放課後になると、茶柱から呼び出しを受けたので職員室に向かうことにした。
だが、中に入っても茶柱はいない。原作知識でわかってはいたが、呼び出しをした当人がいないとは何事かと文句を言いたい所だ。まぁ、代わりにBクラス担任の星之宮がお相手をしてくれそうなので良しとするが――
「サエちゃんとは高校の時からの親友でね。サエちゃん、チエちゃんって呼び合う仲なのよ~」
職員室から出ると、後ろから付いてきた星之宮がそう話し出す。
いかにも仲よさげに聞こえるが、オレは茶柱と星之宮が学生時代にここの学生で、三年の卒業間近に満場一致試験で茶柱がクラスを崩壊させたことを恨んでいるのも原作知識で知っていた。
「ねぇ、サエちゃんにはどういう理由で呼び出されたの? ねぇねぇ、どうして?」
探るように星之宮がオレに視線を向けてくる。オレが茶柱に気に入られている=下克上出来るだけ優秀な生徒かもしれないと警戒しているのだろう。
「それが心当たりはないんですよ。さっき放送で呼び出されまして」
「分かってないんだ。理由も告げずに呼び出したの?」
「放送で理由を言う方が珍しいでしょう」
「それもそうね~……えーっと、君の名前は?」
「綾小路です」
「綾小路くんかぁ。良いわねぇ、かなり格好良いじゃない。モテるでしょ~? もう彼女とか出来た?」
彼女はいないがセフレは二人います――とは言えないので、「いえ、モテないんで」と謙遜しておく。
しかし、星之宮も見た目だけなら美人だ。ビッチだから好みはわかれるだろうが、経験豊富な女というのも悪くはない。出来れば食べてみたい所だが、生徒と違って教師はなかなか手が出しにくかった。茶柱には付け入る隙があるが、そもそも星之宮は他クラスの教師で絡みもほぼないからな。
――と、考えていると、いつの間にか、星之宮の後ろに茶柱が立っていた。
「何をやってるんだ、星之宮」
背後からやってきた茶柱が、勢いよく星之宮の頭へ手にしていたクリップボードを振り下ろす。ズバンといい音が鳴ると、流石に痛いようで星之宮が頭を押さえて蹲っていた。
「いったぁ。何するの!」
「うちの生徒に絡んでいるからだ」
「サエちゃんに会いに来たって言うから、いない間相手してあげたのに~」
「放っておけばいいだろ。待たせたな綾小路、生活指導室まで来て貰おうか」
「えっと、オレ、何かしました? これでも悪いことした記憶はないんですが」
「口答えはいい。ついてこい――って、お前はついてくるな、星之宮」
「え~! いいじゃな~い」
「これはDクラスの問題……って、何をにやついている綾小路」
「チエちゃんって呼ばないんすか?」
先程聞いた情報と違うのでツッコミを入れると、照れ隠しと思われるクリップボードが襲ってくる。まぁ、見てから回避余裕だけどな。
「すごーい! 良く避けたわね~」
「運動神経は良い方なんですよ」
「余計なことは言わなくて良い。星之宮もさっさと職員室へ帰れ」
「冷たいこと言わなくても良いじゃない。聞いても減るものじゃないでしょ? だって、あのサエちゃんがいきなり新入生を指導室に呼び出したんだし……何か狙いがあるのかなぁって」
どうやら本性が出てきたようで、背後からオレの肩に両手を置いた星之宮が茶柱と視線を交差させている。先程までのフレンドリーな態度が嘘のような変貌ぶりだ。
「もしかしてサエちゃん、下克上でも狙ってるんじゃないの?」
「馬鹿を言うな。そんなこと無理に決まっているだろ」
「ふふっ、そうよね。サエちゃんにはそんなこと無理よね~」
原作の台詞を借りるのであれば、茶柱にはAクラスを目指す資格なんてない――と、いうことだろう。
「どこまで付いてくるつもりだ? これはDクラスの問題だ」
「いいじゃない。一緒に行ったって。ほら、私もアドバイスするし~」
「美人からのアドバイスなら大歓迎ですよ」
「ほら、綾小路くんもこう言ってるし~」
性のアドバイスならもっと大歓迎――なのだが、残念ながら時間切れだ。一之瀬が来た。
「星之宮先生。少しお時間よろしいでしょうか? 生徒会の件でお話があります」
