ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯003 『総合力たったの37か。ゴミめ』

 始業式、入学式が終わり、土日を挟んで月曜日――チャイムが鳴るとほぼ同時に、茶柱が教室に入ってきた。たったそれだけで、クラスの雰囲気が一転して真面目なモノに変わっていく。

 

「全員、揃っているな?」

 

 普段よりも茶柱の表情が固く真剣であること、この後の1、2時間目に授業がないことから、何かあるであろうことは容易に想像できるようで、クラスメイトたちも緊張した様子を見せていた。

 

「先生、特別試験ですか?」

 

 いつものおちゃらけた様子と打って変わって、真面目な顔で池がそう声を上げる。改めて、一年で見違えるほど成長した――が、茶柱もそれを褒めることはしない。そんな時期はもうとっくに過ぎている。ここからは、この真剣さが当たり前になる時代だ。

 

「気になる所だろうが、話を進める前にまずはやってもらいたいことがある。各自、携帯を取り出してくれ。もし忘れた生徒がいる場合はすぐに取りに戻って貰う……が、流石に忘れた生徒はいないようだな」

 

 全員が手に携帯を持っていることを確認すると、茶柱が「結構」と言って話を進めていく。

 

「では、まず各々学校のHPにアクセスし、新しいアプリケーションをインストールして貰う。アプリの名称は『Over All Ability』――インストール後は『OAA』とだけ表示される」

 

 本来であれば、南雲主導で取り入れられるアプリだが、この世界では南雲が残したひな形を雪が引き継いで完成させた形だった。便利なものは使っていって損はない。

 

 黒板の代わりに取り付けられた大型モニターに、実演を兼ねた映像と文字による説明が始まる。インストール自体はすぐに終わり、携帯の画面に学校のイラストと思われるアイコンがOAAの名前と共に表示された。

 

「お前たちだけではなく、今現在、全学年が一斉にインストール作業を行っている。このアプリは今後、高度育成高等学校の生徒に様々な恩恵をもたらしてくれる優れものだ」

 

 百聞は一見にしかず――と、いうことで、アイコンをタップしてアプリを起動していく。

 

 すると、自動的に携帯のカメラが立ち上がり、茶柱が「学生証をカメラで読み取ることで、自動的に初期セットアップは完了する」と、捕捉の説明してくる。指示に従って、カメラで学生証を読み取ると、顔写真や学籍番号が読み取られてログインが完了した。

 

「このアプリには全学年の個人データが入っている。そのため、自分のクラスだけじゃなく、他のクラスは勿論、他学年の生徒の成績を閲覧することも可能だ。例えば、2年Bクラスの項目を押せば、お前たちの名前が五十音順で表示されるようになっている。別に誰のものを見ても構わないが、まずは試しに自分の名前をタップしてみるのがいいだろう」

 

 言われるがままにタップしてみると、クラスと名前、そして一年次の成績という謎の項目が出てくる。知識としてはわかっていたが、こうしてみると、本当にゲームのステータス画面だな。

 

【2-B】 綾小路清隆 一年次成績

【学力】    A+(99)

【身体能力】  A+(99)

【機転思考力】 C (55)

【社会貢献性】 C+(60)

【総合力】   A-(81)

 

 確か、原作では【学力】C(51)【身体能力】C+(60)【機転思考力】D+(37)【社会貢献性】C+(60)【総合力】C(51)だったので、総合で30も成績が上昇していた。

 何なら、学力と身体能力の項目に関しては、もはや数値がカンストしてしまっている。これは原作と違って、手を抜いていないおかげだろう。基本的にテストは満点だし、去年の体育祭でも他学年の先輩を差し置いて最優秀選手に選ばれていたしな。

 

 機転思考力が上がっているのは、原作よりもクラスに関わる様にしたり、セフレたちと一緒にいたりする時間が多いからか。

 

「せ、先生! なんか俺の成績がゲームのステータスみたいになってるんですけど!?」

「そうだ、池。これは一年終了時までの成績を基に作ったお前たちの個別成績だ。今後、教育を行っていく上で重要と判断し採用された」

 

 ちなみに、この評価については全て原作通りであり、各項目の説明についても画面の右上の『?』マークをタップすることで確認が出来た。

 

