お気に入り登録、評価ありがとうございます!
翡翠&琥珀姉妹と友達になってから三日。
状況や環境に合わせて色々な仮面を用意している大人と違って、子供は素直でいいね。遊ぼうと誘えばもう友達だし。
使用人として遠野家にやって来た姉妹だが、仕事らしい仕事はまだ教わっていないみたいだ。
メイド長が教育係を務めており、彼女の方針でまずは簡単な礼儀作法や家事の手伝いから始めるらしい。子供だからね。
彼女たちの性格や適性などを見極めてから本格的な指導に移るのだと、四季経由で聞いたのだった。
遠野家の使用人が着る仕事着は所謂クラシックなメイド服なのだが、翡翠ちゃんたちのメイド服姿はヤベェの一言。
只でさえ可愛いが服を着て歩いているのに、メイド服姿の彼女たちの破壊力は異常だ。
秋葉ちゃんが和服が似合う大和撫子だとしたら、双子姉妹は洋服が似合うビスクドール。しかも姉妹で性格が真逆というギャップ萌え付き。
足首の高さまである裾の長いスカートに、純白のエプロン。盛り上がったパフスリーブ。赤いヒモタイ。
そして、ちょこんと頭に乗っかる白いカチューシャー! その全てが調和して見事な芸術品を生み出している! ブラボー! 実にブラボー!
あまりにも可愛いものだから一度様付けでお願いしたら、翡翠ちゃんは、にぱっと笑顔を浮かべて「志岐ちゃんさま!」呼び。まさかの敬称に敬称を重ねるという、あざといテクニックに俺のハートが十七分割された!
この三日で耐性が付いた琥珀ちゃんは妹の背に隠れずに、それでいてもじもじと初々しさを見せつけながらの「……志岐さま」だ。十七分割されたハートが塵に還ったね。
猫可愛がりし過ぎて嫉妬した秋葉ちゃんがメイド服を披露した時には尊さの果てに溺死するところだった。
三人並べて撮った写真は、俺の宝物だ。
友達が二人も増えたから遊びの幅も広がった。
遠野邸の庭園は滅茶苦茶広いから鬼ごっこや隠れんぼには最適だ。流石に翡翠ちゃんたちは使用人という立場だから、自由時間でないと遊べないけど。
翡翠ちゃんは活発で笑顔が似合う女の子だ。生粋のアウトドアタイプで、ヒマワリが似合う娘って感じがする。
対して琥珀ちゃんは、あまり外で遊ばない。室内で静かに本を読んだりするのが好きなインドア派。紫陽花とか似合いそう。
「あ……琥珀ちゃん、また見てる」
白のワンピースを来た翡翠ちゃんと遠野兄妹で鬼ごっこをしている時、ふと感じる視線。
屋敷の一角に目を向けると、琥珀ちゃんが窓越しにこちらを眺めている姿が確認できる。
秋葉ちゃんたちと遊ぶ俺たちをボーッとした目で眺めている時がある琥珀ちゃん。
一緒に遊びたいのかなと思って何度か誘ったことがあるが、その度に琥珀ちゃんは──。
『なんでもないです……』
と言葉を濁すのだ。そして誘いを断る度にしょんぼりした顔で落ち込む琥珀ちゃん。
きっと輪に入る勇気がないのだろうと、精神年齢二十四歳の俺はしたり顔で頷き「なら俺が勝手に遊ぶわ」と琥珀ちゃんの部屋で勝手に寛ぐ。
絵に描いた暴虐無尽っぷりだが、琥珀ちゃんは困ったような顔をするだけで嫌がってはいないみたいなのでヨシ!
