バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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 メリークルシミマス。


バカの初恋

 女の人と視線が合ったのは一瞬で、すぐに興味がなさそうに切らすと俺の横を通ってエレベーターに乗った。

 エレベーターランプが一つ一つ上昇するのを、ただ黙って見守りながら、女の人の様子を思い出す。

 

 俺に関心がないようだったが、そんなことあり得るだろうか? 

 アレはそんなタマではない。だが事実として俺の視線を黙殺していた。こんなにも激情を向けているというのに。

 

 なにかの後か。うん、なにかの後だ。恐らく消耗している。それも酷く。出し切っている。枯渇している。

 だからこそ機会がある。うん、これは願ってもないチャンスだ。俺がこんなにも恋焦がれるのは。

 確実に、彼女を■せるから。■しきれるから。その確信が俺にはある。

 

 エレベーターは最上階で止まった。

 一階の共有ポストを調べる。

 最上階のポストは一つ。そのうちの五つは表札がない。

 たった一つ。カタカナで書かれたそれに触れて、背筋が泡立った。

 

 エレベーターに乗った途端、あまりの気配にぞくりと来た。女の人の残滓に、口元が吊り上がる。

 ワクワクする。こんなに心が躍るのは、いつぶりか。

 鞄から取り出した得物をポケットに忍ばせる。

 指先に伝わる鉄の手触り。なんて幸運、今朝の俺を褒めてやりたい。

 

 ランプが最上階に近づいていく。

 狭い密室の中でポケットの中の得物を握り締める。

 すぐそばに、あの女の人がいる。

 あともう少しで、彼女を■■できる。

 あぁ、そう考えるだけで絶頂すら覚えそうだ。

 

 エレベーターから出る。最上階の廊下に人影はない。

 ますます好都合だ。

 あぁ、早く──早く、ヤリタイ。

 

 彼女の部屋──三号室の前に来た。

 ここで間違いない。表札には彼女の名前が刻まれている。

 呼び鈴を鳴らそうとして、止める。

 そうだ、準備をしないと──。

 

 ポケットから得物──飛び出しナイフを取り出し、正面から見えないように逆手で腕の延長線上に隠す。

 普段から曖昧にしている瞳のピントを合わせ、視界に映るソレらを直視する。

 頭が痛み出すが、問題ない。

 これから行うことに比べれば、すべては些事だ。

 

 すべての準備を整え、チャイムを押した。

 

「はい──」

 

 扉越しに聞こえる声。かすかにドアが開く。

 瞬間、そのわずかな隙間から部屋の中に滑り込んだ。

 

「え──」

 

 女の人の声が上がる──否、上がろうとした。

 女の人の声が上がりきることは永遠にない。

 その前に、俺は彼女をバラしていたのだから。

 

 ドアから中に入った瞬間。

 一秒も掛けず、女の人の体中に走っていた線をナイフでなぞった。

 女の人の体にある計十七本の黒い線。それらすべてを素早く、焦がれるほどの激情を込めて。

 刺し、切り、通し、走らせ、ざっくざっくに切断し。

 丁寧に丁寧にナイフを走らせ。

 

 彼女を、十七個の肉片に【解体】した。

 

 

 

 1

 

 

 

「──は?」

 

 目の前の光景に思わずそんな声が漏れた。

 大理石の床には赤い池が広がっており、むせかえる血の臭いが鼻孔をくすぐる。

 切断面はとてもキレイで、臓物はこぼれていない。

 ただ、手頃のサイズとなった肉片が足元に転がっているだけだ。

 

 ……。

 

 よく見たら、さっき見かけた女の人だった。

 

「うぉおおおおおおお!? ヤっちまった! ヤっちまったよ俺! えっなんで!?」

 

 いや覚えてるよ!? 自分でヤったの覚えてるけど、なんか現実味がないと言うか夢心地な感じがして、他人事のように成り行きに身を任せていたけどさぁ! 

 でも、いくらなんでも殺人衝動はないでしょうよ! 超サイコパスなキャラじゃんか俺! いやだぁああああ、認めたくないいいいい! 

 なによりも一番ショックなのは、なんの罪もない一般人を殺害しておいて罪悪感を微塵も感じない俺の精神性だよ! 

 ごめんなさいって言いたいけど、上辺だけの言葉なのを俺が一番よく分かってるから、言っても虚しくなるだけだし! 

 

「待て、落ち着け俺! とにかく落ち着くんだっ!」

 

 認めたくないけど、殺してしまったのは仕方ない。幸いなことに室内で犯行に及んだから目撃者はいないはず。

 下手に死体処理をすると絶対に足がつくから、ここは回れ右して今すぐ帰宅するんだ! 

 あ、でも思いっきり靴に血が掛かってる。それにこのレベルの血の臭いはそう簡単に落ちないぞ。

 

 秋葉ちゃんたちに気づかれる。

 警察呼ばれる。

 俺捕まる。

 

「その未来はあかんって!」

 

 早急に靴を買い替えて、シャワーを浴びなければ! 

 靴ってコンビニに売ってる? って、売ってるの見たことねぇよ! 

 駄目だ、まだ混乱している。落ち着け、落ち着くんだ俺! 

 そう、丁度そこにあるオパーイでも揉んで落ち着いて──。

 

「って、揉んでる場合かあああ! でも柔らかかったですありがとうございます!」

 

 ──ッ! しまった! ついそこにオパーイがあるから揉んでしまったけど、指紋がガッツリ付いたってことじゃないか! 

