ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯007 『くらえ、必殺雷神拳!』

 帆波による信者作り――ではなく、1年と2年の交流会が終わり、OAAの成績が良かった愛里と、命令通りに動いた帆波を労って、4つのメロンを美味しく頂いた次の日。

 

 いつものように綾小路グループや、雪を始めとしたセフレ組に囲まれながら昼飯を頂いてゆっくりしていると、その事件は起こった。1年生の男女2人組と思わしき生徒が、2年Aクラスに突撃していったのを同じクラスの宮本が目撃したのだ。

 

 2年が1年のフロアに行くのと、1年が2年のフロアに行くのでは意味合いが変わってくる。普通に考えて下級生が上級生に会いに来るのは、相当な勇気がいるはずだ。

 特に1年はまだ入学して間もない。気概的には、敵地に乗り込むレベル。それもAクラス――坂柳相手に交渉しようと考えているのだから、注目を浴びても仕方ないだろう。

 

 当然、興味がないはずがなく、雪や桔梗を始め、洋介などのリーダー格や、今回の試験を指揮している鈴音もまた様子を見に行こうと席から立ち上がった。

 オレも興味があるので付いていく。

 おそらく、その二人組というのは高い確率で宝泉と七瀬だろう。原作ではオレたちのいるクラスに顔を出しに来た二人組だが、この世界では既に大きなクラス変動が起きているため、宝泉や七瀬の行動も変化したのかもしれない。

 

 と、思って廊下に出てみると、興味を持ったのはオレたちだけではないようで、Cクラスからも一之瀬や神崎が出て来て、Aクラスの様子を見に行こうとしていた。

 目的は一緒――ということで、噂の1年たちの様子を見にAクラスに行くと、既に話し合いは終わったのか、Aクラスの教室から大柄な男と明るい髪の女子生徒が出てくる。

 

 やはり、宝泉と七瀬だ。

 

 2人は近づいてきたオレたちに気付くと、ジッとオレの顔を見つめてくる。前にいたのは目を引くであろう桔梗や帆波なのに、何故か1年2人の視線はオレに向けられていた。やはり原作通り、月城に拠る綾小路清隆退学チャレンジが始まっているのだろう。

 

「こいつらの名前は?」

 

 宝泉が前にいる帆波と神崎に向き直ると、隣の七瀬にそう質問を飛ばす。七瀬はすぐに助手のように携帯を取り出し、OAAでこちらのことを調べ始めた。

 

「少し待ってください……出ました」

「2年Cクラス一之瀬帆波、学力はA。2年Cクラス神崎隆二、学力はB+か……Cクラスの割に優秀じゃねぇか」

「そう? ありがとね」

 

 帆波が可愛く返事をすると、挑発に乗ってこなかったからか、宝泉も少し驚いたように帆波の顔を見て、すぐに視線を横の七瀬に移した。

 

 七瀬はその間に、残るオレたちのデータをOAAで調べていたようで、宝泉が視線を向けると同時に携帯の画面を見せている。なんか有能な秘書みたいだ。

 

「で、そっちが……2年Bクラス櫛田桔梗、学力はB。2年Bクラス平田洋介、学力はB+。2年Bクラス堀北鈴音、学力はA-」

「そちらの2人は――」

「いや、いい。流石に知ってる。綾小路清隆と椿雪、2年で学力がカンストしてるのは、こいつらだけだからな」

 

 どうやら、オレと雪については成績最上位ということで既に周知しているらしい。宝泉ですらOAAのデータを見るまでもなく、名前をフルネームで覚えているようだった。

 

「丁度いい、今度はBクラスかCクラスに行こうと思ってたんだ。そっちから来てくれるなら話が早いぜ」

「そうなんだ。えっと……」

「私は1年Dクラスの七瀬と申します。こちらは同じくDクラスの――」

「宝泉だ」

「そっか。もう知っていると思うけど、改めて。私はBクラスの櫛田桔梗です。よろしくね」

「私は一之瀬帆波。一応、Cクラスのリーダーをしてるよ」

 

