エンドコンテンツの雑魚敵になった俺、折角なので主人公の壁になろうと思う。   作:ダイコンハム・レンコーン

2 / 2
巡り合わせの機械人形

 俺はメタちゃんの後に続いて火元まで向かっていた。残念ながら、メタちゃんは見失ってしまったのだが。

 

 村に近付くにつれ、この惨状が見間違いの類でない事を嫌でも理解させられる。立ち上る黒煙と大気を揺らす火炎、使い倒された言葉だが、正に地獄絵図とはこの事だ。

 今の俺に嗅覚が無くてよかった。あったなら今頃肉の焼ける匂いで吐きかねなかったろう。

 

「……一体どこに」

 

 ゲームのチュートリアルはどうだった……たしか、村の広場らしい場所でゴブリンとオーク相手に戦うんだったか。頑張って探せば見つかるだろうか。

 

 なんて廃墟を歩いていると、ドン、と背中側に衝撃。

 

「きゃっ?!」

 

 刺された、としても分からないだろうがオイルが漏れてないから大丈夫。

 で、ぶつかって来た相手は──おや、見覚えのあるきゃるんとした瞳。

 

「……あ、貴方も、怪物?」

「待った待った! 俺は怪しいもんじゃない。いや見て呉れは最高に怪しいが、魂は清廉潔白、君達と同じだ」

 

 勝手に引き抜いていたリボルバーハンドキャノン……Type-6を懐にしまう。ただでさえ鉄塊を切り出したみたいに無骨で物々しいデザインなのに、俺みたいなケトルハットマンが使ってたら威圧感の塊でしかない。

 

 俺は両手を上げて無害をアピールする。

 

「う、うぅ……」

 

 ……目の前の少女、素朴な村娘の様に見える彼女は初期主人公の妹『カタリナ』だ。ショートな茶髪に翡翠の瞳、丸眼鏡が如何にもなインドア感を醸し出してる。守ってあげたい系少女だが、ゲームではクリティカル確率を上げる能力が充実している為、最終的にスナイパーや居合ウーマンの様な一撃必殺タイプになる。人は見掛けによらないな。

 

 なんて時間を掛けてる暇はないんだが。焦れったくなってきたな、なんて思った瞬間、彼女の背後で影が動いた。

 

「っと、危ない!」

「うえっ?」

 

 彼女の背後に飛び込み、少女を後ろから強襲せんとしたゴブリンをはたき落とし、踏みつける。

 

「ロリコンはノータッチが原則だろう?」

「グギャ……」

 

 流れ作業の様に身体が動き、右手はポンチョの下からType-6を取り出し撃鉄を起こす。

 

「いざさらば」

 

 閃光と撃発音が小鬼一匹を黙らせる。

 一瞬の葛藤もなく俺は引鉄を引いていた。

 

 ……身体に魂が引っ張られる、なんて胡乱な話があるが、もしかすると本当かも知れないぞ。気をつけた方がいいな。

 

「……あ、あ」

 

 ──既に手遅れかもしれないが。

 彼女は腰砕けだ、何をしても今更信じて貰えるなんて都合の良い話は無いか。考えろ。

 

「確かに、そっちは手ぶらで俺だけ武器がある。フェアじゃないな」

 

 手っ取り早い方法は、まあこれくらいしか無いだろう。

 

 俺は撃鉄を起こした銃のバレルを握り、自身の眉間に銃口を向けそのままグリップを彼女の前に差し出す。

 

「さっき見たなら、使い方は分かるだろ? その細い棒を引けば、俺の頭は吹っ飛ぶ。どうしても信用出来ないならそうすれば良い」

「……な、なんで」

 

 下手に泣かせでもしたら、人類の保護に燃えるメタちゃんに八つ裂きにされるかもなんて今さっき気付いたとか、そんな訳じゃない。絶対に、多分……。

 

「差し出せる物はこれだけしかないからだ。だがもし、俺を信じてくれるなら、少なくともこの状況を打開する為の手伝いはさせてもらう」

 

 スリット越しに、カタリナちゃんは穴が開きそうな程見つめてくる。

 彼女はグリップを握らず、両手を合わせて祈る様に俯いた。

 そして長く短い沈黙が終わりを迎える時、口を開く彼女。

 

 その答えは。

 

「……お兄ちゃんが、向こうに居るんです。一緒に、来てくれませんか?」

「あぁ、願ってもない」

 

 俺はこの瞬間だけ、彼女のガーディアンとなった。

 

 

 


 

 

 

「アンタ、一体何なんだよ」

 

 時を同じくして、村の中央広場。

 

 平穏を奪い去る魔の者の手に、悔しさと憤りに震えていた少年が居た。

 敵の暴虐に耐えかね、蛮勇と剣を携え飛び出した少年には何の策も無く。

 本来ならば、ただ嬲り殺され哀れな犠牲者としてその生涯を終えていた筈だった。

 

 盤上に現れた、乱入者さえ居なければ。

 

「回答、メタは機械人形(オートマトン)です」

 

 緑色をした屍の山、引き裂かれたゴブリンとオークの上で、獰猛に唸りを上げる鉄血の刃を突き立て跡形もなく粉砕していく少女、メタに対して、少年『セイ』は困惑を隠せなかった。

 

 彼の記憶に欠片も見当たらない彼女は、当然ながら村の住民でないと判断される。しかしながら、街からの救援と言うにも早過ぎる。得物もまるで見慣れない回転する刃ときた。

 冷や水を浴びせられた様な状況に、僅かに冷静さを取り戻した彼の思考は、正しく異常を異常と認識する事に成功した。

 

 それが状況の改善を意味するものであるかは、まだ誰も分からない。

 

「オート、マトン?」

「人類の保護を開始します」

 

