バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカの幼馴染み

「あ、来たっ! 志岐ちゃぁぁぁぁぁんっ!」

 

 事前にグー〇ルマップで確認した通り迷うことなく学校に到着すると、正門前で仁王立ちしていた人の顔がパアッと花咲いた。

 まるで遅刻した人を竹刀でしばく鬼の体育教師の如き出で立ちなのに、その背に見えるスタンドはポメラニアンなんよ。

 間違いなく美人と呼ばれる部類のその人は、ギョッとした顔で振り返る生徒たちの間を縫うように走り、俺に抱きついて来た。

 

「ちょっ、梓姉! みんな見てるから!」

 

 豊満なオパーイの感触を顔全体で楽しみつつ「みんな見てるから変なことしないでよね!」的なムーヴをしておく。

 ほら、噂って光の速度で伝わるじゃん。ここで本心のままに「デヘヘ! オパーイ気持ちいい!」なんて言ってみろ。俺の薔薇色の学校生活がドブ色に変わっちまう。

 

「もう! 相変わらず志岐ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから。もっとお姉ちゃんに甘えてもいいんだよ?」

 

「うん、嬉しいけど遠慮しておく」

 

 本当に、大変遺憾ながら、遠慮しておく。

 姉を自称するこの女性は俺の幼馴染みの一人、七夜梓。

 パパ上がよこしたお目付け役で、叔父の娘の一人。俺からすると従姉に該当する。まあ仕方ないよね。パパ上たちからすると気が気でないだろうし。

 七夜にしては珍しく運動音痴の塊で、戦闘訓練を行うと身体能力が高い分、毎回ミラクルな結果を引き起こす。

 刀を振ると何故か自分の着物をズタズタに切り裂き、鎖鎌を使うとターゲットから大きく逸れた分銅が自分に巻き付く。

 彼女の訓練を勤める大人は毎回戦々恐々としていると聞いたことがある。

 

「志岐ちゃんは私のクラスだから、このまま一緒に行こうね!」

 

「もう子供じゃないんですけど!?」

 

 そんな彼女に幼少の頃から面倒を見て貰って──いや、俺の方が面倒を見ていた?──ため、親しみを込めて梓姉と呼んでいるのだが、なんと俺が通う高校の教員なのだ。

 しかも今の発言からすると梓姉のクラスみたいだし。

 

 手を繋いで一緒に玄関へ向かう梓姉。

 登校中の生徒たちの視線がグサグサ突き刺さる中、鼻歌を歌うほどご機嫌な梓姉だったが、それもすぐに不機嫌になる。

 

「君が志岐くんね」

 

 振り返ると梓姉より年上のお姉さんが。二十代半ばくらいかな?

 栗色の髪を右サイドに流した可愛らしい顔立ちの先生だ。

 つかつかと歩み寄って来たその人は至近距離で俺の顔をジロジロ見てくる。

 

「ふーん、結構可愛いじゃない。七夜先生が自慢するだけはあるかな」

 

「ちょっとノエル先生! うちの志岐ちゃんを誑かさないでくださいっ!」

 

 腕を引き寄せた梓姉に抱き締められる。豊満なオパーイに再び顔を埋める形になり、幸せな気分が押し寄せてくるが、人がいるから我慢だ。

 ていうか梓姉、俺の自慢してたの? なんて言ってたのかすごく気になる。余計なことを言ってないか的な意味で。

 

「あはは。怖いお姉さんがいることだし、先生は退散しまーす。また会いましょう、七夜志岐くん」

 

 ヒラヒラと手を振って去っていくノエル先生。

 暫くの間、警戒した獣のように俺の側を離れない梓姉であった。

 

 

 

「呼んだら入ってくるんだよ」と言い、教室の中へ消えて行くのを見送った俺はクラスプレートを見上げる。

 

「2-Cか」

 

