バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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 今年最後の投稿です!


バカと死徒

「──正気?」

 

 不意にアルクェイドが振り返り、その流麗な眉を潜めた。

 

「信じられない……余程、理性のない三下なのね。教会の目がある表で暴れ回るなんて」

 

 アルクェイドが見つめる先は駅の北口。その空が、茜色に燃えていた。

 幾筋も立ち上る黒い煙。大規模の火災が起きたようだ。

 

「アルク、あれってもしかして……」

 

「さっき見つけた地下墓地の主の仕業ね。血が足りなければ目の前の人間から補充する理性なき獣。死徒だというのに、人間社会のルールをちっとも分かってない」

 

 そう嫌悪感を感じさせる顔で呟いたアルクは真剣な眼差しをこちらに向ける。

 

「どうする志岐? このまま此処でネロと戦う? それとも、無差別に人を襲ってる吸血鬼を狩りに行く? 向こうに行くならわたしたちは、ネロとソイツを同時に相手にしないといけない」

 

 戦略的に考えるなら各個撃破した方がいいだろうが、その場合だと向こうの被害は尋常でないものになる。

 ネロとソイツの両者を同時に相手取る可能性はあるが……。

 

「いや、行こう。対岸の火事だからって見過ごせない」

 

「わかったわ。それじゃあ志岐、こっち」

 

 アルクに促されて向かった先は、路地裏。

 周囲を見回したアルクは「この高さなら行けそうかな」と呟くと俺の腕を強く掴んだ。

 

「上まで跳ぶわ。しっかり捕まってなさい」

 

「お、おおおおおお?」

 

 そう言うとビルの壁へジャンプしたアルクは、壁を足場にさらに跳躍。あっという間にビルの屋上を超えて上空まで舞い上がった。当然、アルクに捕まえられた俺もジェット遊覧飛行だ。

 

「わー! 風がきーもちー!」

 

 若干知能指数を落としつつ、俺もアルクの腕を掴み返して体勢を整える。

 次のビルの屋上を足場に再びジャンプ。アルクの呼吸に合わせて一緒に跳躍。

 あっという間にビルよりも高い高度へ到達する。

 

「息ピッタリね志岐!」

 

「アルクさんのおかげっすよ!」

 

 実際、呼吸が読み易いからタイミングも図り易い。

 まるで兎のようにビルとビルの間を跳んで行き──ようやく目的地に到着した。

 街を一望できる高層ビルの屋上。本来なら関係者以外立ち入り禁止であろう区域に降り立った。

 

「……チッ」

 

 燃えている。

 俺の街が、俺たちの街が、無惨にも燃えている。

 

 無情にも広がる炎の海が、駅を中心に広がろうとしていた。

 赤いヴェールに包まれた大通り。多くの通行人で行き交うそこには、燃え盛る死者たちが我が物顔で闊歩している。

 逃げ惑う人々に襲い掛かり、継ぎ火のように燃え移っていく。

 報道するニュースキャスターの切羽詰まった声や犠牲者の悲鳴、混乱する人々の怒声。

 様々な声が入り交じり混沌と化した様子を物語っていた。

 

 ──この野郎、俺の庭で好き勝手しやがって……っ! 

 

「志岐、あそこ」

 

 アルクの指差す方を見る。

 

 そこには、この火災を引き起こした張本人がいた。

 貴族が着るような典雅な洋服と毛皮のコートを纏った白髪の男。幽鬼のような目で目の前の惨劇を眺めている。

 俺にはわかった。離れた場所にまで伝わってくる、このゾクゾクした感じ。

 

 間違いない、アイツは吸血鬼だ。それも下等な雑魚どもとは違う、上質な獲物。

 死徒二十七祖のネロ・カオスを純金だとするなら、アイツは不純物の混ざった金。

 ネロ・カオスにはやや劣るが、それでも金は金だ。

 

「知ってる奴か?」

 

「いいえ、私の記録にはないわね。でも、あの炎がすべて超抜能力によるものなら、間違いなく祖の一角よ」

 

 そう言いながら周囲を見回すアルクェイド。誰かを探しているようだ。

 ネロか? 