・学力――主に年間を通じて行われる筆記試験の点数から算出される。

・身体能力――体育の授業での評価、部活動での活躍、特別試験等の評価から算出される。

・機転思考力――友人の多さ、その立ち位置を始めとしたコミュニケーション能力や、機転応用が利くかどうかなど、社会への適応力を求められ産出される。

・社会貢献性――授業態度や遅刻欠席を始め、問題行動の有無、生徒会所属による学校への貢献など、様々な要因から算出される。

 

 そして、総合力は上記四つの数値から導き出されるが、社会貢献性に関してのみ総合力に与える影響が半減(0.5)されていた。正確には、『(学力+身体能力+機転思考力+社会貢献性×0.5)÷350×100』で算出される。

 社会貢献性の影響が少ないのは、基本的にモラルやマナーといった、常識的な態度を元にしているため――と、まぁ、この辺りも原作と一緒だな。

 

「今は1年次の成績表示のみされているが、2年になった今日からは現在進行形で評価が変わっていく。更新はCPやPPと同じく月初めに行われ、1年次と2年次では別で評価が与えられる」

 

 つまり、ひと月毎に成績が記録として残り、一年を通した平均が成績として最後に出る仕組みということだ。

 

 しかし、重要なのはそこではない。これがあれば、今まで交流がなかった生徒の情報も簡単に集められるというのが何よりの利点だった。今までは直接情報を探るしかなかった相手も、これを見れば名前や顔、成績が一目瞭然になる。

 

「今表示されている成績もあくまで過去のものだ。1年次に不甲斐ない成績を収めていても、今後の査定には何も影響を与えない。この機会に認識を改めて努力することが重要だ。成績の可視化には、そういった成長を促す効果も見込んでいる」

 

 これからはいつでもこのOAAを使用することで、相手の成績を確認することが出来る。それが、この先の試験にどんな影響を与えるかは馬鹿でも想像できるだろう。

 故に、少しでも表示される自分の成績を良くしようと努力するものが増えるのも当然――茶柱の言う成績向上を促進する効果も、確かにある程度は期待できそうだ。

 

 おまけに、このアプリには全生徒に向けたオープンチャット機能などもあるようで、他人とコミュニケーションを取る上でも至れり尽くせりという性能になっている。

 

「このアプリは平等だ。クラスが上であることや下であることは一切関係ない。全員が等しく評価されている。同時に、今現在、総合力で高い評価を得ている生徒は、一人の人間として褒めるに値する成果を残していると言ってもいい」

 

 デフォルトは五十音順だが、ソート機能も備わっており、総合力順や学力順など細かく検索できる仕組みになっていた。

 茶柱の言う、褒めるに値する生徒――と、いうことで、総合順でソート機能を使ってみると、2年で一番上にやってきたのは雪だった。

 

 【2-B】 椿雪 一年次成績

【学力】    A+(99)

【身体能力】  A+(96)

【機転思考力】 B (78)

【社会貢献性】 A (92)

【総合力】   A (91)

 

 まさに圧倒的と言って良い能力だ。オレよりもクラスの輪に入り、クラスでも仲間をフォローしたり、生徒会長として活躍したりしているからこそ、これだけの好成績を収められたのだろう。

 

 その次がオレ、洋介と順番に続いていく。

 

 逆に、低い順で並び替えると、やはり一番上は池だった。原作通り総合力37のゴミだ。しかし、本来ならそのゴミの池と並んでいるはずの愛里は総合力51と、原作と違ってこの一年間の努力を実らせていた。

 

「えっ、あいりん凄っ……私よりOAAの総合高いんだけど?」

「そ、そうかな……でも、高いって言っても2しか変わらないよ?」

 

 心なしか、斜め前に座る愛里の背中が大きく見える――いや、愛里が大きいのは別の部分だが。

 

 【2-B】 佐倉愛里 一年次成績

【学力】    B-(60)

【身体能力】  D+(36)

【機転思考力】 C (51)

【社会貢献性】 C+(60)

【総合力】   C (51)

 

 確か、原作では愛里のOAAは、【学力】C(50)【身体能力】D-(25)【機転思考力】D-(25)【社会貢献性】C+(60)【総合力】D+(37)だったはずだが、この世界では社会貢献性以外が全て向上している。

 

 早くから勉強や運動を頑張ったこと、中盤から雫モードを解禁してクラスメイトとも関わりが増え、その容姿を生かして体育祭や特別試験で生徒たちを励ましてきたのが評価されたのだろう。

