バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

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バカと襲撃事件

 ――ふと、目が覚めた。

 

 ――暗い夜。家の中にみんなは居ない。

 

 ――独りきりは怖いから、みんなに会いたくて庭に出た。

 

 ――屋敷の庭はすごく広くて、周りは深い深い森に囲まれて。

 

 ――森の木々は黒く黒く、大きなカーテンのようだった。

 

 ――それは、まるでどこかの劇場みたい。

 

 ――ざあ、と木々のカーテンが開いて、すぐに演劇が始まるのかとワクワクした。

 

 

 

「――なんてロマンティックなことを考えつつ、鼻ほじってまーす」

 

 居間で畳の香りを胸いっぱいに吸いながらうたた寝していた時、村中で動き回る人の気配で目が覚めた俺。

 家の中には誰も居ないようだったから気配がする方向へ向かっていると、いつの間にか森の中だ。

 耳を澄ませば喧噪の声が聞こえる。何やら木々が倒れる音や甲高い金属音など。騒音ってレベルじゃねぇし。

 

『敵襲だ! 結界が破られた!』

 

『女子供を避難させろ!』

 

『野郎ども、打って出るぞ! 七夜を敵に回したことを思い知らせてやれッ!』

 

 へいへいへーい、お祭りかい!? 俺も混ぜろよコノヤローバカヤロー!

 うぇーい! と肌身離さず持ち歩いている飛び出しナイフを手に駆けだそうとすると、誰かに腕を掴まれた。

 

「志岐! こちらへ!」

 

 ママ上だ。

 血相を変えたママ上は有無を言わさず俺の手を引き、来た道を引き返していく。

 喧噪から遠のいていく中、ママ上に尋ねた。

 

「母上……。何が起きてるん?」

 

「詳しいことは分かりませんが、何者かが森に侵入したそうです……!」

 

「へー」

 

 うちって敵が多いみたいだから、それだけ恨みを買ってるんだろうね。

 しかし、人外魔境の七夜に喧嘩を売るとは……自殺志願者なのかな?

 

「志岐?」

 

 避難場所として指定されている地下倉庫へ向かう中、足を止める。

 怪訝な顔で振り返るママ上。内股で足をもじもじさせながら、困り顔で下から見上げた。

 

「おちっこ」

 

「我慢できませんか?」

 

「む~り~!」

 

 漏れちゃうよー! と言わんばかりに足踏みする。コツとしては本当に困ってる感を出すことだ。

 眉根を寄せたママ上。ここから厠まで十メートルほどの距離だが、地下倉庫は反対方向にある。

 一瞬黙考した様子のママ上だが「すぐに避難するのですよ!」と手を放してくれた。

 

「フッ、母上ちょろすぎ」

 

 もちろん、トイレなんて嘘である。

 

「さてと……」

 

 こちらに近づく複数の気配。うちの人たちなら気配がメチャクチャ薄いから、多分侵入者だろう。

 パパ上たちが広場で迎え撃っているはずだが、こっちに人を回す余裕がないほど数が多いのか。

 暗闇に紛れながら現れたのは、特殊部隊のような格好をした三人組の人たち。

 黒のタクティカルアーマーを着込んだ彼らは暗視装置を装着したまま、こちらに近づいてくる。

 アサルトライフルを構えながら、バレルに取り付けられたレーザーポインターが獲物を探すように暗闇の中を泳いでいた。

 

「……! ここにも居たぞ!」

 

「七夜のガキか!」

 

「殺せっ!」

 

 サプレッサーを付けているのだろう。抑制された銃声が連続して鳴り響き、俺が立っていた場所を通過していく。

 

「消えた!?」

 

「何処に――」

 

 判断が遅すぎる! 鱗滝先生なら平手打ちだっただろうが安心しろ、俺ならぶっ殺す。

 銃口を向けられると同時に“閃鞘・七夜”。超高速で接近し、すり抜け際に急所を斬る技だが、雷の呼吸で瞬発力を高めているため高速が瞬間移動になってるかもしれない。

 腰の高さで分断されたターゲットが内臓を撒き散らしながら倒れるのを見届け、再び音を立てずに大地を蹴る。

 耳をすませば「シィィィィィ……」という呼吸音が聞こえただろうが、見るからに冷静さを欠いている侵入者たちの耳には届いていない様子。

 

「いつの間に……!」

 

「馬鹿な、こんなガキが……ッ」

 

 久々に直視モードオンにしているが、すげぇ視難い。

 視界に映る線って黒色だから闇に溶け込みやすいし、黒のタクティカルアーマー姿だから、よく眼を凝らさないと区別が出来ねぇ。

 運良く斬り付けた場所に線があったからよかった。

 

「クソがっ!」

 

 慌てて銃口を向けてくるが、既に木々を使って次のターゲットの上空へと移動している。

 木の枝を蹴って加速しながら、無防備な延髄を一突きして、と。

 この程度の実力で俺の前に立つとは、ヴァカめ!

