【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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歩く空気清浄機……ってコト!?

 このセカイ系ヒモムシは視覚的に行方不明になってしまっているので、早急に問題を解決しなければならない。

 スマホなどで連絡は取っているそうだが、『いつまで我儘を言っているんだ。仕事がなくなってしまうぞ』とマネージャーはお冠なんだとか。

 

 

 普段は真面目で優等生なキャラクターを演じている岬にとって、身近な人に怒られるのは相当恐ろしいのだろう。人間の身体ではないにもかかわらず、彼女が全身で恐怖しているのが伝わってきた。

 

 

 俺は机に肘をつく。

 バンジージャンプをしても無理だったのだ。代替案を出せと言われても、すぐには思いつかない。

 

 

「でも……不思議」

「ん?」

「なんで曜には私のことが視えてるんだろう」

 

 

 闇の触手が視界に入り込んできた。

 ずいぶんと口を突っ込みたそうに、妹が揺れている。

 

 

「心当たりがあるの?」

「愛の力だよ、お兄ちゃん!」

「引っぱたくぞ」

「もう叩いてるって!」

 

 

 くだらないことを言いだした化け物に制裁。

 常識的に考えれば闇相手に物理攻撃など通用しなさそうであるが、血縁補正で愛の鞭を食らわせることに成功した。

 妹は大袈裟に痛がる。

 

 

「暴力系ヒロインは時代遅れだっていうのに、事欠いてヒロインに対して暴力を振るうの!? 人気投票で順位が下がるよ!?」

「どこにヒロインがいるんだよ」

「目の前だよ!」

「はっ」

「鼻で笑った!?」

 

 

 笑止千万。

 眼前に立つ妹がヒロインだって? へそが茶を沸かしてしまうぞ。

 

 

「納得がいかない……私だって美少女なのに……」

「鏡に映らない体質だっけ」

「昔は美少女だったんだよぉ!!」

 

 

 化け物誕生の秘話など知る由もないが、彼女は非常にご立腹らしい。メロスのごとく地団太踏んで、ものも言いたくなさげな格好である。俺の肩をむずと掴んでどうど落ち、兄妹喧嘩のような光景と相成った。

 

 

 血迷ったか、と早合点しそうになったところ、妹は岬に聞こえないよう小さな声で囁く。

 

 

「この問題の解決策……分かったかもしれない」

「本当?」

「確証はないけど」

 

 

 五里霧中な現状、一筋の光でも希望となり得る。

 俺は彼女を立たせて廊下へと足を運んだ。

 さぁ話してもらおうかと傾聴の姿勢。

 

 

「岬さんはバンジージャンプをしたとき、姿が見えるようになったんだよね?」

「昨日話した通り」

「でも、それっておかしくないかな」

「どういうこと?」

「大いなる恐怖に瀕したとき、生を実感して人間であることを確信する……という原理が真実なら、インストラクターの人たちは岬さんを認識できないはずだよ」

 

 

 恐怖は飛んでいる最中、あるいは飛ぶ直前が最も強いのだから、それ以前に姿が見えるようになるのはおかしいのだと。

 妹は触手を荒ぶらせ熱弁した。

 

 

「……たしかに」

 

 

 顎に手を添えて納得する。

 岬が特別怖がりな可能性も否定できないけれど、バンジージャンプの時点ではどこか余裕があるように思われた。

 念入りにおこなわれた事前説明によって、どれだけ危険がないかを理解したのだ。心の底から「自分は死んでしまう」と確信に至ることはないだろう。

 

 

 つまりバンジージャンプは関係ない?

 妹の指摘は的を得ている気がした。

 ただそうなると、岬の状態が変化した理由が分からなくなり——。

 

 

「お兄ちゃんだよ」

「え?」

「多分、お兄ちゃんが傍にいたから、岬さんは他人に見えるようになったんだよ」

 

 

 胸を張って妹は宣言する。

 間違いないと太鼓判を押すように。

 

 

「お兄ちゃんが異形の視界になったとき、言ったよね。発生する瘴気の大部分を吸ってくれてるって」

「うん」

「似たようなもので、岬さんが〝向こう側〟に近づきすぎても、お兄ちゃんが状態を軽減してるんだと思う」

「歩く空気清浄機……ってコト!?」

「表現が適切かどうか判らないけど、おおむね」

 

 

 お菓子に入っている乾燥剤のごとく、俺が岬の近くにいるとき限定で、彼女は他人に認識されるようになるらしい。

 妹の推理ではあるが、おそらく正しいだろう。今までの状況を並べて検証してみても、たしかに自分の存在が常にあった。

 

 

 けれども解決策になり得るかというと、少し難しい。

 

 

「俺がずっと一緒にいなくちゃいけない、ってことか?」

「現状だとそうだね」

 

 

 無理だ。そもそも俺と岬は住んでいるエリアも違えば、生きている世界すら違うのである。路傍の石とキラキラのアイドル。あまりにも環境が異なる。よしんば俺が彼女の問題を一時的に取り除けたとしても、時間が経てばまた見えなくなってしまう。それでは意味がない。

 

 

「どうすればいいんだ……」

 

 

 と廊下の壁に背を預けて、ずるずる座り込んだ。

 電気をつけていないから真っ暗である。

 しかし、暗闇が思考を加速させてくれるような気がした。

 

 

「ひとまず相談してみれば?」

「相談?」

「仮説が立ったんだから、岬さんに話してみるの。私たち二人じゃ出てこないようなアイデアが生まれるかもしれないしさ」

 

 

 正論だ。岡目八目と言う。当事者でなく第三者のほうが、事態をより正確に判断できるかもしれない。いや岬は第三者どころか当事者も当事者なのだが、それは置いておいて、三人寄れば文殊の知恵を信じよう。

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