ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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原作1巻:入学式~中間テストまで
♯001 『よう実式源氏物語』


 それはまだ、オレが綾小路清隆として、確固たる自我を芽生えさせる前の出来事だった。

 

 それこそ、乳児――赤ん坊と言っていい頃、それは夢のように頭に流れて来た。

 

 高度育成高校という高校を舞台にした、未来のオレの物語――面白いのは、小説や漫画、アニメ、ゲームと、現実ではない物語として、それらが語られていたことだろう。

 

 同時に、オレの中にいるもう一人の俺が叫ぶ。

 

 原作キャラを自分のものにしたい――と。

 

 強欲と言っていいのか? いや、正確には、独占欲や情欲というべきか。俺のいう原作キャラとやらを手に入れろという強力な思想がオレを襲ってきた。

 

 だが、オレはオレだ。

 

 俺がどんな思想を持っていようと、体を動かしているのがオレな以上、俺の好きにはさせない。

 

 とはいえ、赤子がそんな意思を持っているはずがなく、当時のオレは俺の話を絵本の読み聞かせくらいにしか思ってはいなかった。

 

 そして、オレが成長するのと比例して、どんどん俺は消えて行った。俺の記憶では、本来神様の特典とやらで綾小路清隆になるはずだったようだが、オレの自我が想像以上に強くて体を支配できず、居場所がなくなって消えてしまったらしい。

 

 ――そして、俺は消えた。

 

 だが、俺の記憶はオレの中に残っている。

 

 オレは空っぽだ。オレは今まで自分で何かをしたいと思ったことがない。だから、俺の話は面白かったし、俺の思想はオレの好奇心を強くくすぐった。もし、本当に俺の言っていた原作とやらが始まるのであれば、オレは俺のようにもっと自由になりたい――と。

 

 ホワイトルームのカリキュラムをこなしながら、オレは俺のためではなく、オレとしての目標を定めた。

 

 それは決して俺の思想に当てられたからではない。ただオレは、俺の無念を晴らすべく、俺の言っていた原作キャラとやらをオレのものにすると決めた。

 

 そのためにやることはまず、同じホワイトルーム4期生である雪の懐柔だ。

 

 前々からこいつはオレに話しかけて来ていたが、どうやら俺曰くオレに惚れているらしい。ならば、その感情を利用してやりさえすれば、簡単にオレの意思に従う奴隷にすることが出来るだろう。

 

 オレは雪の恋心とやらを上手くくすぐって、オレのために頑張る奴隷を作ることにした。

 

 雪は簡単にオレの言葉を信じたし、今まで以上に努力を重ねた。オレと離れ離れになりたくないのだろう。

 

 だが、オレは知っている。雪はどこかでホワイトルームのカリキュラムについて来られなくなることを。

 

 そして、時は順調に過ぎて行き、数年前に志朗がホワイトルームから出て、残されたのがオレと雪の二人だけとなったある日――遂にその時が来た。

 

「お前は失格だ」

 

 オレという存在に、とうとう雪が付いて来られなくなった。教官の失格通告を受けて、雪は顔を真っ青にしている。

 

 しかし、思っていた以上に粘っていたと言っていいだろう。俺の記憶にある原作では、雪は志朗がホワイトルームから離れる前には脱落していた。

 

「い、嫌です……チャンスをください! 次までに勉強します! 次は絶対に合格します! だから――」

「立て。お前に次はない」

 

 教官の言葉が正しい。次はないのだ。嫌なら勝つ以外にない。だが、雪はオレへ縋るような視線を見せた。

 

「嫌……嫌っ! 清隆助けて! 私、また清隆と一緒に居たいっ!」

 

 心の中のオレが笑みを浮かべる。策は全て上手く行っている――後は、背を押すだけ。

 

「――教官、一分だけ時間をください」

「……何のつもりだ、清隆? 貴様に発言の許可を与えた覚えはない」

「雪を納得させます。教官たちも、雪が自分から出て行った方が楽でしょう」

「必要ない。無理やり連れていく。次に許可なく発言をすればわかっているな?」

 

 出来れば、ホワイトルームを抜けてからも努力を続けるように言い含めたかったが、その時間はないらしい。仕方ないので口パクで雪に「また会おう」と伝えた。伝わったかはわからないが、雪はすぐに抵抗を止めて素直に教官に連れていかれる。

 

 まぁ、いいだろう。どの道、オレと雪の再会は原作で約束されている。雪の様子を見れば、オレ以外の声が届かないのは変わらないはずだ。原作通りに、ホワイトルームの一時凍結と共にオレは雪と再会する。背中を押すのは、その時でも遅くはない。

