【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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水着バラエティ①

 俺が水着の仕事を断るべきだとアドバイスしたのは人類のためなのだが、どうやら違う理由だと勘違いした様子の岬は、何処か揶揄うような空気を纏いながら、するりと近づいて吻を絡めてきた。

 

 

「ふふ」

「何?」

「嫉妬してる?」

「何で?」

「だって私が『水着の仕事あるんだー』って言ったら、空気がざわついたよ?」

「うーん」

 

 

 君の空気がざわついたという表現は、『トリコ』でGTロボが登場したときみたいな「ぞあっ」だと思うんだけど。

 なんて歯に衣着せぬ指摘は呑み込み、真摯に紳士な対応をする。

 

 

「テレビで岬の水着姿を観る人のほうが可哀想だから」

「私の身体が貧相だって!?」

「言ってない」

「私は貧相なんじゃなくて、昨今の大量生産大量消費をよしとする風潮に疑問を呈するべく、敢えて起伏に富んだ肉体ではなく、そう敢えてエコシステムなボディメイクをしているんだよ」

「滅茶苦茶喋るね」

 

 

 別に彼女の身体が起伏に富んでいようと断崖絶壁であろうと化け物には変わりないので関係ないが、男子には分からぬプライドが存在するのか、やたらと饒舌な言い訳がマシンガンのように飛んできた。

 しかし一切のそれを無視する。

 生産的な話題じゃないからね、仕方ないね。

 

 

「……聞いてる?」

「聞いてない」

「あっデリカシーの欠片もない! だから私以外には女の子に相手されないんだよ!」

「俺が女の子に相手されないって言ったことあるっけ?」

「ないけど……相手されるの?」

「…………」

「ほら、されないんじゃん。変な強がりは止めたほうがいいよ。ダサいだけ。ますます相手されなくなっちゃう。まぁそれでも私だけは曜の味方だからね。安心してね」

「はぁあざっす」

 

 

 生物学上は女子な人物(要審議)との関わりは非常に多いのだが、倫理的に女子と認めがたいので、岬の質問に素直に答えることはできなかった。

 

 

 それを彼女は鬼の首でも取ったかのようにニヤニヤニタニタうざ絡みしてきて、ついに俺の怒りが爆発しそうなところで、『ピロピロピロ』とスマホが鳴る。

 

 

「……マネージャーからだ」

「出ないの?」

「お邪魔虫だなぁって」

「何たる言い草。白数さんが泣くよ」

「犬も食わない場面を邪魔する奴なんて、勝手に泣かせておけばいいよ」

 

 

「ふんだ」と言い放って岬はそっぽを向いた。

 仕事用のスマホが鳴り続ける。

 

 

 ピロピロピロ。

 ピロピロピロピロ。

 ピロピロピロピロピロ。

 ピロピロピロピロピロピロ。

 ピロピロピロピロピロピロピロ。

 ピロピロピロピロピロピロピロピロ。

 

 

「だー! その執念深さだけは認めてやろう!」

 

 

 とうとう我慢ができなくなった彼女は、腕に乗った蚊を潰すがごとき勢いでスマホを耳──らしき場所──に当て、怒り心頭、開口一番に白数さんへ文句の一言を放った。

 

 

「しつこい人はモテないよッッ!」

『僕は既婚者だから関係ないね』

「そーゆーことじゃあないんだなぁッッッ‼」

『随分と感情が荒ぶっているようだ。化野君とのランデブーでも邪魔してしまったかな』

「その通りその通り! 伝えたいことは終わった? 切るねッッ‼」

『仕事について全く話していないよ』

 

 

 スマホの向こうに居る白数さんの声は聞こえないが、岬の様子からして仕事の話題でも振られたようだ。

 すん……と冷静になってヒモムシは首を傾げる。

 

 

「仕事って──水着の?」

『ご名答』

「私あれ嫌だからキャンセルで」

『普段はお姫様の我儘を聞く余裕があるけどね、今度ばかりは無理だ』

「なんで?」

『君の失踪のせいでドタキャンした仕事の埋め合わせだから』

「…………」

 

 

 さっきまで押せ押せだったのに岬は黙り込んでしまった。

 面倒な流れになったのだろうか。

 雨に濡れた犬のように潮垂れている。

 

 

『断れないことは理解したね? じゃあ次のフェーズに移ろう。岬には水着で最近開かれたスパリゾートにロケに行ってもらう。ここで問題が発生したんだが、謎の不審火で備品の水着が焼失してしまったそうでね。新たに購入しようにも暴れ牛によって流通がストップしてしまい、撮影に間に合わなさそうなんだ。ということで岬。化野君と一緒に水着を買ってきてくれ。領収書は貰っておいてね』

「はああああああああああああ⁉」

 

 

 突如として叫ぶ岬。

 街中だから視線が集まってきた。

 黙ってくれぇかな、と思うが静観。

 親のような気持ちで見守りましょう。

 

 

「わ、わ、私が水着を⁉」

『うん』

「よりにもよって曜と⁉」

『うん』

「羞恥心で死んでしまう!」

『そこはほらお得意のガッツで何とか』

「ガッツを前面に押し出したことはない‼」

 

 

 どうやら揉めているようだ。

 スマホに向かって口論するヒモムシという、時代が時代ならワンチャン宗教画になり得そうな光景を作りながら、岬は白数さんの譲歩を引きずり出そうとする。

 

 

「そもそもさ、先方も間違ってるんだよ。私が水着って。誰も喜ばないよ」

『考え方を変えてみよう』

「……?」

『岬は化野君と水着を買いに行く。つまり化野君の好みで選ばせることも可能なわけだ。加えて値段はあまり気にしなくていい。経費で落ちるからね』

「……ッ」

 

 

 吻をピーンと伸ばして彼女は停止した。

 一秒二秒三秒。

 十数秒ほど経過してようやく動き出すと、岬は電話を切り、距離を詰めてくる。

 非常に嫌な予感がした。

 

 

「曜」

「はい」

「水着買いに行こう」

「はい?」

 

 

 本当に意味が分からなかった。

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