OAA導入の話題が冷めない内に、二時間目の授業が始まった。当然、ここからはこの学校ならではの、『あの話』について進めていくことになるだろう。
曲がりなりにも、一年をこの学校で過ごしてきたクラスメイトたちには確信めいた予感があるようで、茶柱もまた「正解だ」と言わんばかりに、その口を開いた。
「これから特別試験の概要を説明する。お前たちが二年生になって初めて行う特別試験。それは、これまでに類を見ない新たな試みを取り入れた内容となっている。アプリの導入のようにな」
この新たな試みというのは、原作だと南雲の影響も多少あるが、今はどちらかといえば月城の影響が大きく反映されている。
この試験についても、今の所は月城側からのアプローチはないが、オレなら何も言わなくても乗り越えられるとでも考えているのだろう。飴の次は愛の鞭か?
「肝心のその内容だが、新入生である1年生と、お前たち2年生がペアを組んで行う筆記試験となっている。わかりやすく言えば、去年行ったクラスメイト同士でペアを組むペーパーシャッフル、あれの改良型と言えば理解もしやすいだろう」
とりあえず、特別試験の内容については、概ね原作通りと言ってよさそうだった。
とはいえ、これまで学年を超えて協力する特別試験は体育祭や混合合宿くらいしかなかったということもあって、Bクラスのメンバーも動揺を隠しきれていない。基本はクラス間同士の戦いである以上、当然と言えば当然だ。
「今回の特別試験では学力とコミュニケーション能力が大きく問われる。筆記試験の重要性は今更説明するまでもないと思うが、学校はこれまで他学年との交流を深く行ってこなかった。それ故に生徒同士のコミュニケーション能力が伸び悩んでいると判断した」
「け、けど、1年生とパートナーって……俺達は同じ学年と競い合ってるんですよね?」
「そうだよな。寛治の言う通り、なんか違和感はある」
一年生が関わってくることに否定的な池に乗っかるように、須藤も少し不満を口にする。
実際、言っていることはわからないでもなかった。今の今まで、他クラス相手に必死になって戦っていたのに、そこに不確定要素である一年が入ってくるのだ。やりにくいことこの上ないだろう。
「理解はできる。だが、客観的に考えてみることだ。お前たちが社会人になったとして、接する人間が同期だけとは限らない。中には先輩もいるし、時間が経てば後輩も出来るだろう。そうなった時、お前は後輩だからといって一緒に仕事をしないのか?」
「それは、まぁ……言いたいことはわかりますけど」
「世界が実力主義に移行している中、日本企業の多くは年功序列と終身雇用に縛られ続けている。先輩や後輩と何かするのはおかしいと感じた者は、今一度認識を改めることだ。わかりやすく言えば、飛び級などもその一つ。外国では当たり前のように行われている制度だ。小さな子供がお前たちくらいの学生に交じって勉強するのは珍しいことじゃない」
茶柱の言うことにも一理ある――が、実際に現実としてすぐに受け入れるのは難しかった。
あくまで外国では普通でも、日本には日本の常識や考え方がある。茶柱としても、「理解はできる」と言っている通り、今自分が言っていること全てが正しいと思っている訳ではないはずだ。
「今後、1年生や3年生と競い合うケースも出てくるだろう。しかし、今回に限っては、あくまで協力関係を結ぶのであって敵対する訳ではない。1年のどのクラスの誰と組むのも個人の自由だ。試験期間は、今日を含めて約2週間後。じっくりとパートナーを選定する時間、勉強に取り組む時間が用意されている」
改めて、今回の試験はまだ顔もろくにしらない1年生とコミュニケーションを取り、二人一組のペアで試験に臨まなくてはならない。
これだけでもコミュニケーション能力の低い人間には大変なことではあるが、実際の試験についてもただペアを組めばいいという訳ではなかった。生き残るためには、高い学力を持つ生徒と組む必要が出てくる。学力の低い人間は特にそうだろう。
「テストは試験当日に纏めて5教科行われる。1科目100点の合計500点満点だ。そして肝心のルールだが、今回はクラス単位の勝敗と、個人単位の勝敗の2種が用意されている」
茶柱がモニターに指をかざすと、特別試験の結果について詳しく表示されていく。
【学年度別におけるクラスの勝敗】
クラス全員の点数とパートナー全員の点数から導き出す平均点で競う。平均点の高い順から、50ポイント、30ポイント、10ポイント、0ポイントのクラスポイント報酬を得る。
【個人の勝敗】
パートナーと合わせた点数で採点される。上位5組のペアに特別報酬として、各10万プライベートポイントが支給される。上位3割のペアに対して、各1万プライベートポイントが支給される。
合計点数が500点以下の場合、2年生は退学、1年生は保持しているクラスポイントに関わらず、プライベートポイントの振り込みが3か月間行われない。