 とりあえずフレンドリーに桔梗と帆波が挨拶をしていくが、宝泉はこちらを品定めするような無遠慮な視線を隠そうともしていない。対する相棒の七瀬は、礼儀を良く知ったお嬢様という感じで静かに様子を伺っていた。

 

「それで、2年生の階には何をしに来たの?」

「俺たちを高く買ってくれる相手を探しに来たのさ。この試験、2年は500点以下を取ったら退学だ。仮にDクラスの生徒だとしても、学力の高い生徒は喉から手が出る程欲しいと思ってな」

「そう、だね……」

「うちも今はCクラスだからね。それは否定しないかな」

「Aクラスはまぁ悪くない反応だったぜ。流石は1年通してトップをキープしているだけあって余裕もある。坂柳って女も、小さい癖に貫禄はあったしな」

 

 どうやら、坂柳は宝泉の仕掛けを上手く受け流したらしい。この宝泉が絶賛する辺り、相当だろう。あいつも身体能力にハンデがある癖に、暴力に屈しないタイプだからな。

 

「小さいは余計です」

 

 と、話している内に、坂柳もお付きの鬼頭や橋本を連れてAクラスから出てきたようだった。まぁ、自分たちの教室の前で騒いでいれば、興味の一つも出て来たっておかしくはない。

 

 が、この場に坂柳まで出てきたことで、桔梗と帆波の警戒心は一気に跳ね上がった。

 

「つまり、1年Dクラスは2年Aクラスと組むってこと?」

「それは、お前らの態度次第だ。そっちがAクラス以上に俺たちを買ってくれるなら、お前らBクラスや、そっちのCクラスに協力したって良い」

「あら、釣れませんね。こちらの出した条件では不服ですか?」

「より、高く買ってくれるなら、それに越したことはねぇからな。Aクラスは俺たちじゃなくても、1年なんざより取り見取りだろうしよ。雑魚の方が、こういう時は条件を付けやすいのさ」

「……随分と上から目線だが、そちらもDクラスだろう? 偉そうに条件を付けられる立場とは思えないが?」

 

 こちらを試すかのような宝泉の態度に、苛立ちを隠すように神崎が文句を口にする。確かに、クラスの平均学力が高いCクラスからすれば、わざわざムカつく下級生の条件を飲む必要などない。

 

「おいおい、こっちがその気になればいくらでもやりようはあるんだぜ? 立場が弱いのはそっちだって理解しろよ。お願いする立場として分を弁えろや」

「なんだと?」

「わかってんだろ? こっちは強引に点数を下げる手もあるってことをよ」

「なっ!? 何を言うかと思えば馬鹿なことを! 試験で手を抜いたらその時点で退学なんだぞ!?」

「確かにテストで手を抜きゃ退学ってルールだ。だがな、時間切れまでパートナーを見つけられなかったことで受けるペナルティは別だ。それで困るのはお前ら2年だけだ、違うか?」

「それは――」

 

 神崎も言葉に詰まった。ペナルティによる5%のマイナス措置を受けて500点に届かなかった場合、1年はPPの三か月停止で済むが、2年の場合は退学の危険が大きくなる。

 自分の方が明確に上だと主張する宝泉に、文句を口にしていた神崎を始め、帆波や桔梗も何も言えなくなった。事実、自爆覚悟でマイナス行動に出られた場合、不利なのは2年生だ。

 

 唯一、余裕を保っているのは基礎学力の高い坂柳率いるAクラスだけ――マイナス行動など知らんとばかりに、「あらあら、大変ですね」と、特に困ってもいない声で、宝泉の挑発を軽く受け流している。

 

「ククッ、成程な。ただの猿じゃない訳か……」

 

 だが、宝泉がこの場を支配しかけるのと同時――カツンカツンと靴の音を立てながら、様子を見ていたと思われる龍園がこちらへと歩いてきた。

 

 それだけで宝泉へ向いていた流れは方向性を変え、龍園へと全員の視線が集中していく。

 

「BクラスとCクラスのリーダー格が揃いも揃って1年坊主にしてやられてるんじゃねぇよ」

「「龍園くん……」」

 

