【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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肉塊とクリスマス②

 アクセサリーショップに俺はいた。

 菜々花はプレゼント候補を見て回っている。

 

 

 彼女の雪花に対する想いは強い。

 それは悩む時間に現れた。

 長針が一周するほど、思案していたのだ。

 

 

 俺は菜々花のもとまで歩いていく。

 

 

「だいぶ手こずってるね」

「はい。どれがいいか、わからなくて」

「雪花の好みは?」

「……気分によるんですよね」

 

 

 聞く度に変わってるんです。

 と彼女はため息をついた。

 

 

「流行に敏感とも言います」

「じゃあ流行りのものを……」

「私は鈍いのですよ」

「だろうね」

 

 

 想像はできる。

 普段の言動から。

 あるいは見た目から。

 おしゃれな肉塊なんて存在しない。

 

 

 俺は展示されているものを覗き込んだ。銀やら金やら、見たことのない色まである。

 自分はアクセサリーに詳しくない。助言をしようと思ったが、どうも上手くできなさそうだ。

 

 

 悩みに悩む二人を見かねたのだろうか。

 店員がにこやかに歩み寄ってきた。

 下品な印象を与えない、洗練された表情である。

 

 

「何かお探しですか?」

「あの、妹へのプレゼントで」

「まぁ! 普段はどのような格好をされているんですか」

「えぇと……」

 

 

 説明するに困った菜々花はスマホを取り出した。

 収められた雪花の写真を提示する。

 

 

「可愛らしい方ですね。この場合ですと、ワンポイントなものが適していると思います。本人が華やかな感じですから、そのほうが映えます」

 

 

 店員は端的におすすめをしてくれた。例として挙げられたのはピアス。控えめな輝きを放っている。

 しかし材質が銀であるため、俺は心配になった。聖なるパワー的なので浄化されてしまうのではないか、と。

 

 

 化け物は化け物を認識しない。

 できないと表現するべきか。

 菜々花は妹がゾンビであるなど――また自分が肉塊であることも――想像せず、素直に頷いた。

 

 

「ありがとうございます」

「いえ。またのお越しをお待ちしております」

 

 

 小さな紙袋を下げて、菜々花と一緒に店を出る。

 彼女は楽しげだ。

 

 

「化野さん」

「ん」

「やりました」

 

 

 これで日頃の感謝を伝えられます。

 と触手が揺られた。

 

 

 けれども感謝を伝えられても困る。俺は何もしていないのだ。一緒に悩んでいただけ。むず痒くなって、思わず頬を掻く。

 

 

「この後は?」

「……というと」

「予定あるのかなって」

「そうですねぇ」

 

 

 草壁菜々花は友人だ。

 今ではそう断言できる。

 でも、好き好んで――特にクリスマスに遊びたい容姿ではない。

 

 

 解散する流れを期待して尋ねてみたのだけれども、彼女は熟考していた。即答しない。その時点で、嫌な予感はしたのだ。

 

 

「化野さん」

「うん?」

「イルミネーションデート、と洒落込みませんか」

 

 

 店頭に飾られた安っぽい電灯が、謎の液体を照らした。

 

 

     ◇

 

 

 白い息が漏れる。

 冷たさに滲んだ涙に、幾千もの輝きが乱反射した。

 菜々花は全身で感情を表している。

 

 

「すごいですね」

「うん」

「駅前のも、それなりでしたけど……」

 

 

 感嘆のため息が響いた。

 彼女だけでなく、周りの人達も一様である。

 

 

 買い物に行っていたショッピングモールは、駅と直結していた。ちょうど駅にいるのだから、少し足を伸ばそうという話になったのだ。

 

 

 ここはイルミネーションが有名なテーマパーク。

 花の織りなす景色に、数え切れない光が存在していた。

 

 

 うにょうにょと(うごめ)く触手を眺める。まるで生者を食い殺す怪物のように、空へ空へと伸びていた。きらびやかな空間に似合っていない。致命的な瑕疵(かし)である。

 

 

「あ、写真が撮れるみたいですよ」

 

 

 敷地内を歩いていると、大勢が立ち止まっていた。

 どうやら絶景があるようで、皆スマホを手にしている。

 中には気合の入ったレンズまで持っている人も。

 

 

 菜々花は声を弾ませて走り出した。意識的にか無意識的にか、俺の手を取って走り出した。

 

 

