【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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結婚式前にウェディングドレスを着ると

 不満げな反応をされても困る。結納式だとか理解のできない発言を認めてしまったら、俺が化け物に対して恋愛感情を抱くバケモノになってしまうではないか。そんなゲテモノに成り下がるのはプライドが許さない。

 

 

「ちょっとちょっと、岬ちゃん」

「なぁに監督」

「まさかこの場でウェディングドレスに着替えるつもり? ストリップする趣味があるならいいけど、そうじゃないなら更衣室に行ってきなさい」

「だって曜」

「どうして俺に話題が向けられるの?」

「私がこの場に残るかどうかは曜次第だよ」

「早急に更衣室へ行ってほしい」

「えー」

 

 

 なんだって不服そうなのか。

 一応はマネージャーの立場だし、担当アイドルを露出趣味の変態にするわけにはいかない。

 加えて煽情的な格好をされても、俺にとって岬はヒモムシだから、全く琴線に触れないのである。

 

 

「少しは迷ってほしいよね。失礼しちゃう」とぷんすか吻を振り回しながら、彼女はスタイリストに連れていかれた。

 台風の目が消えたことで撮影スタジオに平穏が戻る。

 

 

「そこのボーイ。随分と岬ちゃんに好かれてるのね」

 

 

 戻っていなかった。

 顎髭を撫でる監督が話しかけてきやがった。

 反射的に顔を顰めるのを抑え、首を傾げる。

 

 

「そうですかね」

「当ったり前よ。岬ちゃんってば好き嫌いが激しいことで業界でも有名だったのよ? 気に入らない相手だったらどんなお偉いさんでも反発するし。それで干されなかったのは、彼女の才能ゆえね」

 

 

 普段の言動から薄々察してはいたが、やはり怖い夢を見る前から傍若無人な振る舞いは継続していたらしい。

 自身の姿が化け物さながらになってしまったことで、本心ではないのに暴走していたとかの可能性が、億が一くらいはあるかなと思っていたのだけれど。

 まぁ怖い夢程度ではそんなものか。

 

 

 その後は新人マネージャーとしての心構えを教えてもらったり、岬が子役の頃からの付き合いだという人に御し方を教えてもらったりして──じゃじゃ馬だから振り落とされないようにしろとしか言われなかったが──着替えが終わるのを待った。

 

 

「着替え完了でーす」

 

 

 二十分ほどしてスタイリストが戻ってくる。

 送れるようにドレスに身を包んだ岬がスタジオに入ってきた。

 男性陣──いや女性陣も含めて、感嘆の息を漏らす。

 俺を除いて。

 

 

「…………」

 

 

 なんというか。

 純白のドレスを纏ったヒモムシって、世の花嫁に対する侮辱と相違ないのではないだろうか。

 少なくとも自分だったら、雑誌の表紙を〝こんなの〟が飾ってたら焚書する自信がある。朕は秦の始皇帝。

 

 

 煌びやかな白き奇跡。永遠を纏う純白の詩。幸福を可視化した愛の結晶体。ウェディングドレスを褒めたたえようと思えばいくらでも美辞麗句は用意できるが、はたして中身が地球外生命体でも通用するのだろうか。

 

 

 答えはノーだ。

 断固としてノーである。

 永久機関くらい不可能。

 

 

 解像度の低い悪夢みたいな光景を作り出しながら、岬は静々とこちらに歩いてきた。ベールに顔は隠されて見えない。そうでなくても顔なんて存在しないけど。

 

 

 やがて岬が撮影スタジオの中心まで辿り着くと、ざわついていた空気が自然と沈黙に変わり、まるで俺の一挙手一投足を待っているかのように、重たい期待を視線に乗せてきた。

 

 

「……曜」

「ん」

「私、綺麗?」

 

 

 口裂け女みたいなこと言うじゃん。

 回答間違えたら殺される感じですか?

 ポマードポマードポマード。

 

 

「ねぇ、何か言ってほしいな」

「べっこう飴いる?」

「いやなんで???」

「なんとなく」

 

 

 悪霊退散できるかと思って。

 

 

 胸の中で十字を切りつつ、自分でベールを外した岬が頬の辺りを膨らませる。

「素直じゃないよね曜も」など意味不明な発言をしながら。

 俺ほどに正直な人間そうはいないぞ。閻魔大王の前に立っても自信を持って胸を張れる。

 

 

「はぁ……ねぇ曜知ってる?」

「何を」

「結婚前にウェディングドレスを着たら結婚できなくなるってジンクス」

「知ってる」

「じゃあ責任取ってね」

「因果が不明」

「だって私を結婚できなくさせたのは曜なんだから、曜が責任取って結婚してくれなくちゃ、行き遅れになっちゃうかもしれないでしょ?」

「岬だったら絶対結婚できるよ」

 

 

 そもそもウェディングドレスを着るのは雑誌の撮影──つまり仕事なのだ。

 仕事の責任を俺に押し付けないでほしい。

 もしも彼女が行き遅れになったとして、それに罪が生じるのであれば、罰は監督にでも送ってくれ。

 

 

「そういうことじゃないんだけどなぁ。曜ってば鈍感。それともわざとやってるのかな。どうなの曜?」

「難しいことを聞かないでほしい」

「罪な男」

 

 

 罪な男というよりも罰な男と表現したほうが正しい。

 地獄みたいな視覚的に。

 

 

 くだらない問答を繰り返していると、ついに時間が厳しくなったと見える監督が「さァ早く撮影しちゃうわよ~」と声を上げた。

 

 

 背景布を後ろに二人並んでカメラに向かう。

 初めての経験だから緊張が凄い。

 変な顔になっていないかしら。

 

 

「ふふ、肩に力入りすぎ」

「分かる?」

「分かるよ。曜のことだもん」

 

 

 ──落ち着いて。

 と岬はそっと囁いた。

 

 

「私が傍にいるから。曜はリラックスして、預けてくれればいいよ。リードしたげる」

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