【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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嘘の終わり

「──化野先輩と付き合ってるって嘘でしたあ!」

 

 

 勢いある宣言が街に響いた。

 史上最強の自白だったかもしれない。

 そんな馬鹿げた想像をするくらいには迫力のある公表だった。

 

 

「嘘……?」

 

 

 綾瀬とは真反対に、雪花は、消え入りそうなほど小さく呟く。

 わなわなと身を揺らし、俯いた。

 すわ嵐の前の静けさか。爆発寸前か。

 

 

「はい。すみませんでした」

「そう……嘘。嘘だったのね……」

 

 

 爆発に巻き込まれては堪ったものではないので、俺はさりげなく二人から距離を取ったのだが、なぜか雪花がこちらに近づいてきて、抵抗空しく、がしりと腕を掴まれてしまった。

 

 

「化野」

「はい」

「本当?」

「どれが?」

「アンタたちが付き合ってる、ってのは嘘だって話」

「それは本当」

「そう」

 

 

 手首が涼しくなった。

 雪花は何歩か離れると、くるりと背中を向けてくる。

 

 

「──まあ、初めからすべてお見通しだったけどね」

 

 

 振り返り、現れたのは、満面の笑みのゾンビだった。

 うわこわ。夢に出てきそう。視聴規制かかっちまうよ。

 

 

「だって化野が私以外の女と付き合えるはずないもの」

「酷くない? まるで俺がモテないみたいな」

「モテるの?」

「モテないけど……」

「じゃあ正確無比な判定じゃない。おとなしく受け入れなさい」

 

 

 ふん、と彼女は鼻を鳴らした。

 今の今まで人間の女の子とはお近づきになれなかったから、確かに雪花の言葉は正しいのだけれど。

 なんだか納得いかないなあ。

 

 

「おおかた、綾瀬が見栄を張って嘘をついたってところでしょう」

「正解」

「私は蕪木綾瀬検定を持っているの。これくらい朝飯前よ」

 

 

 お。

 この言い回し、菜々花との血を感じるな。

 菜々花は「化野曜検定」とかいう意味の分からない検定を持ち出すし。

 

 

 謎の検定によって真実を暴かれた人(化け物)に眼差しを送ると、綾瀬は「なんすか蕪木綾瀬検定って……そんなの発行した覚えがないっすよ……」と呆れたように笑っていた。

 

 

「それにしてもアンタたちのデートは酷かったわね。噴飯物よ。出て行って文句をぶつけてやろうかしらと思ったもの」

「苦情が入るくらいの出来だった?」

「ええ。銅賞くらい」

「まあまあ高評価」

 

 

 先述の感想にそぐわない評価だった。

 

 

「吹奏楽部における銅賞よ」

「糞味噌だね」

「それくらいの出来だったわ」

「じゃあ駄目駄目か」

 

 

 駄目駄目だった。

 先述の感想どおりである。

 

 

「──で? なんで急に嘘を明かしたわけ? 罪の意識に苛まれて?」

 

 

 雪花は腕を組んで問いかけてきた。

 しばし考えて、

 

 

「恋人らしいデート、というお題目で行動するのに疲れて」

「なるほどね。恋人らしい、ってのは結果的に付いてくるものであって、それを目指して行動すると、かえって遠ざかるものだわ。なかなか哲学な理由じゃない」

 

 

 別にそんな高尚な理由などなく、単に面倒くさくなったから、さっさと雪花に告解して、家に帰ろうと画策しただけなのだが。

 しかしこの雰囲気で正直なことを言うと罵詈雑言を浴びそうなので、俺はさも難しい志がありますよ、みたいな態度で頷いた。

 

 

「ゆ、雪花先輩、化野先輩とずいぶん仲がいいんですねえ?」

 

 

 そこに投げかけられる濁音。

 片足に体重を掛け、己が右腕で、己が左腕を掴む餓鬼だ。

 綾瀬は嫉妬の滲む瞳を向けてくる。

 

 

「妬いたのかしら」

「特段──いや」

 

 

 否定が出掛かったところ、彼女は口の端を歪めた。

 

 

「そうかもしれません」

「嬉しいコト言ってくれるじゃない。うりうり」

 

 

 やきもちを焼いてくれるほど好かれていることに気分を良くしたのだろう、雪花は途端に声色を明るくして、ヘッドロックのような形で綾瀬に絡みついた。

 些細な拘束を受けた綾瀬は、形式上抵抗を見せるものの、本心では嬉しそうである。

 

 

 なんだろう。愛の深い飼い主と、構ってちゃんな大型犬とが戯れているのを眺めている心地だ。最悪なのはその飼い主がゾンビで、大型犬が餓鬼だということ。まったく心温まる要素が存在しない。むしろ冷える。氷河期。氷河期の餓鬼の部分。

 

 

「さて──化野と綾瀬が付き合ってるってのが嘘だとなると、今日の茶番を継続する必要性がなくなったわね」

「じゃあ解散しようか」

「待ちなさいよ。勿体ないじゃない」

「勿体ない?」

「時間は有限なのよ。せっかく絶世の美少女を二人捕まえて、二時間ちょっとぶらぶらしただけで帰るつもりなの?」

 

 

 イグザクトリー。

 というかその見た目で絶世の美少女とか名乗らないでほしい。

 たぶん世界中からとんでもない数の石が飛んでくるから。

 

 

「雪花先輩に関しては、一緒に回ってたわけでもないんですから、ぶらぶらしてたの範疇には入らないんじゃないですかあ?」

「何よ。遠くから監視してたんだから、法律と倫理との間でぶらぶらしてたわよ」

 

 

 綾瀬の茶々入れに真顔で答える雪花。

 君はそれでいいのか。軽い罪の告白だぞ。

 まあ俺たちも嘘という罪の告白をしたから、お相子なのかもしれないが。

 

 

「このまま解散するのが不満な雪花はどうしたいの?」

「そうねえ」

 

 

 雪花は顎に手を添えて宙に視線を彷徨わせる。

 数秒沈黙が続き、血の気のない唇が開いた。

 

 

「なら、ダブルデートの変化形で行きましょう」

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