。そこには人類を保護する為、外宇宙の存在を迎撃する武器なんかが置いていたりするが、入る為のセキュリティクリアランスが足りていない為入れなかった。少なくとも、主人公は最下層まで訪れてはいないのだろう。
ならもっと浅い階層へ向かう。
そこに
俺はゲームの記憶を頼りに施設の電源を復旧し、ショートカット用のエレベーターで上階へ。もし主人公がこれから来る事があれば、もれなくダンジョンの序盤に最下層へ通じるショートカットが使えると言う意味不明な状態となるだろうが、そこまで配慮していられる状況でもないだろう。何せここはエンドコンテンツ、最下層や上層と言った特定の階層を除き、全てランダム生成されるシステムとなっている。何も用意せず飛び込めば遭難しかねないのだ。
と言う訳で、上階。見慣れたダンジョンを我が物顔で歩く事しばらく。SF染みた通路を歩き、人ひとり入れそうなカプセルがズラリと並ぶ空間に辿り着く。ここは機械人形の生産施設。このカプセルは機能を停止し、既に役目を終えているが、カプセルの一つにはまだ中身が残っていた。
近付いて中を覗けば、そこには銀髪……毛先が光ファイバーみたいにキラキラ輝いている真っ裸の少女が1人。勿論、CEROに配慮し大事な場所はツンツルテン、胸は髪ブラである。曝け出せばそれはそれで人気になるかも知れないが、CERO-Zになってしまう。
彼女の名は『メタ』、このダンジョンで唯一の正気かつ特別な機械人形である。エンドコンテンツで追加される隠しキャラと言う事で、凄まじい攻撃力を誇る。一方で機械の癖に悲しいくらいの紙装甲の為、仲間のフォローを入れるか、やられる前にやる必要がある。性格としては基本に忠実な無感情系ロボっ娘と言った感じで、好感度を上げれば感情を獲得し、主人公と結婚する事も出来る。
ちなみにこの特別、と言うのは自己進化プロセスを組み込まれているという所が特別で、これにより彼女はレベルアップする事が出来る。一応、彼女が感情を育んでいく事が出来る理由でもあるが、あくまでフレーバーテキスト的なものだ。
ダンジョン入り口付近の彼女が起動していないと言う事は、主人公はまだここに辿り着けていないのだろう。ラスボスを倒した所で止まっているのか、まだ旅立ってすらいないのか、それは分からない。
全部終わった後なら気楽でいれたのだが、そうでないとすると心配事が増えてしまう。ゲームのクリア後の世界と言うのも中々見られる物ではないので、そう言った意味でも少しガッカリだ。
……時系列はまだ絞られない。早く知りたい部分ではあるのだが。
と、悩んでいると目の前のカプセルの蓋が徐に開き始める。……いや、このイベントはまだの筈だが。
「──識別番号ME-ⅡA。起動します」
僅かにテクノを感じる音声と共に、彼女の目が見開かれた。
その目から光が放たれ、俺の全身をスキャンする。
「データベースに存在しない識別番号、其方はどちらの所属ですか」
「……分からない」
彼女に投げかけられた言葉に咄嗟に返したが、俺も言葉を介す事が出来るらしい。字は怪しい所だが、言葉が通じると言うだけで幾分か気は楽になる。
「しかし其方に誤作動の類は認められません。『リスク:小』の案件と判断し保留とします」
機械の身体故に表には出ていないが、彼女と会話出来るというのは少し嬉しい所だ。こんな状況でもなければより喜べたろうに。
「『リスク:大』の案件はあるのか?」
「検索中……ヒット。現在、暴走した同型機により、施設の機能が停止しています。このままでは『プライオリティ:人類の保護』の達成が不可能です」
彼女は全裸のまま物凄く真面目な話をしている。これが主人公なら持っている衣服を貸し出せたのだろうが、生憎俺も全裸である。別に恥じらいが無いのは知っているが、目のやり場に困るのは事実だろう。
「疑問、何故カメラを逸らすのですか」
「それは君が裸だからだ」
「疑問、裸とは何ですか」
「それは体表の大部分を他者から視認出来る状態の事だ」
「疑問、当機の体表組織はヒトの体表組織とは異なります。それでも裸となるのですか」
「そうだ。解決の為、衣服の着用を提案する」
「承諾しました」
確か、この近くに彼女専用の装備が落ちていた筈だ。それを彼女に着せよう。俺は彼女にこの場を任せ、少し離れた。
その道中で、幾らかの武器も調達する事にした。
ここの雑魚が使用する武器の1つ、リボルバーハンドキャノン『Type-6』を2丁。更に中ボス『リーパー』の使用するチェーンソーと大砲が合体した武器腕『複合兵装α』。設定では弾薬は材料さえ用意すれば機械人形の基本機能『物質印刷』により製造可能らしい。貴重品にはならないだろう。どれも道端に落ちていた物だ。複合兵装αは剥き身だと危なっかしいので、どこかで包帯か何かを入手して巻きつけておこう。
