【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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水着バラエティ③

 しかし世界に神は居ないようで──あるいは居たとして、物凄く性格が悪い奴なのか──柱に身を隠していた俺は、呆気なく動く死体こと雪花に見つかってしまった。

 心の中でニーチェ先生の名言を叫ぶ。

 警察とかそこら辺の公的機関に鹵獲されたらおよそ表には出せない人体実験をされそうな外見をしている彼女は、さも偶然に文句でも言うような格好で首を傾げた。

 

 

「あら、化野じゃない」

「おはよう」

「外はすっかり暗いわよ?」

「へぇ。知らなかった」

「もしかして日がな一日そうして屈んでたの?」

「実はね」

「変わった趣味をお持ちのようで」

 

 

 変わった趣味をしているのはぼろ雑巾を纏っているお前のほうである。

 なんて古墳から出土したナマクラみたいな言葉は吐かない。

 代わりに天使のごとき笑みを浮かべ、雪花の顔を引きつらせることに成功した。

 なんでだよ。

 

 

「アンタの将来を想って助言するけど、人前で作り笑いしないほうがいいわよ」

「正常な社会生活を送るなと」

「正常な社会生活を送りたいなら、まるでゾンビでも目の当たりにしたようなホラー映画じみた表情はしないことね。清浄さの欠片もないわ」

 

 

 まるでゾンビを目の当たりにしたというか、まさにその通りというか。

 相変わらず自分が死霊であることを認識していない様子の雪花は、自然な仕草で俺の手を取ると、さも当たり前かのように水着屋へ向かう。

 何事?

 

 

「一応訊いておきたいんだけどさ」

「ええ」

「どういった訳で俺は連行されて、何処を目指してるの」

「旅は道連れ世は情けってことで、アンタは私と一緒に水着屋に行くの」

「意味が分からない」

 

 

 彼女の頭の中でどのような思考があったのか。

 見た目通り思考回路が壊れているのだろうか。

 

 

「近いうちに夏休みがあるでしょう」

「うん」

「そのとき──いや、お楽しみにしておきましょう。取り敢えず私達は水着を買うのよ」

「俺も買う流れになってる?」

「当然よ。アンタだけ海水浴場でクソダサい普段着のファッションショーをやるつもり?」

「海水浴場に行く予定がないんだけど」

「ふふ」

 

 

 薄気味悪く頬を緩める雪花。

 凄いな。『バイオハザード』のワンシーンかと思った。

 手を振りほどこうとするが彼女の力が強いせいで逃げられない。

 ついに水着屋に入ってしまい、岬との遭遇は約束されたものと思われた。

 

 

「……おや」

 

 

 しかし、どうも岬は店員とおすすめの水着について質問しているようで──少し聞こえてきたところによると「鈍感な男の子を堕とす抜群の水着は」とか「私のプロポーションだと、露出が多いよりも少ないほうがむしろ〝そそる〟んですかね」とか訊いている──こちらの存在には気づいていない様子。

 

 

 もしや惨状を回避できるのでは? と覚醒した灰色の脳細胞が働きに働きまくり、俺は逆に雪花の腕を強く握り返すと、店の奥まったところに彼女を誘導する。

 

 

「ちょ、ちょっと化野?」

「ん」

「アンタそんな積極的だったかしら?」

「異星との接触には慣れているものでね」

「『異性との接触には慣れている』ですって⁉」

 

 

 若干赤面していた雪花は、即座に色の変化の意味すら変化させると、勇み足でたたらを踏み、何やら覚悟でも決めたように息を呑んで、数瞬目を瞑り、こちらとの距離を限りなく詰めてきた。要するに抱き着いてきた。間違っても生前感じてはいけない感触に世界が遠くなる。

 

 

「ど、どうかしら? これでも『異性との接触には慣れている』とか、ふざけたモテ男みたいな言い回しができる?」

 

 

 どうやら先程の発言を誤解しているようだ。

 俺は異なる星という意味で「異星」と表現したのだが、雪花は異なる性という意味で「異性」と捉えたらしい。

 それが何故ハグなんて行動に繋がったのかはなはだ疑問だけど、いずれにせよ、彼女の質問に答えなければならない空気になっていた。

 少し首を捻って宙を眺める。

 しばらく考えて、俺は誠実な回答をした。

 

 

「モテ男うんぬんは置いておいて、ひとまずドギマギはしないかな」

「乙女に対する配慮ってものがないの? 相手が私じゃなく普通の女の子だったら、せっかく勇気を出して抱き着いてそんな感想を言われたら、自分は魅力を持ち合わせていないんだって思い詰めるわよ」

 

 

 相手が雪花じゃなく普通の女の子だったらこんなこと言わない。

 化野君は普通の女の子と関わりになったことのないシャイボーイである。

 おそらく顔立ちの如何によらず、人間と触れ合っただけでドギマギするだろう。

 二束三文で叩き売りされている恋愛シミュレーションの登場人物よりも簡単に攻略される自信がある。

 

 

 ところが目の前に鎮座するのは人間と正反対の位置に居るゾンビ。

 抱き着かれたところで、恐怖することはあっても、桃色空気な場面になるはずもなかった。

 

 

「まぁアンタを意識させるのにはまだ時間がかかるとして、こんな奥まった場所に誘導したのはどういうわけ? 襲いたくなったの?」

「どちらかというと襲われるのは俺じゃない?」

「私が化野を襲うって? どういうイメージ持ってるのよ。あったま来た。その発言後悔させてやるわ」

 

 

 がばりと距離を詰めてくる雪花。

 何やら雰囲気が妖しい。

 俺は近くにあった水着を適当に手に取ると、自分と彼女との間を堰き止めるようにそれを掲げる。

 

 

「──これ雪花に似合うと思ったんだ」

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