 メタは敵性生命体を完膚なきまでに破壊し、自身の使命を果たそうとしていた。目の前の少年が人類である事は疑いない事実。目の前の花が枯れない様にと、急いでセイを保護すべきと考える。それが生まれた意味なれば。

 

 しかしながら彼にとっては見知らぬ少女。それも作り物かと疑いたくなる程完成された美貌であるならば、その妖しさもまたひとしおだ。

 刃を回転させ(オンにし)たまま、彼女は一歩一歩と彼に。まるで処刑人が断頭台への階段を踏みしめる様に、重く息苦しくなる程の足音で。

 

「……ち、近寄るな!」

「何故、拒むのですか」

 

 恐怖のあまり、彼は彼女を拒絶した。

 足を止めて首を傾げる仕草すらどこか浮世離れしており、それがまた彼の不安を煽る。

 

 彼我の距離は僅か。既に彼女の間合いだ。しかしそれでも刃を向けられないのは、彼女がヒトの姿をしているからだろう。

 

 メタは、手を伸ばす。

 

「ちょっと待った」

 

 が、それに待ったを掛けた者が居た。コテツだ。隣にはセイの妹のカタリナを連れている。それを見たメタは、どこか感心した様にも見える。

 

「確認、コテツは既に目標を達成していたのですか」

「目標……あぁ、人類の保護って奴か」

 

 首を捻って、そういやそんな話だったなと思い出していたコテツ。しかしながら彼は流れのままにカタリナを助けただけに過ぎない。大それた使命になど、端から従ってもいない。

 

「保護って言ったって、どこに保護するんだ?」

「回答、シェルターの休眠室です」

「……あそこにはまだ暴走したお仲間がうじゃうじゃ居る。安全は保障出来ないぞ」

 

 シェルター、それはコテツが目覚めたあの階層の幾らか上にある。しかし道中には暴走する機械人形ばかり。安全なんてありはしない。

 

「提案、階層全体を殲滅すれば安全を確保出来ます」

「とんだ脳筋AIだな……」

 

 2機が物騒なやり取りをする中、背後ではセイとカタリナが涙の再会を果たしている。コテツは兎も角、メタは一切の興味を示さないが。

 

 それもその筈。彼ら彼女ら、機械人形は個としてではなく群として完成する作りとなっている。一機一機に個性とも呼べる思考傾向を持って製造され、互いが互いの監視役となり、常に平等な視点を確保する。

 

 完璧な1を作るよりも、不完全な100を作り完璧を常に目指す。それが機械人形の設計思想であった。

 そしてその思想により作られた存在であるメタは、どこまでも最短距離で目的を達成するタカ派的思考の持ち主だった。

 

「(どうする。どうやって説得する)」

 

 コテツは思考を巡らせる。

 彼もただ巻き込まれた身、ただ良き市民としてその一般的な善意に基づき動くのみ、使命などはそもそも背負ってもいない。

 

「君が足蹴にしているその怪物だが、今もそいつらは各所で暴れ回っている」

「疑問、何故そう言い切れるのですか」

「知っているからだ。少なくとも、君よりはこの世界を」

 

 彼は決断した。目的をすり替えよう、と。

 

「目の前の彼らを保護する間に、彼らよりも多くの人類が危機に晒されているとしたら、どうだ?」

「回答、ならば怪物をせん滅します」

「そうだな、つまり今すべき事は?」

「了解、人類の保護に対して障害となる存在の排除を優先します」

「オーケー、それで良い」

 

 こうして、セイ達は本人も知らぬ間に難を逃れた。

 

 しかし、コテツは知っている。

 この後、義憤に駆られた少年は、世界を救う為の旅に出る事を。

 

 もしその通りになれば、メタはセイを無理矢理にでも止めようとするだろう。ゲームの展開でもあった事だとコテツは思い出していた。

 人類の保護を成すと言う目的、最終的には人類同士での潰し合いを避ける為、武力の行使による武力の排除も厭わないのが初期のメタの思考回路だ。このままセイを放置すれば、いずれ衝突は避けられない。

 

「(ならいっその事──)」

 

 だが、メタも殺そうとはしないだろう。それは彼女自身のルールに反する行為だ。

 

 ──コテツは考えた。

 

 どの道世界は怪物、ワイルズ達の脅威に晒されている。ならば主人公が早く育ち、早く問題を解決するに越した事は無いだろうと。

 そして幾分か猶予はあれど、かのダンジョンの暴走した機械人形もまたその内脅威となる可能性がある。それもまた主人公に任せれば良い。

 

 今、主人公は彼なのだ。

 

 この機を逃せば、次の瞬間には主人公が変わってしまうかも知れない。そうなれば状況のコントロールは出来なくなり、待つだけの身となる。

 

「(ラスボスを倒すには、主人公が必要だ)」

 

 正確には、『主人公』に選ばれた存在である事が、ラスボスの元へ辿り着き、倒す為に必要な条件となっている。

 作中において、プレイヤーは滅びた神の残留思念であり、主人公を導く存在と言う設定が存在していた。その力が無ければ、主人公はラスボスと相対する事すら出来ない。

 主人公の入れ替わりが激しく、在野の強者も頻繁に出現するゲームにおいて、何故ラスボスが主人公以外に倒されていないかの理由付けにもなっている。

 

 だからこそ、『主人公』が死んだとしても居なくなる事は無いのである。

 

 だがもし、主人公が死ねば次の主人公が現れ、全て解決するまで待たなければならない。先程までは待つくらいならばと思っていたコテツ。だがメタの対応を見てその思いは揺らいでいた。

 

「(そうなった時、俺は彼女(メタ)を抑え続けられるのか?)」

 

 故に、彼は決断する事にした。

 

「(──戦うついでに、彼らを鍛えてしまえば良い)」と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。