感想ありがとうございます! モチベーションにすごく繋がります!
「ふぁぁ……ねむ」
時刻は午前四時過ぎ。
今のところ敵襲の気配はなく、後一時間もすれば夜が明ける。
廊下のど真ん中に置いた一人掛けソファーに座りながら、刀の鯉口をチャキチャキさせて時間を潰している。
この時間帯まで夜更かしするのは金曜日と土曜日くらい。それもソシャゲのログイン時間更新に合わせてガチャを回す程度の用途だから、滅多に夜更かしすることもない。
開けっ放しの扉からは、スマホに夢中なアルクェイドの姿が確認できる。どうやらネットの海にどっぷり浸かったようだ。
「おっ?」
不意に何の前触れもなく──ゴン、という重苦しい音とともに建物全体が振動した。天井から吊るされたシャンデリアが揺れる。
今の揺れ方は地震のそれじゃない。まるでホテルのロビーにダンプカーが全速力で突っ込んできたような、そんな衝撃だ。
「なんだなんだ?」
「……」
アルクェイドは深刻な顔をしながら、部屋に備え付けられたモニターを注視している。確か、一階のロビーの様子を映し出しているんだよな。
俺もモニターを覗いてみると、昨日襲ってきた豹と同じタイプの個体たちがロビーを走り回っているのを確認できた。
ついに襲撃してきたか……!
「来たな」
「……」
口惜しそうに唇を噛んだアルクェイドは、ジッと何かに堪えるように押し黙っている。
彼女の唇から、赤い血が一筋ゆっくりと流れ落ちた。
「アルクェイド……」
「……」
不安からか、それとも悔しさからか、自分で自分を抱くようにして何かに堪えているアルクェイド。
今の自分には何の力もないと言っていた。ただ黙って、手をこまねくしかない自分に苛立っているのかもしれない。
「安心しろ。俺はアルクェイドの盾であり刃だ。今のアルクェイドに何の力もないのなら、俺がその力になってやる」
「志岐……」
驚いた顔をするアルクェイドの肩を軽く叩いた俺は、得物であるメインウェポン──夜葬を手に部屋から出た。
先の衝撃で宿泊客が目を覚ましたのか、下の階が騒がしい。圏聴で耳を澄ますと怒号や悲鳴、動物らしき息遣い、何かを咀嚼する音が微かに聞こえてくる。
状況からして一般人は皆、動物たちの餌になってしまったようだ。
「ちっ……歯痒いな」
本音を言うと駆逐して回りたいところだが、今の俺はアルクェイドの護衛。ここから離れる訳にはいかない。
廊下に置いた椅子を退かした俺は、鯉口を何度も切って苛立ちを誤魔化していると、ついにホテルから音が消えた。
静寂が辺りを包み込む中、エレベーターランプが点灯し、上へと上ってくる。
徐々に最上階へと近づいてくるのに合わせ、柄にそっと手を添えた。
チン、と軽快な音を鳴らしエレベーターランプがこの階で止まる。
シィィィィという独特の呼吸音を響かせながら、前傾姿勢。
ドアが開く。
“雷の呼吸・一の型──”
遺体を貪る豹が二体。
「霹靂一閃」
奴らが振り向く前に大きく踏み込み、刹那の時間で接近。
抜き放った刀が豹の首を跳ね、返す刀でもう一匹の頭を落とす。
刀身を真っ黒に染めた刀は、まるでバターに熱した刃を入れるかのように一切の抵抗を感じさせることなく、二頭の首を切断した。
「ちっ……!」
唐突に耳に入ってきたのは、チン、という軽快な音。もう一つのエレベーターが上がって来たらしい。
先ほど立っていた位置まで大きく跳躍すると、エレベーターのドアがゆっくりと開かれる。
現れたのは、黒いコートを着た壮年の男だ。
一九〇センチほどの長身にがっしりとした体格。短く刈り上げた灰色の髪。
皺のある顔は掘りが深く、灰色の目は血走っている。
常人とは明らかに一線を画した、その目。静かにラリッているような普通ではない雰囲気を醸し出しているが。
男の異常性はその見た目にもダイレクトに出ていた。
「へ、変態だあああ──ッ!」
黒のコートの下には、ボディーラインがくっきりと浮かび上がった黒タイツ。
分厚い胸板や見事に割れたシックスパックがタイツ越しに見て取れるが、少し視線を下げると股間のくっきり具合も見えてしまうという劇物。
しかし、筋肉質な見た目とは裏腹にアソコは小さいのか、もっこりは確認できない。一物を切り落とさない限り多少はもっこりするものだが……この見た目で女性?