一之瀬が一瞬こちらと目を合わせたが、すぐに星之宮に向き直る。いいタイミングだと言わんばかりに、茶柱が星之宮を追い払うジェスチャーをしていた。
「ほら、お前にも客だ。さっさと行け」
「ざ~んねん。まぁ、これ以上からかっても怒られそうだから、また遊びましょ綾小路くん。じゃあ、職員室にでも行きましょうか一之瀬さん」
そう言って踵を返し、星之宮は一之瀬と一緒に職員室へ入っていく。
原作通りならば、一之瀬はここで生徒会入りを望むが、南雲を警戒した堀北兄に生徒会入りを却下される。まぁ、後々傷心の一之瀬に南雲がつけ込むから、堀北兄の行動はあまり意味がないんだが――
「ついてこい」
星之宮が職員室へ戻るのを見届けると、茶柱がため息をつきながら生徒指導室へ歩き出した。
「で……何なんですか、オレを呼んだ理由って」
「うむ、それなんだが……話をする前にちょっとこっちへ来てくれ」
指導室に着いた途端、今度は指導室の中にあるドアを開け、そっちへ来るように声をかけてくる。中を覗くと給湯室になっているようで、コンロの上にはヤカンが置かれていた。
「お茶でも湧かせばいいですかね。ほうじ茶でいいですか?」
「余計なことはしなくていい。いいか、私が出てきて良いというまでここで物音を立てずに静かにしているんだ。破ったら、あの似顔絵に描いてあった通り退学にする」
バタンと給湯室のドアが閉められる。どうやら、小テストに描いた茶柱似顔絵はお気に召さなかったようだ。
――と、考えていると、少しして指導室のドアがノックされる音がした。原作通り堀北が来たようだ。茶柱が「入れ」と声を上げると、ドアが開く音がする。
「それで、私に話とは何だ? 堀北」
「率直にお聞きします。何故、私はDクラスに配属されたのでしょうか?」
「本当に率直だな」
「先生は今日、クラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれると仰いました。そしてDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦だと」
「そうだな。間違ったことはいっていないと思うが?」
「私は、入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスをした記憶はありません。Aクラスとは言いませんが、少なくともDクラスになるとは思えません」
オレが評価は学力だけではないと指摘したはずだが、それでも直接教師から話を聞くまでは信じられないようだな。
「入試の問題は殆ど解けた、か。本来なら入試の結果など生徒には見せないが、お前には特別に見せてやろう。丁度、ここに偶然お前の答案用紙がある」
「……まるで、私が抗議に来ると分かっていたようですね」
「これでも教師だ。生徒の性格はある程度把握しているつもりだ。さて、堀北鈴音。お前の入試結果は見立て通り、同率4位の成績を収めている。面接でも、特別注視される問題点は見つかっていない。むしろ、高評価だったと思われる」
「ありがとうございます。では、何故?」
「先程も言ったが、学力だけで優秀だと誰が決めた? 我々はそんなこと一言も言っていない」
「それは、世の中の常識の話をしているんです」
「常識、ね。その常識とやらが、今の駄目な日本を作っていると何故分からない? 普通の学校であれば、確かに勉強が出来ることは一つのステータスだ。しかし、この学校は本当の意味で優秀な人間を生み出す学校だ。冷静になって考えてみろ。仮に学力だけで優劣を決めていたなら、須藤たちが入学できると思うのか?」
結局、オレの言ったことが証明されただけだった――が、事前にオレから話を聞いていたおかげか、原作よりも堀北は落ち着いているように見える。
「……私が仮にそうだったとして。綾小路くんや椿さんはどうなのですか?」
おっと、まさかの名前が出てきたな。原作ではなかった流れだ。オレや雪が堀北にちょっかいを出した影響か?
