バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカの決意

「志岐、その……大丈夫?」

 

「えっ、なにが??」

 

 何故か気絶していたらしい俺だが、何故気を失っていたのか分からない。

 もう一つ分からない点と言えば、アルクェイドの様子もおかしい。なんだか触れてはいけないものに触れてしまったような、デリケートな話題を振って失敗した時のような顔でこちらを気遣ってくるんだ。

 うーむ、呼吸法のおかげで貧血を起こすことは滅多にないし、不整脈もちゃんとコントロール出来ているはず。

 あれか、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのかな? 反省反省。

 

「そういえば、アルクェイドの追ってる吸血鬼って、アルクェイドとは別種なんだよね。どう違うの?」

 

「わたしが追っている吸血鬼は人間から成り代わったタイプ、あなたたちが抱くイメージとほぼ一緒よ。人間の血を吸い、吸い殺した奴を使い魔にして少しずつ勢力を増やす。朝の死者、覚えてるでしょ? アレが吸血鬼に殺された末路。人間として死んだのに、まだ死にきれず生かされている、動く死人(リビングデッド)

 

「リビングデッド……つまりはゾンビのようなものか。え、でも燃えてたけど、それが普通なの?」

 

「いいえ。アレはわたしも初めて見たわ。きっと、親の特性でしょうね」

 

 親――つまりはその吸血鬼に吸われたゾンビはみんなファイアーしてバーニングになるのか。

 通常タイプが一般的なイメージと同じなら、かなり攻撃力高いな。ゲームの中盤あたりで出てきそうな雑魚エネミーっぽさがある。

 

「この街に潜んでいるのはそういう吸血鬼。わたしは血を吸うことに執心はないし、彼等の同類でもない」

 

「ほへー、吸血鬼って一言で言っても色々あるんだなぁ。ん? アルクェイドは血を吸わないの? 吸血鬼なのに??」

 

「ーー私、血を吸うのが怖いの。ここ八百年は一滴も血を吸ってないわ」

 

 それって、吸血鬼って言うんですか?

 吸血鬼から吸血取ったら、ただの鬼じゃん。あ、前世の鬼は関係ないよ?

 ていうか、こんな美人な人喰い鬼が居てたまるかってんだ。もし鬼殺隊やってた頃にアルクェイドの鬼がいたら、一も二もなく靡いたね。

 

「真面目な話は終わり? じゃ、ベッドにどーん!」

 

「あ、ずるい! 俺もどーん!」

 

 弾むような足取りでベッドまで移動したアルクェイドはそのままダイブ。

 負けじと俺もダイブすると、柔らかな低反発マットレスが俺の体を受け止めた。

 やべぇ、これぐっすり眠れるやつだ。大〇翔平とか愛用してそう……。

 

「気持ちいいし、日が沈むまで寝るね。志岐も今のうちに休んでおいた方がいいよ。吸血鬼は昼間のうちは活動できないから、本格的に動き出すのは夜になるんだし」

 

 あ、でも隣で眠るのはまだダメ! どこか焦ったような声で俺の体を押すアルクェイド。

 そのままコロコロとベッドから転がり落ちた俺を余所に、アルクェイドは気持ち良さそうに手を組んで目を閉じた。

 

「そろそろ限界みたい。それじゃあお休みなさい、志岐。日が沈んだら起こしてね」

 

 そう言うと、アルクェイドはあっという間に夢の世界へ旅立ってしまう。まるで三秒で眠りに入る、の〇太くんのように。

 寝たいタイミングで眠れるとか、メッチャ有能な特技じゃん。

 

「日が沈むまでっていうと、大体六時くらいかな。……あと八時間か」

 

 時刻は午前十時。あ、やっべ。普通に学校サボちゃったよ。

 スマホを見ると怒涛の着信履歴とメール通知が。全部、梓姉だ。

 

「……まあ、仕方ないか」

 

 チラッと眠りにつくアルクェイドに視線を向けた俺は、最新の着信履歴をタップするのだった。

 

 

 

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「うん、そういうことだから心配しないで。梓姉も気を付けてね」

 

 梓姉に連絡を入れて事の事情を説明。流石にアルクェイドのことは言えないが、件の連続殺人犯を追っている人と偶然知り合い、犯人が吸血鬼であることが判明したため、七夜として動いていると伝えた。

