バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカの玉砕

「ん……? んー?」

 

 ふと、彼女――アルクェイドの向こう側。十メートルほど後方に設けられた鉄柵に止まる、一羽の鴉が目についた。

 どこにでもいる普通の鴉だが、何だか様子がおかしい。ずっとこちらを見たまま固まって動かず、まるで鴉の形をした監視カメラのようだ。

 けど、群青色の鴉って初めて見るなー。

 

「――」

 

 俺の視線に釣られてアルクェイドも振り返る、丁度そのタイミングで。

 曲がり角から豹が、のそっと現れた。

 体長はおおよそ二メートルといったところか。カモシカのようにしなやかで強靭な四肢と、鉄骨のような太い首。

 動物園以外ではまず見かけない肉食獣が「普通にそこらに生息してますよ」的な何でもないような足取りで姿を現したのだ。

 

 ……。

 

「なんでチーター?」

 

 熊なら、まあわからんでもない。狼も、まあいいだろう。

 なんでチーターなんや? ていうかキミ、どっから来たん??

 

「……」

 

 都会に出没した豹を前に平然とした様子のアルクェイド。そりゃそうか、あなた吸血鬼だもんね。

 でも、豹が現れたというのにこれといった喧騒の音は聞こえない。どこかで脱走したのなら今頃騒がれていてもいいはずなのに。

 

「ねえ。アレ、あなたの知り合い?」

 

「いやー、チーターの知り合いはいないっすねぇ……」

 

 凶悪な爪と牙を携えたチーターは、五メートル先から俺とアルクェイドを凝視している。

 いつの間にか、青い鴉は姿を消していた。

 

 群青色の豹が地を駆ける。

 まるで飛ぶような速さで接近したソイツは、鋭利な牙を俺の首筋に突き立てようとして――。

 

「――おっと」

 

 反射的に背負い投げのような形で投げ飛ばした。

 背後の壁に着地した豹はすかさず反対側の壁へ跳躍。

 ピタッと壁に足が吸い付いたかのように静止すると、その眼光を再び俺にむけてくる。

 

 壁から跳躍してくる豹の軌道はまさに電光石火。並みの反射神経では反応することすら出来ずに絶命しただろうが――。

 

“炎の呼吸・七夜式――鉄地円環”

 

 ゴゥッと力強い呼吸音を響かせながら、アイドリングを掛けていた肉体に熱を入れ。

 食らいつこうと大口を開けている豹の横っ面に、回し蹴りのカウンターを叩きこんだ。

 弾かれたように吹き飛んだ豹は頭から壁に激突する。普通ならこれで頭蓋が割れて終わりなんだけど――。

 

「ですよねー。そんな気はしてましたとも」

 

 全くのノーダメージとでも言いたげに起き上がる。

 が、獲物である人間にあしらわれると思わなかったのか、群青色の豹は威嚇するようにうなり声を上げながら、慎重に距離を取った。

 

「へぇ、やるじゃない。ただの人間だとは思わなかったけど、アレを退かせるとはね」

 

「これでも攻撃力高めの盾なんでね。少しは実力を示さないとな」

 

 ポケットに戻していたサブウェポンを取り出す。

 撃鉄を起こすように刃を露にすると、順手で持ちながら半身で構えた。

 

「来な、次は殺すぜ?」

 

 ぼやけていた目の焦点を合わせると、豹の体表に幾筋もの黒い線が浮かび上がっているのを確認する。

 直死の魔眼モードをオンにしたままジリジリと間合いを詰めてくる奴の動きを観察していると――。

 

「――んん? おいおいマジかよ……」

 

 路地裏の入り口を示す鉄柵から、複数の人影が現れた。

 ビルとビルの隙間にあるこの路地裏へゆっくりとやって来るソイツらは、豹の姿が見えていないのか、歩みを止めようとしない。

 いや、それもそうだろう。

 ソレにまともな思考があるとは到底思えない。

 

「今日はよく人外と出会う日だなぁ……」

 

 燃えた人間。

 焼け落ちた目や真っ黒になった歯が並ぶ口から、ごうごうと黒煙を立ち上げ、焼け爛れ縮れた全身から赤い炎をチラつかせて。

 まるでダークソ〇ルを求める不死人のように、干からびた体を燃やしながら、ただ歩き続ける。

 ていうかゾンビやな。

 

「なにこれ、新種……?」

 

