明けましておめでとうございます、ということで続きです。
熾烈な戦いは続く。
摂氏三千度以上の炎で構築された“手”を放出するヴローヴ。
対するアルクェイドは鋭く伸びた爪で弾きながら距離を詰めていくが、間合いに入る度に大鉈で弾き跳ばされ、再び距離が開く。
まるで、いたちごっこのようだった。
万全の状態であったならこうはならないだろう。
数いる真祖の中でも最高傑作と謳われるアルクェイド。その実力は原初の一に匹敵する。つまりは、この惑星において最強の生命体と呼んでも過言ではない。
葬ってきた祖は数知れず。ヴローヴ程度の吸血鬼であれば片手間で始末できるほどだ。
それが今や、拮抗状態を作るほど衰退しているのだから、志岐の殺す力はそれほどまでに強力なのだと改めて理解したアルクェイドは苦笑を浮かべた。
──今のわたしは、さぞかし極上の獲物に見えるでしょうね。
揺らめく炎の園を疾駆するアルクェイド。
炎の河を飛び越えながら再び肉薄すると、無骨な大鉈が迎撃する。
ヴローヴの鉈に、術理に沿った明確な流派はない。ただ純粋に鉈捌きが上手いだけだ。
どう振るえば効果的に相手を破壊できるのか。どう角度をつければ相手を退かせることが出来るのか。
長年の経験から直感的に判断し、その都度的確に鉈を振るう。
今のところ、それらの解答はすべて正解だ。
なにせ、アルクェイドの攻撃を防ぎ切っているのだから。
ヴローヴの心臓を狙った爪が大鉈によって逸らされる。
分厚い刀身を沿った爪は彼の腕を掠めるに留まるが、その勢いに押されて今度はヴローヴが後退した。
骨まで達した深い傷。しかし、それも溢れ出た血液で即座に修復される。
「死に難いのがあなたの取り柄なの? 二十七祖も質が落ちたものね。このまま奥の手も見せないで、わたしに殺される?」
涼しげな顔のアルクェイドに対し、ヴローヴの呼吸は乱れている。
その顔は病的なまでに青ざめ、より苦し気な表情を浮かべる。
「クッ……ァアアアアアァァァアアアアアアア!!」
「──!」
吼えるヴローヴ。その怒りに呼応して炎が燃え盛る。
高さ数メートルに達した劫火の河。幾筋も枝分かれして巨大な手が構築される。
アスファルトを溶かしながら、かつてない高温の“手”がアルクェイドを襲った。
アスファルトを溶かすほどの炎だ。ニ割程度の力しかない今のアルクェイドでは体が持たないだろう。
しかし、そんな彼女を護るように割り込んだ影が、炎の手を散らした。
志岐である。
「志岐!」
「待たせた」
油断なく得物を構える志岐に向けて炎の手が連続で放たれる。人間なら近づくだけで発火し、触れればたちまち炭化する高熱の手。
それを、先ほどと同じく難なく散らして見せた。
ヴローヴの目が細まる。
「オレの炎を斬るだと? 何らかの異能の持ち主か」
そう。志岐の手には闇のように黒い刀【夜葬】。それでもって、“手”の線を斬ったのだ。
志岐自身も自覚していることだが、彼の魔眼は此処数年で格段にレベルが上がっている。
生き物の死、無機物の死、そして概念の死。
彼の死に対する理解は尋常ではなく、遂にはヴローヴの炎すら捉えたのだ!
「志岐、少しだけ時間を稼いで。体を耐熱仕様に作り替えるから」
「そんなことも出来るのか。オッケー、志岐さんに任せな」
炎の手を無力化したことにより警戒した様子のヴローヴだが、やることは変わらない。
即ち、寄らば斬る。寄らずとも斬る。寄って斬る。
「シィィィィィィ……」
志岐の口から静かな呼吸音が響く。
ヴローヴが手を翳して再び炎による波状攻撃を仕掛けようと思ったその時。
すでに、志岐は懐に潜り込んでいた……!