そして服も調達した。かつてここで作業していた人類が残した作業着だ。子供サイズの服もあるのが、少し闇を感じさせる。が、今は置いておこう。
しかし俺の服はサイズに見合うものが中々見つからず、主人公達用の装備がある隠し部屋に飾りとして置かれた顔まで覆う鈍色ケトルハットに、唯一見つけたくすんだ夕焼け色のポンチョと言う有様。頑張れば荒野のガンマンの様に見えなくもないかも知れない。ヘルメットの丁字状のスリットは好みだが。
「戻ったぞ」
「疑問、それが当機の衣類ですか」
「ああ、着方は分かるか?」
「回答、データベースに存在します。問題ありません」
俺は背中を向け、彼女が着替える音が止むのを待った。そして音が無くなった時に振り返る。
「よし、丁度いいサイズだな」
「感謝します」
全身を覆う黒いタイツの上に白のジャケットとハーフパンツ。いい感じにSFナイズされた近未来的なデザインだが、この世界じゃ最新鋭どころか太古のファッションだ。
肌色面積も減り、これで俺も安心出来る。
と、状況が落ち着いた事で、色々と考える時間が出来た。
別に待っていれば主人公は来るだろうが、どれ程の時間が掛かるか想像もつかない。
この『ラストステラー』なるゲーム、主人公は1人ではない。このゲーム、主人公が死ぬとゲームオーバーになるのではなく、どこかの大陸の誰かがランダムで新しい主人公になるシステムとなっている。その時のパーティメンバーが新しい主人公になる事もあれば、その親類縁者、はたまた全く関係ない人間が主人公になる事も珍しくはない。種族や地域によって様々な個性を持つ為、前の主人公は相性が悪い相手も今なら勝てる、なんて事もしばしば。逆に初期主人公だけでゲームクリアする縛りプレイなんてのもある。また、設定である程度主人公を指定する事も可能な為、ランダム要素嫌いのプレイヤーも安心して欲しい。
つまり、結局のところ主人公がどこかで死んだとしても、新たな主人公が誕生し、いつかは物語が進んでいく筈なのだ。
だからこのゲームは普通にプレイすると作中の経過時間が平気で1年2年とすっ飛んでいく。幸い機械の身である為、待つには問題無い。
しかし待つだけというのは、それはそれで疲れてしまう。折角の『ラストステラー』の世界、見て周りたい気持ちもある。
「提案、最下層へ向かいましょう。マザーコンピュータにアクセスし、暴走の原因を突き止めます」
「……それは無理だな。セキュリティクリアランスが足りない筈だ」
「確認、確かに其方の発言通りとなっています」
因みに、そのセキュリティを突破する為のキーアイテム、『Lv6セキュリティクリアランスカードキー』は、ダンジョンの外に存在している。ラスボス撃破後のイベントである人物から貰えるアイテムだ。だから少なくとも今の俺達だけで問題を解決する事は出来ない。最下層で可笑しな様子は見られなかったし、時間的な余裕はあるんじゃないかと考えてはいるが。
隣を見れば、何も言わず棒立ちの彼女が居る。果たすべき役割を果たせないと言うのは、どんな気持ちだろうか。
「セキュリティを通過する為のカードキーは外部に存在する可能性が高い」
ふと、口が言葉を紡いでいた。
「質問、それは正ですか」
無機質で無感動な2つの目が、穴が空きそうな程俺を見つめている。……冷やかしにするには、言い過ぎたな。
「あぁ、少なくとも、ここには無い筈だ」
「了解、直ちにカードキーの捜索に移行します」
「なら、これを持ってみないか。外の武器よりは手に馴染むと思うぞ」
俺は背中に背負った複合兵装αを彼女に渡す。挨拶代わりのスキャニングを済ませると片手でブンブン振り回し、軽々と背負ってみせた。切先が地面に擦れそうになっている姿が中々に愛らしい。やはり少女に大きな得物はよく映える。
そして彼女はダンジョンの出口へ向かう。当然俺も一緒についていく。
「疑問、其方は何故外へ向かうのですか」
「そりゃ勿論、君と一緒にカードキーを探す為だろう」
しれっと隣を歩いていたが、特に驚いてはくれない。ゲームでも最初はかなり塩、と言うか無感情な所があったから納得はしてるさ。寂しいけどな。
「了解、以降、当機は其方と行動を共にします」
「……当機とか、其方なんて堅苦しい呼び方は辞めにしないか?」
「疑問、機械人形である当機が、他の呼称を使用する理由が不明です」
「仲良くしたい、それ以外に理由はないさ。それに人類の保護を銘打って活動するなら、相手の信用を勝ち取れるだけの愛想は大事だぞ」
「了解、其方のデータベースから適切な語彙を参照して下さい」
