休み時間になると、桔梗と洋介がオレの席にやってきた。同時に、クラスメイトの大半がそれを追いかけるように、オレたちの周りに集結してくる。
オレの席の周りには雪、鈴音、恵、千秋と、クラスの中でも中核と言って良いメンバーが多いので、桔梗と洋介がその中に加われば自然とそこがクラスの中心となった。
「どどど、どうすりゃいいんだ桔梗ちゃん!? 俺、学力E判定だから、大ピンチなんだけど!?」
「落ち着いて池くん。慌ててるだけじゃ何も解決しないよ。まずは、方針を固めていかないと」
「そうね。慌てる必要はどこにもないわ。確かに、楽な試験じゃないけれど、逆を言えば学力B以上の生徒と組めればかなり安心できる試験よ」
「組めればって……そう簡単に組めたら苦労はねぇんじゃねぇか?」
「須藤くんの言うことにも一理あるね。でもさ、失敗したら退学って試験なら、私たち何度も乗り越えてきたじゃん。今回もみんなで協力し合えばきっと乗り越えられるよ」
「うん、椿さんの言う通りだよ! 僕らが協力し合えば、必ず無事に試験を突破できるはずだ!」
流石はクラスの中核である雪、桔梗、洋介――それに鈴音も合わさって、上手くクラスメイトたちの動揺を落ち着かせている。
今の今まで焦りまくっていた池や、冷静ぶっているが内心で不安を抱えていた須藤も、リーダー格が落ち着いていることで少しずつ余裕を取り戻していた。こういう時、まず落ち着くという行為が簡単に出来るようになったのは大きな成長だ。
「とりあえず、まずこれだけは徹底した方が良いというのは、軽はずみにパートナーを決めないことだ。下手に組んで500点取れませんでしたでは話にならないからな。即決していいのは、学力B以上の相手が組んでくれると言った時だけにした方が良い」
一応、オレもクラスの参謀ということになっているので、ここらで意見を出しておく。
リーダー格たちが場を収めてくれたおかげで、オレの忠告もしっかりクラスメイトたちに届いている。
「後、うちのクラスの学力B以上の生徒は、悪いんだがギリギリまでパートナーを決めないで欲しい。今回の試験は、CPの差が大きく付きにくいし、退学者が出るマイナスを防ぐ方向性で進めていきたい。そうなった時、こちらに勉強の出来る生徒が多い方が条件も有利につけやすいからな」
「清隆、それはクラスの勝ちを諦めるってことか?」
「仮にオレたちが1位を取ったとしてもAクラスとの差は殆ど縮まらないからな。勿論、取れるなら取りに行くが……」
「うちとAクラスが真っ向からブランド勝負してもまず勝つのは難しいし、多分Dクラスの龍園くんはPPに物を言わせて学力の高い生徒を買収してくるだろうしね。それなら、今回は下級生に恩を売って関係性を作っておいた方がいろいろ得じゃない?」
上昇志向の強い啓誠は、オレの策が少し気に入らないようだが、雪がこちらの考えを代弁すると納得した様子を見せた――瞬間、ピロン、ピロンと、OAAのアプリから通知音が響き渡る。
それも1回や2回ではなく、10回、20回と音は鳴りやむことをしなかった。見ると、顔も知らぬ1年生たちから大量のパートナー申請が届いている。オレの学力が2年でトップなのは調べればすぐにわかることだからな。売れる前に確保しようという狙いだろう。
見ると、雪も似たような状況のようだった。
困ったような表情を浮かべながら、とりあえずOAAからの通知をOFFにしている。オレも、同じように通知をOFFにして、改めてクラスメイトたちに向き直った。
「すまない。話を遮ってしまったな」
「ううん。でも、流石に2年学力同率一位だね。そんな清隆くんと椿さんが居てくれるからこそ、僕たちも安心できるよ」
画面を見せた訳ではないが、このタイミングでオレと雪だけがOAAに通知が来ていることから、何となく事情を察したようで洋介がそう笑みを浮かべる。
それを聞いて、他のクラスメイトたちも下級生がオレたちにパートナー申請をしてきたことに気付いたようで、凄い――と、尊敬するような視線を向けられた。
「まぁ、申請してくれた1年生には悪いがさっき言った通り即決はしない。みんなも、もし動きがあった時は、即決せずに桔梗や雪、洋介に相談してくれ。後は人海戦術だな、部活動なんかで1年と関わる機会のある奴は、学力の高い生徒を紹介して貰えないか交渉してみてほしい」