 学業より退魔の方を優先するのは七夜として当然の判断だ。事情を理解してくれた梓姉は学校のことなら任せてとフォローしてくれることに。

 また聞いた話によると、吸血鬼がこの街に滞在しているのはパパ上たちも把握しているようで、【七極】として何名か派遣しているらしい。

【七極】が動いた結果、今の状態に落ち着いているのだから、被害はもっと大きく深刻であると教えてくれた。

 

【七極】は七夜が立ち上げた退魔組織。元はうちの情報を売った退魔四家への対抗および抑止力として組織したのだが、弱小の退魔師たちが庇護下に加わりたいとこぞって傘下に加わった。

 総員、三二五名。うち戦闘要員の【刃】が二〇〇名ちょっと。情報隠蔽工作要員の【鞘】が一〇〇名ちょっと。

 七夜式体術は教えられないが呼吸法なら訓練次第で身につけることが出来るため、七夜の森に訓練施設を設けて定期的に鍛えているらしい。

 

 まあ、ぶっちゃけ鬼殺隊ですよね。はい、現代に蘇っちゃいました。流石に悪鬼滅殺の刻印が入った刀を入隊祝いに渡したり、最高戦力の柱を設けたりはしていないけど。

【七極】では第○○部隊という形で序列を現しており、数字が若ければ若いほど実力が上となる。一部隊十名で構成されているから【刃】は全部で二十部隊。【鞘】はまた違う構成の仕方のため省く。

 

 ちなみに鬼殺隊で表すなら第一部隊が柱、第二が甲、第三が乙。ここまでが七夜の中でも上澄みと呼ばれる実力者たち。

 中堅から新人レベルが第四~第十部隊。鬼殺隊なら丙、丁、戊がこれに該当するかな。それ以下の第十一~二十、つまりは己・庚・辛・壬・癸が七夜の傘下に加わった退魔師たちとなる。

 一見すると身内贔屓の序列だと思うだろう。俺もそう思う。でも違うんだ。

 七夜は元々退魔師の中ではトップクラスの実力者で、度々最強という名を独占してきた一族だ。そこに幼少の頃に広めた呼吸法のアドバンテージが加わってみ。控えめに言って無敵でしょ?

 呼吸法を収めて型をある程度の水準で扱えるレベルの人間が、うちでは新人扱いだし。その新人が、一族の最高傑作と謳われる他家のナンバーワンを軽くねじ伏せるレベルなのだ。

 正当かつ客観的な評価でこの序列なのだから、もはや退魔師界隈最強の座は揺るがないだろう。どこのどいつがうちに喧嘩を売ったのか知らないが、悪いな。ちと強くなり過ぎちまった!

 

 

 

 さて、隠――いや【鞘】の人たちでも敵のアジトを見つけるには至っていないようで、今のところ対処療法に留まっている。

 パパ上たちもこの事態を重く見たのか動かせる人員の半分も投入してくれているのに、まだ被害が出ているのだ。敵は相当慎重なタイプだと思われる。慎重な鬼……うっ、頭が……。

 

 普段から持ち歩いているサブウェポンのナイフでは心元ないため、一度家に帰ることにした。

 もちろん学校をサボってるから、翡翠ちゃんたちにバレないようにこそっと忍び込む予定。アルクェイドも言っていた通り、昼間っから襲い掛かってくることはないと思うし。……昼間でも普通に活動する彼女は何なんでしょうね?

 

 電車に乗って総耶駅に。昼時のため外を歩いているのはもっぱら会社員やオフィスで働いている女性だ。

 人込みに紛れてそれとなく視線を動かすが、これといって怪しい人物はいない。この時間に学生服を着てる生徒がいるのが珍しいのか、何名かは奇異な目で見てくるけど。

 通学路でよく通る道を走り、遠野邸に繋がる坂道を上り、ようやく正門前に来た。

 

 通行人用の扉は監視カメラの画角にバッチリ収まっているため、門からの侵入は避けるべきだろう。

 軽く遠回りして監視カメラの死角となる位置へ移動した俺は、一息にジャンプ。三メートルはある鉄柵を軽く飛び越えると、音もなく敷地内に潜入した。

 

「さて……どうやって中に入るか」

 