「あの二人は小テストも満点、勉強も出来て運動神経も抜群、クラスの中心です。先生のいう評価が事実だとしたらAクラスでないとおかしいはずです」
「あの二人か。綾小路はともかく、確かに椿は入学試験でも満点の首席合格だ。お前の言う通り、スペックや人間関係も問題は無い」
「だとしたら、やはり採点基準に問題があるのでは?」
「いや、これ以上は個人情報になるから言わんが、あいつらもまたDクラスになるべくしてなった生徒だ。その評価に間違いは無い――いや、実際に本人に話を聞いた方が早いか」
「本人?」
「ああ。丁度、他にも指導室に呼んでいたのでな。出てこい、綾小路」
このタイミングで呼ばれるのか。まぁ、呼ばれた以上は出て行かない訳にはいかないだろう。あまりのんびりしていると、伝家の宝刀「退学にするぞ」が出るからな。
「いつまで待たせれば気が済むんですかね」
「あなた……私の話を聞いてたの?」
「まぁな。堀北があまりにストレートに褒めるから照れてしまったぞ」
「なっ……先生、何故このようなことを」
若干恥ずかしそうにしながら怒る堀北。
照れながら文句を言うとは器用な奴だ。
「必要なことだと判断したからだ。さて、綾小路、お前を指導室に呼んだワケを話そう」
「……私はこれで失礼します」
「待て堀北。最後まで聞いていた方が、お前のためになる。それがAクラスに上がるためのヒントになるかもしれんぞ」
「……手短にお願いします」
出て行こうとした堀北の動きが止まり、そのまま先程まで座っていたと思われる椅子へと座り直した。オレも給湯室から椅子を持ってこよう。
「さて、お前は面白い生徒だな、綾小路」
「茶柱、なんて奇妙な名字を持った先生には負けますよ」
「全国の茶柱さんに謝れ。それと、ちゃんと話を聞け」
怒られたので素直に座る。茶柱はクリップボードに貼られたオレの入学試験の結果と思われる用紙をトントンと指で叩くと意味深な笑みを浮かべた。
「入学試験の結果を元に、個別の指導方法を思案していたんだが、お前のテストを見て興味深いことに気がついたんだ。最初は感心したぞ」
「バレましたか」
「バレない訳がないだろう。国語50点、数学50点、英語50点、社会50点、理科50点。さて、堀北……これの意味するものが何かわかるか?」
堀北が食い入るようにテスト結果を確認する。まぁ、こいつにしてみれば、オレがこんなことをする理由はわからないだろうな。
「綾小路くん……どうして、こんな訳のわからないことを?」
「見る人が見れば違和感がわかるだろう? 普通に100点を取っても面白くないから少し遊んだんだ」
「入学試験よ!? 気付かれずに失敗すれば、学校に入学できないかもしれないのに、そんな馬鹿な真似をする意味が――」
「それが、こいつはわざとだとわかるように上手く回答していたのさ。いいか? この数学の問5、この問題の正解率は学年で3%だったが、こいつは間の複雑な証明式も含め完璧に解いている。一方、こっちの問10の正解率は76%。普通に考えて間違えるなどあり得ないが無回答になっている。そうやって難易度の高い問題だけを解いて点数を調整したんだ」
「採点する先生には上手く伝わったようで何よりです」
原作知識があるので、試験の結果がどんなに悪くてもオレの入学は決まっているとわかっていた。
しかし、それを知らない人間からすればおかしなことをしているようにしか見えないだろう。呆れたような苦笑いを浮かべている。
「の、能力の無駄遣いだわ……」
「天才故の気まぐれというやつだな……だが、堀北、これで悲観する必要は無いというのがわかっただろう。朝にも話したが、評価次第でクラスは上下する。卒業までにAクラスになればいいんだ」