「じゃあ、僕はとりあえずサッカー部に入ってきた子に交渉してみるよ。何人か勉強のできる生徒もいるみたいだし、もしかしたらパートナーになってくれるかもしれない」
「頼む。それと、桔梗」
「オッケー! 学力が不安な子は今回も勉強会を開くから、是非参加してねー!」
「雪、生徒会の仕事はどんな感じだ?」
「まだ少しドタバタしているけど、鈴音ちゃんなら貸し出せるよ」
「なら、鈴音は今回こっちで行動だ」
「それなら、学力C-以下の生徒は私たちが協力してパートナーを見つけるべきね。学力C以上の生徒の中にも対話を苦手とする人がいるから、そっちもフォローがいるでしょうけど……」
「後、恵と千秋は今回オレの指示で動いて貰う。後で指示を出すから、それまでは桔梗の手伝いをしてくれ」
「「了解」」
とりあえずはこんな所か。うちのクラスは41人、その中で学力がEに分類されている生徒は3人、Dが9人――この12人が救済できれば、戦える状態ではある。
OAAのデータでは、1年生の中で学力B以上の生徒はAクラスに17人、Bクラスに13人、Cクラスに13人、Dクラスに11人。こうしてみると、12人の対処はそこそこ厳しいように見えるが、それも手の出し方一つでどうにでも出来るだろう。
「そういえば、須藤くんはどう? バスケ部には1年生も入って来たんじゃない?」
と、考えていると、それまで殆ど静かにしていた須藤に雪がスポットを当てていた。
須藤も割かし落ち着いてきたが、元が熱くなりやすい性格をしている。それは、自分でも自覚しているようで、何とも言えないばつの悪そうな表情を浮かべて頬を掻いていた。
「あ、ああ。けど……部活が始まって数日だけどよ、結構スパルタ――っていうか、アレしてるからよ……」
「怒鳴ったりとか?」
「高圧的になっちゃったりとか?」
「とか……まぁ、そんな感じになるかもな。バスケはリアルだからよ、試合中や練習中はどうしても言葉がきつくなっちまうし……」
雪や桔梗の合いの手を受けて、少し自嘲気味に須藤がそう独白する。おそらく、須藤も初めての後輩に舞い上がってしまった所もあるのだろう。
また、バスケに対して真剣だからこそ、どうしても厳しい言葉も出る――とはいえ、後輩からすれば、やはり厳しい先輩は怖い先輩でもあった。
「別に、練習中以外に威圧的に接している訳じゃないんだろ?」
「ああ。練習ん時だけだ」
「なら、まだ数日だし挽回は出来るはずだ。いいか須藤、これから部活が終わった後に、後輩にドリンクでも奢れ。PPに余裕があるなら飯に連れて行ってもいい。少しでもお前の印象を『怖い先輩』から、『部活では厳しいけど優しい先輩』に変えるんだ。お前だって、先輩に奢って貰ったら嬉しいだろ? 飴と鞭を使い分けるのが、上手な指導のコツだ」
「確かに……よし、わかったぜ」
「それと、部活もいいけど勉強もしっかりすること! あなたも学力はほぼD判定なのだから油断していると退学しかねないわ。特別試験は私たちで何とかするから、あなたは下級生との関係と勉強に集中して」
「お、おう。任せろ!」
鈴音ママの注意を受けると、須藤が真面目な顔で頷きながら部活動へと逃げていった。原作と違って、須藤は鈴音に惚れていないので、親にガミガミ言われるのを避ける子供のように走っていく。
それを機に、集まっていたクラスメイトたちも各々動き出し始めた。勉強に不安のある生徒は桔梗の元へ、どうすればいいかわからずに孤立している生徒はそれとなく恵や千秋が話かけてフォローしている。
「ねぇ、清隆。ちょっとこれ見てくれる?」
そんな中、改めて雪が自分のOAAの申請画面を開いて、携帯をこちらに向けてきた。
先程、何十件も申請が来て一旦は閉じたが、この申請を利用して1年と関係を築こうと雪も考えたのだろう――が、何か気になることがあったらしい。
「どうした?」
「パートナー申請をしてきてくれた1年生なんだけどさ、そこそこ数がいるのにDクラスからは申請が一件も来てないの」
オレも自分の端末を確認してみると、確かにA、B、Cクラスの生徒からは申請が来ているが、Dクラスからだけは申請が送られてきていなかった。これはつまり、原作通り宝泉が早くもクラスを掌握して、クラスメイトの動きを支配しているという証拠だろう。
「それ、本当?」