あれだな。無人レジと会話してる気分だ。
ひたすら無言で画面の文字を見るよりはマシだが、このままじゃノンデリ極まった存在のまま社会に出てしまう。ゲームでは主人公がここに来た客であったから良かったものの、こっちが客になるとなれば相応に社会性を求められる。ますます1人で行かせるわけには行かなくなった。
で、彼女の一人称、つまり名前を決めたい訳だが、何にするかはとっくに決まっている。
「君はこれから名を名乗る様にすれば良い……名は『メタ』でどうだ?」
「了解、当機は呼称をこれよりメタとします」
「で、相手の事は名前で呼べばいい。俺の名前は『コテツ』だ」
特に思いつかないから、前世の名前をそのまま使っておく。ネットリテラシー的には0点回答だな。
「了解、メタは其方をコテツと呼称します」
「よしよし、いい感じに愛嬌が出て来たな、メタちゃんよ」
「疑問、メタちゃん、とは一体」
「知らないか? ちゃん付けした方が距離が近くなるんだぞ」
「了解、メタは今後遭遇した人類はちゃん付けで呼称します」
「良いねえ、俺はコテツちゃんかい?」
「否定、コテツは人類ではありません」
「……そうかい」
そうして互いの名を決めた所で、俺達は外へ向かう。
「──おぉ」
感嘆の声が漏れた。外へ続く扉が開くと燦々と陽光が俺達を照らす。日の暖かさは感じないが、記憶が補正してくれているのかどこか穏やかな気持ちになっていく。息を目一杯吸いたい気分だが、息なんてしてないんだよな。
周囲を見渡せば、一面の森。ここを覆い隠す様に生え揃った木々には、作為を感じずにはいられない。
それもその筈、ここは最初の主人公の暮らす村の裏手にある隠しエリアとなっている。最初のエリアにラストダンジョンなどがある様なあの感覚だ。テンション上がるなぁ。
「通信、不可」
メタちゃんはと言えば、耳の裏を指で押さえて遥か彼方と通信しようとしていたらしい。
ただ、過去の遺物に現代や近未来の兵器が登場するファンタジーモノでは良くある事だが、気軽に文明が滅んでいるのはお約束。かつての遺物がそのまま残っていて使えるなんてそうそう無いだろう。
「真面目だねえ……この世界と初めてのご対面、感想は無いのかい?」
「感想、メタには感情を基とした表現を行う機能がありません」
「そう難しい事じゃない。陽の光が眩しいとか、風が煩いとか」
「回答、メタは宇宙線によるノイズを感知しています。この回答に満足しましたか」
ネットの知恵袋みたいな語尾を付け足しながらも、彼女は答えようとしてくれた。感情に疎いだけで、歩み寄る姿勢は十分にある所がメタちゃんの美徳だ。
「大満足。それじゃあ、俺について来てくれ。君が目覚める前に少し外を見回ったからな、案内が出来るかもしれない」
と、サラッと嘘を吐きながら前を歩くと、テクテクと歩幅の都合で小走りになった彼女がついてくる。
目的地は主人公の居る村だ。ゲームのチュートリアルではここが敵……うん千年ぶりに蘇った地獄の軍団。意思を持つモンスターの百鬼夜行、ワイルズと呼ばれる者達による襲撃を受ける所からスタートする。
燃え盛る村、生き別れる家族、平穏が一瞬にして獣どもの狂宴の舞台となる。そこで主人公の少年は武器を取る。それ以上何も奪わせない為に。
……因みにチュートリアル途中でも問答無用で死ぬ。何だったら俺の初見プレイは最初の主人公がチュートリアルの雑魚で死に、そこから母親以外の家族をチュートリアルで全滅させた結果、復讐鬼と化した母親が主人公になってそのままラスボスまで討伐してしまった。
母は強しと言うが、初期から優秀な回復魔法を使えるキャラの為、攻略でもおすすめのキャラとなっている。家族が全員死んでいると常時攻撃バフが掛かるタイプのキャラの為、RTAでも人気が高い。
……閑話休題。俺達は村へ向かった訳だが、村に行けばラストステラーの物語が始まったか否かが分かる。村が滅んでいれば物語は既に始まっている、逆に滅んでいなければ開始前だ。
流石に滅びる真っ最中なんて事はないだろう。そんなタイミングが良いのか悪いのか分からない時に来るなんて。
……なんて、思ってたら。
「視認、1km先から煙が立ち上っています」
「……村、燃えてんじゃないのコレ」
「了解、村人を救出に向かいます」
「あ、ちょっとメタちゃん! ……これ、付いて行った方が良いのか?」
メタちゃんは全力疾走で俺を置いていった。俺は人類じゃないから、守る必要も無いと言う事らしい。早めに自衛出来る様にしないとな。
で、なし崩しにだがチュートリアルにも介入か。ちゃんと流れを覚えられていたら良いんだが。
俺は、黒煙噴き上げる火の元へ向かった。