 藤の花が咲き乱れている。

 数えるのも馬鹿らしくなるほど、咲き乱れている。

 幻想的な迫力に飲み込まれて、俺達は呼吸すら忘れた。

 おそらく写真を取っている者もそうなのだろう。

 幸福気な眼差しの中に、どこか畏怖を感じる。

 

 

「ずっと見ていたら、吸い込まれそうです」

「イルミネーションがあるから余計にね」

「照らしあげられた藤の花が、こんなに綺麗だなんて」

 

 

 もしかすると夜だけの姿なのかもしれない。

 夜にだけ人間を襲う妖怪。

 その美しさに見惚れた人間を、怪しい紫の糧にする妖怪だ。

 

 

 陳腐な感想がまろび出てくるほど、筆舌に尽くしがたい光景である。数分ほど並んだ後に、列がなくなった。

 

 

「じゃあ撮りましょう」

「ん」

「はい、ちーず」

 

 

 パシャリ。

 早急に立ち退く。

 

 

 次の組が写真を取り始めたのを横目で伺いながらスマホを覗く。視界の隅に肉塊があるのウザいなぁ。

 

 

 画面越しに認識する化け物は可愛らしい。

 いや変な趣味に目覚めたとかじゃなくて、本当に。

 まるで人間のように見えるのだ。

 

 

 さらさらと流れる金髪が美しい女性は誰でしょう。答えは草壁菜々花です。隣で肉肉しい肉体美を披露している彼女だ。

 詐欺ってものじゃない。訴えられたら間違いなく負ける。

 

 

「あれ、化野さん」

「ん」

「なんだか照れてませんか」

「照れてないよ」

「うっそだぁ!」

 

 

 俺は一般的な男子高校生である。

 いくら本性が化け物とはいえ、美少女がいたら照れる。

 実際に視認するのとは訳が違うのだ。

 

 

 しかし、それを菜々花本人に指摘されるのは腹が立った。今のお前はブロック肉だぞ、と言ってやろうかと思った。さすがにやめたけれど。

 

 

「可愛いところもあるんですねぇ〜」

「やめてね」

「ふふふ、やめませんよ。やられっぱなしでしたから」

 

 

 触手で「うりうり」と突いてくる。

 かっちーん。

 

 

「私のことはどう思ってるんですか?」

肉貪(にくむさぼり)益荒男(ますらお)

「肉貪益荒男っ!?」

 

 

 なんですかその語感を優先した名前は! 一体私のどこに一致するんですか! と菜々花は抗議してきた。

 一致はすると思う。最適なあだ名だよ。

 

 

     ◇

 

 

 謹賀新年。

 思えば――いや振り返らなくてもだが、激動の一年が終わった。

 昨年は化け物と関係を持つなど想像もしていなかったなぁ。

 

 

 純粋無垢だった中学生の頃が懐かしい。普通の青春を夢見て、高校に入学したあの頃が。

 

 

「さぁさ、お兄ちゃん」

「何」

「あけましておめでとうございます」

「……あけましておめでとうございます」

 

 

 元気に妹が挨拶してくる。

 ソファに寝転がりながらテレビを見ていた俺は、起き上がって返答した。

 

 

「新年だよ」

「うん」

「じゃあ初詣行かなきゃね」

「寒いから……」

「あっ、引きこもり!」

 

 

 うるさい。

 寒いのは苦手なのだ。

 

 

「ひっきーひっきー引きこもりー」と謎の歌を口ずさみながら、妹はぐるぐると回る。怪しい宗教みたい。

 しばらく無視していたのだが、さすがに無視しきれなくなった。

 

 

 俺はテレビの電源を消す。

 ため息をついて、両の足で立ち上がった。

 

 

「四十秒で支度しな」

「もう出来てるよ」

「じゃあ俺がしてくるね……」

 

 

 どうにも最初から行く予定だったようだ。

 サムズアップの形で、彼女は闇の触手を伸ばしてくる。

 

 

 まぁ準備と言っても何もない。スマホだとか財布だとか、最低限のものすらない。一般人には視認できない妹は、準備の必要がないのであった。

 

 

 適当に服を着て、その上からコートを羽織る。

 俺もそれだけで終わりだ。

 

 

「お兄ちゃん」

「ん」

「来年こそは初日の出見ようね」

「うん」

 

 

 玄関で靴を履いていたとき、妹が言った。

 昨日のことである。初日の出を見ようという話になったのだが、彼女が寝てしまった。相方がいないのでは、やる気も出ない。俺もベッドに入った。

 

 