後ろで話を聞いていた鈴音も流石に聞捨てならないようで話に入ってくる。そのおかしさにいち早く気づいたようで首を傾げていた。
「おかしいわね。1つのクラスには40人も生徒がいる。中には勉強ができない子も、対話が苦手な子もいるはずよ。なのに、1年Dクラスからの申請がない。これは、明らかにクラスの意思が反映された行動ということになるわ」
「つまり、Dクラスには、既にクラスを率いるリーダーがいる――ってことだよね?」
「それ以外にないだろうな。しかし、早すぎる。坂柳や龍園だって、クラスを掌握し始めたのは学校の情報が明かされた5月以降だった。いや、よく考えれば、1年の特別試験がこんなに早いのもおかしい……もしかしたら、今年の1年には既にSシステムの概要が説明されているのかもしれないな」
去年のオレたちはひと月たっぷり泳がされてから痛い目を見て、本格的な特別試験も夏からだった。
しかし、入学してすぐに始まったこの2年と1年で組む異例の特別試験や、オレや雪のパートナー申請にDクラスの生徒がいないことから考えて、既に1年生にはSシステムの概要は説明済であり、1年Dクラスもクラス間闘争に備えてリーダーが決まった――そう考えるのが自然だろう。
まぁ、原作知識があるので、それが正しいというのは当然知っているが、客観的にそれが早い段階でわかったというのは大きなメリットだった。
「とにかく、1年Dクラスは気にかけておこう。けど今は、学力EやDの仲間たちを優先的に助けて上位の1年と組ませる方が先決だ」
「そうだね……一番ヤバいのはやっぱり池くんかな?」
「成績だけならな。けど、須藤のように下級生に苦手意識を持たれているのは問題だ。普通に考えて、須藤と池、組みやすいのはどっちだと言われたら、多少成績が低くても池を取るだろう」
「そうね……さっきも彼は、部活動で高圧的な態度を取っていると言っていたわ」
「須藤くんは体も大きくて雰囲気も怖いもんね」
「まぁ、どちらにしろ、2人は早めに学力B以上の1年生と組ませたい所だ」
と、会話をしていると、OAAの画面に見知らぬ『!』マークが表示されると同時に、鈴音のOAAにアプリの着信音が鳴った。タップすると、アプリ内の全体チャットに、2年Cクラスのリーダーである帆波が書き込みを行ったようで、オレたちにも通知が来たらしい。
さっきは通知音がうるさくて一時的に通知をOFFにしていたから『!』マークだけ表示されたのだろう。画面を見ていなければ見逃す所だったな。
『本日午後4時から5時まで、体育館で1年生と2年生の交流会を行う許可を貰いました。時間に余裕のある生徒は是非集まってください』
原作と同じ――だが、今回はオレの指示で、帆波には交流会を開かせた。基本的には成績の低い下級生を救済し、尚且つ学力の高い生徒にもPPを匂わせて声をかけさせていく。
原作とは違って、表向きはしっかりと戦っている様子を見せないと、神崎辺りが完全に離反しかねないからな。勝つためには、今までにない行動をしていると思わせるのも重要だった。
「流石は帆波ちゃん。自分達だけじゃなくて、全体のことを考えて行動してるね」
と、言いつつ、雪もこれがオレの指示であることは察しているようで、チラリと横目でオレの様子を確認してくる。
「そうだな。オレたちもとりあえずはこの交流会で様子を探ろう。他クラスの動きを見ながら、最善の行動を取って行きたい。だが、桔梗は今回全面的に勉強会を任せているし、洋介は部活、雪は生徒会……同行者はお前しかいないな、鈴音」
「不服かしら?」
「いいや。むしろ、期待している。わかっているとは思うが、今回は表向きお前を前に立たせるつもりだ。何か案があるなら今のうちに聞いておいてもいいぞ?」
流石の桔梗も今回は勉強会で手一杯だろう。そんな中、リーダーとして特別試験に無理やり連れ回すというのは酷だ。とはいえ、桔梗が動けず、雪や洋介も使えない以上、必然的に今回のリモコン役は鈴音しかいなかった。
当の鈴音は、ようやく自分が頼って貰える――と、無表情を演じつつも、内心ではやる気に満ち溢れているようで、口元に小さく笑みが浮かべでいる。
「そう、ね。別にこれと言った案はまだないけれど、今回の特別試験は優秀な生徒の奪い合いが基本。でも、同時に龍園くんや坂柳さんたちの動向――つまり、『戦略』にも注意しなければいけない」
