【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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今日は二話か三話投稿します。


つまらない映画に甘酸っぱさを添えて

 結局、俺たちは『伝説の棋士 碁盤返し元周』を観ることになり、二枚のチケットを購入して館内に入場した。

 二時間の上映を見終え映画館を後にする。

 並んで映画の感想を言いながら、ファストフード店でお昼ご飯を食べることにした。

 

 

「……クソだったね」

「びっくりするくらい、つまらなかった」

「映画を見に来たはずだったのに、私の頭の中を占めていたのはポップコーンの味だけだったよ」

 

 

 向かいのソファ席に腰を下ろした岬は、退屈さを噛み殺すかのように机に突っ伏し、吻でフライドポテトを弄ぶ。

 

 

「よくあれが再上映できたね」

「私もそれ思った!」

 

 

 Z級映画など、もはやそのつまらなさを楽しむものだ。

 しかしそれにしたって退屈だった。

 蟻の列を眺めているほうが幾分かマシだっただろう。

 

 

 どうやら彼女も同じ気持ちのようで、映画の感想とも名ばかりの不満ばかりが口から放出される。

 されど言葉のわりに雰囲気は柔らかく、意外にも楽しんでいたことが判明した。

 

 

「面白かった?」

「面白かったというより——曜と一緒にいたからかな」

「俺?」

「そ。君と一緒にいれば、なんだって楽しく感じるよ」

 

 

 嬉しいことを言ってくれるものだ。

 相手が人間だったらなおよかった。

 ヒモムシだと嬉しさも半減するというもの。

 まあぎりぎりで、プラマイはプラスといったところか。

 

 

「アイドル生活で禁止されたものを食べるのは気持ちいいねー」と笑いながら、岬はハンバーガーを口にする。

 ファストフード店で雑談をし、脂っこく体に悪いもので胃袋をいじめるのは、まさしく普通の学生らしいことだろう。

 けれども彼女は、どこか満足していないようだった。

 

 

「……お姫様には、やっぱり庶民の生活は合わない?」

「そんなことないよ」

「初めて会ったときからそうだけど、ずっと何かを後悔してるみたいな顔してる」

「曜の勘違いってことは……まあないよね」

 

 

 岬は苦笑する。

 気まずい間を埋めるように、ハンバーガーが包まれていた紙で鶴を折り始め、やがてため息をついた。

 

 

「家出し始めてから数日くらいは、すごい楽しかったんだ」

「うん」

「開放感っていうのかな。今まで手足を縛っていた鎖がなくなって、どこにだって行けるような気分だった」

 

 

 飲み物に手を伸ばして、彼女は初めて飲み切ってしまったことに気づいたようだ。羞恥を隠すように肩をすくめる。

 

 

「……でも最近は、ぐるぐると前のことが頭をよぎるの」

「後悔してると」

「まあね。反省はしてないけど」

「一番してほしかったところだよ」

「求められるとやりたくなくなるの。私ってば罪な女」

 

 

 岬が話していた怖い夢。

 たとえ自身の異常が原因であろうとも、アイドルという身分を放り棄てて——まわりに迷惑をかけたのを後悔してるのだろう。

 

 

「じゃあ戻る?」

「どうかな。戻っても居場所ないかも」

「岬なら許してもらえるよ」

「ずいぶんと信用してくれてるんだね」

「短い付き合いだけど、それくらいはわかるよ」

 

 

 ありがとう、と彼女は囁いた。

 込み上げる涙を堪えるような声だった。

 

 

「……でもやっぱり、根本的な原因が解決してないからなー」

「怖い夢の件か」

「うん。もともと、それが理由で自暴自棄になったわけだからね」

「後悔はしても、夢を取り除けなかったら意味がないと」

 

 

 怖い夢——自分を化け物として認識してしまう視界は、再び似たような展開をもたらすことになるだろう。

 岬はぶらぶらと吻を揺らした。

 

 

「霊媒師とかに頼ったほうがいいのかな」

「意味ないと思うよ」

「あれま、実感のこもった言葉だね」

「お札とか聖水とか効果なかったから……」

「いったい君に何があったんだい」

「聞かないでほしい」

 

 

 思い出したくないから。

 

 

 俺たちはファストフード店を後にし、デートの続きをすることにした。

 正直なことを言うと映画以外に適切な場所が思いつかなかったのだけれど、岬は午後もどこかへ行くものだと確信している。

 無邪気な期待の眼差しに刺されて、俺は唾を飲み込んだ。

 

 

「次はどこ?」

「……そうだね」

 

 

 頭を高速で回転させる。

 女子と二人きりで出かける経験などない。

 相手が化け物だったらあるが。

 岬はヒモムシだし同じような場所でいいだろうか。

 

 

「もしかしてデートプランの流用してようとしてる?」

「超能力者かな」

「乙女の勘です」

 

 

 乙女の「お」の字もない見た目でそんなこと言わないでほしい。感覚がバグる。

 

 

 致し方ないので、ひとまず歩き始めた。

 いい感じのところがあったらそこへ行こう。

 

 

 なんて適当に歩いていたら、半球状のドームが現れた。

 看板には「プラネタリウム」の文字。

 アイドル様の反応はどうだろう、と岬の様子をうかがってみると——。

 

 

「いいね! 行こう!」

「星が好きなの?」

「星座とかには詳しくないけど、夜空を眺めるのは好きだよ。ロマンチックだよね。雄大な景色を見てると、ちゃちな不安感もなくなるし」

 

 

 どうやら機嫌は上々のようだ。

 俺たちは図書館に併設されているらしいプラネタリウムに足を踏み入れた。

 

 

「あぐっ!」

 

 

 すると岬が急にうめき声をあげる。

 星々の清浄なパワーで浄化でもされたのだろうか。

 

 

「……お金が足りない」

「人気アイドル様が金欠?」

「家出するときに財布を持ってきただけで……引き出すこともできないし」

 

 

 今にも泣きそうだった。

 さすがに隣で——化け物とはいえ——女子に泣かれるのは気まずい。

 俺は無言でチケットを購入する。

 

 

「一名様ですか?」

「……? いえ、二人です」

「あっ、これは失礼しました」

 

 

 受付の人からチケットを受け取って、俺たちは館内に入った。

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