 

「化け物め……!」

 

 おっと。

 今度は素早く銃口を向けてきたので、今し方仕留めた男をそちらに向かって投げ飛ばして妨害。

 縺れ合うその隙に立体駆動術で背後を取り、口を塞ぎながら素早く腋窩動脈と頸動脈を切り裂く。

 血飛沫を上げて倒れる男。これで大丈夫かな。

 周囲に男たちの仲間がいないことを確認した俺は、ナイフにこびりついた血を男のズボンで拭うと、取りあえず金になりそうなものを剥いでいく。

 

「暗視ゴーグルとライフルは絶対売れるだろ。あ、斬らずに折ればアーマーも売れたなぁ……さすがに血は落としきれないよな」

 

 しくった。今度はその辺も考えて戦術立てないと。

 売れそうな装備一式を家まで運び、さてどうしようか。

 

「まだ戦闘続いてるのか、珍しいな。皆なら即撃退できそうなものなのに……」

 

 パパ上たちが居るであろう方角からは、未だに喧騒の音が聞こえてくる。

 必要ないかもしれないが応援に向かうべきか、それとも此処に残ってママ上たちを守るべきか。

 

「……行くか」

 

 ママ上たち女性陣はパパ上たちのように立体駆動術を扱えないが、全集中の呼吸は使えるし型も一通り教えてある。

 七夜の体術が出来ない代わりに呼吸術と型の練度は鬼殺隊員レベルと言えるだろう。元甲の俺が太鼓判を押してやる。

 念のため、圏聴――全集中の呼吸で聴覚を強化する――で半径一キロ圏内の気配を探るが、俺が感知出来る範囲ではパパ上たちが暴れ回っている場所と、ママ上たちがいる避難場所以外人の気配は感じられなかった。

 

「そういえば、前世含めて人を殺したのは初めてだな」

 

 よく罪悪感がどうのこうのと聞くが、そんなものは全然湧かない。まあ殺したのが俺にとってどうでもいい人の上、そもそも敵だからな。

 鬼を滅するのも、どうでも良い人間を殺すのも、俺にとって大した変わりはないようだ。

 

 

 

1

 

 

 

 木々や枝、空中を舞う落ち葉などを足場に飛ぶように広場へと向かい、ほんの数秒で到着。

 茂みの中に隠れながら状況を見守っているが、もはや迎撃戦というより残党狩りになっていた。

 襲撃者は五十人ほどで、数は向こうの方が圧倒的に有利だが個の戦闘力は比較にならない。

 全集中の呼吸で七夜の体術を駆使しているのだから、当然と言えば当然か。

 だけど、中でも二人だけ異様な存在感を放っている。

 

「俺の私兵が、こんなにもあっさりと……七夜黄理だけでなく、一族全員がバケモノとはな」

 

 全身血だらけで今にも死にそうな顔をしている壮年の男。異能力を有しているのか、右手から飛び出ている血で出来た剣で周囲を牽制している。

 彼の能力を警戒しているのか、五人で囲みながら連携を図りつつ攻撃を仕掛ける大人たち。最期は体中の急所を斬られて倒れ伏した。

 

「七夜、黄理……!」

 

 もう一人は筋骨隆々のノースリーブ男。どんな怪力をしているのか、無造作に腕を振るっただけで倒木した。

 そんな怪力ノースリーブ男と対峙しているのはうちのパパ上。両手に持った金属鈸で男の力をいなしつつ、風のように鋭く打ち据える。

 パパ上の膂力は一般的な成人男性とほぼ変わらないが、卓越した技術で点穴などの急所に必ずダメージを与えてくる。

 極限まで暗殺技巧を高め、七夜の極致に立つのが七夜黄理ことうちのパパ上だ。本当、何で大正時代に生まれなかったんですか!

 

「……反転したか」

 

 劣勢に立たされていた怪力ノースリーブ男の腕から、一瞬炎が巻き上がった。

 呼吸で幻視するソレではなく、物理的な現象なのは焦げた臭いから分かる。ノースリーブ男も異能力者か……。

 しかし、パパ上にとっては大したアクシデントではないようで、眉一つ動かさず冷静に鈸を操っている。

 

「オオォ……!」

 

「……」

 

 異能力を駆使したノースリーブ男との戦いは非常に濃密で、息をするのも忘れてその光景に魅入った。

 しかし、肉体に蓄積したダメージは計り知れず、ついに膝を付いたノースリーブ男。その隙を逃さないパパ上ではないが――。

 

「――」

 

 何故か、脳天に振り下ろしたその手を止めるパパ上。

 起死回生のチャンスにノースリーブ男が咆哮しながら、その太い掌底を叩き込もうとして――。

 

「何やってんだバカ上ぇぇえええ――ッ!」

 

 慌ててダイナミックエントリー!