 龍園の馬鹿にするような言葉に、何も言い返すことが出来ず、帆波も桔梗もただ名前を呟くことしか出来なかった。実際、1年相手に情けない姿を見せたのは間違いない。

 

「龍園……だと?」

 

 しかし、2人が龍園の名前を呟くと同時に、宝泉がその名を聞いて大きく表情を変えた。まるで、面白い獲物を見つけたと言わんばかりに、愉快そうな笑みを浮かべている。

 

「おいおい何だよ。まさかの巡り合わせだな。お前の噂は嫌ってほど聞いてたぜ龍園」

「俺もお前のことはよく知ってるぜ。宝泉と言えば、地元じゃちょっとした有名人だったからな」

「しかし、あの噂の龍園がこんな貧弱そうな体をしてやがったとは……意外だぜ」

「お前の方はイメージ通り、脳まで筋肉で出来てそうだな」

「何度か遠征した時にぶっ殺してやるつもりだったが、会えなかったのは俺にビビって隠れてたからなんだろ?」

「クク、巡り合わせに救われたな宝泉。俺と会ってたら今頃そんなデカい態度ではいられなかっただろうからな。運よく、未だに負け知らずって所か」

「俺はてっきり、尻尾を撒いて逃げたんだとばかり思ってたぜ? そうじゃないって言うんなら、今からここで白黒はっきりつけてやってもいいが?」

「本性を見せてきやがったな……」

 

 今の今まで、会話でこちらの主導権を奪おうとしていた姿は一変し、宝泉はその大きな拳を握り込んで龍園を挑発していた。

 

 原作通り、こっちが宝泉の本性――龍園以上に、暴力を盲信している獣のような姿こそ、宝泉和臣という男の本質なのだろう。

 

「やめとくぜ。見返りもない状況で、ゴリラと殴り合うつもりはねぇ」

 

 しかし、龍園は冷静にその挑発を受け流した。2年のフロアになってから、廊下にも監視カメラが増えている。迂闊にやり合ってもメリットが何もないとわかっているのだ。

 

「引き上げるぞ」

「あんた、1年に舐められたままでいいわけ?」

 

 石崎やアルベルトと共に、様子を見ていたと思われる澪が、意外に冷静な龍園にそう話しかける。対する龍園は、「決着なんざ、いつでもつけられるからな」と、余裕を返すだけだった。

 

 だが、これで終わりではない――と、宝泉は無遠慮に、龍園との距離を詰めていく。

 

「そっちの女も、お前の兵隊か?」

「ま、そんなところだ」

「はぁ!? 誰が!? 勝手にあんたの兵隊にしないで!」

「女でも兵隊に使うんだな、龍園」

「お前こそ、随分と可愛げのある兵隊を連れてるじゃねぇか」

 

 そう言って、今まで黙って様子を見ていた七瀬へと視線を移す。しかし、七瀬を兵隊と呼ばれて、宝泉はしかめっ面を浮かべた。

 

「こいつは兵隊じゃねぇよ。ま、そんなことはどうでもいい。遊ぼうぜ、龍園」

「やらねーつったろ」

 

 宝泉の誘いを袖にする龍園。

 

「そうかよ。だったら――」

 

 それを見て面白くないと思ったようで、宝泉が近くにいる澪へとゆっくり腕を伸ばす。当然、澪は軽く払おうとするが、直前で宝泉の腕は素早く動き、澪の首を力強く掴み上げた。

 

「ッ!?」

 

 いきなりの出来事に、澪も慌ててその腕を引きはがそうとするが、獰猛な笑みを浮かべる宝泉の腕はビクともしない。

 

 龍園も遅れて状況を把握するが、澪の得意な足技もこの状況では上手く力が入らないようで宝泉にされるがままになっていた。

 

「ハッ! 抜けてみろよ。それか、そこで見てるお前ら全員かかってきてもいいぜ!」

 

 宝泉が2年全体に挑発のような声をかけてくるが、そう簡単に手が出せる状況ではない。勿論、相手の腕っぷしが強そうというのもある――が、何よりも監視カメラが存在する以上、下手に問題を起こせばマイナスを受ける危険が高かった。

