【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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解決策

 舞台をキッチンからソファに変え──力なく倒れていた妹には申し訳ないけど、場所を確保するために床に転がってもらった──泣き疲れた様子の岬は、おずおずとこちらの顔色を窺うように、涙混じりの声を漏らす。

 

 

「曜……」

「ん」

「迷惑だったよね」

「何が」

「いや、こんな私が、今まで面倒な絡み方をして……」

 

 

 平素の自信過剰な態度からは比べ物にならないくらい、謙虚──というか卑屈な発言だった。

 クッションに顔を埋め表情を観られないようにもしている。そんなことをしなくても最初から顔なんて見られないのだが、やはりまだ人間だった頃の習慣が残っているのだろう。

 こう描写すると人間から化け物に姿を変えてしまった奴みたいだな。いや、実際その通りなんだけど、細部が違うというか。中身までは変わっていなくて、外見だけが変化しているから、前述の表現に伴う「精神まで人間性を失う」というニュアンスが含まれないというか。

 

 

 いずれにせよ面倒くさい反応である。

 俺は思い切り嘆息し、それにびくりと肩の辺りを跳ねさせる岬を無視して、ソファに腰を下ろした。

 

 

 彼女はおずおずとこちらのリアクションを伺ってきて、

 

 

「お、怒った?」

「岬が卑屈な態度を続けるなら怒るかも」

 

 

 今更、見た目が化け物な程度で感情を動かしたりしない。

 普通の人間としてどうなんだ、と思ったりもしなくはないが、特段の弊害も存在しないのだから、別にいいだろう。

 

 

 岬は想像だにしていなかった反応でもされたように「えっ」と息を殺し、数瞬の沈黙の後、おそるおそる吻を絡めてきた。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「──ホントに、怒らないんだ。動揺もしてない」

「慌てふためいてほしかった?」

「……いや、どうだろ。冷めちゃうかも」

「じゃあ岬の前では常に冷静でいるよ」

「ふふ、何それ。遠回しなプロポーズ?」

 

 

 からころと喉を鳴らした彼女は、隠していた顔(といっても、いつも通りのヒモムシフェイスだが)を露わにし、距離を詰めて座ってくる。

 音を立てるのは壁にかかった時計と床に転がった妹ばかりで、俺たちの間には、一切の会話がなかった。

 しかし気まずい沈黙ではなく、お互いの立ち位置を再確認するかのような、何処か親密で緊密なコミュニケーションが、言葉を解さずにおこなわれていた。

 

 

 秒針が三回頂点を指し示した頃、ようやく岬が口を開く。

 

 

「ねぇ曜」

「ん」

「私、これからどうなるのかな」

 

 

 先程とは異なる不安が込められていた。

 視線を向けると、彼女もまたこちらを見ていて。

 気丈に振る舞ってはいたものの、やはり今にも押しつぶされそうな憂慮に堪えているのだろう。

 

 

「どうなるか……って」

「分かるの。私の目はもう元には戻らない。身体もね。ずっと──それこそ、死ぬまで一生、化け物として過ごすんだって」

 

 

 自分のことは自分が一番理解できるとは云うが、きっとそういった感じに違いない。

 

 

「あっ」

 

 

 身体を震わせる岬を抱き寄せる。凍りついた不安を溶かすのに俺の体温は低すぎるが、せめて震えを止めるくらいの仕事はこなせるだろうと思って。

 そこからは再びリビングに沈黙が満ちた。

 どちらも動かないし、動く気もなかった。

 ひとえに彼女の気持ちが落ち着くまで待つ。

 

 

 「……ありがとう」

 

 

 ようやく心に一つの整理がついたのか、岬は震えの少ない声で言った。

 手を放そうとすると指先に吻が絡められる。

 いったい何故。そう疑問を持ち覗き込んだら、やけに恥ずかしそうに、蒸気でも噴き出しそうなほど赤くなっていた。元々赤っぽいのに。

 

 

「こっち見ないで」

「無理な注文でしょ」

「とにかく見ないで」

「この絡められた……大樹に絡みつく蔦みたいな吻は何」

「吻? あぁ、この触手、吻っていうんだ」

 

 

 話を逸らして無理やり別の話題に移行させる岬。

 非常に強引である。ちなみに吻は絡んだままだ。

 

 

 まぁ下手に突っ込んでも面白くない流れになる可能性もあるので、クレバーな俺は口をつぐんだ。

 しかし負けっぱなしというのも性に合わない。

 ぐにぐにと指に込める力を強くしてみた。

「うひゃあ」と岬が鳴いた。

 笑止千万。

 

 

「その気の毒そうな顔をやめろぉ! 曜のせいだからね⁉」

「何を言ってるのか……」

「半笑いじゃん! まだ手ぇぐにぐにしてるじゃん! 確信犯じゃん!」

「確信犯という言葉はそれが社会的にどのような判断をされようと、正しいことだと確信しておこなわれる犯罪のことで──」

「誤用だとかどーでもいいんだよこの場合! 恥ずかしいでしょ‼」

 

 

 ぱしりと手が払われる。

「ふー! ふー!」と興奮した猫みたいに威嚇してくる岬。

 またたびでもやったら喜ぶかしら。

 なんてくだらないことを考えていると。

 

 

「──お兄ちゃん」

 

 

 床に転がっていた妹が決め顔でそう言った。

 転がっているから全く格好よくない。

 しかし彼女は頑張って雰囲気を作っているのだから、垢抜けを茶化す親のような余計なことをするのはよろしくないだろう。

 俺は腫れ物にでも触るように首を傾げた。

 

 

「何?」

「岬さんの件だけどさ……」

「うん」

「解決する方法がある、って言ったらどうする? もちろん今までみたいな対症療法的なものじゃなく、根本的に解決する方法が」

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