バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカと訪問

 門限を延ばすことは叶わなかったが、それでも借りた猫のように大人しい秋葉ちゃんを膝に乗せての後ろから抱っこは非常に倒錯的なものがあり、正直に言うと、うん。メッチャ柔らかくて良い匂いがしました。

 琥珀ちゃんの要望もなんか話の流れで受け入れる方向へ進み、「あれ? 叶えてもらうのって俺だったような⋯⋯」と思うところはあれど、男の子としては望外な望みでして。

 翡翠ちゃんは緊張のあまり全身ガッチガチで、まるでロボットのようにぎこちなく俺の膝に座ったが、服の上からでも分かるほど華奢で柔らかく、やはりメッチャ良い匂いがしました。

 秋葉ちゃんや翡翠ちゃんはそんな感じだったけど、琥珀ちゃんは逆にリラックスしていたな。俺の体を完全に背もたれ扱いしていたし、なんなら抱きしめた手に悪戯を仕掛けてくる程度には余裕があった。

 だけど、その悪戯っていうのがなんというか、メッチャエッチで。何だかねちっこく指と指を絡めてきたんだ。いや、恋人繋ぎとかそんな次元の話じゃない。あれは、手と手のセックスだね。当然ながら俺も意識しちゃうしドキドキしちゃうんだけど、そんな俺を手玉に取ってる感じがあった。こんな時でもお姉さん属性を崩さない琥珀ちゃんにさしもの俺もビクンビクン。

 

 まあ、そんな感じで幸せな三分間を送ったわけだが、現在俺は街に出掛けている。

 時刻は午後の六時。今夜もアルクのお手伝いでロア探しだ。

 待ち合わせ場所である中央公園に到着。

 アルクは⋯⋯いた。何だかソワソワした様子で公園の時計をチラ見している。

 アルク、と声を掛けると勢いよく振り向いた彼女は、パァッと顔を輝かせた。

 

「志岐!」

 

 そして足早に駆けつけてくる。なんか主人の帰りを喜ぶゴールデンレトリバーみたいやな。

 

「こんばんは。今夜も良い夜ね」

 

 後ろに手を組みながら俺の顔を覗き込むように下から見上げ、にぱっと笑みを浮かべるアルク。

 うーん、この天真爛漫な笑顔よ。今朝の夢で見たエロアルクも良かったが、やっぱこっちのアルクの方が個人的に好きだな。

 それにしても、アルクのことを好いているとはいえ、エロ夢で当人が出てくるとはなんというテンプレ。

 前世を経験している俺も流石に想い人がエロ夢に出演することはなかったんだが、そんなに溜まってるのか? 

 あー、でも遠野家に厄介になってからは、満足に自家発電出来てないからなぁ。家でやれば絶対にバレるし。

 じゃあ、どこで発電しているのかって? 実家ですよッ! 

 

「昨夜はどうだった? 誰が出て来た?」

 

「は?」

 

 やけに楽しそうな笑顔を浮かべたアルクが俺のことを見上げてくる。

 昨夜に誰か出てきたって、なんの話だ? 

 

「ね、教えてよ。志岐がどんな夢を見たかぐらい、教えてくれてもいいじゃない」

 

 興味深々な子供のように、ねーねーと声を上げるアルク。

 っていうか、夢って──? 

 

「もしかして、あの夢って……」

 

「あれ? 夢魔送ったんだけど届いてなかった?」

 

「夢魔……」

 

 夢魔ってあれだよな。エッチな夢とか見せるサキュバス的なやつのことだよな。

 そうか、今朝の淫夢はその夢魔の仕業だったのか……。

 

「志岐が望むような夢を見せるように命じておいたんだけど。ね、いい夢見れた?」

 

「ありがとうございました!」

 

 これからおっぱじめるところで目が覚めてしまったけど、大変有意義な時間でした! 

 ていうことは、その夢魔ちゃんがいれば今後は好きな夢を見放題ってことだよな。それって控えめに言って最高じゃん! 

 次回もお願いしよう。今度は淫夢ではなくアクション映画みたいな感じで。

 今後どんな夢をお願いしようかと妄想を働かせる俺に、アルクの催促が続く。

 

「よかったー、やっぱり届いてたんだ。ね、ね! 誰が出て来たの?」

 

「アルク」

 

「……えっ?」

 

「だから、アルク」

 

 自分が出てくるとは思わなかったのか、キョトンとした顔で自分を指さす吸血姫に至極真面目な顔で大きく頷く。

 しばし無言の間が広がるが、ボンッと音が聞こえそうなほど顔を真っ赤にしたアルクは、口をむにゃむにゃ動かしながら恥ずかしそうに視線を切った。

 

「ふぅん、わたしが出てきたんだ⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

 俺も今朝のことを掘り起こすのは、ちょっぴり気恥ずかしいからスルー。

 それはそうと、なんで夢魔なんて送り込んだんだ? 