 さて、梓姉が高校教師をしているのは俺も聞いていたが、果たしてあの人にまともな教員が勤まるのか甚だ疑問だった。

 あの人は子供っぽいというか、感情を表に出し過ぎな嫌いがあるからなぁ。

 大切に取っておいたどら焼を食べてしまった時なんか、丸一日不機嫌だったし。その機嫌の損ね方もガチじゃなくて、「つーん」って自分で言ってしまうような感じで。

 小学生と本気で喧嘩が出来るような人に果たして教師が勤まるのかと、すごい疑問だったが。

 

「結構慕われてるっぽいな」

 

 すれ違う生徒たちは皆、笑顔で挨拶してきたし。なんならお手々を繋いでる俺を見て一緒にからかって来るし。

 生徒と距離感が近いのはポイント高いのかも。

 

『それじゃあ、編入生を紹介するね! 志岐ちゃーん!』

 

「ちゃん呼びかい……締まらないなぁ」

 

 梓姉の合図に従い扉を開けようとする俺だが、ふとある考えが脳裏を過った。

 人は見た目九割と言われているが、第一印象による印象付けも大切だ。無難な挨拶では無難な高校生活に終わってしまう。

 

 インパクト……そう、インパクトが必要だ。

 それも只のインパクトじゃない。十年、二十年経った後も記憶に根強く残るような、強烈なインパクトが必要なのだ……! 

 

『あれ? 聞こえてないのかな……志岐ちゃん、おーい! 出てきて~!』

 

 周囲を見回す。側に窓ガラスがあるな……よし、コンセプトは決まった。念のため扉の隙間からクラスの中を確認し、目当ての場所をチェック。クリア! 

 この七夜志岐! 生半可な自己紹介で終わらせはせんぞっ! 

 

「シィィィィィ……」

 

 足の筋肉繊維や血管の一本まで意識し、まさに雷の速度で窓辺に駆け寄った俺は、徐に窓を開け放つと飛び越え、外壁の僅かな窪みを伝って壁を走る! 

 まるで稲妻が奔るかのように壁を駆け、あっという間に反対側の場所──つまりは2-Cの窓側へ回り込んだ俺は、皆が教室の扉側に注目しているのを確認。

 誰一人として窓の方を見ていないことを悟った俺は、鍵の掛かっていない窓から教室の中へ侵入した! 

 

「ドアの方を見た諸君、残念だったな。そこに私は居ない。──とぅッ!」

 

 窓のサッシに足を掛けた俺はそのまま大きく跳躍。

 我ながら無駄に華麗な無駄のある五回転半捻りを披露し、教壇の前に着地した。

 一様にポカンとした顔のクラスメイトたち。

 フッフッフ、俺の目論みは見事成功したようだな! 

 

「俺の名は七夜志岐。何処にでもいる普通の男子ですが、どうぞヨロピク」

 

 

 

 面白い奴という印象を植え付けることに成功した俺は、多くのクラスメイトたちに囲まれ質問攻めの嵐にあった。

「どうやって窓から入ったの!?」とか「七夜先生の弟って本当?」とか「七夜くんって婚約者がいるって聞いたけど本当なの?」とか。

 俺は誠実を売りにしてるからね、聞かれた質問にはすべて答えたさ。正直者の志岐くんと呼びなさい。

 

「えっ! 七夜くん遠野邸で暮らしてるの?」

 

 梓姉から散々、弟の自慢話(志岐ちゃん話)を聞かされていた女子生徒たちが、答え合わせをするように色々なジャンルの質問を投げ掛けて来るのだが。

 事故の後遺症で失った記憶を取り戻すため、既知の間柄であった遠野家にお邪魔している旨の話を肯定すると、隣の席の『弓塚さつき』ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。

 

「遠野って総倻区の地主だよね? あのおっきなお屋敷の」

 

「何年か前に当主が亡くなって、今は娘さんが遠野の跡を継いだんだよな。新聞の一面に載ってたのを今でも覚えてるわ」

 

「七夜くんのご実家も華族なんだってね! 七夜先生が言ってたよ!」

 

 遠野という名前はこの辺りでは相当力を持つらしい。

 玉の輿じゃーん! と良く分からない騒ぎ方をする女子たちに紛れ、さつきちゃんはどこかボーッとしている。

 

「そっか……七夜くん、遠野のお屋敷で暮らしてるんだ……」

 

 ねえ、それそこまで重要なの? 

