SIDE:16 『南雲雅の疑惑』
SIDE:南雲雅
ふと、最近、あまりなずなに会っていないな――と、そんな風に感じたのは、もうすぐ冬休みに入る頃だった。
別に普段から頻繁にやり取りしている訳ではない。同じクラスで幼馴染ということもあって、あいつは俺にとって誰よりも親しい人間だ。
だから、傍にいるのが当たり前だし、あいつも俺のことを家族のように思ってくれている。しかし、雪に生徒会総選挙で屈辱の敗北を喫してから、俺は何となくなずなを避けていたのかもしれない。
それは、あれだけ大口を叩いておいておめおめを負けたことに対する恥ずかしさからか、あの時になずなに――女に頼りたくないという小さなプライドのせいかはわからないが、少なくともここ数か月は学校でたまに話すくらいの距離感になってしまっていた。
何というか、俺らしくない。
確かに、生徒会総選挙が終わった後は、まだ敗北を認められずに荒れていた。だが、そんなものは俺の私物を使って鬱憤を晴らしている。もう、俺は落ち着いているし、今ならばなずなともいつも通りの会話が出来るはずだ。
思い立ったが吉日ではないが、なずなに電話をかける――久しぶりということで少しドキドキしたが、まさか俺がなずなに緊張させられる日がくるとは思わなかった。
『もしもーし、なに雅? 最近、付き合いが悪くなったと思ったらいきなり電話してきてー』
なずなは、いつもと変わらない様子で電話に出た。おかげで俺の中にあった若干の緊張も晴れていく。
「そりゃ悪かったな。ちょっと傷心してたんだよ」
『知ってるよ。あれだけ生徒会長になりたがってたんだし、ショックを受けて当然だと思う』
「その、なんだ……お前にも、心配かけて悪かったな」
『ん、心配したよ。もっと早くに頼ってほしかったくらい』
「悪い……」
『あはは、冗談冗談。別に、怒ってる訳じゃないよ。でも、今度いろいろ奢ってもらうから覚悟しておいてね!』
やはり、なずなと話すと落ち着く。
幼馴染だからか、それともこいつが俺にとって特別な女だからなのか――どちらにしろ、今、俺はなずなを手放したくないと感じてしまった。
「本当なら、俺が生徒会長になってお前を生徒会に誘おうと思ってたんだけどな……」
『仮にそうなってたとしても、私はパスしてたよ。私、その手のことには興味ないし……それに、雅はまだ元生徒会長さんとの決着だってついてないでしょ?』
「堀北先輩との決着か……確かにな。でも、今はそれ以上にお前が欲しい。なぁ、なずな、改めて俺と付き合わないか?」
『って、何いきなり告白してくる訳? 雅があっちもこっちも手を出してるのは知ってるんだからね』
「お前が彼女になってくれるなら手を切るさ」
『どーだかね。まぁ……堀北会長に勝ったら、その時は考えてあげてもいいけどね』
「本当か?」
『雅が本気で私だけを愛してくれるならね。それに、本気なら堀北会長にも勝てるでしょ?』
「勝つさ」
『んじゃ、期待してないで待ってる。それじゃ、またね』
通話が切られる。
期待してないって――こいつ、俺の告白を本気だと思ってないなこれは。前からそうだが、どうも俺たちは幼馴染で家族のように育ってきたせいか距離感が近すぎる。
ただ、なずなの言いたいこともわかった。確かに、俺が今感じているなずなへの気持ちは一過性のものと言われれば否定できない。明日には今日ほどの熱はないかもしれないし、あいつもそれがわかって期待してないと言ったのだろう。
「本気で好きだって思う時もあるんだけどな……」
けど、その気持ちが本物かと問われると自信がない。なずなのことが好きな気持ちが、半分は家族愛なのも間違いではなかった。でも、将来俺の隣にいる女を想像したときに、なずなの姿しか想像できないのも事実だ。
「まぁ、色恋はもうちょっと大人になってからでいい。今は、堀北先輩へのチャレンジと、雪への雪辱の方が大事だ」
学生の内は遊んでいるくらいがちょうどいい。それよりも、どうやって俺が好敵手と認めた相手と戦うかの方が大事だ。
しかし、この時、俺はなずなの身に危険が迫っていることに全く気付けていなかった。もし、もう少しなずなを大切にしていたのであれば、あんな結末になることもなかったかもしれない。
◇◆
12月24日、久しぶりになずなをデートに誘った。最初はあまり気乗りしない様子だったが、好きなものを買ってやると言うと掌を返したように誘いに乗ってくる。
思えば、こうして二人きりで会うのは久しぶりだ。だが、改めて見ると、なずなのやつ少し綺麗になったか? 何というか、今までにない色気のようなものを感じる。思わず、調子に乗って手を繋ごうとすると、スッとその手が遠くに逃げていった。
「雅、らしくないんじゃない?」
そう言われて、なずなに興奮していた自分に気付く。少し恥ずかしい。この俺が場の雰囲気に呑まれてそんな気分になるなど。
「それで、今日はどうするの?」
「デートなんだから、いろいろ見て回ればいいだろ」
「デートねぇ。私は買い物だと思ったけど?」
「男と女が二人で出かければ、それはもうデートだろ」
