バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカの三か月

 遠野家の居候となってから三ヶ月。早くもこの家の生活にも慣れて来た。

 今年も最後の十ニ月なのだが、パパ上たちの計らいで近場の高校に通うことが決まっており、翡翠ちゃんや琥珀ちゃんに勉強を教えて貰いながら学校生活に向けた準備を進めている。

 秋葉ちゃんも学校から帰ってくると勉強を見てくれる。自分も当主としての仕事もあるのに。素直にありがたい。

 

 この三ヶ月で皆の為人も大分、分かってきた。

 秋葉ちゃんは一見するとツンツンしていて冷たい印象があるのだが、結構俺のことを気に掛けてくれているようで。

 琥珀ちゃんの話によると秋葉ちゃんが通う学校は全寮制なのに、わざわざ自宅から通うのは俺が心配だからみたい。

 ちなみに本人にこのことについて直撃してみたら「兄さんをお父上から託されている以上、私の預かり知らぬところで死なれてしまっても困りますから」とクールに返していたけど。圏聴で捉えた秋葉ちゃんの心音が若干早まったのを俺は知っている。

 すごーく遠回しな上に分かりにくいけど、秋葉ちゃんはツンツンデレなのだ。何それ、見方変わるし萌えるということで、俺の中の秋葉ちゃん像はすっかりお兄ちゃんっ娘になりました。

 

 秋葉ちゃんの専属メイドである琥珀ちゃんは、印象に違わず朗らかで笑顔の絶えないお姉さんキャラ。

 何かと気に掛けてくれて、専属メイドの翡翠ちゃんが嫉妬してしまう程あれこれと世話を焼いてくれる。俺の一つ下とは思えない包容力は何だろうね。

 また琥珀ちゃんは【琥珀流箒術】という杖術のような何かの使い手だ。その名の通り我流なのだが、意外と侮れない。特に間合いの詰め方がえげつなく、箒で床を掃きながら高速で迫るというね。どこのレレレさん?

 間合いを重視する武術家にとってこれほど恐ろしいものはないだろう。

 

 琥珀ちゃんの主な業務は屋敷の財務管理に庭の手入れ、そして料理らしい。

 琥珀ちゃんの料理スキルは凄まじく、和洋中の他イタリアやスペイン料理など大抵のものは作れるらしく、そのクオリティもまさに一流で。

 高級レストランで提供出来るレベルの料理の数々に、この三ヶ月で俺の胃袋は完全に掌握されてしまった。

 もはや庶民向けのレストランでは俺の舌は満足出来ないだろう。

 

 そんなパーフェクト和服メイドな琥珀ちゃんだが、可愛らしい弱点が二点ほど存在する。

 まず一つは、一部の機械に嫌われている体質。

 掃除機で掃除をしようとすると必ずエンストを起こして使えなくなり、パソコンを起動しようものなら最初のロゴすら表示されなくなる。おかげで掃除は箒やハタキなど、機械に頼らず済ませなければならないらしい。

 ちなみに調理場にある電子レンジ、電子ジャー、IHクッキングヒーターなどはちゃんと使えるとのこと。

 あれか、調理器具がコックに逆らうな! 的なやつで調理器具組は服従したんですかね? 

 

 

 

 そして、我が麗しの専属メイドこと翡翠ちゃんだが。

 なんか精神的な爆弾を抱えてる気配がビンビンに伝わってくるんですけど、なんで? 俺まだ何もしてないよ? 

 

 真顔がデフォルトで必要最低限のことしか話さないくらい無口だけど、冗談を言えばちゃんと乗ってくれるし、反応もしてくれる。

 礼儀正しく慎み深く、冷静かつ的確に仕事を行う姿はまさしくメイドの鑑とも言えるし、自分が言うべきと思ったことはしっかり発言するから、控えめな性格に反して意外と芯の強い部分も垣間見える。

 俺が喉乾いたなと思った瞬間にはお茶を出してくれるほど気配りに長けているし、仕事振りも完璧で非の打ち所がないのだが。

 時折、思い詰めた表情でこちらを見るのは何!? 