「なに──!?」
薄く目を見開いたヴローヴは咄嗟に大鉈を盾にする。
頑丈な鉄で出来た鉈。いくら夜葬が業物といえど、大鉈を斬鉄出来るほどの斬れ味はない。
迎撃ではなくガードを咄嗟の判断でしたのも悪くはない──いや、ベストな選択肢と言えるだろう。
彼が【直死の魔眼】持ちでなければ。
真っ直ぐ突き出された切っ先は、鉈に浮かび上がっている死の線を貫き、ヴローヴ本人に突き刺さった。
「チッ、ズレたか……」
狙いはヴローヴの死そのものを表す黒点──つまりは、喉。
だが、鉈を貫かれた瞬間、ヴローヴが咄嗟に得物をズラしたことによって、切っ先は胸元を貫いたのだった。
その瞬間、灼熱の世界が終わる。
陽炎の境界が崩れる。
「──ああ、本当に」
大気が軋む。
原子の活動が早きから遅きに切り替わる。
掲げられる冷血の腕。
広げられた手のひらは、それこそ暖かな熱を切望するようで──。
「──
世界が崩れる絶叫とともに、新たな世界が構築され──。
──あ、やっべ。
それは経験に伴う第六感。かつて鬼の棟梁を逃した時と同じ、死を知らせる予兆。
咄嗟に刀を引き抜いた志岐は、ヴローヴの足を払った。
体勢を崩され体が浮いた、瞬間──。
すべてを凍結させる寒波が轟いた。
それは『気温が下がった』と言うより『世界が変わった』ような前兆のない変化。
ヴローヴから走った氷の河は大気中の水分を氷結させ、頭上の雲を凍てつかせた。
形を崩した雲が、氷の雨となって降り注ぐ。もし、咄嗟に足払いを掛けていなければ、あるいはただ後退しただけならば。
志岐もろとも街の一角が凍り付き、あらゆる熱を奪っていたことだろう。
「うぉおおおおお! あっぶねえええ……!」
「志岐、無事!?」
跳び退いて距離を稼ぐ志岐にアルクェイドが駆け寄る。
耐熱仕様に作り替えたのだろう。タートルネックにスカートだったアルクェイドは、白を基調としたドレス姿に変身していた。
「もう、折角作り替えたのに徒労に終わっちゃったじゃない」
しかし、残念かな。敵は炎属性から氷属性に変わってしまった。不満顔のアルクェイドに志岐も肩を竦める。
「俺に言われてもな。クレームなら本人に言ってやれ」
「ええ、そうするわ。……ところで、ずっとそこで見ているつもりなのかしら?」
アルクェイドの視線が右側へ逸れる。
志岐もヴローヴを視界に収められる位置へ移動しながらそちらへ意識を向けると、そこには【混沌】の吸血鬼がいた。
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「──獲物を横取りするほど落ちぶれたつもりはない。そこの新参者が打ち勝つのであれば、それはそれで良い。と思っていたのだが……」
真祖の姫からの誘いだ。断るのもまた無礼というもの。
そう言って歩み寄ってくるネロ・カオスは、コートの下から従僕の獣を呼び出した。
もはやお馴染みの群青色の豹だ。
「志岐、アイツらを下に落とすわね。この下って空洞があるみたいだし」
「ならそれは俺がやるよ。アルクは合図をしたら飛んでくれ」
「いいの? じゃあ任せるわね」
「おっけー」
次々と豹や狼、グリズリー、ライオンなど狂暴な肉食獣を召喚するネロ・カオス。
一方でヴローヴは己の影に手を向けると、不自然なほど長い巨大な槍が浮上した。
この世ならざる鋼の巨槍を手にしたヴローヴは、冷たく凍てついた眼差しをアルクェイドに、志岐に、そしてネロ・カオスに向ける。
「──よくもオレから、ここまで
「その力──ゼリア・アッヘェンバウムのものか。子を作らぬまま己の領地を治める凍結の君主と聞いていたが」
「然り。我がご当主は凍結深層ゼリア・アッヘェンバウム。そして、オレはご当主さまに仕えるただの騎士だ。騎士だった。永遠など、オレには手に余るものだ。
だがご当主にとっても、ソレはより不相応だった。故に奪った。騎士として王を倒し、その玉座を簒奪したいまやこの原理は、オレだけの
凍てついた地面を蹴り豹が動き出す。
その凶暴な爪と牙が向かう先は、同じ祖のヴローヴ。
「彼の領土はこの星の一部でありながら“生きるに能わず”と除外された生命圏。いかに【混沌】であろうと、この地獄に耐えきれるか──ッ!」
向かってくる豹を迎撃せんと、強く巨槍を引き絞るヴローヴを中心に恐ろしく凍てついた寒波が吹きすさぶ。
ソレは波紋を広げるようにあらゆるものを凍らせる──。
「跳べ、アルク!」
刹那。ジリジリと移動していた志岐が刀を地面に突き刺した。
直死の魔眼越しに視えるのは、凍った大地に張り巡らされる黒い線と、それらが集束している黒い点。
死そのものを表す黒点を突いた瞬間、地面が瓦解する。
志岐の合図で一足先に跳躍していたアルクは瓦解に巻き込まれなかったが、ヴローヴとネロはその限りではない。
足場を失い、瓦礫共々地面へと落下する。
その中でヴローヴは見た。
あの人間が、自分を見つめているのを──。
“雷の呼吸・一ノ型 七夜式──七夜の霹靂”
瓦解したコンクリートを足場に疾駆する志岐。
その残像は紫電とともに弾け、まさに雷の如き早さでヴローヴの元へ向かう。
ヴローヴの背を、久しく感じていなかった悪寒が走り抜けた。
「──!」
「……チッ!」
冷気を切り裂く刃が振るわれ、ヴローヴの左肘から先を斬り跳ばした。
本来は首を狙った一撃であったが、直前でヴローヴの魔眼が介入。
すぐに振り払ったもののコンマ以下の余地を相手に与えてしまった結果である。
巨槍で振り払うヴローヴ。刀で受け止めながら、巨槍を足場に後方へ跳躍した志岐は、難なく着地した。
地下空洞は直径二十メートルほどもあり、新たなステージとしては申し分ない。
駅前にこんなバカデカイ空洞があったなんて。この機に発見できて良かったー。と、一般市民目線からの感想を抱きつつアルクェイドが加勢してくる。
耐熱仕様になったからか、振り下ろされる爪の威力はこれまでの比ではない。
たまらず後退するヴローヴに第二、第三の爪を繰り出す。
「邪魔すんな犬っころ!」
そんなアルクェイドを妨害しようと猟犬の如き駆ける豹たちだが、彼女の背を護る志岐に悉く斬り伏せられた。
「んなにぃ!?」
地に伏した豹たちの体が崩れ液状化すると、志岐の足を飲み込む。まるで沼地のようにぬかるんだ地面。
足を引き抜こうとするが、まるで離れない。その間にも第二第三の獣たちが追撃してくる。
志岐の呼吸が「シィィィィ」というものから「ゴウンゴウン」と重い音に切り替わった。
「舐めんなよ害獣……! これしきで七夜が務まるとでも、思ったかああああ!」
イエス・ロリータ・ノータッチ・オッパイ・パイパイ・キモチー!
