バカは元鬼殺隊
それは、予想の範疇を越えた唐突の出会いだった。
可愛がっている後輩を労うため、行きつけの甘味処に誘ったところ、当の後輩がハッとした顔で振り返り、やけに深刻な表情で言葉を詰まらせた。
後ろを振り返る。そこには品の良いスーツに身を包んだ男と着物姿の女性。二人の間の子供と思われる女の子が歩いていた。
仲睦まじい家族のようだが、彼らが一体どうしたのかと入隊一年目の鬼殺隊員、神薙志岐は戦慄している竈門炭次郎に尋ねたところ、彼の口から漏れた言葉に目を細める。
「間違いないんだな?」
「はい……! この臭い、あの時とまったく同じ。間違いありません……!」
あの男が、鬼舞辻無惨です!
その言葉に志岐は小さく「そうか」と呟くと、炭次郎に告げる。
「炭治郎はこのことをお館様に伝えてこい。鎹鴉は使うな、恐らく気付かれる」
「志岐さんは?」
「そりゃ当然、ぶっ殺しに行くさ」
竹刀袋に入れた愛刀を取り出し、人混みに紛れて男の背後に近づくと、音もなくその首を一閃した。
「ぐぅうっ!?」
「きゃああああ!」
「お父様!?」
切り口から鮮血が溢れる中、断面を手で抑える男──鬼舞辻無惨。
狼狽えている女性とその子供を意識的に視界から外し、独特の呼吸音を響かせながら次々と技を繋げていく。
「ここで会ったが百年目ェ! その首と心臓と生き恥とその他諸々、まとめておいてけやッ!」
「き、鬼殺隊だと……!?」
志岐の姿に瞠目して驚く無惨は、隙間を縫うように放たれる鋭い斬撃を触手に変えた腕で弾く。特に日傘に向けられる攻撃には敏感に反応していた。
その様子から、どうやら光を克服してはいないようだと勝機を見出だす志岐。自分に向けられる触手も混乱している人々に向けられる触手も、一刀のもと斬り捨てていく。
不思議なことに志岐の攻撃は無惨が行動を起こす瞬間、もしくはそれより前に放たれており、完璧なカウンターとして無惨の行動を悉く潰していた。
「私の行動を読んで……もしや貴様、透き通る世界にっ!」
鏃のように鋭く、鋼鉄すら簡単に貫く触手を六本も生やした無惨は、志岐を串刺しにしようと躍起になるが、瞬く間すら置き去りにする剣速で全てを両断し、細切れにする。
雷を彷彿とさせる速さに岩のような重さ、そして炎の如き苛烈さ。
時には暴風のような鋭さや流水の如き滑らかさで剣を捌いていくその姿に、無惨の記憶が疼いた。
魂が悲鳴を上げ始める。
「透き通る世界ィ? ああ、内臓が見えるようになるってお館様が言ってたな。でもそれって、俺たちで言うところの先の先なわけよ」
無惨の動きを封殺するその様は、まるで詰め将棋。
「脳から肉体に電気信号が行くまでの時間は0.02秒! 相手の意を読み取る先の先の先に比べりゃ、断然遅いっ!」
なんだその理屈は、理不尽ではないか。
志岐の言葉を聞いた無惨は、思わず胸中でそう愚痴った。
苦い記憶が刺激される。
己が最も忌み嫌う人間。寿命が尽きるまで引き籠るという屈辱と、奴が生きている限り安心できなかった嘗ての日々が脳裏を過る。
魂が悲鳴を上げた。
「オラぁ! 隙ありってことで死ねィ!」
その一瞬の隙を見逃す志岐ではない。
一挙動で刀を二度振るうという訳の分からない絶技を披露した志岐は、いつの間にか繋がっていた無惨の首と、これだけはと死守していた日傘を跳ね飛ばした。
「ぐぉおおおおっ! は、柱でもない雑魚に、この私が──ッ! 鳴女、鳴女ェェェエエエエエッ!!」
──ベベン!
