バカ VS シリアス   作:ポチ&タマ

5 / 29
バカと双子

 激動の夜が明けて、被害を被ることなく襲撃者を撃滅した我らだが、俺だけメチャクチャ叱られた。

 何時まで経っても息子が帰ってこないため何かあったのではと避難所を出て、一人森へ向かったママ上。屍山血河と言うに相応しい惨劇が広がっている中、彼女が目撃したのは、本当に尿意を催したため『槇久様』と呼ばれていた異能持ちの顔にしょんべんを掛ける息子の姿。

 誰も見ていないだろうし侵入者の親玉みたいだからヤッちゃえ、と甘い誘惑に駆られた結果、ママ上から平手打ちを貰いました。叱られたことはあれど、ぶたれたことなかったため地味にショック。

 その後、強引に手を引かれて自宅に戻ったママ上のお説教タイム。しかも腕を組んだまま無言の圧を掛けてくるパパ上が隣に控えているという布陣で。

 先の襲撃でも感じたことのない命の危機に、一も二もなく土下座していたね。

 

 座敷牢という名のお仕置き部屋に三日間籠ることを命じられた俺は、ママ上にお願いしてノートと筆ぺんを入手。

 締め切り間近の作家の如く、手慰みに小説を書いて時間を潰した。

 ちなみに小説の内容は前前世で嵌まっていたソシャゲ【FGO】。丸三日掛けて第一部を書き終えたところでパパ上からお赦しが出て座敷牢生活が終わったため、今のところ続編は書かないつもり。

 試しに読んだママ上たちから絶大な評価を頂き、七夜の神童は直木賞を取れる逸材なのだと、大人たちが盛り上がっているが、すまない。それの原作者は俺じゃないんだ。しかも暇潰しで書いたオリ主ものだから、原作でもないし。

 だからパパ上よ。ことあるごとに「続編は書かないのか?」、「……そういえば、人類最後のマスターとマシュはあの後どうなったんだろうか」、「……こう見えて七夜は外界とも色々な繋がりがある。そのうちの一つに出版社があったりな」と催促するのは止めてください。

 

 先の襲撃事件でのやらかしが帳消しになる程の才能が発覚してから数日。

 いつものように秋葉ちゃんたちの元へ遊びに遠野邸へやって来た俺だが、何故か門前払いを食らってしまった。

 対応してくれたメイドのおばさんが言うには、どうやら秋葉ちゃんたちのお父さんに不幸があり、遠野家は現在てんやわんやな事態に陥っているらしい。

 詳しくは知らんけど遠野って結構な資産家らしいし、その当主が亡くなったんなら大騒ぎだわな。

 角川の経営陣が軒並み死んだようなものか、と一人納得した俺。

 噂好きのメイドさんによると次期当主である四季は早速、叔父による英才教育の日々を送っているらしい。

 一人ぼっちの秋葉お嬢様もだけど、不憫で仕方ないわぁ。と悩ましそうに溜め息を溢していた。

 

 それを聞いた俺は、早速行動に起こす。

 おばさんと別れた後、いつぞやのようにひっそりと忍び込む。

 秋葉ちゃんの部屋は二階にあるため、木の枝や壁の僅かな窪みを足場に彼女の部屋へと向かう。

 慌ただしく動き回っているメイドさんたちに見つからないよう、秋葉ちゃんの部屋に辿り着いた俺は窓越しに中を覗いてみると、いた。

 退屈そうに、そしてどこか寂しそうにベッドに腰掛ける秋葉ちゃん。お父さんが亡くなった上、大好きなお兄ちゃんとも遊ぶ機会が減ったのだから、その心情は察するに余りある。

 こういう時こそ俺の出番でしょ!

 

「あーきはちゃーん、ここあーけーてー」

 

『兄さん……!?』

 

 窓を軽くノックすると驚いた顔で振り向く秋葉ちゃん。スリッパをパタパタさせながら走り寄り、急いで窓を開けてくれた。

 

「よっと。窓から失礼」

 

「どうやってここまで……」

 

「このくらいは朝飯前よ。メイドさんから秋葉ちゃんたちのことを聞いてね、心配になって来ちゃった」

 

 草履を脱いで窓に立て掛ける。

 初めて入る秋葉ちゃんの部屋。広さは俺の部屋の二倍ほどで造りはもちろん洋室。

 机やクローゼット、書棚、ベッドといった最低限の家具しかなく、枕元に置かれたウサギの縫いぐるみが唯一女の子らしさをアピールしていた。

 呆然としている秋葉ちゃんの元に歩み寄った俺は、彼女の頭を優しく掻き抱く。

 