 

「ネロとヴローヴを倒してくれたお礼よ。ヴローヴだけならまだしも、わたし一人でネロを相手にするのは分が悪かったでしょうし。だから、そのお礼」

 

「その気遣いはすごく嬉しいし、ぶっちゃけメッチャいい夢が見れたけど、元々俺のせいなんだからそこまで気を使わなくても」

 

 そもそも俺がアルクを襲っていなければ、力が弱まることも無かっただろうに。

 

「……迷惑だった?」

 

 しゅん、と肩を竦めるアルク。

 なんていうか、アルクの感情表現は本当にストレートだ。喜んだり怒ったり反省したり、自分の感情に正直でくるくると表情が変わる。

 そこもまた、彼女の魅力の一つなんだよな。とアルクの良い所を再確認しつつフォローを入れる。

 

「いやそんなことないって。メッチャ嬉しかったよ」

 

 ありがとな、とアルクの頭を撫でる。

 キョトンとした顔で彼女は気持ち良さそうに目を細め、大人しく頭を撫でられた。

 

「これが撫で撫でっていうやつね。良いわねこれ、すごく気持ちいい」

 

「お気に召したようなら何より。ところで、その夢魔はどこにいるんだ?」

 

 素敵な夢を見せてくれたお礼を言っておきたい。

 

「レン、出てきなさい」

 

 アルクの言葉に近くの茂みが揺れる。

 そこから出てきたのは、一匹の黒猫だった。

 

「えっ? この子が、夢魔⋯⋯?」

 

「そう。人間の少女の魂と、黒猫の死体から生み出された使い魔。昔、この子を創造した魔術師から預かってね。レンっていうの」

 

 黒い毛並みに赤い目の黒猫の子猫。大きな黒いリボンを首に付けており、その美しい毛並みには少しの汚れや乱れもない。

 夢魔って言うから妖艶なお姉さんが出てくるかと思いきや、まさか人型ですらないというね。

 愛らしい子猫の出現に俺の目は釘付けだ。

 

「レンちゃんか。可愛いね」

 

 おいでおいでをする俺をガン無視してアルクの側に歩み寄ってきたレンちゃん。

 志岐がお礼を言いたいんだって、とアルクが伝えると、その涼やかで整ったお顔をこちらに向ける。

 

「昨日は素敵な夢をありがとう。どうしてもお礼を言いたくてね」

 

 そして、今後も素敵な夢を見せてください。

 俺の欲望増々な言葉を聞き届けたレンちゃんは、特にアクションを起こすことなく踵を返して去って行ってしまうのだった。

 あぁ、お猫様……。

 

 

 

 1

 

 

 

 一方その頃、遠野邸。

 遠野家当主の執務室に佇むとある人物。月明かりに照らされて伸びた影が、部屋に備えられた書棚から一冊の分厚い書物に手を伸ばした。

 家主の居ない執務室に、ページを捲る音が静かに響く。

 

「有間、久我峰、軋間、斉木、そして宗家遠野⋯⋯。両義、浅神、巫浄⋯⋯こっちの枠組みは別の意味があるのかしら」

 

 首を傾げる影。専門外のためその者は知らないが、知識ある者ならば、そこに記されているのが混血の一族であることと、それを退治する退魔の血族の家名だと察することが出来るだろう。

 その外にもルーンや祈祷術の学術書や古文書だったり、おおよそ企業家らしくない蔵書の数々。

 その中の一冊を開くと、くり抜かれたページの中に鍵が埋め込まれていた。

 

「この鍵は……」

 

 目についた執務机に向かう。一番上の引き出しは施錠されており、見つけた鍵を差し込んで回すとカチッと外れた。

 中には印鑑や重要書類が入ったファイル、そして一冊の古い冊子。

 

「家系図……」

 

 どうやらそれは、遠野家の家系図のようだ。

 初代当主は戦国時代の人間のようで、その血が脈々と現代に至るまで続いているのが分かる。

 しかし──。

 

「遠野槙久の五十歳を前にしての事故死はともかく、その前は二十代、その前は自殺……」

 

 ほとんどが三十歳未満で亡くなっており、その死因は発狂死、自殺、他殺、行方不明、死産など。

 まるで呪われているとしか思えない血族だ。

 眉間に皺が寄ったその人は、引き出しの奥に眠っていた手記に気づく。

 

「……遠野槙久の手記」

 

 ゆっくりと手記を捲る。

 果たしてそこに書かれていたのは──。

 

「──こんな夜分遅くに、父の部屋に何の御用でしょうか、お客様」

 

 いつからそこに居たのか、腕を組みながら壁に寄りかかった秋葉の声が、その背に浴びせられた。

 手記を引き出しの中に戻し、ゆっくりと振り返る。

 執務室を物色していた人物は、修道服に身を包んだシエルであった。

 

「突然のご訪問……しかし、何のおもてなしも致しませんで、これは当主の不手際。申し訳ありません。ですが……失礼ながらどちら様でしょうか?」

 