 

 いや、再会が確実視されているのであれば、ここで雪と何も言わずに別れるのは決してマイナスではなかった。雪がオレを想う時間が増えれば増えるほど、こいつはオレに縛られる。

 

 ――楽しかった。

 

 ホワイトルームで生活する中、オレに喜怒哀楽の感情が芽生えることはないと思っていたが、自分の策が順調に進んでいると理解できてオレは明確に楽しいと感じている。

 

 ここからはオレ自身の研鑽を積むだけだ。幸か不幸か、ホワイトルーム以外でしか得られないような経験は俺がしてくれている。オレは間違いなく、原作のオレを上回るだろう。そう思うと、ホワイトルームのカリキュラムも楽しく感じられた。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 ホワイトルームの稼働から14年が過ぎ、俺の記憶通りにホワイトルームが一時閉鎖されることが決定した。志朗や雪の脱落を始め、原作通りのことが起きるのはわかっていたので驚きはしないが、これでオレもようやくこの箱庭から出ることが出来る。

 

 また、俺の影響なのか、精通してから情欲を押さえるのが大変だった。ホワイトルームにはプライバシーなどないので、トイレや風呂ですらカメラが設置されている。おちおち自慰行為を行うことすらできやしないのだ。

 

 だが、そんな世界ともしばらくおさらばと言っていい。少なくとも、ここから数年して高度育成高校に入ってさえしまえば、もうこんな我慢をしなくていいのだから。

 

 ――と、そんなことを考えながら、初めて見るリアルの世界を車の窓から眺めていると、いつのまにか病院のような場所に着いていた。

 

 どうやら、雪との再会の時が来たらしい。雪の父親と医師らしい男が、ついて来てほしいとオレを雪の元へ連れて行く。

 

 全てが計画通りだ。後はここで雪を高度育成高校に入るように指示を出し、ホワイトルームを出てから衰えたであろう能力を元に戻させる。

 

 そのまま、雪の父親の案内で雪の元に向かう。オレの親父殿はいない。あの男がこんなことに興味を持つはずがないというのはわかっているし、雪のためにも彼女の家族は父親以外に接触して来ない。おそらく、二人きりで話すことが出来る。

 

「あの子は随分と心が弱ってしまってね。満足に外出もできていないんだ。家の中と、このクリニックだけは比較的平穏を保てている。だから、ここに来て貰ったんだ」

 

 全く話を聞いていなかったが、どうやら雪は原作通りに落ち込んでしまっているらしい。

 まぁ、問題ないだろう。今日を境に雪は活力を取り戻す。原作のオレは雪を突き放していたが、こんなに可愛くて使える駒を手に入れないなど損でしかない。

 

「清隆っ……!」

 

 ノックしてドアを開ける。そして、中に居た少女はオレの姿を確認するなり、胸の中に飛び込んできた。オレは心の中で笑みを浮かべながら、その体を受け止めていく。

 

 あまりの豹変ぶりに、後ろに居た父親や医師も驚いたくらいだ。しかし、そのおかげで、二人きりにした方が雪のためになると考えたようで、「時間になったら呼びに来るからね」と言って、部屋から出て行ってくれた。

 

 雪は溜まっていた感情を吐き出すように、いろいろな話をオレにする。

 

 ただ、ホワイトルームのことがトラウマになっているようで、言葉が上手く出ていない。それでも、会いたかったこと、寂しかったこと、また会えてうれしいこと――まるで普通の子供のように、喜怒哀楽を浮かべていた。

 

 良い調子だ。ホワイトルームを抜けても、雪の中にはオレしかいない。だからこそ、ここで背を押してオレのための駒になってもらう。

 

「雪、オレも会えて嬉しいが、オレも完全に自由になった訳じゃない。次はまたいつ会えるかわからない」

「そ、そんな……」

 

 この世の終わりのような表情を浮かべる雪。

 

 そうだろう。オレに会えなくなるのは嫌だよな?

