SIDE:坂柳有栖
特別試験の説明を受けてから約4日が過ぎ、私は同じクラスの橋本くん、鬼頭くん、山村さんを集め、ケヤキモールのカフェで今回の試験についての話し合いを行っていた。
今回の試験は学力やブランドがモノをいうということもあって、基本的にAクラスが圧倒的に有利な試験となっている。
もし、全員が何もしないで普通に試験を受けたとしても、Aクラスのトップは揺らぐことはないでしょう。故に、他クラスは勝つためにも、PPを使用して学力の高い下級生を引き抜いてくる。
初日に、一之瀬さん率いる2年Cクラスの数名が、既に学力の高い生徒にPPによる引き抜きを行っているという報告を受ける前から、こうなることは予測がついていた。
「まただ姫さん。俺たちが声をかけてる生徒の所に、一之瀬や龍園の所から誘いがあったらしい。しかも、龍園の方に至ってはAクラスの誘いを蹴ったら無条件で1万PP掴ませるって提案されたってよ」
橋本くんの報告を受けながら思考を働かせる。ここ数日で、このマネーゲームもかなり状況が進んでいた。
龍園くんのクラスは自分たちと組んだら前金で10万、試験で501点以上取れた場合は追加で10万という条件を出しており、一之瀬さんのクラスも似たような感じで、試験で結果を出した場合は25万PPを支払うと打診しているらしい。
「フフ。一之瀬さんはともかく、龍園くんは私に対して徹底的に勝負を挑んできているようですね」
「一之瀬はともかく? 向こうも額を上げて来てるし、勝負を挑んで来ているんじゃないのか?」
「ブラフですよ。一之瀬さんのクラスは去年二度も退学となった生徒を救うために莫大なPPを支払っている。今の彼女たちの資金力では、仮に引き抜きを行えたとしても一人や二人が精々でしょう。いずれ、時期を見て手を引いてきます」
一度目の2000万PPはクラスの総力でどうにか出来たとしても、二度目の2000万PPは普通に生活しているだけではまず用意できない額。去年、綾小路くんが一之瀬さんを助けるために動いていたのは私も知っている。
とはいえ、いくら旧知の仲といっても、2000万を無償で融資するほど綾小路くんは優しい性格をしていなかった。
故に、一之瀬さんは綾小路くんに借金をしている状況と考えて良い――そんな彼女たちが使用できるPPなどタカが知れていた。この状況は、こちらを乗せるための誘いに過ぎない。
「でもよ、一之瀬がハッタリかましてるとして、龍園はマジに仕掛けて来てるんだろ?」
「私たちと龍園くんのクラスでは、そもそも学力に大きな開きがあります。1年生の力を借りてそれを上回るには相当な人数を引き抜かなければなりませんし、それを行ったとしても彼の勝利は絶対ではありません」
「けど、絶対勝てるって訳でもない。やっぱ、ここはこっちもポイントを出して応戦すべきじゃないのか?」
「資金力の勝負であれば、確かに私たちに負けは有りません。ですが、同じ戦略を用いて勝つのは、芸に欠けると思いませんか? もし仮に、学力Aに相当する生徒を龍園くんに引き抜かれたとしても、それでやっと私たちと五分になるかどうか――このまま静観をしたとしても、勝率五割は堅いです」
そもそも、私たちと同じ生徒をどこまでも狙うという龍園くんの戦略は明らかな失策だ。総合力で劣るCクラスは、まずは一之瀬さんと同じように、目先にある学力の高い生徒だけを狙っていくべきだった。
しかし、敢えて龍園くんはこちらを挑発するように、狙っている生徒を被せてきている。
それは私たちをもっと深い場所まで引きずり込み、こちらからPPを引き出すため。一之瀬さんが無理にPPを上げているのと同じでしょう。
もし、こちらが彼らと同じ額を出すと言えば、おそらくは一之瀬さんと龍園くんも乗ってくる。そして、支払うべきPPの額はどんどん大きくなっていくと見て良い。