 最速の呼吸であり他と比較しても使う事が多い雷の呼吸で加速した俺は、全体重とスピードを乗せた蹴りをノースリーブ男に叩き込んだ。

 異能により燃え盛る掌底がパパ上に命中する寸前で、その体を強引に引き離す。

 紙切れのように吹き飛んだノースリーブ男は木々を圧し折りながら、森の奥へと消えていった。

 

「志岐……何故ここにいる」

 

 珍しく瞠目して表情を変えたパパ上。

 自宅から愛刀の夜葬を持ってくれば良かったなと思いながら、サブウェポンのナイフを逆手に持ち森の奥を見据える。

 

「そんなの、戦うために決まってる」

 

「駄目だ。環たちとともに避難していろ」

 

「ヤダ。俺も戦う」

 

「我儘をーーお前、既に……」

 

 俺が経験済みである(処女でない)ことを見抜いたか。返り血は浴びていないから臭いかな。

 七夜の技は退魔を目的としたものだが、家族が襲われてるんだ。人に向ける理由付けとしては十分。

 

「殺ったよ。ていうか、今は無駄話してる場合じゃないでしょ」

 

「…………後で説教だ」

 

 ゆっくりとノースリーブ男が現れる。

 我ながら中々の威力だったと思うんだが、男は堪えた様子はない。

 巌のような顔のノースリーブ男は俺に視線を向けてくる。

 

「……七夜黄理の息子か」

 

「うちに喧嘩売るとは良い度胸してるじゃねえか。その度胸に免じてぶっ殺してやんよ」

 

「志岐」

 

「七夜黄理が一子、七夜志岐がお相手仕る」

 

 ママ上程ではないけどパパ上もそこそこ礼儀作法に五月蝿いからな。

 いつも以上に気を引き締めないと、ついつい汚い言葉が出てしまう。

 

「フゥゥゥゥ……」

 

 地を這うように走りながら、手にしたナイフを奔らせる。

 相手の異能は炎系だから、こっちは水の呼吸で応戦だ!

 

“水の呼吸・参の型 七夜式ーー流水・八点衝”

 

 水の呼吸による“閃鞘・八点衝”は変幻自在の刃。あらゆる角度からの斬擊の軌道を途中で変えることが出来る技だ。

 まるで流れる水の如く、そして蛇のように複雑な軌道を描きながら男の急所目掛けてナイフを奔らせる。ノースリーブだから急所が丸見えだし。

 いつの間にかノースリーブ男の背後に回っていたパパ上も、俺の攻撃に合わせて撥を振り上げていた。

 

「兜神!」

 

 その場で大きく足を振り下ろすノースリーブ男。足元から巻き上がった炎が、ノースリーブ男を守るように囲む。

 火傷するだろうが構わない。肉を切らせて骨を断つ精神で、七つの急所を素早く斬りつけるがーー。

 

「ーー硬った! マジか……!」

 

 恐ろしい密度の筋肉。まるで鉄線の束を斬りつけたような固い手応えだ。

 刃は皮膚と筋肉の表面を少し切り裂いた程度で、致命傷には程遠かった。

 こちらに踏み込むことでパパ上の攻撃を回避したノースリーブ男は、掌に炎を纏わせながら突き刺すように掌底を繰り出してくる。

 入身で躱しなら伸び切った腕を注視。

 薄らと見えていた黒い線がハッキリと視界に映ったと同時に、逆手に持ち替えたナイフで下から斬り上げる。

 

「ぬっ……」

 

 先ほどのような抵抗は一切なく、ナイフは恐ろしいほどスムーズに黒の線をなぞり、男の前腕を斬り落とした。

 目を見開く男を他所に、勢いを殺さずにそのまま反転。

 呼吸を水から炎に切り替えて、姿勢を低くしながら左足で突き上げる。

 

「ぐぅぅ……ッ!」

 

 体道で卍蹴りに近いかな。あれは弧を描く軌道だが、これは直線で下から蹴り上げる技だ。

 男の急所である股間に爪先が刺さり、全身を連動させて最大限のバネを使って突き上げる。

 ノースリーブ男の足が地面から浮き、体と意識に完全な隙が生まれた瞬間。

 

「極死ーー睦月」

 

 ノースリーブ男の背中目掛けて、両手の撥を水平に薙ぐパパ上。

 すると、男の背中ーーいや、胸から鐘を突いたような重い金属音が鳴り響き。

 

「ゴホッーー」

 

 その口からどす黒い血が溢れ出た。

 

(これが、極死・睦月……!)

 

 以前聞いた話では全部で四つあると言う、七夜式体術の奥義。確実に相手を仕留めることから極死と冠された、超絶技巧。

 大人たちで極死を体得している人は極僅か。その上、複数の極死を習得出来たのは、パパ上のみという。

 極死・睦月は浸透系の技で、壱の上から弐の攻撃を間髪入れずに行うことで内部に衝撃を与え、臓器を破壊するらしい。

 

 膝を付くノースリーブ男。どこか憑き物が落ちたような顔をしている。

 その顔に浮かぶ色濃い死相。どうやら心臓辺りを破壊されたようだ。

 男は静かに目を閉じると、消え入るような小さな声で囁いた。

 

「――」

 

 音を立てて地に伏す男に手を合わせる。

 

 これは、六歳になったある日のこと。

 曇り一つない夜空を、美しい星々が彩る深夜に起きた出来事である。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
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