そう言って、無理やり手を握って歩いていく。なずなは特に恥ずかしいとも思わないようで、いつもの様子で「うわぉ、大胆」と笑みを浮かべていた。何というか、大人の余裕を感じる。まるで、この俺が子供扱いだ。
「でも、雅が私と二人っきりで出かけようとするなんて珍しいよね。普段は大体クラスのメンバーとか生徒会のメンバーが一緒だったし」
「この間言ったろ。本気だって」
「ああ、あの告白ね」
「堀北先輩に勝てるかどうかは置いておいて、俺の気持ちは伝えておかないとな」
「ふ~ん……」
らしくない――と、目が訴えている。
実際、俺も半分くらいしか本気じゃない。結局、この間の熱は冷めつつあるし、とりあえずなずなとの関係を回復させようと思っただけだ。
しかし、こうして改めてなずなを見ると、少し本気で抱いてやりたくなった。こいつが、俺のモノで鳴く姿を想像するとかなり興奮してくる。
「ま、私は買い物が出来ればそれでいいんだけどねー――ッ!」
――と、こちらの誘いをのらりくらりと躱していたなずなだったが、ふとその足が止まった。
見ると、目の前から一年と思わしきカップルがイチャついているのが目に入る。ゲーセンの表にあるクレーンで、男の方が女にぬいぐるみを取ってあげているようだった。
「ん? あれ、綾小路か?」
前に体育祭の準備期間で、雪や桔梗と一緒にいた男子生徒――調べた所、雪とは幼馴染で浅からぬ関係ということだったが、こうして別の女とデートしているということは恋人関係ではないらしい。
「なずな、綾小路と知り合いだったのか?」
と、声をかけるも、なずなから反応が返ってこない。ボーっと、綾小路の方へ視線を向けている。
「おい、なずな? なずな!」
「えっ! あっ、なに、雅?」
「何じゃない。いきなりボーっとして、どうした?」
「べ、別に? ちょっと、知り合いがいたからびっくりしただけ」
知り合い? 雪と綾小路が?
「綾小路と知り合いなのか?」
「あ、うん。体育祭のリレーで雅に勝った子だし、たまたま会う機会があって話をしたんだよね」
そう言いながら、ほんのりと顔を赤らめる。まるで、好きな人を見つけたかのような反応――だが、いくら何でもあのなずなが、急に綾小路を好きになるとは思えない。
が、少し嫌な気分になった。
「あ、ちょっと雅!」
目の前でぬいぐるみを取って楽しんでいる綾小路のデートに割り込みに行く。なずなは、止めなよ――と、言わんばかりの態度だが、少しくらい邪魔しても罰は当たらないだろう。
「おい。お前、綾小路だよな?」
声をかけると、綾小路とその彼女と思わしき女がこちらに振り返る。流石に俺のことは忘れていなかったようで、「どちらさまですか?」とは言われなかった。
「えっと、南雲先輩……なにか御用でしょうか?」
「いや、お前が雪以外の女を連れているのが珍しいと思って声をかけただけだ」
「俺も別に雪と毎日一緒にいる訳じゃないですよ……」
「ちょっと雅! デートの邪魔しちゃ悪いって!」
俺が綾小路と話をしていると、合流したなずなが止めに入ってくる。なずなと綾小路の視線が合うと、どちらともなくばつが悪そうな表情をしていた。なんだ、その分かり合ってる的な感じは――
「……お前、なずなと知り合いなんだってな」
「一週間くらい前に、たまたま会いまして……」
「べ、別にいいじゃん。私たちのことは……」
一週間前ってことは、丁度俺がなずなに電話をかけた日辺りだ――ちょっと下世話な想像をしてしまったが、流石にそんな短い時間じゃ何もできないか。
「で、何か話したのか?」
「大半は南雲先輩の話でしたよ」
「ちょっと! 綾小路くんも、余計なこと言わないで!」
恥ずかしそうになずなが綾小路の口に手を当てる。なんか、久しぶりにこいつが慌ててる姿を見たが、俺の話をするのが恥ずかしいというのは悪い気分じゃない。
「ほら、雅も! 綾小路くんに負けて悔しいからってあんまり絡まないの! そっちの子も、ごめんね」
「あ、おい! 引っ張るなって……」
まるで逃げるように、なずなが俺の腕を引っ張って綾小路から離れていく。しかし、たまに視線が後ろの綾小路に向いている。対する綾小路の方は、しばらくジッとこちらを見ていたが、すぐに彼女に手を引かれて視線を逸らしていた。
◇◆
12月28日、少しムラムラしてきたので私物を使ってスッキリしにきた。流石になずなをこんなモノ扱いは出来ない。こういうのは何をしても喜ぶ玩具だから出来ることだ。
だが、いずれは雪や帆波も、こうして俺のために喜んで身を差し出す女にしてやりたいものだ――と、考えつつ、行為を終えて賢者モードに入っていると、急になずなから電話がかかってきた。
「もしもし?」
『……っ! ……なの……でっ……あっ……やっ……んっ!』
電波が遠いのか、音が良く聞こえない。
「もしもし? なずな、どうした?」
『……も、しもし、雅? ご、ごめんね……んっ……きゅ、急に、電話、しちゃって……んぅっ』
「音が遠いな? 外にいるのか?」
『う、うん……ちょ、ちょっと、走って、てぇっ! んっ、ふっ……き、聞こえ、づらい、かもっ……んぁっ……!』
わざわざ外で走りながら電話してきたのか?
