ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯002 『知っているけど知らない妹』

 始業式や席替えが行われた次の日の金曜日――新入生の入学式が終わると、ようやく生徒会も一息ついたということで、当たり前のように雪がオレの部屋にやって来た。

 

 基本的にオレ以外のことにあまり興味を示さない雪だが、何かいいことでもあったのか珍しく満面の笑みを浮かべている。

 聞けば、入学式で無事妹を見つけたようで、「あのね、桜子ちゃんがいたんだ! 明日、清隆にも紹介するね!」と、テンションを上げていた。

 

 流石の雪も、家族には違う一面を見せるらしい。

 

 とはいえ、こちらとしては急に桜子ちゃんが――と、言われても、表向きオレは椿桜子については何も知らないことになっている。迂闊に「そうか、よかったな」とも言えず、とりあえずは曖昧な返事をするしかなかった。

 

 改めて、雪には妹がいて、去年この学校に入学するまではずっと一緒に暮らしていたらしい。

 数年前にオレと再会する前や、再会してからしばらくは特に関わりなく過ごしていたようだが、家族がオレの役に立つと判断してからは仲良くするようにしていたと話している。

 

 てっきり家族には違う一面を見せるのかと思っていたが、最終的にはオレに行きつく辺り流石雪というべきか。

 

 まぁ、正直な話、雪が家族と仲良くしてようがしていまいがどうでもいいのだが、原作の椿桜子は『雪を捨てたオレへの復讐』――と、いう感じでこの学校にやってきたはずだ。

 明確に関係が明記されている訳ではないが、外見が似ていることや椿桜子の匂わせる言葉の数々が雪との関係を示唆している。だからこそ、月城の思惑に乗ってオレを退学にしようと他の1年生と組んでくるし、その後もちょっかいをかけてきていた。

 

 しかし、この世界のオレは雪を捨てる所か、逆にホワイトルームから追い出されて生きる気力を失いかけていた雪を立ち直らせている。復讐の線はまずないと見て良いはずだ。

 

 と、すると、純粋に姉の行っている学校に興味を持ったという感じで入学してきたのか――最悪のパターンだと、雪がいることで桜子が入学してこない可能性も考慮していたが、逆にこうして入学してくるとなると、その理由次第では動き方が変わってくる。

 

 だが、当の雪がこの調子ということは、とりあえず姉妹仲が悪くて困るということはなさそうだった。

 

 勿論、雪側が好意を持っていても、向こうが敵意を持っているという可能性もあるが、原作でも椿桜子は雪の境遇に同情する様子や、その雪を捨てたオレを憎む様子も見せている。余程のことがなければ姉妹仲が悪いということはないだろう。

 

「ふむ、そうだな……」

 

 もし雪と椿桜子の姉妹仲が良好なら、彼女を通じて1年生にアクセスするということも出来るかもしれない。

 

 どうやら雪はまだ何も聞いていないようだが、いくら手を組んだとはいえ月城だってこのまま静かにオレのことを見過ごしてくれるはずがなかった。

 今のオレの状態を知りたい親父殿からの催促だってあるはずだし、原作のように『2年Bクラスの綾小路清隆を退学させた生徒には2000万PPをプレゼント!』という特別試験を裏でやろうとしていても別におかしくない。

 

 とはいえ、常識で考えればこんな個人を狙うような特別試験を行うのは無理がある。新1年生の納得を得るために、原作でも生徒会長の南雲に協力して貰っていた。

 しかし、この世界では南雲は生徒会を解任されている。全く同じ手段を使うことは不可能のはずだ。そして、現生徒会長である雪が何も事情を知らないということは、おそらくは理事長権限で陰から強引に押し通すつもりでいると見た。

 

 勿論、月城が完全にオレのことを認めていて手を出さない可能性もゼロではないが、いくら実力の一端を示したとはいえまだ出会ってから数か月の付き合いであるオレと、ホワイトルーム稼働からずっと組んでいる親父殿を比べたらオレを選ぶ可能性は低い。

 