 

 しかし、流石にこの状況は見過ごせないようで龍園が動いている。唯一、監視カメラのマイナスなど気にした様子もなく、澪を助けるために宝泉の懐へ潜り込んで蹴りを繰り出していく。

 だが、澪の首を掴んで片腕が使えない状況にも関わらず、宝泉は龍園の蹴りを軽くいなして見せた。それを見て、龍園もまた宝泉の実力の一端を感じ取ったようで、一度大きく距離を取る。

 

 ここで石崎やアルベルトも参戦の意思を見せた。下がってきた龍園に合流するように前へと出ていく。

 

 宝泉も、「いいぜいいぜ! こんな学校にまで足を運んだ甲斐があったってもんだ!」と、本格的に始まる喧嘩に心躍らせる様子を見せる。とはいえ、騒がせておけるのもここまでだった。

 

「はい、すとーっぷ! これ以上の騒動は、生徒会長としてちょっと見逃せないよっ!」

 

 龍園と宝泉の間に割って入るように、雪が前へと出ていく。しかし、宝泉は構うものか――と、今度は雪を捕まえようとその手を伸ばした。

 

 とはいえ、腐っても元ホワイトルーム生である雪に、そんな迂闊な攻撃が届く訳もなく、宝泉の腕をかいくぐって、澪の首を掴んでいる宝泉の肘を強打し、その手を無理やり離させる。

 

「やんちゃなのもいいけど、やり過ぎは駄目だよ。これ以上やるなら、流石に退学も視野に入れて対処する必要が出て来るけど?」

「ははっ! マジかよ。見た感じ華奢な女にしか見えねぇのに……あんたもなかなか面白そうだな。生徒会長さんよぉ」

「お褒めに預かり光栄だね。けど、これは冗談でも何でもないよ? 多少のいざこざ程度なら見逃してあげるけど、本格的な喧嘩を見逃すつもりはない。覚えておいてね?」

 

 そう言って、雪は解放されて咳込む澪を抱えて、こちらに歩いてきた。流石の宝泉も、引き際は弁えているようで、不敵な笑みを浮かべたまま雪の背を眺めている。

 

「先輩方、お騒がせして申し訳ございませんでした。私たちとしても、ここには話し合いに来たのであって、暴力を振るうために来たのではありません。宝泉くんに代わって、謝罪させて頂きます」

 

 ずっと様子を見ていた七瀬がそう言って、改めて謝罪の言葉を口にしてきた。

 

 雪が出なければ、おそらく原作通りに七瀬がこの場を収めていただろう。反省の色を見せない宝泉に代わって頭を下げてくる。

 

「ケッ、ちょっと遊んだだけだろうが」

「先輩たちは先程から監視カメラの様子を気にされていました。その状況から察するに、宝泉くんのしたことは、何の得のない無意味な行動です」

「だから、ンなことはわかってんだよ。わかって遊んでたんだ」

「わかっているなら尚更です。これ以上、無駄なことをするようなら、この場で『アレ』を周知させることも視野に入れますよ」

 

 まるで脅すかのような言葉――しかし、それで宝泉が引くはずもなく、むしろ望むところだと言わんばかりに、七瀬を睨みつけていく。

 

「……上等じゃねぇか七瀬。だが、俺の期待に背いたら、女でも容赦しないぜ?」

「その時は受けて立ちます」

 

 一見すると、男でもビビるであろう宝泉に凄まれても七瀬は臆することなく堂々としていた。

 

 しばらく睨みあっていた2人だが、すぐにここが2年のフロアであることを思い出したようで、先に宝泉が舌打ち一つで視線を逸らしている。

 

「止めだ。とりあえず、目的は果たしたことだし、帰るぞ七瀬」

「ええ。それが賢明です」

 

 当初の目的――2年生に自分たちのクラスを売り込むという目的は、紆余曲折あったが大体果たせたと判断したようで、宝泉と七瀬は帰る様子を見せた。

 