また、意図的に問題を間違えるなどして点数を操作、下げたと判断された生徒は、学年に関係なく退学とする。同じく、低い点数を第三者が強要した場合もその者を退学とする。
「もう何となくわかるだろう。今回の試験、学力の高い生徒から順に売れていく。特に、今回の試験からはOAAが使用される。情報が全員に共有される以上、頭のいい生徒は黙っていても声がかかり、逆に学力の低い生徒ほど売れ残っていく」
特に今回の試験は、クラスの勝敗の旨味が少なく、個人の勝敗の方が旨味が大きい試験になっている。合計点数が500点以下のデメリットも、2年は退学だが、1年は実質お咎めなしに近い。
1年間という絆を育んできた2年生からすれば、どうにかして仲間の退学を避けるために、学力の低い生徒と学力の高い生徒を組み合わせたい所――だが、入学したばかりでクラス間の友情もろくに築いていない1年生からすれば、足手纏いを助けるよりもデメリットを無視して如何に自分が高順位を取れるかと考えても不思議はなかった。
「パートナーは互いの了承で成り立ち、OAA内で登録することにより完了となる。今日、この瞬間から組むことは可能となるが、一度パートナーを決定した場合は、その後如何なる理由があろうとペアを解除することは出来ないので注意しろ」
と、茶柱が口にすると同時にモニターが更新され、パートナー決めに関する情報が表示される。
【パートナーを決める上での方法とルール】
OAAを使い、希望の生徒に一日一度だけ申請することが可能(受諾されなかった場合、申請は24時にリセットされる)。
相手が申請を受諾した場合にはパートナーが確定し、以後解除は不可能となる。※退学や大病など、止むを得ぬトラブルを除く。
パートナーが確定した両名は、その翌日8時に一斉にOAA上での情報の表示が更新され、新たに申請を受け付けることは出来なくなる。※パートナーを組んだ相手が誰かは明記されない。
つまり、適当に学力の高い生徒全員にメールを送り、数うち当たる作戦は使えない上、仮に一人に狙いを絞ったとしてもその生徒がどういう結果を出したかを知れるのは翌日になるため、申請を無駄にする可能性も出てくるという訳だ。
「先生! 絶対、俺と組みたがる後輩なんていないって!」
「そうだよな。寛治だけじゃねぇ……少なくとも、俺たちみたいに学力の低い生徒はどうやったって学力の高いパートナーなんて探せるはずねぇ」
「んじゃ、どうするんだよ健! 俺らみたいな馬鹿は、コミュニケーション能力で何とかするしかないってことかよ!?」
「コミュニケーション能力っつってもなぁ……」
須藤としても、自分が見た目からして絡みやすい性格をしている訳ではないのは自覚しているようで、池の嘆きを聞きながら何とも言えない表情で首を傾げている。
「安心しろ。どれだけ売れ残っても、特別試験までにペアが組めなかった場合、当日の朝8時にランダムで選ばれることになっている。とはいえ、パートナーを見つけられなかった生徒を、他の生徒と同列には扱う訳にもいかない。よって、時間切れで誕生したペアには、総合点から5%分の点数ペナルティを科す仕組みを採用している」
「5%……ですが、先生。僕たち2年生には全体で3名の退学者が居ます。1年生は最終的に3名余ると思うのですが?」
洋介が、5%のマイナスと聞いて苦しそうな表情を浮かべながらも、ちょっとした疑問を口にした。そんな疑問にも、茶柱はいつものように淡々と答えていく。
「余った3人に関しては、その生徒の持ち点を二倍にすることで補填される仕組みだ。ただし、同じく5%のペナルティを受けるため、余程自分の学力に自信がある奴くらいしか喜んで一人にはならないだろう」
と、言いながら茶柱がオレを見てきた。確かに、オレが1年生の立場だったとしたら、正直1人でペナルティを受けても上位を取るのは余裕だからな。
とはいえ、2年生は1年生より全体の人数が少ないので、どうしてもパートナーを組む必要が出てくる。
そして、500点以下は退学というルールである以上、オレが仮に最大の500点を取ったとしても、パートナーの1年生が0点だった場合は退学となる訳だ。
勿論、意図的にマイナスとなる行動をした場合の罰則も存在するが、ホワイトルーム生だけはオレを退学にしさえすれば勝ちである以上、そんな罰則気にせずに仕掛けてくる。
しかし、月城だって、仮に本気で仕掛けてきたとしても、オレがそう簡単にホワイトルーム生と組むような無能ではないことは既にわかっているはずだ。
原作のように手を抜いているならともかく、この世界のオレの学力は最大のA+。どんな1年だろうと、えり好みできる立場にある。だからこそ、あの男も事前にホワイトルームからくる刺客の名前まで明かしてきたのだろう。
まぁ、まだ七瀬という伏兵がいるのは隠しているようだが、あいつはホワイトルームとは関係ない――いわば、月城独自の駒のようなものだ。
だからこそ七瀬については関与が少し難しい。まぁ、それは2年Aクラスにいる白石も同じなのだが、今は関係ないのでとりあえず置いておこう。