 

 

 

 1

 

 

 

 その後、つつがなく授業が終わり。

 初日から仲良くなった男子たちと一緒に帰宅しようと話し合っていると、ホームルームを終えて教室から捌けた梓姉が爆速で戻ってきた。

 片手に鞄を手にしながら。

 

「よーし、志岐ちゃん帰ろっ! みんなも早く帰るのよ~」

 

「えっ? 梓姉、帰るの早くね?」

 

 教員の定時は五時でしょ? 一時間、ズレてるんですけど? 

 

「今日はお姉ちゃん早上がりなんだ。志岐ちゃんと一緒に帰るために、前々から予定を組んでたんだよ」

 

 どう、凄いでしょ! とでも言いたげなドヤ顔を披露する梓姉に、周りのクラスメイトたちは「先生ならやりかねない」と揃って苦笑する。

 うん、俺もそう思った。

 

 梓姉と強引に腕を組まされた俺は、そのままドナドナされ。

 気がつけば梓姉が暮らすマンションだ。

 

「梓姉、此処に住んでんの?」

 

「ふふーん! どう凄いでしょ」

 

 梓姉が暮らしている家は、駅から徒歩十分の距離にある都内の三十階建てタワーマンション。

 円形の形をしており、見るからに高そうなマンションだ。このマンションの存在は俺も知っていたが、まさか身内が暮らしてるとは思わなかったよオイ。

 ていうか、よくこんな場所賃貸とはいえ借りれたな。えっ、購入済み? ヤダ、うちの一族思っていたより大金持ち……? 

 

 でも、前々からこのマンションは気になっていたため、これから心置きなく寄れると思うと心踊る! 

 ほら、実家は思いっきり日本家屋だし、遠野邸は洋館じゃん。近代的な洋室に暮らしてみたいと一度は思ったんだよね。

 まあ、流石に梓姉の家で暮らす訳にはいかないけど、遊びに行くことは可能だ。本人も目を輝かせていることだし、これからはちょくちょく遊びに来るとしよう。

 二十階からの絶景を楽しみながら、そんなことを考えていると──。

 

「志岐ちゃぁん、もっとかまってよぉぉぉ! お姉ちゃん寂しいよぉぉぉぉぉっ!」

 

「はいはい、志岐ちゃんが参りますよっと」

 

 缶チューハイで既に出来上がっている姉貴分の介護に戻る。ほろ○いで酔うとか、梓姉ってアルコール弱かったっけ? 

 生粋の暗殺者である七夜は意外と生存を重視しており、確実にターゲットを始末するのはもちろん、生きて帰るためあらゆる生存戦略が練られる。

 任務も基本的にスリーマンセルだし、救命道具は必ず持参するらしいし。

 その延長線で毒にも強くなければならないということで、七夜の人間は遺伝子的に毒への耐性が強く、アルコールも当然イケる質なのだが。

 姉さんは、本当に七夜に向いていない体質の持ち主だなぁ。

 

「志岐ちゃーん、お酒がからっぽらよー! 早く次のホロ酔いをけんじょーするのら~!」

 

「うぉ、酒くっせ!」

 

 アッパーなテンションの梓姉がのし掛かってウザ絡みしてくる。

 口からアルコール特有の臭いが伝わってきて、思わずそんな言葉を秒で返してしまった。

 

「こりゃぁ~! 乙女に向かってくちゃいとはなんらー! おねーちゃんはそんにゃ子に育てた覚えは、ありましぇえええんッ!」

 

「奇遇だな梓姉、俺もそんな記憶は持ち合わせてはござらん。ていうか、オパーイ気持ちえぇ……」

 