 

 俺が現役鬼殺隊だった頃も、取り返しのつかない失態などをやらかした隊員がよく思い詰めた表情を浮かべていたけど、翡翠ちゃんもまさにそのような顔を時折見せる。

 俺に対して後ろめたいことがあるのだろうか、とこれまでのことを振り返るが当然心当たりはなく。

 それとなく本人にヒアリングしてみるも「そのような事、特には」と暖簾に腕押し。

 琥珀ちゃんや秋葉ちゃんは何か事情を知っているみたいなのだが、毎回はぐらかされてしまうし。

 

 何ですか! 俺だけ仲間外れですか!? 

 もうカウンセラー呼んであげて下さい! 翡翠ちゃんの方が心配だよ俺は! 

 

 勝手に激怒した俺は、時々カウンセラーごっこと称して翡翠ちゃんのカウンセリングを行っています。

 現役鬼殺隊だった頃はよく俺に相談しに来たからな! 

 恋愛相談とか俺がしたいわっ! 

 

 

 

 さて、記憶を取り戻すために遠野家に居候することになった俺だが、俺の海馬は相変わらずうんともすんとも言わない。

 善意で衣食住を用意してもらってるのに脳が疼く気配もなく、タダ飯食らっているのはあまりに無作法だと。

 心の中の黒死牟に言われた俺は少しでも恩を返すために、秋葉ちゃんたちに呼吸法を教えてみました。

 極限体術使いの七夜じゃないから型は覚えなくてもいいけど、全集中の呼吸が使えるだけで大分生活が楽になるしな。

 それに秋葉ちゃんたちは美人さんだから暴漢に襲われる可能性は十分にある。護身という意味でも覚えておいて損はないだろう。

 えっ? じゃあなんで型は教えないって? だって武器ないじゃん。呼吸は武器を使うことを前提にしてるから。

 

 秋葉ちゃんと翡翠ちゃんは炎、琥珀ちゃんは水の呼吸の適性があった。

 秋葉ちゃんはあまり訓練をする時間がないが、それでも上達は目を見張るものがある。

 翡翠ちゃんと琥珀ちゃんも中々上達速度が速く、一番小さな瓢箪なら割れるくらいには実力がついた。

 訓練開始してからたったの三か月だよ。才能の塊か。

 

 そうそう、俺も少しだけ戦闘力が戻り、呼吸を使えば十分は戦えるようになった。うん、あの消費体力と酸素量がクソ激しい七夜式体術で。

 常中はまだ体得出来ていないが、瓢箪も一番大きいサイズのものを割れるようになったし、経験からもうすぐだと思う。常中を体得すれば戦闘時間ももっと伸びるだろう。

 

 もちろん日常生活を送る上では体力的にも問題なく、後遺症の方も今のところ呼吸でコントロール出来ている。

 と、いうことで。

 学校に通えるだけの土台が出来たため、いよいよ今日から登校だ! 

 

 

 

 1

 

 

 

 時刻は朝の七時。

 学ランに着替えた俺は入念に髪型をチェックし、翡翠ちゃんからイイネサインをもらったことでようやく居間に降りた。

 居間にはセーラー服に身を包んだ秋葉ちゃんが優雅に紅茶を飲んでおり、俺の到着を待っていた。

 

「おはようございます兄さん。……今日から登校ですね。どうですか、制服に袖を通した感想は」

 

「おはよう秋葉。何だか服に着せられてる感が強いかな。首元が苦しい」

 

 前世含めて学ランを着るのはこれが初めてだが、第一ボタンを締めると首元がメッチャきつい。

 正直外したいのだが、作法や礼儀にうるさい秋葉ちゃんに咎められるのは目に見えているため、家にいる時は我慢しよう。

 ちなみに秋葉ちゃんだけ呼び捨てなのは、本人たってのお願いである。

 ちゃん付けで呼びたいからと一度断ったのだが、ジャックナイフを彷彿とさせる眼差しに負けて泣く泣く呼び捨てに。でも何だか悔しいから心の中ではちゃん付けで呼んでます。

 

「おはようございます志岐さん。本日は志岐さんの大好きなスクランブルエッグですよ~」

 

「おはよう琥珀ちゃん。相変わらず美味そうだなぁ」

 

 朝はもっぱらパン派の俺。卵料理が好きなのだが、特にスクランブルエッグが大好物だ。

 トーストに乗せた絶妙な甘さの卵にケチャップをこれでもかと掛けたスクランブルエッグトースト。

 ケチャップの酸味とスクランブルエッグの甘味。そして、口一杯に広がるふわふわ食感がもうたまらない! 