 

 これ以上此処にいると頭がおかしくなりそうだ。

 そうさ、品行方正な俺が殺人衝動なんて持ち合わせているはずがない。

 それもこんな別嬪さんを殺すなんて、ないないないない。

 そうさ、これは夢なんだ。夢は寝て見ないと。

 

「って、ことで帰ります。あの、明日あたりになったら良い感じに消えておいてくれると嬉しいです」

 

 それでは、お邪魔しましたぁ……。

 

 ……。

 

 最後の晩餐になりそうだから、琥珀ちゃんに頼んで御馳走を用意して貰おう……。

 

 

 

 1

 

 

 

 あの後、なんとか門限までに帰宅することが出来た。

 余程、酷い顔をしていたのだろう。出迎えてくれた翡翠ちゃんは「お加減が悪いのですか?」と心配され、琥珀ちゃんは「大丈夫ですか志岐さん!? お顔が真っ青ですよ!」と驚かれた。

 門限ギリギリになってしまったため、お怒りだった秋葉ちゃんだが「こんな時間になるまで何処をふらついて──大丈夫ですか兄さん?」とお説教を中断するほど酷いツラだったのだろう。

 きっと数日もすれば朝のニュースで報道され、警察が俺の元にやって来るに違いない。

 

「秋葉、今までありがとう。こんな頼りない俺を兄だと言ってくれて、嬉しかったよ」

 

「兄さん?」

 

「翡翠ちゃん。俺なんかのために色々尽くしてくれてありがとう。いつも助かってるよ。メイド万歳」

 

「……志岐様?」

 

「琥珀ちゃんの明るさにはすごく元気を貰ったな。いつも、美味しい料理を作ってくれてありがとう。メイド万歳」

 

「志岐さん、なんで急に……」

 

 突然そんなことを言い出した俺に困惑した表情を浮かべる秋葉ちゃんたち。

 精一杯の笑顔を浮かべた俺は、何も言わずに部屋へと戻り。

 その日は夕食も取らずにぐっすりと寝た。

 

 

 

「兄さん! 昨夜のあれは何だったのですか、しっかり説明してください!」

 

「いやーめんごめんご。俺も何であんなこと言ったのかさっぱりで。あれかな、寝ぼけてたのかな?」

 

 翌朝、昨夜のセリフについて詰問してくる秋葉ちゃんに無難な答えを返しながら、好物のスクランブルエッグトーストを頬張る。

 ナーバスになっていた理由を説明するわけにはいかないからな。許せ、秋葉ちゃん。

 翡翠ちゃんたちも朝からどこかソワソワしていたところを見るに、変な心配を掛けてしまったようだ。反省。

 

 朝のニュースでは懸念していた報道はされていない。まあ昨日の今日だし、最上階はあの女性以外住んでいないようだったから、発見までかなり遅れるかもしれない。

 昨夜、梓姉から強制的に持たされたスマホをチェックするが、梓姉からの連絡もない。事件が明るみになれば、同じマンションに暮らす梓姉が一番早く情報をキャッチすることだろう。

 

 ──正直にパパ上たちに話して、どうにかしてもらうか? 

 

 あ、いや。常々堅気には手を出すなって厳命していたから、証拠隠滅どころか切腹させられるかも。やはりどう考えても八方塞がりか……。

 

 ──殺ってしまった事実は覆しようがないんだし、こうなったらすべてを受け入れて来るべき時までこの生活を謳歌するしかない! 

 

 いつまでもウジウジと気にしていたら、折角琥珀ちゃんが作ってくれた飯が不味くなっちまう。

 

「ところで、秋葉は浅女に通ってるんだよね。お嬢様学校って本当にごきげんようって言うの?」

 

 あと、お姉さま呼ばわりするとか。

 俺の中でのお嬢様学校は漫画やアニメの世界の話だから、ベル〇イユのばら的な目をした女子が「お待ちになってお姉さま~」「オホホホ! 追いついてごらんなさ~い!」ってやってるシーンなんだよね。背景はもちろん薔薇ですよ薔薇。

 素直にそう伝えると、秋葉ちゃんは頭が痛いと言いたげに大きなため息をついた。

 

「確かにそういう子もいますが、全員が全員ではありません。まったく、漫画の見過ぎです。今後はそのあたりも規制する必要があるようですね」

 

「えー、いいじゃんかそのくらい。横暴だぞ横暴。でも、秋葉はお姉さまって呼ばれてそう」

 

「……随分と浅上女学院について興味がおありのようですね、兄さん? 男性には無縁の世界ですが」

 

 スッと目を細めて冷たい眼差しを向けてくる秋葉ちゃん。

 なんで急に不機嫌になるのか兄にはわからない。

 

「そりゃ興味あるさ。可愛い妹分が通ってる学校なんだし」

 

 身内――ではないけど、もはや身内同然の人が通ってるんだ。

 興味くらい湧いても可笑しくないでしょ。

 

「そ、そうでしたか。失礼しました。私はてっきり……」

 

 てっきり、他の生徒たちに興味を持ったかと? 興味を持っちゃいやん的なジェラシーですかな?

 そうだよねー。浅上女学院はその特性上、見目麗しい生徒やご令嬢が多いらしいしねー。

 生徒でなくても文化祭に入場できる【親族招待チケット】は、黄金の価値があるとも言われてるっぽいしねー。

 だーい好きなお兄様が他の人に見惚れちゃったら、ブラコン秋葉ちゃんとしては嬉しくないですもんねー。

 

 ナイスガイのイケメンお兄さんにキャーキャー言う女生徒たちを見ては「兄さんは秋葉の兄さんなの!」と俺の手を引いて遠ざかる秋葉ちゃん像が一瞬で構築された。

 俺ほどのシスコンになればこのくらいの妄想朝飯前だ。なにせ知らない間に妹が出来ていた人間だからな。お兄ちゃん力が違う。

 

 秋葉ちゃんをからかいながら朝食を楽しむ。

 いつの間にか昨夜のことは頭から抜け落ちていた。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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