 

「教会の連中よ。ここまで見境なしならそろそろ来てもいいはずだけど……いないわね。やっぱり、この国には赴任していない……? その割には交通規制はしっかりしてるし……ここの代行者、実戦派じゃなくて制服組なのかしら」 

 

 そういえばイスカリオテ的な人たちがやって来るんだったな。異端殺しのエキスパートたちが。

 カトリックなのかプロテスタントなのか分からないが、きっと神父サマなのだろう。

 

「なんにせよ、俺たちのやることは変わらない」

 

 まさに炎の河。その中でただ静かに佇む奴は、犠牲となった人たちの首筋に牙を突き立て、食事をしている。

 奴を囲む形で包囲網を築いた警官たちが、一斉に発砲した。

 乾いた発砲音が乾燥した夜空に響き渡るが、奴は微動だにしない。

 それはそうだろう。奴は吸血鬼。その中でも上位の個体だ。そんなものが通用するものか。

 警官の背後から近づいてくるのは、燃え盛る死体。おそらく、つい数分前まで生きていた人々だ。

 それは助けを求めるように警官たちに歩み寄り、無情にも押し倒した。

 

「どうする志岐。見ての通りあの吸血種は理性なき殺戮者。このまま傍観していればアイツは血を消費して弱体化する。楽をして傍観する? それとも──」

 

「乗り込むぞアルク!」

 

「方針に変更なしなのね。あれを見て気が変わらないなんて、志岐って本当に変な人ね。それとも七夜の人間はみんなそうなのかしら。まあいいわ……それじゃあ行くわよ」

 

 再びアルクェイドに捕まり跳躍。

 ひとっ跳びで炎の海の中へ舞い降りるのだった。

 

 

 

 1

 

 

 

 志岐を下ろしたアルクェイドは、男の元へ走る。

 無感情の目でアルクェイドを見据えた男は、悠然と手を翳した。

 男の手から放射される炎。近寄るだけで肌が焦げ、触れるだけで炭化する獄炎。 

 それが鋭利な爪を有する手となって放たれ、アルクェイドが振るった右手によって弾き流された。炎は搔き消えず、その余波が彼女の表面を焦がす。

 

 時間にしてわずか五秒の出来事。

 繰り出され、迎撃した数はおよそ十合。

 その結果を見届けた男は、厳かに腕を下げた。

 彼我の距離は十メートル。人知を超えた身体能力を誇る吸血鬼にとってはあってないようなもの。

 

「……真祖の姫君とお見受けする」

 

 口から蒸気を立ち上げながら、静かに呟いた。

 

「驚いた。喋れるだけの理性はあるのね。なら名乗りなさい。それくらいは許してあげる」

 

「……貴様に語るほどの名は、まだない」

 

「粗野な三流だけど恥は知っているようね。元の名は失った、か……でも呼び名くらいはあるでしょう? 仮にも祖の一角なんだから」

 

 アルクェイドの言葉に男の空気が変わった。周囲を燃やす炎の勢いが増していく。

 

「──ヴローヴ。ヴローヴ・アルハンゲリ」

 

 炎を巻き散らす男は嚙み締めるように、己の名前を告げた。

 その名は千年の時を生きるアルクェイドすら、記憶に留めていないものだ。つまりは、正当な後継者でない可能性が高い。

 不当に成り上がるとすれば、親が自滅するか、自分で殺すしかない。

 

「ご当主は、俺が、仕留めた」

 

 静かに語るヴローヴの周囲が歪み、周囲の温度が上昇する。

 左手でコートの下をまさぐる。

 

「俺は、俺が欲しいものしか奪わない……真祖の姫君。その心臓を、俺に寄こせ」

 

 カチャリ、と金属音を鳴らしながら取り出したのは、無骨な長物。

 長剣並みの刀身が特徴の大鉈だ。

 

 

 

 一方その頃、アルクェイドと別れた志岐は押し寄せる死者たちの処理に追われていた。

 斬っても斬っても何処からともなく湧いてくる。まるで無限湧きするモンスターのようだ。

 一人でカバーするには限界がある。

 このままでは、動く死者たちが街中に散らばり被害が拡大するのは目に見えている。

 志岐がただの高校生なら、数の多さに圧され押し通られていたことだろう。

 

 しかし、彼はただの高校生に非ず。

 裏の世界では知らない者などいない“あの”七夜の跡取り息子なのだ。

 彼と相対した死者の首が跳ねられる。志岐の仕業ではない。

 

「来たか……!」

 

 志岐の驚異的な動体視力は確かに捉えていた。

 雷の如き速さで走り寄り、一瞬の居合で首を跳ねたその人を。

 

「第五部隊、七夜源三。以下四名──馳せ参じました。お久しぶりですな若様」

 

「源爺!」

 

 卓越した雷の呼吸の使い手である杖の名手。皆のお爺ちゃんこと七夜源三(85)。

 

「第四部隊、七夜逸見。以下四名──推参! 加勢に来たぜ若!」

 

「逸見兄!」

 

 邪魔する奴は全部ブッ殺す! お館の邪魔になる奴もブッ殺す! ムカつく奴もぶちのめす! 

