【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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現実を超えた餓鬼の暴走

「ひとまず私は何をすればいいのかしら。不純異性交遊の現場として、先生に報告でもすればいいのかしら。嫌だわ生徒会長としての初仕事がこれだなんて」

 

 

 雪花は俺たちを睥睨する。

 ヘドロのような感情を込めて、睨みつける。

 どういうわけか怒っているらしかった。

 

 

「雪花が感情を露わにするなんて珍しいね」

「化野こそ珍しいわね」

「?」

「何も分かっていません、みたいな顔するのやめてよ。本当は分かってるくせに。女の子と抱き合うなんていい趣味してるじゃない」

 

 

 ああ、そういうことか。

 俺は納得に手を打ちそうになった。

 実際は綾瀬が絡みついてきているから、動かせなかったのだが。

 

 

 先程の俺の暴走を止めるべく組み付いてきた綾瀬は、今もそのまま、見方によっては男女のそれに捉えられなくもない格好で、呆然とした表情で、雪花の指摘を甘んじて受け入れていた。

 

 

 甘んじて受け入れたというか、まだ状況の変化に付いていけていないだけか。

 

 

 そして綾瀬の脳内でどういう結論が出たのだろう。

 鈍感と謗られることの多い俺には、乙女の脳内回路の構造など推察もできないが、たぶん、とんでもない致命的なエラーが発生したのだけは判った。

 あるいは、判らされた。

 

 

 ぎゅっ、と。

 綾瀬は抱き着いてきたのだ。

 挑発的に。

 雪花に見せつけるように。

 

 

「なあっ……!」

 

 

 当然、挑発を受けた雪花は肩を怒らせる。

 俺は事態の収拾がつかなくなったことを悟り、肩を竦めた。

 あーあ知らないぞ。

 

 

「綾瀬……まさか、アンタ……!」

「ち、違いますよぉ雪花せんぱぁい」

「私の見間違いじゃなければ、綾瀬はいま化野にハグをしているわけだけど。これのどこか違うのか説明してくれるかしら」

 

 

 涙を双眸に湛えた綾瀬がこっちを向いてくる。

 こっち見んな。

 いや違うか。

 どうしたのだろう。

 

 

「雪花先輩に嫌われたくない一心で、必死に考えて、結果オーバーフローして抱き着くという行動に出たっす。これをなんとか説明してください」

 

 

 綾瀬が囁いてきた。

 耳元に口を近づけられた時は、すわ捕食活動かと警戒したが、聞いてみればなんてこともない。ただ純情な後輩心を発揮してしまっただけだ。

 それを俺に説明してもらおうというのが少々玉に瑕だが、何、後輩の失敗を認められないほど、雪花は狭量ではあるまい。

 

 

「雪花。これには事情があるんだ」

「何? まさか付き合ってるとか言い出さないでしょうね」

 

 

 ぼん。

 視線を向けると、餓鬼の頭から湯気がもくもく上がっていた。

 両目もぐるぐる回っている。

 混乱の境地。

 

 

「あ……あ……あ……」

 

 

 そしてうわ言。

 まずい。

 嫌な予感が俺の脳裏を迸った。

 

 

「そそそそそそそそそそうなんですよぉ? わたしと先輩はぁ、じじじじじ実はアツアツにお付き合いをしているんですぅ」

「へえ……」

 

 

 雪花は目を細めた。

 泰然と、場を支配するように、ゆっくりと。

 

 

 ここで俺が否定しようものなら、まず間違いなく面白くない展開になるのは火を見るより明らかなので、お口にチャックで状況を窺うことにする。

 頼んだぞメスガキ系雌餓鬼。

 口八丁手八丁の手練手管を魅せてくれ。

 

 

「そんなに〝アツアツ〟なら、接吻の一つくらいはできるんでしょうね」

「できますとも」

「できませんが?」

 

 

 思わずツッコんでしまった。

 さすがに接吻は見過ごせない。

 大体の差異は見逃そうとしていたが、さすがに接吻は。

 

 

「化野は黙ってて」

「いや──」

「黙ってて」

「はい……」

 

 

 黙ってたら化け物との熱烈なアバンチュールが幕を開けかねず、なんとか抵抗してみようかと思ったのだが、殊のほか雪花の眼差しが強かった、あるいは殺意に塗れていたので、俺はおとなしく退散した。

 

 

「よもや可愛らしい後輩に裏切られるとは考えていなかったわ。化野が簡単に靡くのもね。世界は思いどおりにいかない、ってのは真実なのかもしれないわ。信じたくない真実よ」

 

 

 雪花は嘆息する。

 嘆息する。

 嘆息する。

 ひたすら、嘆きの息を吐きつづけた。

 

 

「……そんなに言うなら証明してもらおうじゃない」

「え?」

「化野が嫌そうだからキスは選ばないにしても、アツアツのカップルらしい行ないは見せてもらうわ。そして証明しなさい。二人が付き合うに値するかをね」

 

 

 腕を組んだ雪花が鼻を鳴らす。

 

 

「それって……」

「ええ。恋人らしいデートをするの」

 

 

 俺は全力でお断りしたかった。

 お断りしたかったのだけれど、真っ先に頷く影があった。

 お察しのとおり、蕪木綾瀬である。

 

 

「遍く恋人の理想像的なデートを披露しますとも!」

 

 

 もはやメスガキなのかも定かでない口調で、綾瀬はぐるぐるお目目のまま、雪花に啖呵を切ってしまった。

 

 

 ……これはいったいどうなるのだろうか。

 やっぱり俺も巻き込まれる感じですかね?

 

 

 先の見えない状況に頭痛で頭が痛くなって、逃げ出したくても雪花の視線が鎖のように絡んでいるし、どうにも事態の解決が図れない。

 いまさら真実を喋っても言い訳だと思われるだろう。

 つまり詰みである。

 前世でとんでもない罪でも犯したのだろうか。

 そうでもなければ起こり得ないであろう事態だ。

 

 

 俺は辟易とした顔で、がっくり肩を落とした。

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