資金力の差を考えれば、最終的に勝つのはうちだ。しかし、このまま張り合って額を釣り上げていけば、失う代償はそれなりに大きなものになる。元々の勝率が高いのに、わざわざ何百万PPも失うリスクを背負う必要はない――が、こちらが手を引く素振りを見せれば、その隙を突いて二人は動いてくるでしょう。それはそれで面白くありません。
「1年生に伝えて下さい。前金で10万、成功報酬で15万出すと」
だからこそ、敢えてこのままマネーゲームを継続する。とはいえ、単純に彼らの策に乗るだけではない。最後に勝つべくして、こちらも状況を整えていく。
フフ。彼らは私を誘いに乗せたつもりなのでしょうが、彼らの策は逆に私にとっても好都合なんですよ。
「ただし、それで1年生が納得してもパートナー契約は結ばないでください」
彼らの作戦の本質は同じ――一之瀬さんも龍園くんも、大々的に買収戦略を行い、こちらをマネーゲームに強制参加させてきた。
もし、彼らが動かなければ、先程言った通り、私たちはAクラスのブランドだけで有能な一年生を引き入れて勝利していたでしょう。
ですが、マネーゲームを強いることで、1年生の中に『優等生はポイントを貰ってパートナーを組む』という図式を作り上げた。これにより、2年生が1年生の力を借りるにはブランド力だけではなく、PPという報酬を用意しなくてはいけなくなる。
先程も言ったが、資金力の差を考えれば、Aクラスにまず負けはない。しかし、レートを天井知らずに釣り上げられれば、支払うべきPPは莫大なものとなり、こちらもかなりの消耗を強いられる。
ただしそれは、最終的にAクラスが全ての生徒を受け入れる――と、いう場合だった。
ここからは睨みあいだ。うちは最後まで張り合う必要性がほぼないに等しい以上、敢えて誘いに乗ってレートを釣り上げていく。
契約さえ結ばなければ、レートなど無限に上げられる。そして、最終的には一之瀬さんや龍園くんが降りるタイミングで、こちらもレートを吊り下げ、もっと安い金額で下級生を買収すればいい。
拒否される心配はまずないでしょう。1年生からすれば取引相手が全員いなくなるかどうかの瀬戸際です。垂らされた救いの手は咄嗟に掴みたくなるもの――逆に、その状況で冷静に自分を安く売らない生徒が居れば、それはそれで拾い物です。
後は――ないと思いますが、もし仮に最後まで一之瀬さんや龍園くんが張り合ってきた場合、こちらが先に手を引いて終局となるでしょう。
敢えて下級生を譲り、莫大なPPの支払いを押し付ければいい。仮に支払えずに契約不成立になった場合、もっと安いPPで買収することも出来ますしね。
まぁ、自滅で終わられるのは面白くないですし、向こうもそこまで馬鹿なことはしてこないと思いますが――
「さて、彼はどう動いてくるつもりなのか……」
最後に、目下のライバルであるBクラスの動き――綾小路くんは今の所、大きく動いていない。
どうもクラスの指針が、学力の低い生徒の退学を救済することに重点を置いているようでこの試験でも上位を目指す気はないように見える。裏でも、公にマネーゲームに参加する素振りは見せておらず、私たちが手を付けていない中間層の買収をしているだけ。
如何にも、自分たちは勝つ気がない――と、言っているように見えるが、こういう時に限って、綾小路くんは裏で何かを仕掛けてくる。マネーゲームだけでなく、彼の動向にもしっかり気を配っておかなくては。
◇◆
SIDE:龍園翔
特別試験の説明を受けてから約4日が過ぎ、俺は石崎と伊吹を集め、カラオケルームの一室で今回の試験で行っているマネーゲームの進捗を確認していた。