「お父さんは残念だったね。四季も当主としての勉強があるだろうし、色んなことが起こって何がなんだか分かんないよね」

 

「兄さん……」

 

「寂しかったら寂しいって言っていいんだよ。周りの人に頼ってもいいんだ。秋葉ちゃんは子供なんだから」

 

 これは四季にも同じことが言える。むしろアイツの方が大変だろう。秋葉ちゃんと同じく肉親を失った矢先に当主としてのお勉強三昧。妹とろくに遊ぶことすら出来ないんだから、絶対ストレス貯まってるだろう。

 ジッと机に向かってお勉強ってタイプじゃないだろうし、当主の勉強は結構な苦行だと考える。

 

「少なくとも、俺は頼られると嬉しいな」

 

 艶やかな黒髪を撫で下ろすように優しく撫でると、キュッと服を掴んで来る秋葉ちゃん。

 顔を胸に押し付けながら涙声で、胸の内をポツポツと明かし始める。

 

「お父様は、普段からきびしい人で……」

 

「うん」

 

「あまりほめてくれないけど、たまになでてくれて……ゴツゴツした手が、好きで……」

 

「うん」

 

「なんで、死んじゃったのかな……」

 

「……」

 

「お父様が亡くなってからみんな大騒ぎして……叔父様はお兄様と会わせてくれないの……」

 

 顔を上げる秋葉ちゃん。その目には大粒の涙が浮かんでいる。

 しゃくりあげながら彼女は言った。

 

「兄さん……私……」

 

 寂しい。その言葉を聞いた俺が取った行動は、ほぼ条件反射に等しいものだった。

 四季がいる場所を聞いた俺はいつもの場所で待っているよう秋葉ちゃんに告げると、草履に履き替えることすら忘れて再び窓から外へ。

 外壁を駆けてあっという間に四季の部屋に辿り着くと、件の人物を確認。丁度今も勉強の真っ最中なようで髪を掻きむしりながら勉強机と向き合っていた。

 その隣には太ったオッサンの姿が。メイドたちと違って上質なスーツを来ていることから、彼が秋葉ちゃんたちの叔父であると推察した俺は、見つかるのを承知で窓をノック。

 驚いた顔をした四季と、人を見下したような嫌な目を向けてくるオッサン。足早に駆けつけた四季が窓を開けた。

 

「志岐! お前、こんなところで――」

 

「話は後だこのアホンダラァっ!」

 

「うわああああああっ!?」

 

「坊ちゃまっ」

 

 四季の胸倉とズボンのベルトを掴んで担ぐように背を向けると、そのままジャンプ。

 七夜の俺からすれば二階の高さなどあって無いようなものだが、お子ちゃまな四季にとってはハードルが高いようで、耳元で絶叫した。普通にうるさい!

 背後でスーツ男の声が聞こえたが、そんなの無視!

 難なく着地すると四季を背負い直し、秋葉が待つガゼボの元へ爆走する。

 

「一体なんなんだよ志岐! 戻って勉強しないと――」

 

「なあ四季さんよ。それは、秋葉ちゃんを蔑ろにする理由になんのか?」

 

「……! 蔑ろって、別に俺は……」

 

「秋葉ちゃん、めっちゃ寂しい思いしてんぞ。四季にも事情はあるだろうけど、妹を泣かしちゃ駄目だろ」

 

「……秋葉、泣いてたのか?」

 

「気丈に振る舞ってたけどな。当主の勉強で忙しいのは分かるけど、たまには妹の面倒も見てやれ。お兄ちゃんだろ?」

 

「…………」

 

 反省している気配がしたから、これ以上は言わないでおく。

 やがて手入れの行き届いた庭園を越えて、目的地であるガゼボに到着した。

 椅子に座って手持ち無沙汰な様子で足をブラブラさせている秋葉ちゃんの顔がパッと明るくなる。

 

「お兄様! 兄さん!」

 

「あ、秋葉、その……」

 

 罰が悪そうな顔でごにょごにょする四季の肩を叩き、努めて明るい声で言う。

 

「よっしゃ、遊ぼうぜ!」

 

 

 

1

 

 

 

 あれから一週間。

 その後も頻繁に四季と秋葉を引っ張り、強引に遊びに誘った。

 いつも部屋で読書をしている秋葉ちゃんは、俺が窓をノックすると「わーい、ご主人様だー!」と仔犬のように駆け寄って来て。

 二階から飛び降りてもどこかのお兄様とは違い喜びの悲鳴を上げる。本人的にはジェットコースター的なあれなのだろう。

 四季は毎回苦悶の表情を浮かべながら勉強机にしがみついているから、ノックをする度に「よっしゃ休憩だ!」と言わんばかりに目を輝かせる。

 良い息抜きになっているようだからメイドさんたちは見て見ぬ振りをしてくれるんだけど、秋葉たちの叔父はブチ切れて追いかけてくるのが鉄板になってきた。なんか蛇蝎の如く嫌われてるし俺。

