【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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傲慢の罪・ユナ=クサカベ

 昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、俺達は屋上を後にした。

 階段を下りていると──自分が一階に行こうとしていることに気付く。

 

 

「曜君たら抜けてるなぁ。うちらもう二年生やん」

「まだ実感が湧かなくてね」

「うちもそや。まだ一年生……ちゅうか、中学生の残り香があるわ」

 

 

 ぱたぱたと袖口を揺らす陽子。

 確かに自分もまだ「高校生」という自覚がなかった。

 小学生とか中学生の頃は立派に見えた身分になって、いざ自分を照らしてみると、どうにも成長できている気がしない。

 これが己だけの感覚なのか、あるいはみんな、器用に大人のふりをしているだけなのか。

 

 

「ほなうちの教室こっちやさかい」

 

 

 俺と陽子の教室は別だった。

 というか、化け物の中で同じだったのは雪花だけである。

 できれば全員と離れたかった。

 学年が上がれば普通の生活──もといラブコメを送れると思っていたのだが。

 

 

 ため息を堪えて、廊下を歩いていく彼女に声をかける。

 

 

「陽子」

「んぁ?」

「もし俺が生徒会役員に立候補するならさ、陽子も一緒にやらない?」

 

 

 しばし考えて、陽子は首を振った。

 

 

「止めとくわ。うちはそんなん向いてなさそうやし、何より、部活がせわしないさかいな。曜君は雪花とイチャイチャしといたらええよ」

「そう。無理言ったね」

「全然。また何かあったら誘うてな」

 

 

 ばいばーい、と去っていく。

 彼女の背中が教室に消えていくまで見送って、俺は我慢していたため息をついた。

 

 

「はぁ」

「あら、ため息とは結構ね」

「雪花」

「私の許可もなしに、あのおかっぱ頭を誘うとはどういう領分よ」

 

 

 するといったい何処から聞いていたのか、不機嫌そうに腕を組んだゾンビが、むすっと肩をはたいてきた。

 現れたタイミングからするに隠れていたのだろうか。

 

 

「いや何、草壁雪花生徒会長のサポートをするべく、戦力になる人材は多ければ多いほどいいかなと」

「嘘おっしゃい。だったら、わざわざあんな美少女を──いや、私ほどじゃないけどね? 私ほどじゃないけど、あんな美少女を選ぶ必要ないじゃない」

 

 

 美少女と言われても。

 俺から見るとそこら辺に転がっている埃に等しいのだが。

 それも人間サイズの。

 

 

 しかし雪花に真実を伝えても仕方がないので、鋭い視線を甘んじて受ける。

 

 

「いいこと? 今後は私に相談もなしに誰かを誘わないこと。特に女の子。アンタの知り合いにはやたら可愛い子が多いからね。神聖な生徒会室で蜜月の時を過ごされちゃ堪ったもんじゃないわ」

「いえっさー」

 

 

 可愛い子(化け物)。

 ふと気になったことがあったので、俺は彼女に問いかけた。

 

 

「ところでさ」

「何よ」

「俺ってまだ立候補の話引き受けてなかったよね?」

「今更断るつもり?」

「今更っていうか──」

 

 

 まず乗っていなかろう。

 けれども雪花は澄まし顔で言った。

 

 

「化野はバイトもしてないでしょう」

「うん」

「部活も」

「うん」

「じゃあ暇でしょう」

 

 

 俺のプライベートが非常に充実している可能性は一切考慮せず、彼女は数百年の未解決問題を解き明かした数学者のように、ふふんと鼻を鳴らす。

 どうやら雪花の中で、俺が立候補するのは確定事項のようだった。

 しかし決まりきった道を進むのは嫌だという若者的感性を発揮して、とりあえず抵抗してみる。

 

 

「実は放課後の予定は恋人で埋まっていてね」

「嘘でしょう、それ?」

「紹介してなかったけど──」

「嘘でしょう、それ?」

「はい。嘘です」

「次くだらない冗談を言ったら切るわよ」

 