「……それでも簡単な道のりとは思えません。綾小路くんや椿さんのような例外がいたとして、未熟者が集まるDクラスがどうやって優れたAクラスより多くポイントを取るというのですか?」
「それは私の知ったことじゃない。目指すか目指さないかは個人の自由だ。それとも堀北、お前はAクラスに上がらなければならない特別な理由でもあるのか?」
「それは……いえ、今日のところはこれで失礼します。ですが、私が納得していないことだけは覚えておいて下さい」
「覚えておこう」
そう言うと、話は終わりだとばかりに茶柱が立ち上がった。
「要件は以上でいいな? では、私はもう行く。そろそろ職員会議の始まる時間だ。ここは閉めるから全員出ろ」
背を押されるように、オレと堀北も部屋を追い出される。堀北は素直に出て行ったが、少し茶柱の興味を引くためにも、ちょっと悪あがきをすることにした。
「先生、小テスト満点のご褒美くれませんか? Dクラスで満点はオレと雪だけですし、前に水泳の授業で一位になった時にもボーナスでポイント貰ったんですよ。先生も初日に、成績次第でボーナスポイントが出るって言ったじゃないですか。満点なら文句はないと思うんですけど?」
「……そうだな。確かに、お前の言うことも尤はだ。良いだろう、小テスト満点の褒美に10000ポイントくれてやる」
そう言って、茶柱が10000PPを振り込んでくる。ついでに次の約束もしてしまうことにした。
「中間試験でも満点だったら、またポイントくださいね」
「中間試験が満点で単独トップなら50000ポイントやる。精々、勉強しろ」
おっと、それは駄目だ。茶柱も敢えて引っかけのような条件をつけたのだろうが、その条件を受けることは出来ない。抱きしめられるくらい距離を踏み込むと、耳打ちしていく。
「単独は駄目っすね。同じ満点トップが複数いてもくださいよ?」
中間試験は攻略法を使えば、大抵の人間が全教科満点を取れる。単独トップなんて条件が認められるはずがない。茶柱も耳打ちした言葉で、こちらが攻略法に気付いているとわかったようで驚いた表情を隠せずにいた。
「お前、そこまで……他のやつらにこのことを内密にするなら、ちゃんと50000ポイントくれてやる」
「毎度ありがとうございまーす」
「全く、良い気分だったのが台無しだ」
「先生が意地悪言うからですよ。いたいけな生徒を騙そうとする方が悪いんです」
「……全く、頼もしいやつだ」
クリップボードでオレの頭を軽く叩き、茶柱は職員室へ戻っていく。どうやら、有能アピールは十分に出来たようだな。
しかし、問題なのはここからだ。茶柱はやりたい放題やって満足だろうが、残されたのはオレに疑問を持った堀北――当然ながら、このまま逃がして貰えるはずもなく。
「天才故の気まぐれ……ね。綾小路くんは、Aクラスを目指すつもりはないの?」
「そういうお前は、直訴するくらいAクラスになりたいみたいだな」
「いけないかしら?」
「別にそんなことはない。自然なことだ」
「私はこの学校に入学して、普通に卒業すれば、それがゴールだと思っていた。でも、現実は違った。まだスタートラインにすら立っていなかったのよ」
「じゃあ、お前は本気でAクラスを目指すつもりなんだな」
「まずは学校側に真意を確かめるわ。でも、その結果、私がDだと判断されたのなら……その時はAを目指す。いいえ、必ずAクラスに上がってみせる」
「相当大変だぞ。問題児たちの更生こそ出来たかも知れないが、中間テストはもうすぐだ。赤点を取ったら即退学、それを防げないとAクラスを目指す所じゃなくなる」
「……わかってるわよ。出来れば、学校のミスであることを期待するわ」
本当にわかっているのだろうか?