 

「――だが、オレは来年、親父の目を盗んで、高度育成高校という学校に入学するつもりだ。あの学校では三年間、外部からの接触が出来なくなる。オレをあの場所に引き戻すことも出来なくなるだろう」

「高度、育成高校……」

「雪。もし、お前がまたオレに会いたいと思ってくれているのであれば、お前も高度育成高校に入学するんだ。そうすれば、高校三年間はほぼ毎日オレに会うことが出来る」

「ほ、ほんとう!?」

「ああ、本当だ。お前にはそこでオレの助けをして欲しい。ただ、そのためには頑張らないと駄目だ。お前はこれから、あの場所を抜けて失った学力や体力を取り戻せ――いや、前以上に成長しろ。オレの側にいたいのなら、相応の実力がないと困るからな」

「わ、わかった。私、今度こそ頑張るから!」

 

 一度、オレと離れたというトラウマが、雪を馬車馬のように働かせるだろう。入学できるかどうかは確実ではないが、雪の妹である椿桜子が入学できた以上、ホワイトルームで研鑽を積んでいた過去を持つ雪が入れないということはないはずだ。

 

 まぁ、仮に雪が入学できなかったとしても、その時はその時考えればいい。優秀な駒であり、従順な女ではあるが、代えは原作キャラに死ぬほどいる。

 

「雪。ここから、遅れを取り戻すのはとても大変だ。だからこそ、お前と次に再会できた時は、オレはお前の努力の成果として、一番大切なものをあげるつもりでいる」

「一番、大切なもの……?」

「それが何かは、後のお楽しみだ。これからはそれを励みにして、研鑽を続けてくれ」

「うんっ! 私、清隆のために頑張るから!」

 

 オレの一番大切なモノ(童貞)をプレゼントしてやる。最初の相手は、何があってもオレを責めないであろう雪と決めていた。

 

 雪を抱きしめながら、笑みを浮かべる。

 

 もう少しだ。もう少しで俺の言っていた原作が始まる。幼いころから聞いていたあの物語の幕が開けるのだ――

 

「く、苦しいよ、清隆」

「……すまない。力を入れ過ぎたようだ」

 

 思わず高ぶって力を入れ過ぎてしまった。

 

 だが、雪の後押しは成功した以上、もはや問題は何もない。オレが帰った後、雪は人が変わったように動き出すだろう。あいつの父親も、せっかくやる気になった娘の心を潰すはずもないし、我が儘を全て聞いて雪のために動くはずだ。

 

 ここまで全て上手く行っている。

 

 俺よ、お前の無念はオレが必ず晴らしてやるから安心しろ。俺の手に入れたかった原作キャラはオレが絶対に手に入れてやる。雪を手始めに、軽井沢、堀北、櫛田、一之瀬と、お前の好きだったキャラは全て手に入れると決めた。あの世からオレの活躍を見ていてくれ。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・俺小路くんの影響で、清隆の精神に変化が出てきている。
 本文では影響は受けていないと口にしているが、赤子の頃の影響はバッチリ受けていてかなり思想が俺小路くん寄りになっている。とはいえ、基本的に喜怒哀楽は薄く、愛情という存在は理解していない。愛と情欲は別物。

・よう実0巻において、綾小路清隆は雪に興味を示さないが、この世界では自分の駒にするためにホワイトルーム時から自分に依存させている。
 まさにリアル源氏物語。おかげで、雪の中は原作以上に世界が清隆一色。清隆と一緒にいるために、自分の周りを全て利用してかつての能力を取り戻そうとしている。

・雪について。
 原作で、雪が椿桜子と関係があると匂わせてはいても、明言はされていませんが、この小説では家族ということで話を進めます。なので、椿雪とこれからは名乗らせます。



 今話登場人物一覧。


・俺小路くん
 神様転生でヒャッホーする予定だったが、原作知識を始めとした記憶だけ清隆に渡してフェードアウト。
 ちなみに、俺小路くんの前世は、小学生までは良くいるそこそこ能力の高い子供だったが、中学で現実を知って落ちこぼれ、しっかり中二病を患った。高校入学と共に、中二病を卒業するも、その影響で陰キャになりボッチになる。そのまま二次元へ逃げ、よう実に嵌り、ようつべでよう実解説チャンネルをしながら小銭を稼いでグッズを買い漁っていた所を、神様の間違いで死に転生した。多分、もう出てこない。

・綾小路清隆
 主人公。原作よりも俺小路くんの思想を受けているため、微妙に考え方などが変化している。ただ、スペックなどは原作通り。俺小路くんの記憶があるため、原作ほど世間知らずではないが、弱点も大体一緒。

・椿雪
 ヒロインその1。清隆による源氏物語作戦の結果、世界の全てが清隆で構築されており、清隆のために生きることを至上と考えるやべー女に成長した。ホワイトルームを抜けてから数年は原作通りに病院生活をしていたが、清隆との再会と同時に復活。ただ、しばらく病院暮らしだったため発育はイマイチ。現在の胸のサイズはA。

・雪の父親
 娘が元気になったので、めちゃくちゃ甘やかした。



 ※1話から3話まで、20時、8時、20時で一気に更新。その後は1日1話で、一年生編が終わるまで毎日20時更新。全部で90話くらい。


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