 スクランブルエッグなんて適当に箸で掻き回せばいいものだと思っていたが、琥珀ちゃんが作るふわふわ感や絶妙な甘味はどうやっても再現できないんだよな。

 

「ん! やっぱ琥珀ちゃんの作るスクランブルエッグは最高だな!」

 

「ふふっ、恐れ入ります♪」

 

「……兄さん、もう少し落ち着いて食べれないのですか? ああ、もう。また溢して」

 

 秋葉ちゃんから呆れた目を向けられるが、スクランブルエッグトーストは大口を開けてかぶりつくのが最高なのですよ。

 

「むぐむぐ……ん、ありがとう翡翠ちゃん」

 

 トーストからこぼれ落ちた卵を拾って食べていると、翡翠ちゃんが口元を優しく拭いてくれた。

 至れり尽くせりだ。気分は貴族様やな! ガハハハハハっ! 

 

「ご馳走さま。私は先に行きますが、くれぐれも遅刻なんてしないように」

 

「ん! 行ってらー」

 

「はぁ……琥珀、車の準備を」

 

「かしこまりました」

 

 秋葉ちゃんが通う学校は浅上女学院という全寮制のお嬢様学校なのだが『大好きなお兄ちゃんのことが心配だから、秋葉も家から通うの!』というブラコン秋葉降臨によりわさわざ家から通っている。

 ん? ツンツンデレの秋葉ちゃんがそんなこと言うわけがない? 当然じゃないか。ブラコン秋葉ちゃんは俺の脳内にのみ生息する妹妖精なんだから。

 本物の秋葉ちゃんがそんなこと言ったら、一もニもなく成り済ましを疑うね。

 

「ご馳走さまでした、と。さて、俺もそろそろ行くかな」

 

「……本当にお車のご用意をしなくてよろしいのですか?」

 

「大丈夫大丈夫。学校までの道のりは覚えたんだし、送迎は大袈裟だよ」

 

 この世界でも普通自動車の免許は十八歳になってからじゃないと取れないのだが、何故か十六歳の琥珀ちゃんたちは運転を許されている。

 というのも、例外的に満十六歳から免許を修得できるように条例が可決。その条件は小難しい単語が並んでいてよく分からなかったが、世間的にはこれに該当するのはまずないとのこと。

 それに該当してるっぽいメイドさんたちは何なんでしょうかね……? 

 

 ということで、俺より年下なのに車の免許を持ってる琥珀ちゃんは、毎日秋葉ちゃんを学校まで送り迎えしていた。

 当然、俺も翡翠ちゃんに送迎される方向で話が進んでいたのだが、それに待ったを掛けたのは他でもない俺自身。

 秋葉ちゃんのようなお嬢様学校ならまだしも、俺が通うところは普通の公立学校よ。そんな所にリムジンのような高級車で送り迎えされてみろ。絶対悪い意味で注目を浴びるわ。

 なので翡翠ちゃんには申し訳ないけど、学校には普通に電車で通うことにしてる。

 秋葉ちゃん? メッチャ反対されたけど、電車が好きなんだとその場凌ぎで言ったら、溜め息とともに渋々了承してくれたよ。なんだかんだで俺に甘いよね。

 

「じゃ、行ってくる!」

 

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

 

 正門まで見送りに来てくれた翡翠ちゃんに手を振り、駅に向かって駆け出した俺。

 中学をすっ飛ばしての高校生活。友達百人とは言わないけど、気の良い親友を二人は作りたいなと考えながら、これから始まる学校生活に胸を躍らせた。

 

 ──まさかその初日から、人生で一番のターニングポイントとなる出会いが待ち受けているとは、知りもしないで。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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