Aクラスを目指すと行っても、差は800CP以上、現段階でポイントをプラスにするすべは解明されていない。そこまで自信満々になれるのが不思議なくらいだ。
「大丈夫よ、学校がこのまま静観を続けることはないわ。それじゃあ、クラス別に評価をつけた意味が無い。先生も上のクラスに上がれると言っていた所から考えても、これから先はクラス間での抗争があるのは間違いないわ」
「だとしても、簡単にAクラスに上がれる保証はない。スタートの差は絶望的だ」
「かもしれないわね。でも、自らが動かなければ、この状況も何とかすることは不可能よ」
「お前の気持ちは汲んでやるけど、個人で何とか出来る問題じゃないだろ」
「違うわね。正しくは、個人ではどうにも出来ないけど、個々が解決しなければならない。非常に厄介な問題よ」
「全員がやらないとスタートラインにすら立てないからな。そういう意味では、確かにまだDクラスには可能性がある。今回の件が良い教訓になっただろうしな」
「すぐに改善しなければならないことはたった一つ。中間テストの点数の向上よ。少なくとも赤点は回避しないと話にならないわ」
「中間テストって言ってもなぁ」
「綾小路くんの言いたいことはわかるわ。最後の三問以外中学生レベルのあの小テストで、赤点を取るような生徒が何人もいるレベルじゃ、中間テストはどうにもならないって言いたいんでしょう?」
「おぉ、エスパーだ」
「エスパーじゃなくてもわかるわよ。で、あなたに協力をお願いしたいんだけど」
協力ね――原作では何だかんだ手を貸していたが、今の自分勝手なこいつに手を貸した所で意味は無い。むしろ、オレ抜きで自分の無力さを感じさせた方が、後々いろいろな意味でメリットがある。
「悪いが断る。メリットが何もないからな」
「メリットならあるわ。上のクラスに行けば、クラスポイントが増える。あなたにも悪い話ではないはずよ?」
「それはお前に協力するメリットにはならない。平田や櫛田、クラスに協力すればいいだけの話だからな。むしろ、お前にオレがつくことでどんなメリットが生まれるのか説明できるなら協力することを考えてもいい」
さて、論理的な説明が堀北に出来るかどうか。
「難しいことを考えることは何もないわ。作戦は私に任せて、あなたは私の言う通りに動いてくれるだけでいいの。私の指示に従ってくれれば、必ずポイントをプラスに持って行くと約束する」
「で、具体的な作戦は? オレに何をさせるつもりだ? どうやってポイントをプラスに持って行く?」
「それは――」
「結局、お前の誘いには具体的な中身がないんだよ。とてもじゃないが、自分の体を預けようとは思えない」
「なら、あなたには具体的な作戦があるというの?」
「まず、学力の低い生徒に向けて勉強会を開く。オレの学力が高いのは今回のことでわかっただろう? オレと雪が教師側に回れば、クラスの平均点を上げられる。平田や櫛田だって協力してくれるはずだ。その上で、中間テストを乗り越えて、いずれポイントを手に入れるためにも、クラスの下地を作っていく」
と、今考えていることをそのまま伝えてやった。流石に中間テストでポイントが手に入るとは言えないので少しぼかしたが、勉強を通じてクラスメイトたちに学力アップの下地を作ろうとしているのは嘘ではないし、それがいずれ役に立つ場面も出てくるだろう。
ぐうの音も出ないとはまさにこのことのようで、堀北が無言のまま、こちらを睨んでくる。
「勉強会については、私も考慮には入れていたわ……」
「お前が? 仮に勉強会にお前が参加したとして、教えられる側と問題を起こさずに教えられるか? お前は基本的に自分を基準に全てを考えている。テストの点数がまともに取れない生徒が、何故勉強が出来ないのかだってわからないんじゃないか?」
「ただの努力不足でしょう?」
「それを須藤辺りに言ってみな。喧嘩になって終わりだ」
実際、原作では喧嘩になって一度ご破算になっている。今のままの堀北に出来ることなど何もない。
「やってみなければわからないじゃない……!」
「なら、やってみるか? もし、お前が一度も問題を起こさず、三馬鹿に勉強をちゃんと教えられるのであれば、お前の言うことを聞いてAクラスを目指してやる」
「彼らに?」
「オレの推測では、あいつらだけは勉強会に参加しない。オレも、あの三人だけは特別枠でどうにかしようと考えていた。その枠をやる。もし、オレを納得させる結果を出せたらお前の勝ちだ」
「言ったわね? その言葉、忘れないでよ?」
「だが、もし一度でも問題を起こせば失敗とみなす。お前が三馬鹿を見捨てた瞬間、オレはお前に協力しない」
