アルバスは、レッドグレイブ市の壊滅的な風景を見つめながら歩みを進めていた。
数ヶ月前にクリフォトの侵食がもたらした大惨事の痕跡は、まだ色濃く残っていた。瓦礫の山と化した街並み、破壊された建物、そして時折聞こえる人々のすすり泣きが、ここで起きた恐怖を物語っていた。
ネクサスの任務は、これらの傷跡を癒すことだった。ただし、それは物理的な修復ではなく、心の傷を癒すためのものだった。人々の記憶から悪魔の存在を消し去り、再び平穏な日常を取り戻させることが求められていた。
アルバスは慎重に街を歩き、目標地点へと向かっていた。
彼のスーツケース型の機械骨格は、いつでも戦闘に移れるよう準備している。
目的地に到着すると、アルバスはスーツケースを地面に置き、静かに起動スイッチを押した。
瞬時に変形し、全身を覆う強力な装甲が現れる。戦闘時でないときはステルスモードになっており、一見すると装甲を纏っていないただのスーツにしか見えない様になっている。
過去に装備を展開したままミッションを行っていた部隊を住民がスマホで配信してしまい、火消しに苦慮した経験から組織が開発した機能である。
「まずは、目撃者の記憶を消去することだ。」アルバスは自らに言い聞かせるように呟いた。
リアーナの言葉が頭をよぎる。
「レッドグレイブでの大惨事以来、世界は混乱の渦中にあるわ。一般市民が悪魔の存在を知り、恐怖とパニックが広がっている。この混乱を収束させるためには、悪魔の存在を秘匿する必要があるの。」
アルバスは周囲を警戒しながら、一軒の家のドアをノックした。中から怯えた表情の女性が顔を覗かせる。
「すみません。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」アルバスは穏やかな声で問いかけた。
女性は戸惑いながらも、アルバスの落ち着いた態度に安心した様子でうなずいた。彼は家に入ると、記憶操作装置を取り出し、慎重に作業を始めた。
女性の目が虚ろになり、次第に恐怖の記憶が薄れていく。
「大丈夫です、すべては正常に戻ります。」アルバスは優しく言葉をかけながら、装置を操作した。
この作業を数回繰り返し、アルバスは次の目標地点へと向かった。
街の一角には、クリフォトの残骸がまだ残っている場所があった。
そこには、かつての戦闘の痕跡がはっきりと残されていた。瓦礫の山の中からは、悪魔の気配が漂っていた。
「やはり、ここにも残党がいるか…」アルバスは低く呟き、警戒を強めた。
突然、瓦礫の中から巨大な悪魔が飛び出してきた。その咆哮は耳をつんざくようで、周囲の空気が震えるほどだった。アルバスは即座に機械骨格を起動し、戦闘態勢に入った。
「これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない。」アルバスは冷静に自らに言い聞かせ、悪魔に立ち向かった。
悪魔の巨大な爪が振り下ろされる瞬間、アルバスは一瞬で間合いを詰め、カウンター攻撃を繰り出した。
鋭い刃が悪魔の肉体を切り裂き、青い血が飛び散った。悪魔は激痛に怒り狂い、さらに猛攻を仕掛けてきた。
巨大な触手が四方八方から襲いかかり、アルバスを捕えようとした。
だが、アルバスは冷静だった。機械骨格の機能を駆使し、瞬時に触手を斬り払うと同時に、悪魔の急所に致命的な一撃を放った。
「これで終わりだ…!」アルバスは叫びながら、全力で悪魔の心臓部を貫いた。悪魔は絶叫を上げ、その巨体が崩れ落ちていった。
戦闘が終わった後、アルバスは一息つく間もなく、周囲の状況を確認した。街は依然として静まり返っていたが、その静けさの裏に潜む恐怖は拭えなかった。彼は記憶削除のための装置を取り出し、市民の記憶を消去するための準備を進めた。
「これで少しは落ち着くはずだ…」アルバスは独り言をつぶやきながら、市民の記憶を一つずつ丁寧に消去していった。