【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない 作:音塚雪見
番外編なので時系列も設定も深く考えていません。
矛盾があってもお目溢しください。
一学期か二学期あたりにあったかもしれない話。
類は友を呼びすぎる
「化野さん化野さん」
今日も今日とて肉肉しい——あるいは憎々しい——見た目をさらけ出している菜々花は、語尾に音符でも付きそうなくらいテンションが高かった。
べちょりと肩に付着する触手を眺めつつ、俺は首を傾げる。
「何」
「アイドルに興味はありますか?」
「そこまで褒められると照れる」
「化野さんの容姿を褒めたわけじゃないですよ!?」
いや、たしかに格好いいですけど……。
とかなんとか言っている菜々花は放置して、差し出されたスマホを覗き込んだ。
「…………」
「——はっ! そんなことより、この子です!」
「これがアイドル?」
「はい! 私の推しなんです!」
菜々花は全身で感情を表現している。
お茶の間に差支えのない表現をすれば、生皮を剝いだ大型動物だろうか。
しかも至る所から謎の触手がうにょうにょと蠢いているものだから、とてもではないけれど直視できない。
まあ残念なことに、この数か月で化け物に慣れてしまった俺は、普通に菜々花の隣の席で授業を受けられるようになった。なってしまった。
ファンタジー御用達の悪魔祓いとかに見つかったら、一切の慈悲なく殺されてしまうのではないだろうか。
さすがに自分が可哀想すぎる。
「どうして悲しそうな顔をしているんですか?」
「俺の未来の暗さを憂いて」
「はえ、深いですね……」
はい、不快です。
なんて言えるはずもなく、俺は曖昧な笑みで濁した。
「…………」
再びスマホに視線を戻して、やはり逸らす。
これがアイドル、ね。
やはり俺にはあまり理解できない。
「あっ、先生来ましたね」
昼休みの終わりを告げるチャイムを聞きながら、頬杖をついて校庭を眺める。
普段は何気ない会話の内容などすぐに忘れてしまうのだが、今日ばかりは不思議と頭に残っていた。
◇
授業が終わり俺は帰路についていた。
菜々花は何やら先生に呼び出しを食らっているようで、久しぶりの安寧に満ちた帰り道である。
いい気分だから買い食いでもしようかしら。
なんてルンルンで駅に赴いていると、向こうから細長い影が歩いてくるのが見えた。すんと表情をなくす。
「……
思わず呟いてしまったのは、菜々花が推しているというアイドルの名前。
あまりに強烈な印象を残したものだから、自然と口からまろび出てしまったのだ。
しかしそれが運の尽き。すれ違おうとしていた細長い影は、びゅっと謎の紐じみた白い物体を俺の身体に巻き付けてきた。
「え、どうして私の名前を……?」
「すみません。勘違いでした」
「いや騙されないよ?」
彼女——と形容してもいいのだろうか——はずずいと顔を近づけてくる。
はたして本当に顔なのかは審議が必要なところだが、人間の身体に当てはめれば顔の位置する部分なので、おそらく顔のはずだ。
俺はへばりついていた
「…………」
目の前にいる存在を一言でまとめると、紐型動物門に属する動物を総称するヒモムシが適当だろう。
ぬらぬらと薄気味悪い光沢を放つ、まるで細長い肉塊のような容姿。類は友を呼ぶというが、外見的な意味で友を呼んでいるのは初めて見た。菜々花の親戚かな?
彼女はおしゃれなサングラスをずらして、こちらに視線を向けてくる。
眼なんて上等なものは付いていないが。
「変装してるはずなのに、バレちゃったか」
「気のせいじゃないですかね」
「思いっきり私の名前、口にしてたよね?」
「たまたま口ずさみたくなって」
「難儀な性格してるね」
じゃあそこの喫茶店いこっか。
と有無も言わせず腕を引かれた。
彼女には引く腕もないから、吻によって。
カランコロンと鳴るドアベルが遠くに聞こえる。どうして俺はこんなにも化け物と惹かれあってしまうのか。スタンド使いの理論を適用すると、まもなく自分も化け物になってしまう可能性がある。勘弁願いたい。
奥まった二人席に案内され、西塔岬と応対する。
実に緊張感のある雰囲気だった。
主な原因は彼女の見た目。
エイリアンの捕食シーンだと説明されてもなんの違和感もない。
「さて、バレてしまったからには仕方がない。そうです、私が超人気アイドルの西塔岬ちゃんです」
「はあ」
「興味のなさそうな反応だね」
「興味ないですから」
「本人を前にしてその発言をするとは、肝が据わってる」
目の前に「座ってる肝」みたいな存在がいますから。
なんて紳士な化野くんは言わなかった。
ただ誤魔化すようにコーヒーを口にする。
先ほどの発言に嘘はなく、俺は芸能人だとかいったのにはあまり興味がない。現代っ子よろしく、テレビをほとんど閲覧しないのだ。
けれどもヒモムシみたいに強烈なインパクトを与えてくるアイドルがいたら、そりゃあ記憶に残ってしかるべきだろう。
残してしまったのが敗因だが。あるいは死因かもしれない。
「ここで会ったのも何かの縁だし、どうだろう。私を拾ってみない?」
「要らないです」
「何を隠そう私は絶賛家出中なんだよ。可愛い子猫ちゃんだと思ってさ、ね?」
およそ可愛くもなければ子猫ちゃんでもない西塔岬は、常時出しっぱなしになっている吻を荒ぶらせながら、そう身体を傾げたのであった。