 前にホワイトルームからくる刺客が天沢と八神だと教えてくれた辺り、完全にオレと敵対する気はないのだろうが、それと何もしないことはイコールにはならなかった。

 いや、むしろある程度の情報を渡した上で、オレが期待に応えられるだけの結果を出すことを望んでいるのかもしれない。あの男は、そういう無意味にハードルを上げる行為が好きそうにも見える。糸目の男は信用ならないというのが、俺の前世の知識にもあるしな。

 

 それに、もっと穿った考えをするのであれば、天沢と八神以外にオレの知らないホワイトルーム生が紛れ込んでいる可能性もゼロではなかった。

 そういう意味だと、椿桜子は背景がはっきりしており、まず間違いなくホワイトルーム生ではない。雪を通じて関係が築けるなら、いろいろな意味で大歓迎だった。上手くすれば、雪と桜子で、姉妹丼を楽しめるかもしれないしな。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 と、いう訳で、次の日――土曜日で学校が休みということで、早速雪に椿桜子を紹介して貰うことにした。

 

 いきなり姉からの呼び出しを受けて椿もさぞ驚いただろうに、特に不機嫌そうな態度を見せずに呼び出しに応えてくれている。見た目は原作とあまり変わらず、ダウナーな感じで制服のポケットに手を突っ込んでいた。

 

「桜子ちゃん! 入学おめでとー!」

 

 1年生の寮から出てきた妹を、雪がむぎゅーっと抱きしめると、椿が「お、おねーちゃん……苦しいって……」と声を上げる。

 多少気恥ずかしそうにしてはいるが、嫌がっているという感じは全くしない。やはり雪の言う通り、姉妹仲は特に悪くなさそうだ。

 

「でも、お姉ちゃんビックリしちゃったよ! 桜子ちゃんがこの学校に来るとは思わなかったから」

「驚いたのは私の方だよ……まさか、おねーちゃんが生徒会長だなんて思わなかったし」

 

 確かに、久しぶりの再会を楽しみにしていて、いきなり生徒会長として壇上に姉が出てきたら、そりゃ驚くだろうな――と、思っていると、椿がオレの方へ視線を向けてくる。

 

「おねーちゃん、この人が?」

「そうだよ。綾小路清隆! 私を救ってくれた。私がこの世で一番大好きな人!」

「……綾小路清隆だ。よろしく」

「椿桜子、です。お話はずっと伺ってました。おねーちゃん、口を開けば清隆しか言わない人なんで」

 

 まぁ、何となく予想は着く。きっと実家でもこの調子でオレのことを話していたのだろう。だが、この様子を見る限り、原作のように悪印象は持たれていなさそうだった。

 

 と、すると、やはり気になるのは、椿桜子の入学理由と、こいつがどこまでオレたちについての事情を知っているのかだ。原作でもホワイトルームのことは知らなかったようだが、この世界だと雪の立場も変化しているのでその辺りの情報も鵜呑みには出来ない。

 

「あー……椿は雪のことについてどのくらい?」

「……小さい頃に誘拐されて、ずっと変な施設に囚われていた姉。くらいの認識です」

 

 軽く探りを入れてみると、やはり椿はホワイトルームについては、原作の七瀬と同じくらいの認識しか持っていないようで、雪が幼い頃に捕まっていた特殊な施設くらいの知識しかないと見て良さそうだった。

 

 多分、父親は雪のことを、幼い頃に誘拐された生き別れの姉とでも言って椿に紹介したのだろう。

 

 椿曰く、小学校高学年になったくらいの頃に雪と初めて会ったが、それまで見たこともない少女をいきなり姉と言われても受け入れるのは難しかったと言っていた。

 しかし、精神的に衰弱している姉を見て、流石に放置できず少しずつ歩み寄っていき、最初は打ち解けられなかったが、じっくりと時間をかけて仲良くなることができたらしい。

 

「最初はおねーちゃん、家に来てから何年も元気なくて、笑うこともなく何日も塞ぎ込んでた……でも清隆先輩に再会してから凄く元気になったんだ。ちょっと元気すぎて怖いくらいだったけど、少しずつ私のことも見てくれて、笑ってくれるようになって……」

「桜子ちゃん……」

「今では大好きになった。そんなおねーちゃんがずっと好きって言ってる清隆先輩に会って見たくて、高育を受験したんだけど……まさか、おねーちゃんが生徒会長になってるとは思わなくて。驚いたよ、ほんと」