今回の試験は学力がモノをいう――が、うちのクラスは馬鹿の集まりだ。真っ向勝負で他のクラスに勝てる地力はない。
つまり、勝つためには下級生から学力の高い生徒を引き抜き、負けている地力を補填する必要がある。そのために、PPというわかりやすい餌を使って、1年という魚を集める必要があった。
「20万で釣ってた1年Bクラスの生徒が、契約を保留にして欲しいって言ってきました、龍園さん」
「は? なんでよ。20万じゃ納得できなかったっての?」
「いや、それが坂柳や一之瀬も、同額以上のポイントを出すって言ってきたみたいで……」
「前金10万、成功報酬で20万出すと言え」
そう言うと、石崎や伊吹が驚いた様子を見せるが、仮にこの条件を出した所で1年の大半は静観するのはわかっている。坂柳や一之瀬の上乗せを期待するなら、即答する必要性はないに等しい。
問題はそこじゃなかった。
今やっているのは、単純な競りじゃない。あくまで、坂柳や一之瀬をゲームの奥まで引きこむのは準備段階でしかなかった。
勿論、額を天井知らずに上げているのは、坂柳や一之瀬への当てつけではある――が、最終的には、今年の一年に俺が求める人間がいるかどうかを探すための手段でしかない。
「ちょっと待って。このままPPでいい勝負が出来たとしても、ブランド力の差で絶対負けるでしょ。どうするつもり?」
「ハッ。Aクラスのブランド力なんてもんは、今だけの飾りに過ぎないのさ。ブランドに驕っている連中程、崩れた時に失う信用は計り知れない」
「そうだとしても、ポイントはどうします? 30万、40万に膨れ上がったら、とてもじゃないですけど全員になんて払えませんよ」
「払う必要はない。天井知らずにポイントを要求してくるヤツと、今回組むつもりはねぇ」
地獄の沙汰も金次第というが、大金さえ流せば協力する奴は本当に協力が欲しい時に金さえあればいつでも引き入れられる。重要なのは、それ以外を直感的に理解している連中だ。
「今回の試験――坂柳や一之瀬は、俺が総合一位を狙っていると思っているんだろうが、小遣いにもならないCPを拾うつもりは最初からねぇのさ。上のクラスの連中をぶち殺すには、もっとCPが大きく増減するタイミングを待つしかないからな」
「じゃあ、大金で転ぶ奴がいるかどうかを確かめるためだけに仕掛けてるってこと?」
「それだけじゃねぇが……この試験の説明を受けた段階で、PPによるマネーゲームになるのは明白だった。最初に動いたのが一之瀬だったっていうのには驚いたが、問題なのはそこじゃねぇ」
「?」
「いいか? 今現在もポイントによる釣り上げが続いているのにも関わらず、既に俺たちのクラスとパートナー契約を結んだ生徒がいる。そいつらは何で俺たちと組むことを選んだと思う?」
そいつらに提示したPPは、前金5万、成功報酬5万で決して大金という訳ではない。だが、実際に会って話して、奴らは俺に従うという道を選んだ。
「……脅してるとか?」
「ま、軽く脅してるのも正解だけどな」
結局、マネーゲームはあくまで表向きの遊びでしかない。最終的に下級生が大金に釣られてきたとしても、俺との面接(という名の脅し)で屈することになる。内心でどう思おうと、暴力で従えてしまえばこちらの消耗も通常よりも遥かに少なく済む。
だが、本当に欲しいのはもっと別のモノだった。
「1年の連中に、俺が坂柳や一之瀬よりも上であることの理解が出来るのかを審査してんのさ」
目先のポイントやブランドに惑わされず、本質的に勝てる人間を見抜けるかどうかの選抜――それが、このマネーゲームで、俺が真に求めているものだ。
そして、今の段階で俺を選んだ人間は、かなりの見込みがある。この1年で、坂柳を天辺から引きずり下ろすのであれば、いずれは下級生の力も必要になってくるだろう。