 

 ちょきん、と。

 (はさみ)のジェスチャーをする雪花。

 いったい何処が切られるのかは、恐ろしくて訊く勇気がなかった。

 

 

「アンタはおとなしく、私と一緒に幸せな生徒会ライフを送ればいいの。最高の青春じゃない。生まれる時代が違えば、世界三大美女の一角に名を連ねていたのはこの私よ?」

「大層な自信だね」

「間違ったワードチョイスね。自信っていうのは自分の価値を信じること。私が言ったのは客観的事実。信じる余地はないわ。自明だもの」

 

 

 本当に彼女の生まれる時代が違えば、七つの大罪が傲慢は、ルシファーではなく雪花のものになっていただろう。

 ついでに見た目がアレだから魔女裁判で有罪判決。

 火刑に処す。

 

 

 ぺちぺちと気のない拍手をしていると、気をよくしたらしい雪花は胸を張って、驕り高ぶって鼻を伸ばした。

 終いはキノピオか李徴子だな。

 

 

「ところでね、紹介したい子が居るのよ」

「俺に?」

「そ。中学のときの後輩なんだけど、どうも生徒会役員になりたいらしいの」

「へぇ」

「私達の仲間になるんだから、今のうちに顔合わせさせようと思って」

 

 

 やはり俺に辞退の選択肢は残されていないようだ。

 自由時間が減少したことに涙ちょちょぎれる。

 ぴえん超えてぱおん。

 

 

 先程昼休みが終了したということもあって、件の後輩殿と会うのは放課後になった。

 

 

「──んじゃ号令。さよなら」

 

 

 去年と変わらない退屈な授業を乗り切って、本日の学生の義務を全て果たす。

 何てことない顔して帰ったらバレないんじゃないかしら、と思って普通に帰宅しようとしたら、「アンタ約束忘れたの?」と雪花に捕まってしまった。

 ずるずる引きずられながら廊下を移動する。

 

 

 人気(ひとけ)の少ない階段の踊り場で落ち合うことになっているようで、雪花は俺を乱暴に放り投げると、

 

 

「……一応ね。仕方なく紹介するけど、妙な勘違いは起こさないように」

「勘違い?」

「何ていうのかなぁ。その子、物凄くいい子なのよ? いい子なんだけど、それが災いして……一言で纏めると、異性をその気(・・・)にさせちゃうのよ」

「ああ、なるほど」

 

 

 スキンシップが多いとか、そういうタイプか。

 全く問題ない。

 俺はどん、と胸を叩いた。

 

 

「そろそろ恋愛を経験してみたかったんだ」

「辞世の句はそれで結構?」

「すていすてい。拳を抑えなさい」

 

 

 中学の頃まで異性との接触が少なかったうえに、高校生になってからは化け物連中としか関わっていない。

 ゆえに俺の(人間の)異性耐性は、エイズも真っ青の免疫力の低下を示していた。

 普通の女の子がちょっと笑いかけてくれただけで、コロッと行ってしまうだろう。

 

 

 狂犬のごとき獰猛さを露わにした雪花を宥めすかしていると、かんかんと、階段を誰かが昇ってくる音が聞こえてきた。

 

 

「来たわね。じゃあ、さっきの言いつけは守ること」

「まあ努力はするけど──だから拳は仕舞って」

 

 

 ぐるるるる、と彼女は歯を剥く。

 おっそろしい。

 当たり前のように狂犬病を持っていそうだ。

 動く死体という見た目も相まって。

 

 

 かん、かん、かん。

 かん、かん、かん。

 

 

 軽い足音だった。

 その足音を聞くだけで、ああ、この音を発する人物は可愛いんだろうな、と確信できてしまうほどに。

 

 

「──あっ、すみません。お待たせしました!」

 

 

 果たして。

 噂の人物は現れた。

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