バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカの生活

 七夜志岐として二度目の転生から五年。大分、此処での生活にも慣れてきたものだ。

 森と山に囲まれたこの地域は所謂、限界集落と呼ばれる場所らしく、ご近所さんはみんな七夜一族の人たちばかり。

 しかもテレビすら無いというね。新聞はあるようだから、ここが日本で平成の時代なのは分かるけど、とんだド田舎だ。青森より酷いかも。*1

 そんな田舎で暮らす俺たち、実は退魔師の家系のようで、よく人外を討伐する依頼を請け負っているらしい。俺は子供だからお仕事まだだけど、でも七夜の技は受け継いでいる。

 それにしても、七夜の退魔方法が陰陽師のような術ではなく、鬼滅隊のようにバリバリの物理特化なのは有難い。前世で習った鍛練法で肺を鍛えているけど、メッチャ相性が良いと思う。

 けど、呼吸術もなしに普通に三次元駆動する大人の皆さんはどうかと思う。

 

 そうそう、ここでの生活にも慣れたというのは、俺の目にも慣れたというわけでもある。

 俺の目は特殊で、視界に映る光景には常に子供が描いたような黒い線が見える。

 物だけではなく、地面や木々といった自然。さらには人や動物にまでぐちゃぐちゃとした線が浮き出ている。

 コイツを認識した当初は頭痛が酷く、何度も原因不明の高熱に見舞われた。

 この眼の異常性に気付いた当初はひどく動揺したものだ。

 線を見ていると凄く不安が掻き立てられて、視界に映るすべてのものにラクガキがある光景は、この世界が砂のように脆いのだというのを魂が理解した。

 

 けれど、今はもう慣れた。というよりこの眼との付き合い方が分かったというべきかな。

 黒い線は相変わらず見えるし頭痛もするけど、あまり意識を向けないだけで案外楽になる。焦点を合わさずにぼんやり見るようにすれば完全に治まり、黒い線も気にならない。

 触ると穴が空くし、なぞるとどんなものでも切れてしまうという弊害があるが、まあ気を付ければ良いだけだから問題なし! 

 それよりも親父が【直死の魔眼】と名付けたことに驚きだ。いつも必要以上に喋らない寡黙なクールキャラが、まさかの中二病とは思わないだろ。

「魔眼殺しはいるか?」と聞かれた時には、この歳でまだ中二ってるのかと少し引いてしまったが、まあ、なんだ。家族みんなで温かく見守ろうと思います。

 

「志岐、今日も鍛錬ですか? 精が出ますね」

 

 藍色の小袖に着替え、呼吸の鍛錬に使用する道具を手にした俺にママ上が声を掛けてくる。

 

「うん!」

 

 前世でお馴染みの瓢箪を掲げて見せる俺に、ママ上は軽く目を細めた。

 

「それにしても、呼吸による身体強化や自然治癒力を底上げするなんて技法を独学で覚えるなんて、志岐は天才ですね。流石は御館様の子です」

 

「母上の子でもあるヨ」

 

 呼吸や型については俺が考えた訳ではないけどネ! 

 

「志岐が考えた呼吸術のおかげで皆さんも仕事がしやすいと喜んでいましたよ。御館様もあまり口にしませんが、志岐を認めていらっしゃいます」

 

 一歳の頃から始めた全集中の呼吸の鍛練。始めは子供のやることと温かく見守っていたママ上たちだったが、三歳になる頃には目に見えて成果が出て。

 最低限瓢箪を割ることが出来るようになった頃にはパパ上を始めとした男衆が、呼吸術を取り入れようと動き出した。

 まだ三歳の幼児に呼吸術の教えを請う大人たちというのは中々愉快な図ではあったが、まあ覚えて損はないし子供だからと侮らず、一人の人間として接してくれる姿勢が好印象だったから二つ返事で承諾。

 幸いにして、今世のマイボディも前世由来のものだと錯覚するほど高スペックだったため、基礎である炎・水・風・岩・雷の呼吸は一通り扱えた。

 パパ上には岩の呼吸を。パパ上の幼馴染みというオジさんには炎の呼吸をといったように、各々の適正に合わせて呼吸の仕方や鍛練方法を教えていたら、いつの間にか神童扱いだ。

 まあ俺は褒められて伸びるタイプだから、よいしょされる度に悦に浸ってご機嫌ご機嫌。

 それはそれとして、だ。

 

「随分と持ち上げるじゃあないか、母上。何を企んでいる?」

 

「企むだなどと。母はただ──」

 

 大和撫子を体現したようなおっとり美女のママ上は、頬に手を当てると小さく息を吐き。

 

「志岐が当主の座を受け継いでくれたら、母は嬉しいなぁ、と」

 

 もう何度目か分からない話題を振ってきた。

 俺も当然、いつもの返事を返す。

 

「ヤダー」

 

「まあ、そう言わずに。黄理様も喜んで下さいますよ?」

 

「イヤー」

 