結局、月城としては、開示出来る情報は開示し、伏せるべき情報は伏せた上で、オレがどういう結果を出すのかを測っている。原作のように退学云々ではなく、完全に力を測る動きにシフトしていた。なら、今は黙って図られておくのがベストだろう。
「先生。試験の難易度はどの程度でしょうか?」
ここで、これまでずっと黙って話を聞いていた鈴音がピンと手を挙げて質問を口にした。
「これまで受けてきた試験の中でも、間違いなく最難関と言えるものだ……が、仮に学力判定がE付近の生徒がいきなりテストを受けたとしても、予習なしで150点以上は取れるように作られている。簡単に言うと、難しい問題と簡単な問題の差が激しいという感じだな。そして、これはあくまで目安だが――」
そう言って、再び茶柱がモニターに手をかざすと、表示内容が変更されていく。
【学力別の予測点数表】
学力E 150点~200点
学力D 200点~250点
学力C 250点~300点
学力B 350点前後
学力A 400点前後
「きちんと予習しておけば、これくらいの点数は取れるはずだ。それと、学力Aの生徒が400点前後という部分を見ればわかると思うが、今回の試験では満点はおろか各教科90点を超えるような生徒はまず出てこないと思われている」
「最難関――と、言われるだけのことはあるようね」
「まぁ、結果は出てみるまではわからないがな。以上が、4月に行われる特別試験の概要だ。気を引き締めて挑むように!」
それから、具体的な試験範囲の説明をされ、2年生初の特別試験の幕は開けた。
これからどう動くか、どう周りを動かしていくか――早速、帆波からは今回の試験での動き方について、指示を求めるメールが送られてきている。
2年Cクラスが実質オレの支配下にある以上、帆波という駒の動かし方次第で、オレたちの取れる戦略もいろいろ変わってくるだろう。とはいえ、今回の試験でおそらく龍園は原作通りにマネーゲームを仕掛けてくると見て良い。
普通に優秀な1年を集めようとした場合、どうしたってAクラスというブランドは大きな魅力となる。
故に、龍園はマネーゲームを仕掛けて、1年に『自分たちの学力はPPを支払って得るべきもの』という認識を植え付けることで、Aクラスによる下級生の独占を防ぎに来るはずだ。
そして、坂柳もそれに乗ってくる。
問題は帆波たち2年Cクラスだった。彼らは確かに学力的にはAクラスに負けず劣らず優秀だが、1年次に2度の退学危機を救済したことで今はPPが不足していた。つまり、このマネーゲームに乗って戦うという戦略を取っても、最終的に勝つのはまず不可能だろう。
しかし、ただ原作と同じように、能力の低い1年を救済するだけでは面白くなかった。
勿論、帆波のイメージを保つために、1年との接触の場を作るのは大事だが、それ以外にもしっかりと戦略に絡ませていった方が――いや、待て、逆に1年救済を利用して帆波の勢力作りをしてみるのも面白いか?
オレはこの2年の終わりまでに、今のクラスをAクラスに持っていくつもりではあるが、その他に帆波のクラスもそれに匹敵するくらいのCPを稼がせたいと思っている。
そういう意味では、あのクラス――正確には帆波だからこそ使うことの出来る武器を用意する必要があった。今まではぼんやりとしか考えていなかったが、ふと明確にその武器をどういうものにするかイメージが出来上がっていく。
一之瀬帆波は、人を惹きつける魅力を持っている。これを戦うための力に変えるのだ。
早速、帆波に今回やるべきことについてメールで指示を送る。原作では持ちなかった、坂柳の理論、龍園の暴力に並ぶ、帆波だけが持つことが出来る武器――その片鱗が、オレの脳内で産声を上げたような気がした。
原作との変化点。
・特別試験の開始。
原作と違い、清隆が帆波クラスを支配している状況。そのため、今回の試験は必然的に清隆VS龍園VS坂柳という図になる。
・一之瀬帆波の新たな武器。
原作でもやっていた1年生引き抜きマネーゲーム。そこからの戦略を考えていると、ふと新しい武器について思いついた。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
早速、この試験での動き方を決めたので指示出ししている。
・堀北鈴音
特別試験について、どう戦うかを考えている。状況によっては進言もするつもり。
・茶柱佐枝
試験の説明をした。ぶっちゃけ、生徒の退学については清隆が何とかすると信じているためそこまで心配していない。
・一之瀬帆波
当たり前のように清隆に指示を仰いできた。帰ってきたメールを見ても内容が一度で理解できずに首を傾げまくっている。
・平田洋介
また退学者が出ないように頑張る┌(^o^┐)┐
・須藤健
自分があまり人から好かれるタイプじゃないのを自覚しているため、特別試験に不安を感じている。
・池寛治
山内コースに入り出したので焦っている。