 岩の呼吸の使い手にして七夜の斬り込み隊長こと七夜逸見。

 

「第三部隊、七夜仁。以下四名──到着。これより殲滅する」

 

「頼んだぜ仁さん」

 

 首にマフラーを巻いた口数少なめの青年は七夜仁。

 風の呼吸の使い手であり、投擲術の達人だ。

 

「第ニ部隊、七夜雨露。以下四名──後れ馳せながら加勢する。待たせたね志岐くん」

 

「叔父さん!」

 

 そして、七夜のナンバー二であり父方の兄の七夜雨露。

 志岐に七夜式体術のイロハを教えた師匠の一人。

 水の呼吸を高純度で扱い、短刀を持たせれば右に出る者はいない、一族きっての短刀使い。

 

【七極】の中でも選りすぐりの精鋭たちが集結したのだった──。

 

「梓嬢から聞いてますぞ。これは、例の吸血鬼問題ですかな?」

 

 長さ九十センチの短杖を巧みに操り、群がっている死者の一人を小突く。

 軽い所作で頭を小突かれたサラリーマンの死者だがすぐに活動を停止し、力なく地面に横たわった。 

 その後頭部からは燻る脳髄が飛び散っている。

 

「梓の話だとアレか。若が探し回っているっていう吸血鬼。もしかしなくてもよぉ、例の報告にあったグールたちってコイツらの仲間じゃね? 燃えてるグールなんてコイツらぐらいしかいねぇだろ」

 

 豪快に槍を振ってゾンビたちを薙ぎ倒した逸見。上半身と下半身が千切れたゾンビの一体に歩み寄ると、徐にその顔を踏み潰した。

 他のゾンビたちの頭も槍の石突きで念入りに潰していく。

 頭を潰せば仕留められることを、これまでの経験から知っていたのだ。

 

「総耶区に蔓延る吸血種と特徴一致。若の報告を加味した場合、 残存勢力およそ五十。新規討伐対象、ネロ・カオスの乱入も要警戒」

 

 他が着物を着ているのに対し、一人だけ忍びのような黒装束に身を包んだ仁は、棒手裏剣を次々と投擲する。

 命中した部位が弾け飛ぶその様は、まるで火薬を仕込んでいるように思えるが、これは純粋な投擲技術によるものだ。

 教会では【鉄甲作用】と呼称している秘技を、七夜は長い歴史の中で盗み、独自に昇華させたのである。

 

「そうだね。彼の【混沌】も居るとなれば戦況は一気に厳しくなるだろうし、その前にアレらを片付けないと。ところで志岐くん……何故、吸血鬼と一緒にいるのかな?」

 

 両手に持った短刀で舞うようにゾンビたちを駆逐する雨露は、笑顔で甥に圧力を掛けた。

 本来であれば退魔師として駆除しなければならない獲物と行動を共にし、あまつさえ共闘しているのだ。七夜の跡取りとしての自覚を疑われても仕方がない。

 

「あー、彼女が吸血鬼問題の当事者。ちょっと訳あって手伝ってるの。でも真祖で血も吸ったことないみたいだし、実害はないから!」

 

「真祖とはいえ吸血鬼は吸血鬼。人間の味方ではないよ。彼女を信用し過ぎるのは良くないなぁ。まあ詳しい話は、コレが片付いてからにしようか」

 

 甥っ子の言葉に一先ず納得する。

 七夜としてはいくら無害とはいえ人外と手を取り合うなど許容出来る話ではないが、幼少の頃から志岐の面倒を見ていた彼は、甥っ子が自分たちとは違った価値観を持っていることに気づいていた。

 志岐の意思を尊重して上げたい気持ちもなくはない。場合によってはお目付け役を増やさなければならないかもしれないが。

 最近、うちの娘からの圧が凄いからなぁ。そんなことを考えながら、得意の閃鞘・八点衝で間合いにいるゾンビをバラバラにする雨露であった。




 来年もよろしくお願いします!
 よいお年を!

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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