「お前は、あいつらがどう動いてくると思う?」
「綾小路くんもさっき言ってたじゃない。流石に詳しい策の詳細まではわからないけれど、プライベートポイントによる買収はまず考えてもいいでしょうね。AクラスやDクラスにどれだけの資金力があるかは知らないけれど、生徒を奪い合う形ならそういう動きになると考えてまず間違いないわ」
オレたちも1年度の終わりからPPの貯蓄を貯め始めたが今はまだ300万ちょっとだ。
龍園はわからないが、坂柳率いるAクラスは去年一年間で潤沢な資金を持っている。真っ向から戦って勝てる相手じゃないのは火を見るよりも明らかだろう。
「お前は、その戦いに参加すべきだと思うか?」
「持論でいいなら、参加しない方が良いわね。相手の土俵で戦っても勝ち目は薄い……なら、先を見た戦略を取るべきよ」
どうやら、去年一年かけて雪のサポートをさせていただけあって、原作に負けないくらいに成長したらしい。
夏に奴隷にしてから、少しずつ柔軟な思考が出来るように促してきた甲斐はあったな。これなら無事に今年から鈴音を生徒会長に出来そうだ。
雪も、もういい加減、生徒会長を辞めたいとずっと文句を言っていたからな。
オレの都合で生徒会長にしたはいいが、オレの近くに居られないことは雪にとって大きなストレスになってしまっていた。
生徒会長という仕事自体に文句はないようだが、雪にとってはオレのために働くことよりも、オレと一緒に居たいという気持ちの方が大きいのだろう。実際、南雲も生徒会から抜けて憂いもなくなったし、もう雪が生徒会長である必要もなくなっている。
だからこそ、鈴音を代わりの生徒会長にするために、早い段階で鈴音を雪のアシストにして成長を促したのだ。まぁ、このことを知っているのはオレと雪だけで、まだ鈴音本人にも話してないんだけどな。
しかし、雪も鈴音の成長が嬉しいのか、鈴音の話を聞きながら親のような顔でうんうん頷いていた。
それを見て、鈴音が「また、変なことを考えてるんじゃないでしょうね……」と警戒した様子を見せている。親の心子知らず――ではないが、本心はなかなか伝わらないものだ。
原作との変化点。
・特別試験についてクラスで相談した。
とはいえ、基本は原作通り弱者救済を優先する形になっている。
・OAA経由でひたすら勧誘が来た。
原作と違って学力カンストなので、清隆も雪も勧誘が止まらない状態。
・須藤にアドバイスをした。
イメージ改善はこの先の須藤のためにもなる。当然食べ盛りの高校生は先輩から飯を驕って貰えば懐くので好感度はすぐに上がった。
・1年Dクラスからの申請が来ていない。
原作通り、既に動き出している。
・今回は鈴音がリモコン。
地味に原作通りだが、実はこのSSではこうして特別試験の指揮を任されるのはペーパーシャッフルぶり。そのため、鈴音も気合が入っている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
この1年仕込んだだけはあって、クラスも自分を中心にすぐ動くようになったと満足している。駒としては申し分ない動き。
・椿雪
一応、生徒会長ということもあって、クラスでも頼りにされている。それとなくアドバイスをするが基本的には一歩引いて見ている。
・堀北鈴音
久しぶりに特別試験の指揮を任された。本人は隠しているつもりだが、嬉しいのがにじみ出ている。犬が素知らぬ顔をしながらも尻尾だけ振ってる状態。
・櫛田桔梗
今回はクラスの勉強会に専念。Bクラスになっても馬鹿が多いので大変。
・軽井沢恵
桔梗がクラスの勉強会に専念している分、クラスの女子の統制を任されている。清隆の命令待ち。
・松下千秋
清隆の命令待ち。頭脳担当。恵が影響力なら、知恵は千秋。恵も、良くも悪くも自分に出来ないことはすぐに千秋に頼る。
・平田洋介
清隆が頼りになって安心している┌(^o^┐)┐
・須藤健
早速部活の後にアドバイスを実施しようとしたが、体育館が救急使用不能になって部活が休みになった。が、後日実践して手応えを得ている。
・池寛治
山内るかも?
※とりあえず、連続更新はここまでで以後はSIDEが挟まらない限りは1日1話更新していきます。
あと、何故か更新を再開してから凄い勢いでお気に入りが減っていく。まだ開幕で話が進んでないとはいえ、そんなにつまらんかったか。すまんやで。