【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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空の下の星

 プラネタリウムを後にすると、外はすっかり暗くなっていた。

 週末を惜しむ雰囲気が街に流れている。

 お隣のヒモムシも例外ではなく、岬はどこか名残惜しそうに星々が宿るドームを眺めていた。

 

 

「デートはおしまいだね」

「普通の生活はどうだった?」

「これが普通だとは思えないけど……楽しかったよ」

「それはよかった」

 

 

 モテない男子高校生なりに頑張って考えたのだ。これで「ちょーつまらなかったよ。さすが女っ気がないだけあるね!」とか言われてたら吐血ものである。残酷なスプラッタ映像に、レーティングをかける必要が出てきただろう。

 

 

 化け物との外出だったから、端からレーティングが必要だったことには目を背けておく。

 プラネタリウムを観て気分がいいのだ。

 わざわざ落ち込むようなことを考える必要はない。

 

 

 俺は無駄に回る頭を誤魔化すために、先ほどのスーベニアショップで購入した飲み物を空にした。

 宇宙っぽいものをイメージしているのだろうが、味としては普通のソーダである。ただ容器が深海を思わせる青なだけ。

 

 

「すっかり暗くなっちゃったね」

「帰ろうか」

「……ちょっと待って」

「ん?」

 

 

 岬に引き留められる。

 腕に絡みつく吻を見つめながら、俺は首を傾げた。

 

 

「まだ、帰りたくないな」

「終電なくなっちゃうとまずいし……」

「間違いなく大丈夫な時間だから」

 

 

 時計を確認すると十七時三十分を少し過ぎたころ。

 田舎の本数の少ないところであればともかく、それなりに発展した街なら、余裕で電車が運行している時間帯である。

 

 

「俺のデートプランは映画の時点で弾切れだよ」

「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するのが大事!」

「行き当たりばったりってこと?」

「そうとも言う」

「ずいぶんと適当だなぁ」

 

 

 一応は異性——と認めるのは男の子として、あるいは人間として業腹であるが——との外出だから、けっこう気合を入れていた。

 しかし岬は肩の力抜いていこうぜー、などと言っている。

 

 

 変な異性信仰を抱いていたことを自覚し、俺は苦笑した。

 

 

「曜の家まで歩いていくのはどう?」

「三駅くらいあるよ」

「私はこれでも現役アイドルだったんだぞ? 体力には自信があるよ。なんせライブでは歌って踊ってを、数時間ぶっ通しだったからね!」

「尊敬」

 

 

 体力に乏しい自分には到底できなさそうな芸当だ。

 からかいとか一切の他意なく、尊敬の念を覚える。

 

 

 結局、彼女の提案通り俺たちは家まで歩いていくことになった。

 もちろん沿線を行くなんてつまらない道程ではなく、気になったところに気ままに足を運ぶという、風任せスタイルだ。

 現在は小高い丘——というよりも山と表現したほうが適切な、まわりよりも数百メートル標高の高い座標を訪れている。

 しっかりと道は整備されているものの、やはり体育の授業くらいでしか体を動かさない俺は、すでに息を切らして久しい。

 

 

「男子としてどうなのかな、それは」

「たぶん岬を比較対象にするのは間違ってるぞ」

「私が特別だってこと?」

「うん」

「きゃっ」

「異常という意味で」

 

 

 女の子に「異常」っていう形容詞を使うのはいかがなものかな。

 と岬は不満げに頬のあたりを膨らませた。

 けれども真正面から彼女とやり取りしていると体力を余計に持っていかれるので、黙りこくって坂を上っていく。

 

 

 どうしてこう、重力はサボらずに働くのだろうか。

 常に働き続ければいつか限界が来る。重力にだって労働基準法が適用されても問題なかろう。具体的には今とか有休を取るのに相応しい。ゼロなんて贅沢は言わないから、月面くらいの引力に調整してくれると助かるのだが。

 

 

「曜は意外とボケるよね」

「ツッコミ役を自認してるんだけど」

「それにしては言動がおもしれー男すぎるよ」

「幻滅した?」

「惚れ直した」

 

 

 元の値がゼロに限りなく近いだろうから、惚れ直したところで変化が微々たるものであることは火を見るより明らか。

 つまりヒモムシに好意を寄せられる人間、という不名誉な称号は受け取らずに済むのだ。

 

 

 なんら意味のない雑談をしつつ坂道を登っていけば、ついに最終地点にまでたどり着いた。

 山と表現できるくらいだから、最奥にあったのは展望台。

 雨に打たれ色褪せた看板には「——見晴台」と書かれており、俺たちの他に人気(ひとけ)が無いことも相まって、この場所が忘れ去れてしまっているという物悲しさを感じさせた。

 

 

「わあ、空の下にも星はあるんだねぇ」

 

 

 岬はぶらぶらと吻を揺らす。

 彼女が見やるのは夜の闇に落ちた街並みだ。

 家やビルなどに電気が付けられ、先のプラネタリウムのごとく輝いている。

 ずいぶんと使い古された定型文に、俺は思わず肩をすくめた。

 

 

「夜景とか見たことないの?」

「いつも仕事で忙しかったから。疲れ果てて、景色を見ることなく寝ちゃってたよ」

 

 

 高層マンションに住んでたのにねー。

 と岬は唇を尖らせる。

「もったいないことしてたかな?」と言わんばかりの視線らしきものに、俺は双眸を逸らしながら頬を掻いた。

 

 

「……この瞬間がいっそう映えるから、損ばかりじゃないよ」

「曜もロマンチックなこと言えるんだね!」

「俺をなんだと思ってるの?」

「情動に乏しいロボット」

「人間とすら認識されていないのか」

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