 着物を来ている時は分かりにくいが、梓姉は着痩せするタイプでバストは驚異の百センチ。それでいて腰は括れお尻も肉付きの良い安産型。

 まさにグラビアモデル並みのスタイルを維持しているのに、本人はこれといって意識していることはないというね。全国の女性が聞いたら間違いなく暴動が起きるレベルだわ。

 俺はこれを、黄金律(EX)と名付けた。ちなみに秋葉ちゃんも黄金律(EX)の持ち主だ。違い? 言わせんなよ……俺はまだ死にたくない。

 

「あぁー! 志岐ちゃんえっちな顔してりゅぅ~! いけないんだー、義姉ちゃんのことそんな目で見ちゃってー。氷雨ちゃんに言いつけちゃおっかなぁ~?」

 

「それだけは止めてください死んでしまいます」

 

 それは、レギュレーション違反でしょうが……ッ! 

 でも、生殺与奪の権利を握られている俺には到底強く言える訳がなく。

 酒のツマミを用意してご機嫌取りをするのだった。

 氷雨ちゃん? 梓姉の妹にして俺の幼馴染みその二だよ。

 詳しくは待て、しかして希望せよ。

 

 

 

 2

 

 

 

「でも、志岐ちゃんも気を付けないとダメだよぉ~。近頃の総耶は物騒なんだからー」

 

「ん? なんかあったっけ?」

 

 時刻は夜の七時を回ったところ。

 そろそろお暇しようと帰り支度をしていると、梓姉から唐突にそんな発言が。

 あ、翡翠ちゃんには連絡済みなので大丈夫っす。門限の八時にも間に合いそうだし。

 

「連続殺人が起こってるって話しらないの~? 深夜のとーりまりょーきじけーん」

 

「あー、そういえばニュースでやってたね」

 

 連続猟奇殺人事件。被害者の多くは若い女の人で、二日前に発見された遺体で八人目。被害者は皆、体内の血液が著しく欠乏しているらしい。

 損傷具合も個人差があり、傷が全くないのもあれば、損傷が激しいタイプもあるとのこと。

 現代の吸血鬼が現れたのかもしれません、と深刻な顔でコメンテーターが話していたのを覚えている。

 

「でも、心配するのは通り魔の方じゃね? 俺、七夜ぞ?」

 

「あはははは! それもそうだねっ! やだ、めっちゃウケる……っ」

 

 ただの人間だったら普通に返り討ち。仮に本当に吸血鬼だった場合は特効クリティカルが発生してさらに悲惨なことに。

 十分という制限時間付きだが、正直、暗殺に五秒も要らないし。正面から切り合ったとしても一分で十分だろう。

 

 まあ、それでも物事に絶対はないからな。勝負は時の運なのは俺も身に染みて分かっているし。慢心ダメ絶対。

 明日も来てぇ~! とウザ絡みをする姉貴分を言いくるめて部屋を出た俺は、静音高速エレベーターで一階に降り。

 

 マンションのエントランスホールで、その女の人を見掛けた瞬間。

 

「――」

 

 俺の中のすべてが、凍り付いた――。

 

 

 

 ――ドクン。

 

 

 

 首元まで伸びた金色のショートボブ。

 血を彷彿とさせる緋色の瞳。

 純白のタートルネックに濃紫のスカート。

 黒のストッキングに包まれた長い脚。 

 まるで人知及ばぬ霊峰を思わせる穢れのないシルエット。

 床を叩くロングブーツの音が、規則正しく刻まれる。

 

 

 

 ――ドクン。

 

 

 

 脈拍が跳ね上がる。

 静脈と動脈が活性化する。

 呼吸が止まり血中の酸素が口から霧散する。

 神経が次々と溶解し、脊髄が破裂する幻覚を見る。

 

 

 

 ――ドクン。

 

 

 

 どれだけ見惚れていたことだろう。

 自然と脚が止まっていたことに気づき、思い出したように呼吸を再開する。

 初めての感覚――いや、この感じは覚えがある。

 そう、確かあれは――。

 

「……?」

 

「あ――」

 

 その緋色の瞳と視線が合わさった瞬間――。

 

 頭の中が、真っ白に染まった――。




 お待たせしました、元祖ヒロインの登場です。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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