【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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鍋パーティー

 雪花をなんとか宥めすかし、始まるは鍋パーティー。

 参加者は人間が一人に化け物二体。

 およそ正常とは思われぬ容貌。

 想起するのは謎の儀式。

 邪神とかを呼ぶタイプの儀式である。

 

 

 カーテンを閉め切って部屋を暗くしているのもあって、俺達は言葉数が少なくなり、それが怪しさを一層増していた。

 

 

「暗くする必要はあるの?」

「雰囲気よ」

「なるほど」

「雪花、昔から暗いところが好きなんですよ」

 

 

 肉塊が付け足す。

 肉親ゆえの情報だった。

 

 

「ワクワクするじゃない」

「やっぱり棺桶とかもテンション上がる?」

「どういう質問?」

「あいや、忘れて」

 

 

 いけない、いけない。

 うっかり本心がまろび出た。

 アンデッドだから棺桶に親近感を持つであろう、なんて。

 昨今の多様性の風潮に反する問いだった。

 

 

 首を傾げる雪花だったが、「まぁいいわ」と菜箸を手に取り、

 

 

「そろそろ煮えたわね。私がよそってあげる。お姉ちゃん皿貸して」

「ありがと」

「ん。……お肉は入れないほうがいいわよね」

「あんまり好きじゃないから」

 

 

 相変わらず菜々花は肉が好きでないようだ。

 全く、肉貪益荒男の名前が泣いているぞ。

 草葉の陰で。

 

 

「化野は好き嫌いある?」

「ないね」

「そ。じゃあたんまり盛ってあげる」

 

 

 どうぞ、と渡された皿。

 念のために両手で受け取って、俺は呟いた。

 

 

「多すぎじゃない?」

「食べきれない?」

「大丈夫だと思うけど、それにしても」

 

 

 机に目を落とす。

 そこには皿、皿、皿。

 具材が少なくなったときに付け足す用だ。

 しかし明らかに量が多い。

 十人前はあるのではないだろうか。

 

 

「実は初めての姉妹だけ鍋パーティーなのよ。うちの両親は揃って大食漢でね、元々二人でやろうとしてたのを忘れて、いつもの量を準備しちゃったの。化野が居てくれて助かったわ。足りなかったら〆の麺もあるから」

「辿りつける気がしない」

 

 

 よそってもらった具材にポン酢を垂らして、口に運ぶ。

 鼻から抜けていく昆布の香り。

 

 

「昆布汁がなくなったら、次は豆乳鍋ね。それともキムチ鍋がいい?」

「心配する必要はないと思うよ……あと」

「ん?」

「雪花、さっきから全然食べてないじゃん。よそうばかりで」

「私ってば面倒見がいいじゃない。だから、ついでるのが性に合ってるのよね」

「じゃあ俺が盛ってあげるよ」

 

 

 半ば奪い取るような勢いで雪花の皿を取り、ついでにお玉と菜箸を握って、ぽんぽんと具材を放り込んでいく。

 

 

「……ありがと」

「借りが多すぎるから」

「あ、しらたきがいっぱい」

「好きかなと思って」

「正解。大好きよ」

 

 

 んふふ、と笑う雪花。

 ゾンビのくせにやたら似合う笑顔だった。

 白菜が喉に引っ付きそうになり、咳き込む。

 

 

「ごほっごほっ」

「化野さん⁉ 大丈夫ですか⁉」

「も、問題ない」

 

 

 水で流し込む。

 

 

「あんまり早く食べるのは身体によくないですからね」

「高校生になって子供みたいなこと言われるとは」

「化野さん、子供っぽいところありますから」

「本当に?」

「はい」

 

 

 菜々花は触手を揺らした。

 

 

「……なんと」

 

 

 まさかこの俺が子供っぽいと形容されるとは。

 大人っぽさの塊を自負していたのだが。

 特に理不尽を耐え忍んでるところとか。

 社会人の鑑。

 

 

「ほら、そういうところですよ」

「?」

「反応が素直じゃないですか。思ったことが顔に出るって言うんですかね。もちろん全部が全部ってわけじゃないですけど、油断してると──というか、リラックスしていると、案外、何を考えてるか簡単に読み取れますよ?」

「本当に?」

「はい」

 

 

 先程と似たやり取り。

 けれども俺の心情はすっかり変わっていた。

 疑いではなく、驚愕。

 自分のフィーリングセキュリティの脆弱性に。

 

 

「ああ、多分それお姉ちゃんだけよ」

「え」

「私はあんまり判んないもの。愛の力って奴じゃない」

「あ、あああああああ……⁉」

 

 

 あわあわ。

 菜々花は激しく触手を荒ぶらせた。

 

 

「愛の力ぁぁぁぁぁ⁉」

「面白いでしょ、お姉ちゃん。揶揄うと」

「うん」

「雪花──‼」

 

 

 おちょくられたことに気が付いたのか、憤りを触手に乗せて、雪花の背中をひたすらぺちんぺちんと攻撃する。

 音から分かるように威力は全くない。春先に道端で喧嘩する猫の拳のほうが遥かに重たいだろう。

 ゆえに雪花は余計笑い声を大きくするばかりで、薪を更に投下された菜々花は目をぐるぐると回し(もちろん比喩表現である)、触手をぐるぐると回す。

 

 

 俺は彼女らの姉妹喧嘩には取り合わず、鍋を空にする作業に没頭していた。

 というか、そうしなければ食べきれる気がしなかった。

 口に運んでも口に運んでも減らない。

 乾燥わかめみたいに増えてるんじゃないのか? 鍋の中で。

 

 

「うううううう……」

 

 

 姉妹喧嘩、もとい二人の茶番劇は雪花の完勝にて終結したようで、負け犬の哀愁を背中に浮かべた菜々花が、もそもそと丸切りにされた玉ねぎを肉塊の隙間に押し込んでいる。

 全く恐怖映像だ。年齢制限をかけないことには安心して観ていられないだろう。レーティングはCERO18──いや、いっそR100くらいにしてくれたほうが楽である。主に俺の心情的に。

 

 

 菜々花が箸で白菜を摘まむ。

 その箸を肉塊の隙間──人間でいうところの口辺りに持っていく。

 ぐばぁりと隙間が開く。

 突っ込む。

 もっさもっさと咀嚼する。

 嚥下する。

 

 

 以上が草壁菜々花の食事風景だ。

 異常なことこの上ない。

 

 

「…………」

 

 

 普通に考えれば、そんな光景を前にした人間は食欲という食欲が失せて当然なのだが、悲しいことにすっかり順応してしまった俺は、特になんの感慨も抱くことなく、昆布の出汁が利いた大根を味わったのであった。

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