「俺、琥珀ちゃんのところ行ってくる!」
「あ、なら私も!」
「いや翡翠ちゃんたちはここに居て。今日は琥珀ちゃん連れてくるからさ!」
体を動かす遊びが苦手なだけであって、のんびりお昼寝したりピクニックしたりするなら大丈夫らしい。
勝手知ったる遠野邸。すれ違うメイドさんたちに挨拶をしながら琥珀ちゃんの部屋に突撃する。
「琥珀ちゃん! あーそー、ぼ……?」
ついノックを忘れて勢いよく扉を開けてしまった俺だが、目の前の光景に思わず目が点になった。
そこには、鼻息荒くいたいけな少女を押し倒し、服を剥ごうとしているオッサンの姿が──。
「何してんだテメェえええッ!」
「ブホォァァァァッ!?」
反射的に雷の呼吸でヤクザキックをかましてしまった。
汚ねぇ悲鳴を上げて壁に激突するオッサン──ってよく見たら四季たちの叔父さんじゃないか。
壁に熱いキスを交わしたオッサンは、侮蔑の色を孕んだ目で睨み付けてくる。
「き、貴様……! 七夜のクソガキが……っ! この俺を誰だと思って──ゲブゥ!」
「黙れロリコン。テメェ、今琥珀ちゃんに何しようとした、なあ? 何しようとしてくれやがった、なあオイ」
余程怖い思いをしたのだろう、小さく身体を震わせる琥珀ちゃん。顔面蒼白でカタカタと歯を鳴らしている。
内向的で表情の変化に乏しい彼女ならイケるとでも思ったのか。それとも子供なら誰でも良かったのか。
コイツの動機には興味ない。興味ないが、俺の大切な友達に癒えぬ傷をつけようとしたのは確かだ。
「俺の宝物に手を出したんだ。この先、全うな人生を送れると思うなよロリコン」
「ひっ……」
騒ぎを聞き付けたのだろう。複数の気配がこの部屋に向かっているのが分かる。
外野に止められる前にさっさと済ませてしまおうと、岩の呼吸で肺を活性化させた俺は、尻餅をついている奴の股間を踏み抜いた。
「──────」
白目を剥き口から泡を吹いて気絶するその姿から、想像を絶する痛みなのは察するに余りある。
が──。
「寝て楽になんじゃねえよオラァ!」
「ふんぎゃああああああああアアアアア──ッ!!」
気絶して楽になろうなんざ虫が良すぎる話だぜ。
使用人の人からドクターストップが掛かるまでの間、潰れたキンタマを蹴り上げて遊ぶのであった。
その後の話をしよう。
生殖機能が無事お陀仏したオッサンは医学的にチ◯コを切断する羽目に、そのまま入院。
俺はというとメイド長から出禁を言い渡されたが、琥珀ちゃんの弁明により難を逃れる。
琥珀ちゃんがレイプされかけたと知った四季たちは、オッサンを屋敷から追い出そうとするが、そうすると当主の教育係がいなくなり四季の代わりに行っていた諸々の業務が滞るとの指摘があったため、追放は諦めることに。
その代わり、常に使用人を二人以上つけて奴を監視する体制を整え、琥珀ちゃんや翡翠ちゃん、そして秋葉たちと接するのは必要最小限に留めるよう厳命したという。
それを聞いた時にね、秋葉たちの周りにいる大人は馬鹿しかいないのかと本気で思ったね。
遠野家の事情は知らないけど、普通レイプ未遂のロリコンを実質無罪放免にしないでしょ。それも被害者である琥珀ちゃんや対象候補の翡翠ちゃんたちの側に置き続けるとか、頭沸いてるとしか思えないわ。
四季たちも抗議したらしいが、オッサンがいなくなると遠野家が回らなくなるのは事実らしく何も言えなかったとのこと。
早く当主として一人前になるために、これまで以上に勉強に励んでいる四季。
秋葉ちゃんも何か思う所があったのか、四季と一緒に帝王学などの難しい勉強を始めたらしい。
琥珀ちゃんが心配なのだろう。翡翠ちゃんはよく琥珀ちゃんのことをこれまで以上に気にかけ、何処へ行くにも一緒に行動している。
そして、肝心の琥珀ちゃんはというと──。
「あ……。お、お帰りなさいませ、志岐様……」
遠野家に遊びに来た時限定で、俺の専属メイドになった。
……。
なんでや!?
1
私は、琥珀。巫浄琥珀。遠野にお仕えする侍女の一人。
翡翠ちゃんっていう妹も一緒。
何で遠野にお仕えするのかは分からない。お母さんやお父さんのことも思い出せない。これまでのことも。
私たちを買った前御当主様なら知ってるだろうけど、もう死んじゃった。だから、私たちのことを知っている人はもういない。
私には翡翠ちゃんだけ。私の自慢の妹。
私と同じ顔なのに、私と違ってすごく可愛い。いつも明るくて笑顔で、うじうじしている私の手を引っ張ってくれる。
誰とでもすぐに仲良くなることが出来る、私の自慢の妹。
翡翠ちゃんが居なかったら、きっと秋葉様や御当主様……それと、志岐さんとも仲良くなれなかった。
私は、翡翠ちゃんと違って可愛くないしつまらない。
人の顔を見るのは苦手だし、話し掛けるのも苦手。
翡翠ちゃんみたいに笑顔になることも出来ない。