 実際、総合力51は波瑠加もそうだが、恵や佐藤、篠原よりも上の数値である。一年でここまで伸びたのは十分すぎる成長と言って良かった。

 

「げっ!? 俺、健に学力で負けてる……D+とかマジかよ!?」

「おいおい寛治。俺の半分しか学力ねぇじゃねーか! いや、違うな……俺がお前の二倍頭が良いんだ!」

「うっせー! 20も40も誤差だよ誤差!」

「へっ、誤差にしては大きすぎるだろ。20は赤点でも、40なら赤点は大体回避できるぞ?」

 

 他にOAAの数値が原作と変わっているのは須藤だ。原作にはない捻挫という事故があったため、その間勉強して学力が上がっており池を煽っていた。

 

【2-B】 須藤健 一年次成績

【学力】    D+(40)

【身体能力】  A (94)

【機転思考力】 D+(40)

【社会貢献性】 D-(26)

【総合力】   C (53)

 

 原作だと、須藤の成績は【学力】E+(20)【身体能力】A+(96)【機転思考力】D+(40)【社会貢献性】E+(19)【総合力】C(47)だ。

 学力が上がった代わりに捻挫で部活動を休んだことが影響しているのか、身体能力の評価が多少下がっているようだった。それでも、OAAの総合力は53と、原作の47に比べたら評価は大分上がっている。

 

 また、すぐに手が出る性格を改善するのが原作よりも早かったということもあって、社会貢献性の数値が僅かに高くなっている。

 しかし、喧嘩っ早い性格が改善されているとはいえ、それは基本的に当然なこともあってなかなか評価に強く反映はされていないようだ。

 

「ふーむ、こんなもんかな」

 

 と、声を漏らしたのは後ろにいる千秋だった。どうも、自分のOAAを見て、学校側からどう見えているかを理解して頷いている。

 千秋も、愛里や須藤ほど大きく変化した訳ではないが、原作と違って早い段階で手加減を止めつつあるので、OAAの数値がそこそこ上がっていた。数値としては僅かな変化だが、それでも立派な変化と言って良いだろう。

 

【2-B】 松下千秋 一年次成績

【学力】    B+(78)

【身体能力】  B-(62)

【機転思考力】 B-(60)

【社会貢献性】 B (67)

【総合力】   B (67)

 

 原作が【学力】B+(76)【身体能力】C(54)【機転思考力】C+(57)【社会貢献性】B(67)【総合力】B-(63)なので、そこまで大きくは変わっていないが、それでも原作より軒並み評価が高い。

 ちなみに、学力に関してはまだ少し手を抜いているので、本気を出せばもう少し伸びるはずだ。オレの推測だと、A-(81)くらいまでの実力は持っている。

 

 とはいえ、78と81は誤差のようなものだし、そのうち千秋も完全に本気を出してクラスに貢献してくれるだろう。

 

 また、機転思考力が原作と大きく変わっていないのは、クラスの裏で動いているせいで表向きの評価を受けていないせいだ。

 もし、オレが評価するなら最低でも80(A-)は与える。それだけ裏で千秋がしているサポートはこのクラスを支えてくれていた。

 

「このアプリは、成績に対する意識改革をもたらすのは勿論のこと、学年を超えて生徒同士の交流を図っていくためのコミュニケーションツールとしても活躍していくだろう。しかし、これはあくまで私だが――今から一年後、総合力が一定水準に満たなかった生徒には『何かしらのペナルティ』があるかもしれない」

「ペナルティって……まさか、退学っすか?」

「あくまで私の個人的な憶測だ。しかし、総合力が一番低いE判定に近い者は、あまり楽観視しない方がいいと忠告しておこう。努力するに越したことはないからな」

 

 現時点で一番総合力が低い池からしてみれば、その憶測だけでも十分に危機意識を煽られたようで、ごくりと唾を飲み込んでいた。

 

「お前たちの中には、自己評価と学校の評価の違いに不満を持つ者もいるだろう。だが、これが現状の『学校側のお前たちに対する評価』だ。不服があるなら、学校側を納得させる結果をこの一年で示して見せろ。以上だ」

 

 と、茶柱が格好良くどや顔を決めた所で一時間目の授業は終了となる。

 しかし、これでハイおしまいとは行かず、総合力最低値の池は、休み時間にも関わらず茶柱にどうすれば評価が上がるのかを質問していた。

 