「俺に土下座するなら、ペアを組んでやってもいいんだぜ? 龍園パイセン」

「生憎と、俺が組むのは人間限定だ。野生のゴリラと組むつもりはねぇよ」

「そりゃ残念だ」

 

 龍園としても、昨日の感じからDクラスと組むことも考慮していたんだろうが、ここまでコケにされて素直に手を組むなど出来るはずもなく、宝泉の誘いを蹴っている。

 

 宝泉としても、素直に龍園が応じるはずがないとわかっていたようで、そのまま上機嫌で去っていく――と、思った瞬間、騒ぎが起きていた2年生のフロアにようやく教師がやってきた。

 

「何をしている宝泉!」

 

 名前を呼ばれた宝泉が面倒くさそうな表情を浮かべる。同時に、見学していた2年生たちの殆どは教室へと戻っていく。坂柳や龍園も、この機に乗じて自分のクラスに戻っていくが、うちとCクラスは出遅れてその場に残されてしまっていた。

 

「浮足立つ気持ちはわかるが、学校のルールは耳が痛くなるほど叩き込んだはずだ」

「んなことはわかってんだよ」

「わかっているなら早く散れ。喧嘩は往来でするものではない」

「こんなもん喧嘩ですらねぇよ」

 

 実際、雪のおかげで本格的に喧嘩が始まる前に事態が収束している。宝泉にしてみれば、ただの小競り合い程度――下手をすれば遊びとしか考えてなさそうだ。

 

 しかし、教師が来たことで場が白けたのは確かなようで、特に逆らうことなく宝泉は背を向けた。そのまま、七瀬を引き連れて1年のフロアに戻って行こうとする。

 

「んじゃ、またなパイセン方。俺らの力が欲しければ、精々こっちを満足させるだけの金を用意してくれや」

「お騒がせしました」

 

 最後に宝泉がこちらに向けて特大の挑発をし、隣の七瀬が頭を下げると、嵐のような2人組はこの場を去っていった。

 

 だが、宝泉にしても七瀬にしても、こちらをジロジロ見過ぎだ。あれでは、誰が見てもオレに興味があるというのがバレバレである。

 まだ確認は取っていないが、これで『綾小路退学2000万チャレンジ』はまず開催されていると見て間違いないだろう。原作でも個人的な恨みがある七瀬と違って、宝泉がオレを敵対視する理由は今の所PP以外に有り得ないしな。

 

 と、そんな二人を見送っていると、雪は苦笑いしながら、「人気だね、清隆は」と口元に苦笑いを浮かべる。もしかしたら、雪ももう2000万チャレンジについて噂を耳にしたのかもしれない。伝えて来ないのは確定情報じゃないからか――

 

「すまなかったな。俺のクラスの生徒が迷惑をかけた」

 

 宝泉と七瀬が去ると、改めて1年Dクラスの担任と思わしき教師が、こちらに頭を下げてくる。

 

「そうですよ、司馬先生。1年生はまだ入学したばかりで、学校に馴染み切れていないんですから。新任でも先生がフォローしてあげないとまた問題を起こしますよ」

「そうだな。すまない生徒会長」

 

 原作では適当に場を流すが、うちには生徒会長の雪がいるため、ここでしっかりと苦言を口にしておいた。

 

 実際、南雲が生徒会長ではないので、原作ほどこの学校は喧嘩に寛容ではない。今日の宝泉のあの調子では、下手をすると去年のオレたちの二の舞になるだろう。まぁ、この司馬という教師も普通の教師ではないので、別に問題ないと思っていそうだが――

 

「改めて、1年Dクラスを受け持つことになった司馬克典だ。この学校には着任したばかりだが、以後よろしく頼む。バタバタしていてすまないが、宝泉を放置しておけないので、これで失礼する。本当に、すまなかったな」

 

 簡潔に自己紹介を終え、再度こちらに謝罪すると、司馬は宝泉の後を追うようにこのフロアから去っていった。

 この司馬も、ホワイトルームの存在を知る月城の協力者の一人――とはいえ、原作通りに進むのなら、関わるのは無人島試験だ。今は気にしなくてもいい。

 