 まあ、俺もおっさんに好かれたいとは思っていないから別にいいんだけどね。鬼ごっこの鬼役として最適だし。

 

 前よりいっそうお兄ちゃんっ子になった秋葉ちゃんは、よく俺を巡って四季と喧嘩をするようになった。

 とはいっても「兄さんは私と一緒に遊ぶの!」といった可愛いもので、三人で遊ぶものでも俺と一緒にいたがるなど独占欲を見せ始めてる感じ。

 シスコンの俺としては鼻の下が伸びる思いです。

 そんなこんなで友人から親友レベルで絆を深めた俺たちだが、ある日新たな友達が仲間に加わった。

 

「巫浄翡翠です!」

 

「巫浄、琥珀……です」

 

 双子なだけあって容姿は瓜二つだが、性格は真逆らしい。

 明るくはきはきしていて活発な印象がある翡翠ちゃんに対し、琥珀ちゃんは内気な性格なのか翡翠ちゃんの背中に隠れている。

 二人とも名前を冠した美しい瞳をしている。秋葉ちゃんとはまた違ったタイプの美少女だ。

 翡翠ちゃんは白の、琥珀ちゃんは黄色のワンピースを着ており、夏休みの一ページを飾れそうな非常に絵になる姿だ。花畑を背景に合わせ鏡の形で微笑んでほしい。

 

「詳しい話は分かんないけど、死んだ親父が引き取ったらしい」

 

 身寄りがない彼女たちを使用人として雇うことを前提に引き取ったとのこと。

 引き取った本人はすでに鬼籍に入っているが、このままなかったことにするのも酷な話ということで、そのまま使用人として引き取ったらしい。

 

「へー。俺は七夜志岐。大変遺憾ながらこっちの四季と同じ名前だ。ちょくちょく遠野家には遊びに来るから、よろしくね」

 

「志岐ちゃんだね! よろしく!」

 

「……」

 

 にぱっと花が咲いたような可憐な笑みを浮かべて、握手した手をぶんぶんと大きく振る。

 やはり翡翠ちゃんは見た目相応の活発な娘っぽいな。

 

「ほら、お姉ちゃんも挨拶しないと!」

 

「よ、よろしく……」

 

「うん、よろしくね」

 

 翡翠ちゃんに促され、少しだけ顔を見せてくれた琥珀ちゃん。チラッとこちらを見ると、もじもじしながらもちゃんと挨拶してくれた。

 やっべぇ、小動物チックで可愛い。ていうか、琥珀ちゃんの方がお姉ちゃんなのか。

 妹の背中に隠れる姉とか、メッチャ萌えるんだけど……!

 

「翡翠ちゃんたちはいくつなの? ちなみに俺は六歳!」

 

「五歳! 志岐ちゃんの方がお兄ちゃんだ!」

 

 秋葉と同い年なのね。

 っていうか、ちゃん呼びで確定な感じ? まあいいけど。

 

「し、志岐お兄さんって、言った方がいい……?」

 

 おずおずと声を掛けてくれる琥珀ちゃん。

 内気で人見知りする性格なのに勇気を出して話しかけてくれたと思うと、なんだか胸が暖かくなる。

 孫のお願いを二つ返事で承諾する祖父の気持ちで頷くと、秋葉がインターセプトしてきた。

 

「ダメ! 兄さんの妹は私だけなんだから!」

 

 俺の腕を取り可愛らしく威嚇する秋葉ちゃん。独占欲丸出しで可愛いネ!

 きっと今の俺の顔はデレデレになっているに違いない。

  俺としてはお兄ちゃん呼びは吝かではないのだが、そうすると妹分が拗ねてしまうから、断腸の思いで断ることにした。

 

「ということみたいだから、俺のことは志岐って呼んで」

 

「はい、志岐くん……」

 

「私は志岐ちゃんって呼ぶね!」

 

 あまりお兄ちゃん呼びには固執していないのか、素直に頷く琥珀ちゃん。そして翡翠ちゃんの方はそれで確定のようだった。

 それはそうと、四季の方はなんて呼ぶんだろう?

 

「んー、当主さま?」

 

「……ご当主さま」

 

 役職名で呼ばれることになった当主様の肩を優しく叩くのだった。

どの程度、月姫について知っていますか?

  • 無印、リメイクともにプレイ済み
  • 無印のみプレイ済
  • リメイクのみプレイ済
  • 未プレイだけど設定・世界観は知ってる
  • まったく知らない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。