 アルクェイドは完全にそのバーニングゾンビに気を取られていた。

 三体の燃えるゾンビのうち、二体がアルクェイドに向かって手を伸ばす。

 そして、もう一体は俺の方へゆっくりと首を回し――その燃える眼窩が宙を舞った。

 

 はい、先手必勝ということで殺りました。

 切り飛ばしたゾンビの頭が、ぽーんと軽快に宙を行き。

 一気に戦況が加速する。

 

 チーターの跳躍。

 先ほどの速度を上回る突進で、まるでロケットのように一直線に突っ込んでくるチーターだが、一歩横にズレてすれすれで回避した俺は、擦れ違い様にナイフを振るい。

 線を五本ほど切っておいた。

 

 その隣では、アルクェイドの元へ歩み寄るバーニングゾンビの姿。

 雷の呼吸に切り替え、一気に加速しようとしたその時――。

 

 死を彷彿とさせる悪寒を感じ急制動……ッ!

 

 まさにそのタイミングで、アルクェイドの距離――すなわち三メートルの間合いに入ったゾンビたちが跡形もなく消し飛んだ。

 たったの腕の一振り。それだけで大気がうなりを上げ、風の呼吸の【塵旋風・削ぎ】のような結果をもたらしたのだ……!

 

「……もう。また無駄な体力を使っちゃったじゃない」

 

 やれやれと肩を落とすアルクェイド。

 

「さっきの、なに?」

 

「なにって、ただの死者でしょ? 敵の吸血鬼の使い魔よ。ちょっと珍しい……というか、初めて見るタイプだったけど」

 

「いやそっちじゃなくて、今の攻撃。あれってビンタだよね?」

 

「ビンタって失礼ね。まあビンタに等しいくらいの攻撃だけど」

 

 いやいやいやいや、地面がえぐれるほどのビンタってなによ?

 

「う……」

 

 不意にアルクェイドの顔が苦痛に歪む。

 

「……ちょっとまずい展開になってきたわね。今ので本当に空っぽになっちゃった。これは、本当に志岐の力を頼りにしないとダメかも」

 

「え、そうなの? 全然大丈夫そうに見えるけど」

 

 平然とした表情をしてるし、傍目からは全然大丈夫そうに見えるぞ。

 

「外側はね。でも中身がボロボロ。人間でいうなら生きているだけで精一杯って感じかしら」

 

 なら「今にも死にそうです!」ってサインを出してほしいです。

 

 

 

1

 

 

 

「うん、わりと良い部屋ね。ここなら一晩過ごしてもいいかな」

 

「うぉおおおおお! すっげぇええええっ!」

 

 アルクェイドの家は守りには向いていないため、隣町の高級ホテルに宿泊することになった。

 それだけでなく、彼女はお金持ちというアイデンティティをこれでもかと活かし、最上階のフロアを丸々借り切るという大人買いを慣行。貸切とかって事前に予約する必要があると思うのだが、それもお金の暴力で解決するというね。アルクェイドさんマジパネェっす!

 最上階はスイートルームらしく、豪奢な内装となっている。一泊いくらするんだろうか。

 

「おー、たかーい! 人間の建築技術って、本当メキメキ上達するわよねー。日進月歩? 一髪千鈞? ま、どっちでもいっか。ほら、見て志岐! さっきまでいた路地裏があんなに小っちゃくなってる!」

 

「おおー、いい眺め! さすが一等地の高級ホテル、超見晴らし良いじゃん!」

 

 スマホで写真撮っておこ。パシャリパシャリ。

 高級ホテルに来た記念として自撮りモードで何枚か写真を撮っていると、アルクェイドの関心がこちらに移った。

 

「あ、それ巷で話題の携帯電話ね。スマートフォンだったかしら。写真も撮れて通話も出来るなんて、人間の発想力には驚くわ。ねえねえ志岐! わたしも撮ってよ!」

 

 目を輝かせながらせがんでくるその姿はまさに子供そのもの。見た目はすっげぇ美人のお姉さんなのに中身は天真爛漫な子供とか、ギャップ萌えで殺す気ですか!?