 しかし、原作通りならここでホワイトルーム生の八神がやってきて桔梗を駒にしようと動き出すはずなのだが、こうして問題が収まっても接触してくる様子がなかった。

 

 いや、考えてみれば当然か。

 

 おそらく、原作で桔梗が狙われた理由は、一年次から堀北と共にオレを退学させようと動いており、その能力の高さと過去の弱みという使い勝手の良さから、駒にしやすいと考えたからだろう。

 だが、この世界の桔梗は、表向きは過去を振り切って自分のクラスのために貢献している。仮に弱みを握っても、駒として使い勝手がいいとは言えない。八神も駒にしようと考えなかったとしても別におかしくなかった。

 

「じゃあ、私たちも戻るね。またね、綾小路くん」

「騒がせたな」

 

 結局、八神所か他に一年が来ることはなく、ずっと様子を伺っていた帆波や神崎も、そろそろ休み時間の終わりが近いこともあって教室に戻って行った。

 

 神崎も原作ではもっと追い詰められた感じの雰囲気を出しているが、表向きは帆波がリーダーとしての資質を見せ始めたので落ち着いているように見える。

 

 後は信者作りに並行したマネーゲームの進捗についてだが、こればかりはまだ昨日始めたばかりだし、坂柳や龍園が本格的に動いてくるのを待つしかない――と、考えていると、Bクラスの教室の外にいた波瑠加が、オレを手招きしているのが見えた。

 

 まぁ、誰も居なくなったし、もうこの場に用はないということで、オレも雪たちから離脱して波瑠加と合流する。どうやら、愛里や啓誠、明人と、他の綾小路グループのメンバーも全員揃っているようで、ずっとこちらの様子を見ていたようだった。

 

「どうした?」

「どうだったかなって。一応、私たちもここから見てたけど、今年の1年生も改心前の須藤くんや龍園くんみたいにやんちゃなのが入って来たって感じだし」

「す、すっごく怖かったね」

 

 波瑠加と愛里が、宝泉に関する感想を口にする中、明人だけが未だに宝泉のいなくなった廊下の先を見つめている。

 

「明人、どうした?」

「いや、とんでもないやつが入学してきたと思ってな。宝泉は……強さに関してだけは、須藤や龍園の比じゃない」

「なになに、まさかみやっちも知り合いなの?」

「直接見たことはないけどな。俺の地元じゃ、龍園と宝泉は相当な有名人だった……悪い意味でだけどな」

 

 明人は、こう見えて龍園相手にも一歩も引かない胆力を持っている――そんな明人が、臆するような態度を見せるくらい、宝泉はヤバい相手ということだろう。

 

「俺の学校にも、所謂喧嘩番長みたいなやつがいたんだが……遠征してきた当時中一の宝泉にタイマンでボコボコにされて病院送りにされたって話を聞いたことがある」

「ばっ、番長!? そんなリアルに不良漫画見たいなことあるんだ……」

「俺の住んでた所は、昔っから不良連中が集まってくることで有名な地域だったからな。龍園や宝泉も、その中の一人だよ」

「みやっちも不良だったわけ?」

「俺は……そういうのは止めたんだよ」

 

 喧嘩事情に詳しいのも、度胸が据わっているのも、元不良というのが関係しているなら納得だった。とはいえ、今はもう真っ当に過ごしているからか、揶揄うような波瑠加の追及に、明人も困った様子を見せている。

 

「何なら元不良としてさ、宝泉くんを締めちゃったら?」

「冗談よせよ。自分の実力くらいわかってる。仮に喧嘩するにしても相手は選ぶさ。特に、宝泉だけはごめんだ」

 

 実際、先程の小競り合いでも不意を突かれたとはいえ、あの澪が一方的に捕まり、龍園の攻撃もまるで意に介していなかった。

 

 あの圧倒的な体格もそうだが、見た目にそぐわぬスピードも持っている。もし、乱入したのが雪じゃなかったら、あの場を抑えて澪を解放するのはまず無理だっただろう。

 