 とはいえ、やれることなど限られている。成績を上げるために勉強をするか、運動能力を伸ばすために部活などに取り組むか――少なくとも、ゲームのように一朝一夕でステータスが変動することはないに等しい。

 また、池だけでなく、他のクラスメイトも各々携帯画面を食い入るように見つめていた。自分の成績や他のクラスの生徒の能力など――気になるものはたくさんあるのだろう。

 

 オレも一応、天沢や七瀬、椿など、新入生のページを開いて改めて確認していく(顔だけ)。

 

 うむ。やはり可愛いな。粒揃いと言って良い。

 

「うーん、清隆が私よりも評価が低いって言うのが納得いかない」

 

アプリを眺めながら新しい獲物たちを吟味していると、隣で雪が不服そうな声色でボソリとそう呟いた。

 

 それを聞いて、雪の後ろの席に座っていた鈴音が、また始まったと言わんばかりにため息を吐いている。

 

「あのね、雪さん。私も勿論、彼が凄い能力を持っていることについては否定しないわ。けどね、現実として特別試験などで大きく表立った結果が殆どない以上、学力や身体能力は別として、他の項目を99になんて出来る訳ないでしょう!」

「だって、選抜科目試験で勝ったし! 清隆がその気になれば全部できるんだよ!」

「その気になっていないからダメだって言っているのよ! 私だってもっと多くの結果があれば文句なんて付けない! 生徒会長なんだからあまり我儘を言わないで頂戴!」

「やーだー! 生徒会長権限で清隆のOAA改変するー!」

「そんな権限ある訳ないでしょう! 他の人が勘違いするから落ち着きなさい!」

 

 と、雪と鈴音が揉めているのを見ながら、改めて愛里のOAAのページを開いていく。

 

 総合力51は特別高いという訳ではない。クラスでいえばまだ下の方だろう。

 だが、相棒の波瑠加が総合力49で、それを超えられたのは今までの愛里からすれば有り得ないことであり、自分でも確かな手応えを感じているはずだ。

 

 その証拠に、オレの隣で雪と鈴音が騒いでいるのに、斜め前の席の愛里は落ち着いた様子で隣の席の波瑠加とお喋りしている。

 もし、原作通りに総合力が池と同じ37だったら、退学の危険を感じてもっと不安を表に出していたに違いない。そういう意味でも、愛里の成長がみられたのはよかった。今日はご褒美にたくさん可愛がってやるとしよう。

 

 

 




 原作との変化点。

・OAAが導入された。
 原作と違い、南雲が生徒会から抜けているが、雪が南雲の作っていたひな形を完成させた形。清隆の学力と身体能力についてはカンストしている。

・愛里、須藤の成長。
 去年の最初からテコ入れした成果が出ている。特に愛里は、雫モードでの人気などもあり原作とはほぼ別人になっている(性格は変わらず気弱)



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 OAAを早速有効活用している(顔を見るだけ)。

・椿雪
 清隆のOAAが自分以下なのが気に入らない。が、学力カンストがお揃っちなのでそれは嬉しい。

・堀北鈴音
 OAAのデータは原作通りだが、雪の無茶に振り回されている。

・佐倉愛里
 雫モードで一年頑張った成果が出た。本人は無自覚だが、少し自信が出てきている。

・長谷部波瑠加
 前々から愛里に劣等感を持っていたが、今回OAAの数値が明確に出てそれが少し焦りになっている。が、表向きは気にした様子を見せず愛里とも仲良くしている。ちなみに、愛里の綾小路グループ入り方法が原作と違うため、呼び名はあいりんになっている。

・松下千秋
 縁の下の力持ち。原作よりも微妙にOAAの数値が高い。とはいえ、恵と佐藤とはもう原作以上に仲良しなことも有り、あまり遠慮をすることはなくなってきている。

・茶柱佐枝
 改めて清隆のOAAの数値を見て満足そうにしている。何だかんだ1年でBクラスにまで上がっているので原作以上に精神的な余裕がある。

・須藤健
 学力や社会貢献性が原作よりも上がっている。身体能力の数値が下がっているが、実際の能力については頭が良くなっている分むしろ動きは良くなっているまであった。いずれ身体能力の数値については原作と似たような数値になる。

・池寛治
 総合力37のゴミ。篠原と付き合い出したこともあって少し調子に乗っている。


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