「……どうして頑なに拒むのですか? 当主になるといえど、稼業は黄理様の代で終わるのですよ?」

 

 ちなみに稼業というのは退魔という名の殺しの依頼だ。

 鬼殺隊をしていた頃は全然気付かなかったが、人外と交わって血と力を得た人間が存在するらしい。

 混血と呼ばれる彼らも一般人として暮らしているのだが、中には人に仇なす者も少なからずいるようで、そういったヒトたちを討伐するのが七夜だそうだ。

 退魔の家系は七夜だけでなく、他にも浅神や巫浄、両儀が退魔を代表する家らしい。七夜含めた四家を退魔四家と呼び、その界隈では有名だとか。

 だが、俺が当主になるのはそれとは話しが別だ。

 

「俺はね、母上……。夢があるんだ……」

 

「夢ですか」

 

「そう。この空のようにでっけえ夢だ」

 

 そう、この七夜志岐には叶えたい夢があるッ! 

 それは、上京してどこかの大学に入り、全集中の呼吸で陸上競技を総嘗めし! オリンピックにも出て、成田空港でファンの人たちからキャーキャー言われる人生を歩むことッ! 

 当主の座についたらこの先もずっと集落に居座りそうだから、断固拒否する! 例えママ上のお願いであってもだッ! 

 

「志岐は、当主になりたくないのか」

 

「ダディ!?」

 

「父上と呼べ」

 

 いつから其処にいたのか、真後ろにパパ上が立っていた。

 馬鹿な……! 鬼殺隊甲組最強と謳われたこの俺が、全く気付かなかっただとッ!? 

 流石は長年退魔界隈でぶいぶい言わせてきただけある。パパ上はバケモノか……! 

 柱最強と名高い岩柱様並みに気配を感じさせないパパ上。これで無表情なのだから知らない人が見れば強烈な威圧感を感じていたことだろうが、家族である俺は「あ、なんか落ち込んでるっぽい」と察することが出来た。

 

「父上、俺……都会に住みたいんだ」

 

「志岐……」

 

 いつも通り凪いだ表情の父上は、俺を見下ろしながら告げた。

 

「ここは都会だぞ」

 

「ま?」

 

 都会に限界集落ってあるんですか? 

 

 

 

 1

 

 

 

「うん、大分形になってきたね」

 

 現在、パパ上の実兄にして右腕的ポジションである雨露の叔父さんと組み手中。

 いつもはパパ上に稽古をつけてもらっているのだが、今はお仕事で出掛けている。そんな日は叔父さんが代わりに稽古をつけてくれるのだ。

 他の子供たち? 俺以外みんな女の子なのよね……。

 しかも俺が一番幼いというね。女の子たちに紛れてガールズトークを交すくらいなら鍛練一択ですわ。

 そんな切実な理由があって、俺にとっての遊びは鍛錬である。たまに気を遣って声を掛けてくる幼馴染ちゃんたちの心遣いが痛い五歳児(中身二十三歳)です。

 

 稽古場所は自然あふれる森の中。

 七夜が誇る体術で木々を足場に跳び回り、死角から叔父さんを狙う。が、叔父さんは涼しげな笑みを崩さず体捌きだけで躱していく。

 ちなみに得物はお互いに短刀。それも刃引きをしていない本物のそれだ。

 

「七夜の体術をこれほど早く体得するとは、歴代で最速じゃないかな」

 

 聞くところによると、七夜一族は本来暗殺を生業としており、真っ向から立ち向かう戦闘法より不意打ちや奇襲戦法に重きを置いた技が多い。そうして先祖から受け継がれ、磨かれた技が数々の高速奇襲技だ。

 立体駆動術で音もなく上空に移動し、頭上から首回りの急所を狙う“閃鞘・八穿”を一歩下がって回避した叔父さんは、真半身になると上下左右あらゆる角度からノータイムで短刀を繰り出して来る。

“閃鞘・八点衝”という数少ない近接技の一つ。腕を鞭のように撓らせ、あらゆる角度から敵を切り刻む、叔父さんの得意技だ。

 

「なんのぉ!」

 

 俺の目でもギリ見切れる程度には手加減してくれているため、逆手に持ち変えた短刀で受け流す。

 あぶねぇ、叔父さんが本気だったら一呼吸で十以上の斬擊を普通に放ってくるからな。

 呼吸によるブーストがない素のステータスだと、これが限界だ。

 

「うん、よく避けた。もう完璧に七夜の体術を扱えているね」

 

「あ、あざーっす」

 

「もう志岐くんの実力は僕たち大人と引けを取らないレベルだ。ましてや呼吸に関しては君以上に詳しい人もいない」

 

 呼吸ありなら御父上より強いだろう。そう口にした叔父さんは短刀を鞘に納めると、今度は腰に帯びた刀に手を伸ばした。

 

「それじゃあ、今度は僕の稽古に付き合ってもらおうかな」

 

「おっけー」

 