 その雪だって、真っ向からの力勝負ではおそらく宝泉には勝てない。スピードでは勝っていても、有効打を与えるだけの力がないのだ。澪を助ける時も、肘を強打することで足りない力を補っていた――とはいえ、何でもアリなら負けることはないだろうがな。

 

 ふむ。

 

 宝泉に関しては、原作通りに進むのを待つつもりだったが、こちらから動いてその鼻っ柱をへし折ってやっても面白いかもしれない。自分が負けるはずがないと思っている宝泉を叩きのめしてこちらの駒に出来れば、後々の面倒事を減らすことも出来るだろうしな。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・宝泉と七瀬が2年のフロアにやって来た。
 原作だと同じDクラスに来るが、そもそもうちのSSでは綾小路クラスがBなのと、2年が開始早々マネーゲームを始めた結果、1年Dクラスの学力B以上の生徒に価値が出てきたため普通に学力の高い生徒を売りに来た。当然、綾小路清隆退学チャレンジに参加中。

・各クラスの生徒が宝泉と七瀬を見に来た。
 結果、2年の全クラスが認知する結果となった。龍園は原作通りに掴まった澪を助けようとしている。ちなみにアニメ版では見捨てられていた。なんでや。

・雪が宝泉のやんちゃにおしおきした。
 肘に雷神拳。とはいえ、パワーでは完全に負けてるから急所を突いて誤魔化しただけ。単純な戦闘能力は雪以上だが、雪は単純に戦わないので実際に戦えば雪が勝つ。

・八神が来なかった。
 原作では桔梗を駒にしようとするが、その理由は過去の件があって使いやすいという他に、桔梗が清隆や鈴音を退学にしようとしていたからと推察。そうでなければ、退学話に乗せるのは倫理的に難しい。しかし、この世界ではそもそも桔梗は清隆を退学にしようと狙っておらず表向きはクラスのリーダーであるため手を出す利点がないと判断された。

・宝泉については原作通りを考えていたが方針検討を考え中。
 手に穴を開けるよりもボコった方が早いのでは? と、ボブは怪しんだ。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 宝泉や七瀬の視線から、綾小路清隆退学チャレンジの存在を確信。

・椿雪
 澪を宝泉から助けた。噂話レベルで清隆退学チャレンジの存在を聞いている。が、まだ確定情報ではないので報告はしていない。

・堀北鈴音
 地味に一緒に居た。黙って様子を見ていた。

・櫛田桔梗
 宝泉に地味に飲まれていた。八神が来なかったことで面倒を回避できている。仮に来ても仲間になるふりをして清隆に売ったので、八神は正しい選択をしている。

・佐倉愛里
 宝泉にビビりまくっていた。

・長谷部波瑠加
 実はこっちもビビっていたが、誤魔化すように三宅にちょっかいを出している。

・坂柳有栖
 宝泉のプレッシャーにも屈しなかった。取引についてはそこそこ言い値をつけている。

・一之瀬帆波
 宝泉に呑まれないように笑顔を見せた。ちょっと宝泉もドキッとした。

・伊吹澪
 宝泉に掴まった。久しぶりの登場だったのに散々な目に合っている。

・七瀬翼
 宝泉の秘書みたいなことをしていた。とはいえ、仲良しではなく方針が一致しているので手を組んでいるだけ。

・宝泉和臣
 試験よりも綾小路清隆退学チャレンジの2000万PPに興味がある。今回は様子を見に来ただけだが、想定以上に生徒会長が強くて喜んでいる。

・幸村輝彦
 宝泉のことをグループメンバーと一緒に見ていた。野蛮な相手は苦手。

・三宅明人
 龍園&宝泉とは同郷。かつては不良だったが、高校と同時に改心したらしい。

・龍園翔
 宝泉の実力は知っているが、肌で体感してタイマンでは勝てないと確信した。

・神崎隆二
 帆波と一緒に来た。宝泉にしてやられている。

・司馬克典
 ホワイトルーム関係者と思われる。そもそも、原作でもまだ学校に居るのかどうかすら不明。無人島以降見なくなるやーつ。


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