 そうこうして翌日。つまり今日になって。

 ドタバタと階段を登ってきた妹が、

 

 

『どうして起こしてくれなかったの!』

 

 

 と泣きついてきたのだ。

 いや自分も寝てたし……。

 

 

 一度も初日の出を目の当たりにしたことがないそうで、彼女の気合は凄まじい。来年こそはと意気込んでいる。

 何度か体験している俺としては、そう大したものではないという感想なのだが。

 本人は「実際に見ないとわからないでしょ!」とご立腹である。

 

 

「うわ、寒」

 

 

 外に出ると寒さが襲ってきた。

 反射的に両手をポケットに突っ込む。

 手袋はしていたのだが、それでもなお寒かった。

 

 

 息を吐いてみると白い。当然かもしれない。数週間前ですら白かったのだから、今ならなおさらだ。

 

 

 妹も寒さを感じたようで、震えながら俺に抱きついてきた。

 離れてくれないかなぁ。

 

 

「どうしたの」

「寒いね」

「寒いよ。引っ付いてきたから余計に」

 

 

 以前も述べたことではあるが、闇は冷たいイメージを孕んでいる。ひんやりしているのだ。夏の暑い日だったら便利だろうけど、今は冬。低温の二重奏(デュオ)である。

 

 

 文句を言うと妹は小さくなった。

 文字通りに、小さくなった。

 伸縮可能な化け物なのだ。これくらいはする。

 

 

「わかったよ」

「何が」

「両方とも幸せになれる方法」

 

 

 いそいそとポケットに侵入してくる彼女。

 大きさ的に防ごうと思えば防げる。

 邪魔してみた。噛みつかれた。

 ……噛みつかれた? 犬かよ。

 飼い犬に手を噛まれるとはこのこと。

 別に飼ってないけど。

 

 

「お兄ちゃん」

「はい」

「邪魔するのはよくないよ」

「正当な権利ではないか」

 

 

 文句は封殺された。

 妹は何も言わずにポケットに定住する。

 ひょいと顔だけ出して、触手を前へ。

 

 

「ロボットに乗ってるみたい」

「操作されてる方の気分にもなってね」

「出発進行ーっ!」

 

 

 今日の彼女はそういう気分のようだ。

 仕方ない。

 

 

 初詣といっても、そこまで遠くに行くつもりはなかった。近所の神社に向かう。さすがに普段より多くの人が訪れていたが、長い間待つほどではない。

 

 

 繁盛期――神社にそんな形容をするのも違和感を感じるけれども――なためか、砂利道を行ったり来たりする巫女さんが何人かいる。

 実際に自分の目で見るのは初めてだったので、不思議な感慨を抱いた。

 

 

「巫女さんって本当にいたんだ」

「お兄ちゃん巫女さん好きなの?」

「別に」

「なぁんだ、コスプレしてあげようかと思ったのに」

 

 

 妹はつまらなそうに呟いた。

 化け物系妹属性巫女。

 最初の部分がすべてを打ち消している。

 需要なし。

 

 

 しばらく列に並んでいると、前から見覚えのある二人組が歩いてきた。

 俺は関わりたくないので顔を伏せる。

 

 

「あれ、化野さん?」

「アンタも来てたのね」

 

 

「……あぁ、うん」

 

 

 しかし声をかけられてしまった。

 わざわざ目の前で足を止められて、無視をするほど人間性を捨てていない。

 苦笑いを浮かべつつ、視線を交わらせた。

 

 

「あけましておめでとうございます」

 

 

 年をまたいでも変わることのない化け物姉妹。

 草壁(くさかべ)菜々花(ななか)と草壁雪花(ゆな)だ。

 相変わらず姉のほうは肉体美を晒しているが、妹のほうは着物である。

 

 

 ちなみに菜々花の肉体美とは文字通りのもので、「肉体」もとい「肉塊」の美しさをそのまま露出している。つまり歩く肉塊。

 美しくないと言われたら、それまでだが。

 

 

 二人は甘酒を持っていた。露天で購入したのだろう。まだ湯気をあげているそれを、雪花は静かにすする。

 

 

「まさか新年早々アンタの顔を拝むことになるとはね」

「嫌だった?」

「嫌じゃないわ。友達だもの」

 

 

 友達も嫌なんだけど。

 なんて以前は言った気がする。

 

 

 今となっては慣れてしまい、化け物を「友人」と表現することに忌避感はなかった。付き合うことに忌避感がないとは、間違っても言えないけれど。

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