そうなった時、坂柳や一之瀬――そして、綾小路の妨害を受けても、俺のために動ける人間というのは大きな力となる。坂柳もそれがわかっているからこそ、今の段階で学力以外にも高い能力を持つ生徒を買収しようとしているのだ。
そういう意味では一之瀬は落第だった。目先の欲に惑わされて学力の高い人間だけを選んでいるというのは、この先を見据えられていないと言っているに等しい。
まぁ、あいつらはそもそも戦うだけのPPがあるかどうかも怪しかった。このレート釣り上げについてもほぼブラフと見て間違いない。そのうち、俺と坂柳に付いて来られなくなるのは目に見えている。
後は綾小路の奴がどう動いてくるか――どうも、今回は鈴音を隠れ蓑にしているようだが、あの野郎がこのまま黙っているとは思えない。
何かを仕掛けてくるはずだ。
あの野郎の実力なら、それこそあの宝泉を無理やり力で従えるのも決して不可能ではなかった。
表向きBクラスは今、一年の中間層にマネーゲームを仕掛けてはいるが、その裏で宝泉に接触して、俺や一之瀬では触れない1年Dクラスの生徒の引き抜きを測っているというのは十分に有り得る。
いや、だとしたらむしろ有難い。下手にこちらにちょっかいを出されるよりはマシだった――一応、警戒は続けておくが、あいつの動きにだけは十分な注意が必要だな。
◇◆
SIDE:一之瀬帆波
特別試験の説明を受けてから約4日が過ぎ、私はクラスの全員を集め、教室で今回の試験の動きについて、クラスメイト全員に改めて説明をしていた。
この4日間、みんなは表向き私の指示に従って、下級生に接触して貰っている。勿論、その裏にいるのは綾小路くんであって、本当に指示しているのも彼なのだが――うちのクラスで、その真実を知る人間は一人もいない。
去年のクラス内投票で退学者を出さずに乗り越えるため、私は既に綾小路くんに2000万PPで自分を売っていた。
それは、私が指揮しているクラスを売ったと同義であり、今回の特別試験でも退学者が出ないようにさえしてくれれば何でも命令には従うということでもある。だからこそ、私は彼の指示通りにクラスメイトを動かしていた。
「まずは、今日までありがとうね。みんなのおかげで、作戦は順調に進んでます」
今回の試験で、私――と、いうか綾小路くんがどういう目的でクラスを動かしたのか。それを知る人間は、私と神崎くんだけだった。
神崎くんにはマネーゲームの動きを指揮して貰う都合上、最初から綾小路くんの作戦について全て説明する必要があり、彼も納得して動いてくれている。
今回の特別試験では、大きく二つにクラスを分けて動く必要があった。
まず、一つ目は2年Cクラスの成績上位者半分程を残した上で、下級生の中でも学力に不安のある子やまだ入学したばかりで特別試験を理解できずに困っている子を救済する組。
これは簡単に言ってしまえば、2年Cクラスで1年生を助けることで、彼らの信頼を集め、この先の学校生活を送るに当たって大きな派閥を作ると言う目的があった。綾小路くんは、私の象徴とした信仰――とか言っていたけれど、正直よくわかっていない。
「いや、一之瀬の策は見事だった。まさか下級生を助けることで、一之瀬を中心とした一大勢力を作る狙いがあったとは……数は力というが、学年を超えて派閥を作るというのは俺にはない考えだ」
実際、まだ数日しか経っていないが、1年生の中にはパートナー契約を結んでいなくても、私たちに相談をしてくる子もいる。
こういう子を見捨てずに力になって、少しずつ勢力を拡大していくのが多分綾小路くんの狙いなんだろう。神崎くんも納得しているし、多分順調に進んでいると見て良い。