昨今ジェンダー問題が国際的にシビアだし、心は女なのかもしれない──。
まあ男であろうと女であろうと、コート一枚の黒タイツって時点で変態なのには変わりないけど。
「……」
黒コートの男──便宜上男にする──は俺のことなど目に入っていないのか、無言で歩いてくる。
迎撃準備。
「シィィィィィ……!」
雷の呼吸で身体を活性化させた俺は、刀を抜いたまま軽く腰を落とした。
俺の様子などまったく意に介さず、歩み寄ってくる男。
距離が迫る。
俺の間合いに男が無造作に足を踏み入れた瞬間、躍動。
七夜が誇る三次元立体駆動術を駆使した雷の呼吸で、奴を仕留める。
「──」
ようやく男はこちらに気づいたようだった。
だが、今更もう遅い。雷並みの速さで壁や天井を蹴り、立体的な軌道で男の背後を取った、その瞬間。
足元から何かが飛び出してきた。
視界に映るのは巨大な
鋭いギザ歯がびっしりと生え揃ったサメが、大口を開けて俺を捕食しようとしていたのだ……!
「……っ!」
空中で身体を捻ることで軌道を変えた俺は、サメの鼻先に着地。反力とサメの突き出た勢いを利用して、大きく後ろへ宙返りする──と同時にサメの上顎を刀で跳ね飛ばす。
間合いを開けて着地した俺の視線の先には、上顎を跳ねられたサメが男の影の中へ沈んでいく姿があった。
影の中に動物を飼ってるのか? 豹も今のサメも青かったのは、こいつの眷属?
「──皆殺しにしたはずだが、まだ残っていたか」
男の血走った目が俺に向けられる。
殺気や闘気などは感じられない。男の視線から感情らしい感情は伺えない。
視線が合う。
アルクェイドは言っていた。死徒と視線を合わせてはいけないと。魔眼による金縛りに絡まってしまうから。相手が二十七祖であるなら猶更。
金縛りのような不可視の力が働いたような感覚はない。精神に干渉するような感覚もない。
ただ、背筋がぞっと泡立った。
「……塵どもめ。肉片一つ満足に片付けられぬとは、我が肉体である資格はない」
肩越しに振り返った男はエレベーター内の豹の死体を確認すると、そう不快気に呟いた。
すると、頭を落とされた二体の豹は液状に変化し、男のコートの中へと消えていく。
なるほど、コートの内側に発生した影を利用しているのか……。
「食え」
男が片腕を上げると、コートがマントのように持ち上がり、その内側にある影より暗い闇から三匹の豹が姿を現す。
唸り声を上げる群青色の豹たちが、一斉に襲い掛かってきた。
まるで獲物を狙う誘導弾のように三方向から飛びかかる豹たち。
雷から炎の呼吸に変えた俺は腰を大きく落としながら、刀の柄を強く握り締めた。
“炎の呼吸・肆ノ型 七夜式──灰塵纏輪”
首に巻き付けるように刀を構えた俺は、腰を大きく捻りながらその場で横に一回転。
摩擦により足元のカーペットが真っ黒に焦げると同時に、水平に薙ぎ払った刀は空気中に漂うハウスダストとの摩擦で発火。
キンッ、という甲高い金属音が鳴り響いた次の瞬間、真っ赤な炎が俺を中心に輪を作ると、跳び掛かってきた豹たちの体を上下に分断した。
呼吸による幻影ではなく本物の炎がその傷口を燃やす。
「──」
あっという間にけしかけたペットたちが両断されたのを見て、小さく息を漏らす男。
そのすかした顔を歪めてやろうと、切っ先を相手に向けながら腕を引き絞るように構えた。
相手は死徒の頂点に立つ二十七祖の一人。出し惜しみは無しだ──!
ゼロからのトップスピード。ゼロコンマで一気に加速し男との間合いを潰すと、影から再び大口を開けたサメが飛び掛かってくるが──。
──邪魔ァ!
床を踏み抜く勢いで繰り出した震脚で、サメを強制的に影の中へ押し戻す!
そして、がら空きとなった心臓目掛けて捻りを加えた片手突きを放つ!