 叔父さんの──というより、パパ上含めた大人組(女性含む)の稽古は、もっぱら呼吸の鍛錬。

 自然と呼吸の第一人者という認識を持たれている俺が、その修行のお手伝いを担う流れになった。

 内容は様々で、各々の適性を見出してその鍛錬法を元に呼吸の質を上げ、最低限のレベルに達して初めて型の稽古を行う。

 鍛錬を始めて今年で二年となる叔父さんたちだが、やはり七夜として極限まで身体を鍛え上げているため習得速度が滅茶苦茶早い。

 元々、一族が代々磨き上げてきた体術があるため、呼吸術はそれをブラッシュアップ、また各呼吸の型を七夜の技に落とし込むというのが狙いだ。

 すでに、この二年で新たな技を四つ開発している。暗殺者としての矜持からか、そっち方面のコンセプトで考えているらしい。

 呼吸音で奇襲バレするんじゃね? という質問には「分かっていても避けられなければ意味がない」という頼もしいお言葉を頂きました。うちの男どもは脳筋です。俺も脳筋です。

 

 ちなみに大人たちは全員常中を体得している。そのうち三分の一は柱レベルの実力者だし、パパ上や叔父さんに至っては行冥さんに匹敵──いや、下手するとそれ以上の戦闘力を有しているかもしれない。

 この人たち、絶対生まれてくる時代が違うよね。

 

 そして、一歳から呼吸術の訓練を始め、今年で四年が経つ俺は一向に常中を体得できません! 

 体が出来上がっていないから仕方ないというのは分かるし、瓢箪が割れるくらいには肺活量が上がったけど、元鬼殺隊員として複雑な気持ちです! 

 

「やはり、呼吸術に関しては志岐の方が上だねっ」

 

「俺から呼吸を取ったら何が残るのさ!」

 

 コレが唯一の取り柄だぞオイ! 

 練度は度外視にして、基礎である炎・水・風・岩・雷の呼吸はもちろん、その派生呼吸や前世で体得していた技も再現できる。手数の多さが俺の持ち味なんだ。

 スペック的になんとなく前世のものと変わらない気がするんだけど、まあ俺的には好都合だからあまり考えないようにしてます。

 水も含めた全ての呼吸の型は刀を前提とした作りになっているため、得物が打ち刀や脇差、短刀といった刃物全般の叔父さんとはすこぶる相性が良い。

 今も玖ノ型である“水流飛沫・乱”と“閃鞘・七夜”を織り交ぜた新技“閃鞘・九条九里”という、実質雷の呼吸の“霹靂一閃”を九回連続で放ってきていた。

 

「シイアアアァァ……」

 

 対するこちらは、風の呼吸で応戦。使用するのは“風の呼吸・肆ノ型改──上昇壊塵嵐”。

 低姿勢になると七夜の技の一つである“八穿”の応用で上空へ跳躍。通常の“八穿”でも雷の呼吸に匹敵するスピードなのだが、全集中の呼吸で身体能力を底上げしているため、もはや瞬間移動に近い速度で地上五メートルほどの高さまで一気に上がった。

 遅れて衝撃波のように周囲を切り刻む斬撃。周囲を跳び回っていた叔父さんは直ぐ様範囲外まで後退するが、その時には既に俺も次の一手を打っている。

 舞い上がった落ち葉を足場に、高速で回転しながら叔父さんの移動場所へ先回りする。

 

“風の呼吸・伍ノ型──木枯らし颪! ”

 

 通常では縦に回転しながら全体重を乗せて叩き割るのだが、俺の場合は太刀筋が斜め。

 刃に鋭い風を纏わせカマイタチのように周囲を切り裂きながら急降下すると、叔父さんは大きく跳躍して再び距離を取った。

 

「逃がさねぇ!」

 

“雷の呼吸・壱ノ型 七夜式──七夜の霹靂”

“霹靂一閃”に七夜の体術“閃鞘・七夜”を掛け合わせた刺突技だ。

“神速”を越えた速度で心臓を穿つ、俺考案のオリジナル技。叔父さんにとって初見になるが──。

 

「っと、危ない危ない」

 

「おいおいマジかよ……」

 

 体を捌いて短刀を躱しつつ、伸びきった腕の下──丁度脇下を寸止めした刃が触れていた。

 逆袈裟の居合をカウンターで放たれたのだ。

 

「今のはヒヤヒヤしたよ」

 

 そう言う叔父さんだが、冷や汗すら掻いていないではないか! 

 もう完全に俺の負け。こっちは殺す気で行ったのに掠り傷一つ与えられませんでしたッ! 

 

「大分、呼吸術に体も慣れてきたかな。でもまだまだ伸び代がありそうだ」

 

「さいですか……」

 

 これでナンバー二ってマジ? うちのパパ上これより強いの?? 

 満足気な叔父さんに俺は引き攣った笑みを向けるのだった。

*1
吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」は出身の青森県北津軽郡金木町の田舎ぶりをオーバーに歌った自虐ソング

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  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
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