 ますますアルクェイドのことを好きになる自分を自覚しながら、それならと手招き。

 首を傾げながらトコトコやって来た彼女の肩を抱き寄せて、ツーショットにした。

 

「し、志岐?」

 

「覚えておきな、仲のいい奴らはこうやって撮んのよ。ほれ、笑って笑って」

 

 面食らった顔のアルクェイドがスマホに映し出される隣で、手本のように二カッと歯を見せて笑う。

 するとアルクェイドも、俺のナイスマイルに劣らないレベルの笑顔を浮かべて可愛らしくピースサインを作った。

 はい、チーズ。

 

「アルクェイドはスマホ持ってるの?」

 

「ううん、持ってないわ」

 

「じゃあ、この写真は現像して渡すよ」

 

「ほんと? ありがとう!」

 

 ぱぁっと花咲く笑みを浮かべるアルクェイドを尻目に、改めて室内を見回す。

 天蓋付きのダブルベッドに二人掛けソファー、おしゃれなチェアーやサイドテーブル、小型どころか普通サイズの冷蔵庫に冷凍庫のボックスまで完備され、壁には薄型の大画面テレビ。調度品すべてが高級であるのがそれとなく判る。

 ていうか、一階のロビーの様子を逐一映しているモニターすらあるけど、これは何のためにあるの?

 

「今夜は此処に隠れましょう。あ、宿泊費のことは気にしなくていいよ。わたし、これでもお金持ちだから。奢ってあげる」

 

「あざーっす! でも、俺と一緒に泊まるっていうけど、いいの? 俺、男だよ?」

 

「うん? 盾がそばにないと意味ないじゃない。それに志岐が男性なのは見てわかるよ?」

 

 頭の上にクエスチョンマークを乱舞させているアルクェイドが首を傾げる。

 こう見えて結構天然なのかしら?

 

「いや、そうじゃなくて。男女が一緒の部屋に泊まるのは、エッッ!なことが起こりやすいから危惧されるんだけど、普通」

 

「エッ? ……ああ、もしかしてエッチのこと? 志岐、吸血鬼のわたしに欲情するの??」 

 

「欲情しますとも」

 

 なに言ってんだこの人は当たり前じゃないか。

 アルクェイドほどの美女はまず御目に掛かれない。

 スタイルが良くて顔立ちも整っている美女はこの世にごまんといるが、彼女はそれとは別なんだ。

 存在そのものというかなんというか。上手く表現できないが、人を惹き付けてやまないフェロモン的な何かを振り撒いているように思える。

 実際にフェロモンを出しているのか分からないが、カリスマ性にも似た魅力的な何かを感じるのだ。

 どんなAV女優やグラビアモデルなんかよりも、メッチャ唆る。もはや存在自体がエロい。

 

「そ、そうなんだ」

 

 ここまで明け透けに言うと普通は引くと思うが、アルクェイドは単純に恥ずかしがっているだけで引いてはいないみたい。

 本当に純真無垢というかなんというか。世の中の穢れを知らないまま大事に大事に育てられた箱入り娘みたいやな。

 

「志岐って、不思議な人間ね……。確か、異種族に欲情する人間を変態って言うのよね。志岐って変態だったんだ」

 

「人間か否かは重要じゃない。大切なのは、惚れたかどうかだ。そして、人間は――特に俺たち日本人は美女や可愛い女の子に惚れやすくてね。可愛いは正義って格言があるくらいだ」

 

 大切なのは、惚れたか否かだろう?

 

「俺はあんたに惚れた。種族の垣根なんて恋心に比べりゃ小さい小さい」

 

「ーー」

 

 明け透けに言うとアルクェイドは、目を丸くして俺の顔を凝視していた。

 あ。何気に告っちゃったけど、まあいっか。二度目だし。一度目? もちろん責任云々の話だよ?

 そういえばあの時に互いに了承したんだから、もはや恋人同士ーーいや、婚約者と言っても過言じゃないよな。

 今度お揃いの指輪を買わないと。いやぁ、こんな美人さんを嫁に貰うなんて俺ってば勝ち組ですな! ガハハハハハハ!

 脳裏に一瞬幼馴染の姿が過ったが、意思の力で捩じ伏せた。アレはパパ上たちの冗談だからセーフセーフ……。

 

「そう、なんだ……志岐、わたしのことが好きなんだ……」

 

 少しだけ顔を赤らめたアルクェイドは、俺から視線を切る。

 俺が惚れたのは前世以来なんだから、しっかり責任取ってよね!

 

「……ゴメンね、志岐。その気持ちにはわたし、応えられないわ」

 

「――」

 

 言語化できない意味不明な叫び声をあげることも。

 なんで、どうして!? と詰問することも。

 ただただ茫然と絶句することもなく。

 

「えっ、志岐? ちょっと――」

 

 白目を向いたまま棒立ち状態で気絶したらしい。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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