「志岐さん!」
「神薙っ!」
「志岐くん!」
琵琶の音が鳴り響くと同時に足場が襖に代わる。
あ、やっべ。小さく口の中でそう溢した志岐が、無惨諸とも地へ落ちていく。
救援に駆け付けた炭次郎、煉獄杏寿郎、胡蝶カナエの叫び声が聞こえる中──。
「コイツは俺がぶっ殺すから、早く迎えに来いよ! なる早でッ!」
襖が閉じるまでの間、笑顔で手を振るのだった。
1
オウ マイ ファッキンゴォォッド!
あと少しで殺し尽くせたのに、あの根暗陰湿パワハラヒッキーめ! 最後の最後で爆発四散って、お前バカだろっ!
これまで奴の血を華麗に回避しながら戦ってたのに、至近距離からノーアクションで自爆されたおかげでメッチャ血を被っちまったし!
上弦も壱と参以外皆殺しにして、あとちょっとで奴の体を細切れに出来たというところで血が目に入り、体に異変。
このまま鬼になって皆に迷惑掛けるくらいならと自刃したから、復活してないと思うけど……もし生き返ってたらゴメンネ!
「あううー」
そろそろ回想に浸らないで現実を見るか……。
俺の名は神薙志岐、転生者。なんやかんやあって気付けば【鬼滅の刃】に転生していて、なんやかんや頑張って鬼狩りをしていた。
神様と邂逅した記憶はないけどボディはチート級で、全ての呼吸に適正があり、一度見ただけで技を模倣できるという特技まで付いてきた。
おかげで入隊僅か一ヶ月で下弦を五十匹ほど倒してしまい、お館様から柱の打診が。そんなの面倒だからヤダーと断り、柱より一つ下の甲で頑張ってきた。
俺の知る原作フラグを何とかへし折りつつ、でも竈門一家は守れなかったと悔やみながらカナエさんとイチャイチャして、時おり鬼どもを鏖殺して過ごしていると、あの日を迎えた。
そう、鬼舞辻無惨とのエンカウントだ。
激闘の末になんやかんや下弦はすべて始末して、上弦も壱の兄上と、参の卑怯者ー! 以外滅殺。
肝心の無惨もなます斬り一歩手前まで追い込んだのだが、まさかのあべしっ! を食らう。
今思うと「俺って現代の緑壱じゃね?」と調子に乗っていたのが悪かったのだろう。透き通る世界は体得していなかったが、脳と心臓の気配が二つ生き残っていたから打倒無惨は失敗に終わった。
鬼になるくらいならと自刃を選んだのは、我ながら偉いと思う。え? 死に対する恐怖? そんなのとっくに麻痺してるわ。
惜しむらくはカナエたちを置いていくことか。カナエのフラグ回収の時に童磨はぶっ殺しておいたから大丈夫だとは思うが。
彼女ともっとイチャイチャしてしのぶに怒られたかった、と無念を抱きながら「これが死か」と、いつもスレスレのところまで来ていた死を受け入れ──気が付けば赤ん坊ですよ。
「あぶぶー」
「よしよし……」
生後何か月なのか分からないが、メッチャ小さなお手てをしている。
一応首はすわってるようだが、まだ立ち上がれない。
そんな俺を優しく抱き上げあやしてくれるのは、恐らく今世でのマイマザー。深紅の着物を着た美人さんだ。カナエに惚れてなかったら一目惚れするレベルだったね。
「……」
そんな美女の隣には作務衣を来た一人の男性。切れ長の目をした白髪の美青年で、どこか無機質な目でジッと見つめて来る。
恐らくこの人がマイダディか。チッ、イケメンめ。こんな美女と結婚して羨ましい!
百パーセントの敵愾心を宿した目でダディを睨みつけながら、小っちゃなお手てを握り締めてシュッシュッと拳を繰り出す。まあ当然届かないけど。
あ、お母様、揺するの止めて。パンチし辛い。ちょっと、お母様?
「……志岐」
子守唄を歌いそうな雰囲気を醸し出しながらあやすのを止めないマイマザーの隣で、無表情のままダディは言う。
「お前の名は、七夜志岐だ」
前世と同じ名前なのは感謝してやろう。
どの程度、月姫について知っていますか?
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無印、リメイクともにプレイ済み
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無印のみプレイ済
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リメイクのみプレイ済
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未プレイだけど設定・世界観は知ってる
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まったく知らない