岩の呼吸の技術の一つに“反復動作”と呼ばれるものがある。あらかじめ決めていた動作を行うことで、瞬時に集中力を高める技法だ。
現代ではルーティーンという名で確立された技術だが、極めれば呼吸と合わせて爆発的な力を得ることが出来る。かつて岩柱として名を轟かせた悲鳴嶼行冥は、念仏を唱えることで常に集中力を切らさずにいたと言われている。
岩柱に倣い、呪文を“反復動作”にした志岐は、超高速でこれを唱えることで驚異的な膂力を発揮できるのだ!
「カァッ!」
三方向から同時に攻撃を仕掛けて来た豹たちを、同じく三方向同時に迎撃するという無茶ぶりで撃退する志岐。
何気に“多重次元屈折現象”と呼ばれる絶技を披露した志岐だが、それを見ている人は誰もおらず。自分も大層なことをした認識がないため、あっさりと足元の沼の点を突いて脱出した。
「真祖の姫が連れている使い魔にしては脆弱な生き物だな」
「なんだァてめェ……」
すました顔でつぶやくネロに思わず激昂する志岐。
挑発の意図もないのに勝手に挑発されるのは。そういった仕様なのだろう。
ピントを合わせて直死の魔眼モードをオンにした志岐は、ネロの体に視線を這わせるが、その異常な在り方を見て思わず戦慄した。
「な、なんだテメェ……っ!」
不思議なことにネロの体には黒い線はない。その代わり点だけが存在するのだが。
その数が膨大過ぎる。
十や二十なんてものではない。明らかに百以上の数があるのだ。
「……そうか、これはアイツの使い魔の!」
ネロ・カオスの体には使い魔が巣くっている。アレらの点はすべて使い魔のものなのだろう。
だとすれば、一体どれほどの使い魔がいるのだろうか。
「志岐、避けて!」
「──!」
背後から鋭い殺気。反射的にその場を飛び退くと、今しがた立っていた場所を巨槍が穿った。
遅れて衝撃波が周囲に吹きすさぶ。アルクェイド諸共串刺しにする魂胆だったようだ。
同時にネロの片腕が上がり、マントのようにはためいたコートから無数の生物が飛び出していく。
数匹の狼が轟音を上げて氷の河を疾走し、豹の形をした獣が弾丸のような速度でアルクェイドに迫った。
志岐に迫る影はない。どうやら戦力外として見なされているようだ。
「……っ! 次から次へと……!」
雷の呼吸で先回りした志岐は、霞む勢いで刀を振るって豹を解体する。
その後ろから跳び出たアルクェイドは、迫る狼の頭を地面に叩きつけて粉砕し、鋭い爪で切り裂いた。
「ちぃッ!」
背後からの殺気。振り返ると巨大な氷柱を形成したヴローヴが弾丸のように飛ばしてくる。
“水の呼吸・一ノ型 七夜式──流水・八点衝”
変幻自在の刃で氷の線を斬り、なんとか凌ぐ志岐。
その視線の先には、瓦礫の下から何体もの死体が這い出てくる光景があった。
「あらゆる苦しみを上回る万能の血を、我が手に」
「このまま二人を同時に相手するのは得策じゃないわね。わたしはヴローヴを殺るから、志岐はネロの相手をお願い。あなたの眼は天敵だもの」
「死徒たちって仲間意識ないんだよな。なら同士討ちを狙うのは?」
「難しいわね。アイツら、わたしを倒すことを第一目標にしてるみたいだし。むしろ、この場限りで共闘するかも」
「じゃあ各個撃破した方がいいわな。合点承知の助」
三つ巴の戦いは佳境を向かえようとしている。
どの程度、月姫について知っていますか?
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無印、リメイクともにプレイ済み
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無印のみプレイ済
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リメイクのみプレイ済
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未プレイだけど設定・世界観は知ってる
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まったく知らない