 険しい表情で不法侵入者を注視する秋葉。

 耳を澄ますと轟々、と猛々しい音が聞こえる。

 喘息か何かでしょうか。内心首を傾げたシエルは、温和な微笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「──今日は確か、お出かけではなかったんですか?」

 

 日中、志岐から聞いた話によると、今夜は親族会議で遅くなるとのことだが。

 果たして、それは本当なのだろうか。

 

「昨日も深夜どちらかに出かけてましたね。どこに行ってたんです?」

 

 秋葉の眉が一瞬跳ね上がる。

 

「…………。名乗らないようなお客様にお答えする義務はないと思いますが。いかが?」

 

「あー……困りました。あの、ですね。実は本当の名前は捨てちゃいまして。その、今は名前がないんです。それでも名乗るのでしたら──」

 

 茶道室で一緒にお茶をした後輩の顔が脳裏に蘇る。

 退魔の一族である七夜の人間でありながら、のほほんとした顔でお茶を飲むその姿を思い出し。

 思わず、くすっと笑ってしまう。

 

「そうですね、ただの“お節介さん”とでも申しましょうか」

 

「──」

 

 思いがけない返答に、少しだけ肩の力が抜けてしまう秋葉。

 咳払いで気を取り直し、詰問を続ける。

 

「それで? そのお節介さんが我が家に何の御用向きでしょうか」

 

「悪いクセです。ちょっとほっとけないかなぁって思っていたら、気づいたら此処に来てました」

 

 要領を得ない返事に眉毛を寄せる秋葉だが、シエルは気にせず言葉を続ける。

 

「私、とある縁でヤツの行き先がある程度わかるんです。確かに、アレはこの街に降りました」

 

「……?」

 

「奴が狙う可能性が高いのは……裕福であること、優れた血統、そして資質があること。この街で遠野家はもってこいの家柄なんです。でも、町で起きている事件は今一つハッキリしません。犯人は間違いなく遠野家、もしくはその血縁者であるはずなんですが……」

 

 すみません、身近な方の中に吸血鬼なんていらっしゃいませんか? 

 その言葉に、秋葉の緊張感が高まる。

 切れ長の目を細め、侵入者を見据える。

 

「……貴女、誰?」

 

「言いましたよ?」

 

 シエルはにこやかな表情を崩さないまま、腕を水平に持ち上げ。

 

「ただの“お節介”です」

 

 刹那、シエルの手の平から生まれた光が、部屋の中を包み込んだ。

 眩い光で目が眩む秋葉。その隙を逃さず、光によって一直線に伸びた自身の影に投擲剣──黒鍵を突き刺す。

 

「……っ」

 

「無駄です。私の影があなたを掴んで離しませんから」

 

 金縛りにあったかのように体が動かない。シエルから伸びた影は秋葉を呑み込み、その上から黒鍵を突き刺すことでピン止めをしたのだ。

 日本では影縫いと呼ばれる呪法である。

 

「あなたからは人間以外の臭いがしますね、遠野秋葉さん」

 

「──何のことだか分からないけど、仮に私がその吸血鬼ならどうするんです?」

 

「適切な処理を」

 

 修道服の内側から取り出す十字架の柄。

 魔力を通すと根元から刀身が構築され、投擲剣の姿を形造っていく。

 

「貴女を殲滅し、事後処理をした後、土地を浄化するという方法を取ると思います」

 

 笑顔を浮かべながら、今夜の献立のメニューを話すかのようにすらすらと殺害宣言を下すシスター。

 しかし、腕を組む秋葉は微塵も動揺することなく、侵入者を睥睨している。

 

「……残念ね。私は貴女の言っている吸血鬼ではないわ。けれど、ここまでされて黙っていられるような人間でもない」

 

「困りましたね。普通にお話が聞けないのであれば、力づく……もしくは、七夜くんにもう一度聞くべきでしょうかね」

 

「──」

 

 それは、彼女にとって逆鱗に触れる一言だった。

 

「ぐっ……!?」

 

 突如、シエルの顔を何かが襲う。

 彼女の顔を赤い鱗粉のようなものが包み込むと、破裂。

 その顔に火傷のような跡を付けたのだ。

 

 未知の攻撃手段にシエルは逃走を選択。窓ガラスを突き破って中庭へ逃げる。

 影の束縛が解除された秋葉は、怒りに燃えた眼差しを窓ガラス越しに向けた。

 

「……どこの誰だか知らないけど、兄さんには一歩も近づかせない」

 

 それは、あの日に掲げた誓い。

 兄を害する存在は尽く排除する。たとえ血の繋がった者であろうと。

 死に瀕した血塗れの兄の姿が一瞬脳裏を過ぎるが、すぐに頭を振って掻き消した。 

 

「行くわよ、二人とも」

 

『承知いたしました』

 

 部屋の前に控えていた双子姉妹は恭しく頭を下げるのだった。




 秋葉の能力って結構視覚化し難いんですよね。
 メルブラはメルブラ特有の表現でしょうし。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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