「いいわ」
「覚悟しろよ。お前は軽く見ているようだが、この勉強会が成功するか否かで、オレのお前に対する評価が決まると思え。もし失敗した場合、オレはお前を口だけ達者な無能者と判断する」
実際、今の堀北にはまだ何の実績もない。ただ、成績がいいだけで上を目指すと吠えるだけなら、今日の幸村と同じレベルだ。
「無能者って……言ってくれるじゃない」
「確か、お前は能力の高さで人を評価していたな。オレはお前よりも小テストの点数が上で運動能力も高い。全てにおいてオレ以下のお前が、三馬鹿の勉強会一つも出来ないのであれば、そこそこの学力しかない無能としか評価しようがないだろう?」
「いいわ。必ず成功させて見せる」
「なら、頑張れよ。まずは三馬鹿を集める所からだ。言っておくが、オレや雪は手伝わない。自分で考えて、自分でどうにか勉強会を開催するんだ。それすら出来ないのであれば、お前の力はその程度でしかない」
堀北は力強く頷いた。そのまま、寮に向かって歩いていく。おそらく、頭の中ではどうやって三馬鹿を呼び出そうか考えているのだろう。
だが、道筋は一つしかない。
堀北が呼び出しても三馬鹿が来ないのはわかりきっている。堀北本人も、自分がクラスで浮いているのは理解しているだろうし、自分の呼びかけで来ると自惚れるほど馬鹿ではない。
と、すると、誰かに力を借りるしかないが、オレと雪は今回の賭けで力を貸さないと決まっている。交友関係のない堀北が頼れるのは、ずっと自分に話しかけて来てくれた櫛田しかない。
しかし、堀北はすぐには櫛田に頭を下げないだろう。あれだけ袖にしていたのだ。今更、どの面下げて手を貸してくれと頼めばいいのかわからず苦悩する。
とはいえ、オレとの賭けもあるし、このままいつまでも勉強会を開かない訳にはいかない。追い込まれれば、背に腹は代えられないと、櫛田に協力を頼みこむはずだ。
櫛田は三馬鹿を集めるだろう。三馬鹿も、櫛田の頼みならとついては来るが、元々勉強に意欲的ではない三人の気持ちが堀北にはわからない。衝突は必至――特に我の強い堀北と須藤だ。最初は我慢できても、すぐにぶつかり合うだろう。
そして、勉強会は失敗し、櫛田はストレスから本性を現す――こういう流れになると決まっている。原作云々ではなく、それ以外に堀北には道はない。
もし、今の時点で原作後半のような堀北になっていればまだ話は別だった。しかし、今の堀北はまだ無能のままだ。一度落ちる所まで落とさないと生まれ変わらない。
原作のオレは優しすぎる。中途半端に手を出すよりも、このままどん底に落として、オレに頼るしかない状況を作り上げた方が成長もするし、最終的に堀北を食べやすいだろう。
まぁ、精々頑張れ。
無駄になるとわかっている勉強会について悩む堀北の全身を舐めるように眺めていく。いずれ、この堀北が自分からオレを求めるのを想像するだけで、ズボンの中のTレックスが暴れ出しそうだった。
原作との変化点。
・堀北が茶柱に直訴する際、清隆や雪の話題を出した。
自分よりも上だと認めているからこそ、Dクラスにいるのがおかしいと追及したが、茶柱には流されて終わった。
・全教科50点の言い訳を気まぐれに変えた。
原作ではたまたまと言い張っていたが、ここでは天才ゆえの気まぐれになっている。実際、原作知識で0点でも合格できるとわかっている以上、入試は茶柱の興味を引く道具以外の何物でもないので、言い訳をするにしても気まぐれとしか言いようがない。
・茶柱にPPを要求した。
この先も満点を取る度にPPを請求しに行くつもり。現在の所持金は約5万PP。
・堀北の協力を拒否した。
原作では流されて協力したが、この世界では堀北に自身の無力さを味わわせるために拒否している。その過程で、勉強会を成功させられるかどうかの賭けを行った。ぶっちゃけ、堀北が勝てばその分堀北が優秀になっているということであり、仮に負けたとしても痛みはない。とはいえ、今の所負ける確率はほぼない。奇跡が起きれば上手くいくかもねってレベル。
今話登場人物一覧
・綾小路清隆
茶柱に能力をばらされた。この借りはいずれ返すと、後に堀北ともども凄い目に合わせることを決意する。
・堀北鈴音
やはり、清隆は自分の想像以上に凄い人物だったことがわかった。その協力を得るためにも賭けに乗ったが、その船が泥で出来ていることにまだ気づいていない。
・茶柱佐枝
清隆の能力をばらして堀北の尻を蹴った。Aクラスを目指すために使えるものは何でも使うつもりでいる。
・星之宮知恵
サブヒロイン。いつか、美味しく頂きたいと思っている。