【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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スイーツバイキング②

「楽しみだねぇ」

 

 

 待機用のソファに座って岬は脚をぶらぶらさせる。

 まぁ彼女には「脚」なんて器官は存在しないから、自分からすると振り子のように赤黒い肉体が揺れているようにしか見えないのだが。

 

 

「およそ想像できる甘味は揃ってるらしいよ」

「それはそれで怖いけど」

「女の子の楽園だねー」

 

 

 確かに女の子の楽園と表現して差し支えないほど、店内には女性の姿が多く、数少ない男性も彼女らの付き添いのようだ。

 

 

「私達、傍から見たらどう映るのかな?」

「我儘娘と、それに付き合わされる可哀想な男じゃない」

「こんな可愛い私を我儘娘と申すか」

「我儘であることは間違いないでしょ」

「違うよ。私が『カラスは白』と言えば白になるの。実は世界は私を中心に回っているからね。天動説も地動説も正しくない」

「生まれる時代が違ったら異端審問でお陀仏」

 

 

 傲岸不遜の権化、西塔岬女王陛下は頬を緩める(もちろん比喩表現だ)。

 まるで些細なやり取りすら楽しいという様子で、膝を近づけてきた。

 

 

「……ありがとね」

「何が」

「私の体質。いや体質って呼んでいいのかも分からないけど、曜が近くに居なくちゃ消えちゃうでしょ?」

「うん」

「こうしてスイーツバイキングに来られているのも、普通に過ごせているのも全部曜のおかげ。だからありがとう」

 

 

 意外な感謝に目を丸くする。

 まさか、彼女がそんなことを考えていたとは。 

 

 

「趣味と実益を兼ねてのことだから」

「趣味ィ? 実益はマネージャーのお給料だとして、趣味の部分はどういう意味? もしかして私と一緒に居られて楽しいとか? まぁ違うんだろうけど──」

「そうだよ」

「え」

 

 

 それまで朗々と喋っていた岬は固まった。

 数秒ほどローディングをし、バッと顔を寄せてくる。

 

 

「え、え、え⁉ 私と一緒に居て楽しいって⁉」

「うん」

「そんな素振りなかったじゃん!」

「あったでしょ」

「あったにしても、曜のは読み取りづらいんだよ‼」

「なんかごめん」

 

 

 ご立腹なようだったので取り敢えず謝罪。

 普通に考えて楽しくない相手と一緒に過ごさないと思うんだが。自分が近くに居なければ透明人間になってしまうという問題があっても。少なくとも、こうして和気藹々とスイーツバイキングなんて訪れないだろう。

 

 

 ぷりぷりと怒っている──にしては嬉しそうというか、微妙に羞恥が混じっているような──岬は、先程詰めてきた距離を更に詰めてきた。

 ただでさえ近かったのに、もはやゼロ距離だ。

 スラックス越しに彼女の体温を感じる。

 

 

「二名様でお待ちの化野岬様ぁ~」

 

 

 そんな風に雑談をしていると、店員が俺達の名前を呼び、空いた席に案内してくれた。椅子はファミレスのようなそれだが、内装が違う。細部まで拘っているのだろうと思わせる瀟洒な作りに、管理が面倒そうな観葉植物。天井を見上げればシーリングファンが悠々と回っていた。常に快適な室温に保たれているが、換気は十分にされていそうだ。

 

 

「えーと、おすすめは──」

 

 

 店員からコースの説明をされる。

 ふんふんと真剣に耳を傾けていた岬は、俺の意見を加味したうえで、結論を出した。

 

 

「一番高いので」

「承知しました」

「ちょっと」

「何?」

「岬はいいだろうけど、俺の懐には余裕がない」

「任せなって。私が払ってあげるから」

「タクシー代も払ってもらったのに……」

「指輪も買ってあげようか?」

 

 

 冗談が混じってきたのでシャットアウトする。

 岬はくつくつと笑った。親指と人差し指でわっかを作ると、

 

 

「昔から働いてるからね。使い道が分からないくらいには、銀行口座に眠ってるんだよ。愛の巣でも購入する?」

「…………」

「無視かぁ。酷いなぁ。乙女がこんなに勇気を出してるのに」

「あ、スイーツ取りに行こうか」

「はーい」

 

 

 二人で席を立つと、数え切れないほどのスイーツが乗せられたビュッフェ台まで向かい、流石にその威容に圧倒された様子の岬は「こんなの初めて」と呟き、皿に盛り切れないくらいのスイーツを取った。

 

 

 見ているだけで胸やけしそうだ。

 俺はコーヒーゼリーを中心とした、あまり甘くなさそうな物を選び、飲み物はもちろんブラックコーヒーを淹れる。

 甘党アイドル様はダージリンティーをご所望だったので、純白のティーカップに注ぎ、席に戻った。

 

 

「それ食べきるの?」

「分からない」

「分からないって」

「もしも私が戦線離脱したら、曜にカバーを頼むね」

「正気?」

 

 

 彼女の皿を見つめる。一欠片のケーキに使われるクリームですら、甘ったるそうで気持ち悪くなるほどなのだ。ある程度は岬が処理するにしても、残ったものを食べろと言われても、とても可能な気はしなかった。

 

 

「でもね、私には作戦があるのですよ」

「作戦」

「疲れた胃袋を叩き起こす方法だね」

 

 

 理知的な声で岬は吻を揺らす。

 

 

「曜が『あーん』してくれたら、私の限界が近くても、別腹が覚醒すると思うんだ」

「別腹ってそういうシステムだっけ?」

「差し当たって私の胃袋はそうだね」

「はぁ」

 

 

 全く以て理知的でないことを抜かしながら、彼女はティーカップを傾けたのであった。

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