 

 入学目的はオレに会うことか。復讐の線はないと思っていたが、これで原作と違って椿に悪感情を持たれているという心配はなさそうだな。

 

「そうか……すまなかったな。いきなり変なことを聞いて」

「ううん。何となく理由はわかるから……あの施設のことはあまり知らない方がいいんでしょ?」

「ああ、名前も知らないなら、そのまま知らない方が良い」

 

 実際、ホワイトルームのことなど、知った所で百害あって一利なしだった。

 

 まぁ、オレが本当に危惧していたのはホワイトルームのことだけではなく、彼女の入学目的や雪との関係、椿のオレに対する印象等もあったのだが――どうも椿はオレがホワイトルームのことだけを強く警戒していると思ったらしい。訂正するのも面倒くさいし、丁度いいのでそのまま椿には勘違いして貰っておこう。

 

「でも、二人の姉妹仲が良さそうで安心したよ。普段、雪からは家族のことはあまり聞かなかったからな。仲が悪いんじゃないかと邪推していた」

「そうなんだ……」

 

 自分の話をしないと聞いて、少し椿が沈んだ表情を見せた。それを見て、雪が少し慌てたように話に混ざってくる。

 

「だ、だってー、この学校じゃ桜子ちゃんには会えないし……言っても意味ないと思って……」

 

 と、言いながらまた抱き着いてくる雪を、椿が「暑いよ、おねーちゃん」と面倒くさそうに押し返した。

 この様子を見る限り、一緒に居た時間は少なくとも、姉妹としては楽しく過ごしていたんだろう。少なくとも、桜子が雪を追ってこの学校に入学してくるくらいには。

 

「で、おねーちゃん。清隆先輩に、もう告白はしたの?」

「ちょっ、桜子ちゃん!?」

「こうして紹介しに来るくらいだし、まさかまだ友達のままじゃないよね?」

「いや、その、えっとね……」

 

 気が付けば、話はよくある色恋沙汰に発展していた。しかし、流石の雪も、オレをセックスフレンドです――とは、紹介できないようで、何と説明すればいいかわからずに困っている。

 

 とはいえ、表向きオレは一之瀬と付き合ったままになっていた。殆どの生徒は形だけのカップルとしか認識していないようだが、それでも付き合っていることに変わりない。

 まだ入学して間もない1年生にはわからないだろうが、時間が経てば椿の耳にも話が入ってくる可能性がある。ここで変に嘘をつくと、後々関係が拗れてしまいそうだった。

 

「……椿。そのことなんだが、今は少し状況が複雑怪奇になっていてな。オレには雪じゃない表向きの彼女がいるんだ」

「は?」

「ち、違うよ!? 正式な彼女さんじゃなくて、あくまでも他の人が告白してこないようにするための偽彼氏彼女みたいな? 仮面夫婦みたいな?」

「雪、仮面夫婦は夫婦間の愛情が冷めきっているのに、体外的に円満な夫婦を演じる関係のことを言う。それをいうなら、仮装夫婦が近いかもな。いや、そんな言葉は存在すらしないが……」

「偽彼氏? 仮面夫婦? 一体何がどういうこと……?」

 

 流石の椿も、状況の理解が及ばないようなので、改めて一から事情を説明していく。

 去年の7月に別クラスの一之瀬帆波という女子から彼氏の代役を頼まれたこと。今でもその関係が続いていること。だから、オレと雪は付き合っていないこと――まぁ、帆波の件がなかったとしても、オレと雪が付き合うことはないと思うが。

 

「……理解はしました。でも、納得できません。だって、先輩はお姉ちゃんの気持ちに気付いていて、その一之瀬って人の恋人役になったってことでしょう?」

 

 確かに、普段の雪の調子を見て、オレに気がないとわからないやつの方が少ないだろう。椿からすれば、裏切り行為のように感じて当然という訳だ。

 