 二階の西側。ちょうど角部屋が俺の部屋で得物もそこに置いてあるのだが、窓から入るのは無理だろう。翡翠ちゃんがカギの掛け忘れをするとは思えない。

 となると、正面玄関か中庭に繋がるテラスから侵入するしかない。が、テラス側の扉も監視カメラがあるから、正面玄関が無難か。ただ、鍵が掛かっている可能性が高いんだよなぁ。

 腰を落としたまま滑るように玄関扉の前へ移動する。そして耳を澄ませながら慎重にドアノブを回すが――。

 

「……やっぱりダメか」

 

 微かに感じる抵抗感から鍵が掛かっているのを悟った。さて、どうしよう。

 あらゆる経路での侵入方法を模索していると、扉の向こう側――つまり玄関ホールから気配が。

 メトロノームのような一定の足音。そして、足音から判るこの体重の掛け方は――翡翠ちゃんか!

 近づいてくる足音からして外に出ようとしているのは間違いない!

 

「よっと……!」

 

 大きく跳躍し外玄関の天井――軒裏って言うのか?――に張り付く。七夜の技術を以てすればこのくらい余裕だ。

 そのまま気配を殺していると、ゴミ袋を持った翡翠ちゃんが出てきた。どうやらゴミ出しのようだ。いつもご苦労様です!

 天井に張り付いたままビシッと敬礼を送った俺は、そのままゴキブリのように内部へ侵入。

 琥珀ちゃんに見つからないように自室へ移動し、竹刀袋に入れられた得物を抱えると窓から脱走するのだった――。

 

 

 

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「うん、何事もなかったようだな」

 

 アルクェイドが滞在しているホテルに戻った俺は、部屋を出た時と変わらぬ様子にホッと一息つく。

 ベッドに近づきアルクェイドの顔を覗き込む。

 横たわった体はピクリとも動かず、まるで死んでいるかのようにも見えるが、ふくよかな胸がゆっくり上下していることから呼吸しているのが判る。

 

 穏やかに閉じられた瞼。スッと通った鼻筋。口紅を引かなくても瑞々しい可憐な唇。

 形の良い大きな胸のふくらみ。地平線に霞む丘陵のような腰のライン。すらりと伸びた細い脚。

 清楚でありながら煽情的、なんて矛盾した言葉が浮かぶ。

 ある種の完成された美がそこにある。俺が画家だったら、この絵を一枚絵に閉じ込めることに執心したことだろう。

 

「……異性を前に無防備に眠りこけるなんて、狼に食べてくださいって言ってるもんだぞ」

 

 まあ俺は同意なきタッチはしない主義だけど。俺が紳士でよかったな。

 ミニバーに備え付けられた高級そうな高椅子に座る。

 冷蔵庫から炭酸水の入ったボトルとレモンを取り出し、グラスに炭酸水を注いでからレモンを絞る。

 即席のレモン果汁ソーダの完成っと。……すっぱ!

 

「さて、どうするかねぇ……」

 

 何事もなく朝を迎えることが出来ればそれに越したことはないが、常に最悪の事態を想定するべきだ。

 この場合の最悪な事態とは何か。

 

 敵が襲撃してくること?

 否。それを考慮して全フロア貸し切りにしているんだろう。

 

 迎撃に失敗すること?

 否。敵がどのように襲撃してくるのか分からないが、伝承にある吸血鬼と同じ能力なら迎撃に失敗したとしても逃げ切れるだろう。

 

 逃げられなかった場合?

 否。逃走ルートはまだ確保していないが、逃げられない状況に陥ったとしても持久戦に持ち込めばいい。日の光を克服出来ていないのは敵だけだ。

 なら何が、俺にとっての最悪の状況――いや、俺にとっての敗北条件か。

 

「……アルクェイドの死亡」

 

 つまりはそこに尽きるだろう。彼女の盾として、護衛としての任務失敗を意味する。

 万全の状態なら問題ないかもしれないが、今の彼女は弱っている。それこそ、俺を盾にする必要があるほど。

 そして、その原因は俺にある。衝動的殺意に呑まれ、彼女を殺害してしまったから今に繋がるのだ。

 惚れた云々の前に、ケジメをつけなければならない。

 

 ――自分のケツすら拭けないヒヨッコが彼女とともに歩むなど、他ならない俺が赦さん。

 

「なら、やれることはやるべきだよな」

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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