“炎の呼吸・玖ノ型 七夜式──煉獄一殺”
空間ごとくり貫く勢いで放たれた渾身の片手突きは、男の胸に切っ先が突き刺さった瞬間、集束していたエネルギーが指向性を持って解き放たれた。
すなわち、心臓もろとも胸部に巨大な孔を穿ち、背中から一筋の炎となって突き抜けたのだ。
心臓はおろか肺の一部も消し飛んだ渾身の一撃。人間なら確実に死んだだろうが、相手は吸血鬼だ。完膚なきまで切り刻まないと復活するかもしれない。
──ってことで、追撃だオラァ!
独特の走法で残像を生み、疑似的な分身の術を作り出す。三次元立体駆動術についていける七夜の体でないと不可能な技だ。
三人に分裂した俺の残像がそれぞれ異なる軌道を描きながら、刀を振るう。
“風の呼吸・捌ノ型 七夜式──閃鞘・八千衝”。
ベースとなるのは近接技の“閃鞘・八点衝”。本来は小太刀の技であるが、刀で使えなくもない。
真向斬り、袈裟斬り、水平斬り、逆袈裟斬り、左逆袈裟斬り、逆水平斬り、左袈裟斬り。
七通りの斬撃を三方向から浴びせる上、風の呼吸による斬撃はカマイタチが発生する。
結果、あらゆる角度から放たれた斬撃でコートごと体をブツ切りにし、振るうたびに発生するカマイタチが肉片をサイコロ以下へと細切れにしたのだった。
「ふぅ……」
ここまで細切れにすりゃ流石に死んだだろ。ていうかそこは生物として死んでくれ。
刀を鞘に納めた俺は踵を返し、ふと気づいた。
──影が、消えてない?
男の立っていた場所。そこには未だ影が存在している。いや、よく見ると影じゃない!
コールタールのような群青色のナニかが床一面に広がっていく!
慌てて飛び退くと、今し方消し飛ばした男がコールタールっぽい液状のナニかから現れた。
当然のように無傷だし、あれが効かないとは。これが死徒二十七祖か……。
「【混沌】の獣を一蹴するなんて、さすが志岐ね」
この二日間で聞き慣れた声に振り返ると、護衛対象が扉から出ていた。
「アルクェイド!? 出てきちゃダメじゃん!」
「ちょっと聞きたいことがあって」
アルクェイドが男を見据えると、男も無言でアルクェイドを凝視した。
「【混沌】とも名付けられた古参の吸血種が、こんな下らないゲームに乗るだなんて思ってもみなかったわ。まるで出来の悪い夢ね、ネロ・カオス」
「同感だな。私も、真祖の生き残りを捕らえるなど、そのような無謀な祭りの執行者に仕立て挙げられるとは夢にも思わなかった。私にとってもこれは悪夢だ」
初めて男が喋った! ていうか、すごい低音のダンディーボイス! その格好じゃなかったら聞き惚れるレベルだぞ!
そして、口調からしてどうやら正真正銘の男のようですね!
「しかし、これはどういうことだ? 私の前の執行者は貴様に傷一つ付けられなかったという話だが、それはどのような間違いなのだ。今の貴様は存在規模が脆弱すぎる。一介の死者にも劣るその衰退──私が来る前に教会の者に襲われたか、アルクェイド・ブリュンスタッド」
男はアルクェイドだけを視界に収めている。
彼女の前に立ちふさがる俺など、眼中にないとでも言うように。
「……」
「――解せぬな。貴様を害せるほどの概念武装は限られている。アレを保有しているのは教会の殺し屋どもだけだ。このような極東の地に、埋葬機関が派遣されているとは思えんが」
男は微かに目を細めると、徐に踵を返した。
「だが、どちらにせよ私にとっては僥倖だ。貴様が弱っている是非は問わぬ。勝機があるうちに、その首を貰い受けるのみだ」
そう言うと男は悠然と廊下を歩き、エレベーターに乗って退去してしまった。
勝機があるうちに、と言いながら何故退散してしまったのか。それは、窓から差し込む光がすべてを物語っていた。
「……もう日の出だったのか」
いつの間にか、夜はとうに明けていたらしい。
リメイクだと教授リストラされていましたが、個人的に好きなので再雇用しました。
どの程度、月姫について知っていますか?
-
無印、リメイクともにプレイ済み
-
無印のみプレイ済
-
リメイクのみプレイ済
-
未プレイだけど設定・世界観は知ってる
-
まったく知らない