「そうなるな」

「そもそも、なんでおねーちゃんとの関係をなぁなぁのままにしているんですか? お姉ちゃんがどれだけ先輩に会いたがっていたか。先輩だってわかっているはずです」

「さ、桜子ちゃん、怒ってくれるのは嬉しいけど、清隆にだって人付き合いがあるんだし……」

「おねーちゃんはなんで先輩を庇うの!? こんなに酷いことされてるのに!」

「えっ、だって清隆とはいつも一緒に居られるし……帆波ちゃんが恋人役でも別に本当の恋人じゃないなら困らないし……」

 

 椿が理解できないと言わんばかりの表情を浮かべる。雪はもう、去年一年かけて完全にオレにアジャストしてしまっており、オレが望むものが一番という考えになっていた。

 常識に示し合わせればおかしなことを言っているように聞こえるだろうが、それが雪にとっての常識だ。とはいえ、それを一年振りに再会した椿に理解しろという方が酷か――

 

「雪。せっかく久しぶりに妹に会えたんだ。ここは一旦、姉妹水入らずで話をしてくるといい」

「清隆……」

「椿も、オレがいては混乱するだけだろうし、雪と話したいことだってあったはずだ。オレは逃げるつもりはないし、話は冷静になってからでも遅くはない。違うか?」

「それは……そう、ですけど……」

 

 二人が頷くのを見ながら、とりあえず雪に5万PPほど送金しておく。雪ならばPPに困っているということはないと思うが、昨日は席替えもあったし念のためだ。

 

「後、これだけは言っておく。オレはこの学校に来てから雪を泣かせたことはないし、これからもそんなことをするつもりはない。帆波との関係だって、雪の了解を経てのことだ」

 

 泣かせたことはないけど、鳴かせたことはあるけどな――と、下世話なジョークは今の関係値では流石に言えなかった。

 

 だが、オレが逃げないと言ったこともあってか、椿もとりあえずは矛を収めることにしたらしい。とはいえ、納得できていないのはその表情が物語っている。

 正直、やろうと思えば、下手に椿の考えに理解を示さず、雪と二人がかりで無理やりこの一年間で成長した技術をその身に叩きこむ――という、処女殺しのようなことも出来なくはなかった。むしろ、手っ取り早く姉妹丼を頂くならそれが一番だっただろう。

 

 しかし、恨みを買うことなく関係性を深めてから食べられるのならその方がよかった。

 

 先程まで怒っていた椿の手を引いて笑顔で歩いていく雪を見送りながら、その日が来るのをじっくり待つことにする。

 とはいえ、ただ待つというのは退屈なので、昨日のご褒美も兼ねて桔梗に声をかけた。どうやら友人と遊んでいたようだが、夕方にはこちらに来ると言っている。ご機嫌取りのためにも、先に鈴音も呼んでおくか――

 

 

 




 原作との変化点。

・入学式で雪が桜子の存在に気付いた。
 現段階で、まだ原作では雪と桜子の関係は明確に示唆されていないが、このSSでは姉妹設定。雪からの桜子への認識は、歳の割に使える妹。いずれ清隆の役に立つかもレベル。

・綾小路清隆退学2000万チャレンジ。
 地味に裏で行われている。現段階では清隆も雪も知らないが、いずれ雪は生徒会経由で情報が入る予定。

・桜子と出会った。
 雪経由でフライング初めましてしている。桜子からの呼び方は「おねーちゃん」。素直にお姉ちゃんとか雪姉呼びさせると違和感あったからオリジナル呼び。

・桔梗にご褒美を上げた。
 代わりに被害に遭っているメス豚ちゃんもいるが、原作とは比べ物にならないくらいに概ね仲良くやっている。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 桜子の好感度が微妙だったので手を出すのを止めた。ここからゆっくりじっくり育てていく予定。

・椿雪
 妹が自分の好きな人を嫌って少し困っている。が、どちらかを選べと言われたら迷わず清隆を選ぶ。

・堀北鈴音
 今話の被害者。でも喜んでいる。

・櫛田桔梗
 ストレスを鈴音で発散した。おかげで、原作とは違う関係性を築けている。

・椿桜子
 雪の妹。見た目はそっくり。強いて言えば桜子の方が目つきが少し鋭いくらい。清隆にあまりいい印象を持たなかったが、姉があまりにも頑張ってフォローするので印象については保留にしている。何だかんだ姉に甘い。


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