「んで、何の用だ?」
『えっと……んっ、んんっ! ね、年始にっ、ねっ……はぁっ、つもうで、にっ……一緒に、イっか、ないっ?』
「初詣に行きたいのか? 別に構わないが……」
『良、かった……あっ……んっ、イっ、クっ!』
「ん? ああ、だから行くって」
『はぁ、あぁ……りがと。じゃ、じゃあ、んっ……詳しい、こと、後でっ……チャット、する、からっ……んっ、ふっ……』
「ああ、お前もあんまり無理するなよ。もう、息も絶え絶えじゃないか。何を焦ってるかは知らないけど、俺は別に逃げないから」
『う、ん……あり、がと……それじゃぁぁぁんっ!!』
ブツッ――と、電話が切れた。最後、何か叫んでいたような気もしたが、虫でも顔にぶつかったか?
しかし、初詣か。去年はケヤキモール近くの神社にクラスのみんなで行ったんだけっか。今年は二人きりで行きたいと誘ってくるってことは、もしかしたらなずなも俺のことを少し気にし始めたのかもしれない。
いつかなずなを抱くことを考えながら、再び私物を起こして奉仕をさせていく。
贔屓目なしに、なずなは美人で可愛い。家族の情と同じくらい、愛情もある。そのなずなが一生懸命俺のために尽くしてくれることを考えると、思わず振りたくる腰のスピードが上がっていった。
だが、この時の俺は、なずなが他の男と一緒に居て、俺と同じように卑猥な行為にふけっている――なんて、一ミリも想像していなかった。俺の誘いにも乗らない、あの身持ちの固いなずなが、そんな簡単に股を開くはずがないと信じ切っていたのだ。
しかし、年が明けてから少しずつ、なずなのちょっとした変化が目に入るようになる。
今までと違う俺へのそっけない態度、アダルトショップに入って行ったという目撃証言、他の男とキスしていたという噂――それらが少しずつ、疑惑という名の刃物となり、俺の心を切り刻んでいく。
だが、混合合宿で半年の停学を言い渡された俺には、その疑惑を探ることが出来なかった。
出来るのは、私物を使っての他人を経由しての探りくらい――それでも、噂以上のことはわからなかった。
三月に先輩の卒業式があり、久しぶりになずなと再会した時も、特に変わった様子はないように見える。クリスマスであれだけ気にしていた綾小路のことも、今では気にした様子を見せない。
しかし、逆にそれが新たな疑念を与えた。
もしかしたら、なずなは綾小路と体の関係になっているのではないか? 去年、様子が変だったのは、そのせいであり――今では気にしなくなるほど回数を重ねたからではないか?
堀北先輩と最後の別れをしながら、俺は疑念を重ねていった。噂や証言と合わせても、不自然な所はない。むしろ、そうとしか思えなかった。
だが、それを確認するすべはない。まさか、お前ら付き合っているのか――とは聞けないし、そうだと言われたらショックを受けない自信がなかった。
今の俺に出来るのは、なずなを信じることだけ――しかし、三年になってから少しして、たまたま俺の部屋にやってきた私物から、なずなが頻繁に二年生の寮に出入りしているという報告を受ける。俺はもう、どうすればいいかわからなくなっていた。
SIDE16は、南雲から見た朝比奈への印象や気持ち――と、布石。
本編では特に気にした様子を描写しませんでしたが、内心では少しずつ気にする様子を見せることにしました。ちなみに神社は独自解釈です。そういう施設があってもいいじゃない。
後、とりあえず番外編にしてますが、いずれ本編の方に移動します。この話、電話シーン書くためだけに書いたのはここだけの秘密。
前にR18も、今まで通りに書き切ってから更新するってことにしたんですが、R18をちゃんと書いたことがないからこれでいいのかわからなくなってきました。もしかしたら変かもしれないし、やっぱり出来上がりから更新する形でもいいですか? で、変な所とかおかしな所があったら修正するって形を取りたいかもです。
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それでもいい。質のいいR18を作っていこ
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毎日更新派だから嫌。気にしないから書いて