いっつもうじうじしてて、翡翠ちゃんが居ないと何も出来ない、お人形さんみたい。
だから、翡翠ちゃんが羨ましい。
秋葉様たちと簡単にお友達になれて。
御当主様に簡単に話しかけられて。
志岐さんに簡単に甘えられて。
私には、どれも無理だ。
でも、翡翠ちゃんのおかげで皆とお友達になれた。
こんなつまらなくて可愛くない女の子でも、秋葉様たちは仲良くしてくれて。走ったり動いたりするのが苦手だと分かると、私でも楽しめる遊びであそんでくれる。
本当はいつも皆んなと遊びたいけど。
でも、自分から話し掛けるのはまだ苦手で。
だから、時々皆んなが遊んでるのをお部屋から眺めていた。
本を読むのは好きだし一人でいることも平気だけど、でもやっぱり皆んなと一緒に遊ぶ方が楽しくて。
気兼ねなく皆んなと遊んでいられる翡翠ちゃんに、ちょっとだけ嫌な気持ちになったけど。
でも──。
『こーはくちゃーん! あっそびっましょー!』
『ヘイヘイヘーイ! 志岐くんが遊びに来たぜー!』
『お〜い磯野! 野球しようぜ〜!』
志岐くんは私が部屋にいると突然押しかけては遊びに誘ってくれて。
私が体を動かすのが苦手だからと、ピクニックや日向ぼっことかで遊んでくれて。
それが、すごく嬉しかった。
こんなつまらない私なんかを気遣ってくれる志岐さんが、なんだか絵本の王子様みたいで、遊びに誘ってくれるのをいつも心待ちにしてたの。
でも、その日は──。
「ぶへへへへへ……琥珀ちゃん、今一人かい?」
志岐くんの代わりにやって来たのは、御当主様の教育係の兼続様だった。
いつもネットリとした目で見てきて、ぺたぺたと体を触ってくる人。
翡翠ちゃんや秋葉ちゃんもこの人のことは嫌ってる。私も、嫌い。
「本当に無表情だなぁ琥珀ちゃんは。まるで人形だ」
私の頭を触って、頬に触れてくる兼続様。背中がゾワってする。
逃げたいけど、逃げれない。怖くて足が動いてくれない。
いつもは翡翠ちゃんが守ってくれるけど、今はいない。
私、一人だ。
「人形なら、ちょっとだけ悪戯してもいいよね。兄貴だってそのつもりで買ったんだろうし」
兼続様の手が首筋を伝って胸に近づいてくる。
嫌な気持ちが止まらない。ゾワゾワが止まらない。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
頭が、フラフラする。
「死んだ兄貴の代わりに俺がたっぷり使ってあげるからね。ぶひ、ぶひひひひひひ!」
兼続様の手が、私の胸を掴む。
ヒュッという音が、口から漏れた。
怖くて、怖くて、怖くて、怖くて。
いっそのこと、本当にお人形さんになってしまえば、こんな思いしなくて済むのに──って。
そう思った時──。
「何してんだテメェえええッ!」
志岐くんが、来てくれた。
私の知ってる志岐くんはいつも元気で少しやんちゃで、お調子者だけど一緒にいるとポカポカする、まるでお日様のような人で……。
そんな志岐くんが怒っていた。すごく、心の底から怒っているのが分かった。
少しだけ怖かったけど、でも私のために怒ってくれていて。
私のことを、宝物だって、言ってくれて……。
……。
何でだろう……。
すごく、胸がドキドキする……。
あの日から数日後、志岐くんから突然プレゼントを渡された。
それは、紺色のリボン。
肌触りが良くていつまでも触っていたくなるような、綺麗なリボンだった。
「えっと……?」
私の誕生日はまだ先だし、何かお祝いをされるようなこともしていないのに。
何だかいけないことをしているみたいで、少し後ろめたい……。
「これ、琥珀ちゃんに似合うと思うんだ。結んであげるね」
そんな私の気など知りもしない志岐くんは、リボンを手にして背後に立つと、慣れた手つきで結んでくれる。
髪を優しく梳いてくれる手が気持ちよく、頭を撫でて貰っているみたいで心地よい。
「よし、出来た。……うん、やはり俺の目に狂いはなかった」
結び終えた志岐くんは手鏡を持ってきてくれる。
そこに映っているのは、いつもの無愛想な私。だけど、蝶々結びをされた紺色のリボンが頭の後ろについていて。
ちょっとだけ……ちょっとだけ、鏡に映った私が可愛く見えた。気がする。
「可愛いよ琥珀ちゃん」
……。
……私は、可愛いみたい。
何だか恥ずかしくて、志岐くんの顔が見れない。
鏡に映った志岐くんの目が、とても優しくて。視線から逃げるように、手鏡を降ろした私は、志岐くんに背を向けながらお礼を言った。
「ありがとう、ございます。大切にします……」
…………。
……何だか、胸がポカポカする。
どの程度、月姫について知っていますか?
-
無印、リメイクともにプレイ済み
-
無印のみプレイ済
-
リメイクのみプレイ済
-
未プレイだけど設定・世界観は知ってる
-
まったく知らない