「ここからは勉強会を開いて行こうと思うの。同学年だけじゃなくて、私たちを頼ってくれた下級生にも勉強会を開いて、少しでも基礎学力を上げていく。そうすれば、今の段階の学力が低くても試験になる頃にはある程度の点数が期待できるでしょ?」
そして、そんな派閥を作る組とは別に、もう一つ重要な役割を持つ組があった。それが学力の高い下級生に対して、PPを使っての買収行為を行う組だ。
これに関しては、坂柳さんや龍園くんをマネーゲームに乗せるための挑発行為に近い。何もしないでいれば、Aクラスのブランド力だけで優秀な1年生を引き抜かれるので、マネーゲームに持ち込んで少しでも相手のPPを消費させるのが狙いだった。
「しかし、一之瀬……確かに点数の底上げにはなるが、結局高い学力を持つ1年生を引き込めなければ、上位は目指せないぞ?」
最初は神崎くんも、今のCクラスの資金でマネーゲームを仕掛けるのは無謀だ――と、難色を示していたけど、あくまで吹っ掛けるだけ吹っ掛けたら撤退すると話したら納得してくれている。
ただ、最終的に撤退してしまうと、どうしても学力の高い生徒の協力は得られない。そこをどうするかが気がかりのようだった。
「それに関しては一応……というか、ちょっと考えがあるんだ。悪いんだけど、女子だけ集まってくれる?」
女子だけ――と、声をかけられて、神崎くんを始めとした男子が困惑した表情を見せる。けど、すぐに何か考えがあってのことだと信じてくれた。
その間に、こちらも女子に綾小路くん考案の作戦について伝えていく。正直、あまり進んで話す内容ではないだけに、少し心苦しい部分はある。
最悪の場合は、私だけでやるので、無理はしなくていいと言葉を添えたが、それでも麻子ちゃんを始め、紗代ちゃんや夢ちゃんも難しそうな顔をしていた。特に男性をあまり得意としていない千尋ちゃんは酷い顔をしており、流石に無理強いしようとは思えない。
「えっと、さっきも言ったけど無理しなくていいからね。最悪は私だけでも出来るし……」
「でも、帆波ちゃんは私たちの力も欲しいからこうして声をかけたんだよね?」
麻子ちゃんの言葉に頷く。集団真理ではないが、私も一人よりはみんなと一緒の方が怖くない。
「でも、ちょっと意外かも」
「何が、夢ちゃん?」
「なんて言うか、こういう邪道……ってのは言い方が悪いかな。正攻法じゃない戦い方ってあまり帆波ちゃんっぽくなかったからさ」
「そうだね。去年までの私なら、きっとこういう戦い方はしようと思わなかったと思う」
でも、今の私はもうご主人様の奴隷だ。その望みは最大限叶える努力をしないといけない。それが仲間を苦しめる方法でも、退学よりはマシ――そう考えるしかなかった。
「一年を通して、私たちはCクラスに落ちた。それも、Aクラスとは600以上も差がある。けど、それ自体を私は後悔してない。例え、何回繰り返したとしても、私は退学者を出すことを良しとはしないし、このクラス全員で進む道を選んだと思う」
だけど、それだけじゃ守り切れない。
「でもね。これまでと同じままじゃ駄目だとも思ったの。今まではずっと守りの姿勢……っていうか、成り行き任せで、進んで戦うことをしてこなかった。でも、このクラス全員で卒業するためには守るだけじゃ足りない」
夢ちゃんたちからすれば、あまり進んで取りたくはない作戦だろう。私だって、自分がこの立場に居なかったら、勝つためとはいえこんなことしようとは思わない。
「これからは例え卑怯だと言われても戦う覚悟がないと、600ポイントの差を埋めてAクラスになるなんて出来ないよ。綺麗事だけじゃどうにもならない所まで、私たちは来てる……勿論、龍園くんみたいにルールを無視するようなことをする訳じゃない。でも、汚いと言われる手段は取っていくつもり」
誰もが私らしくないと思うはずだ。実際、裏にいるのが綾小路くんである以上、私らしくなくて当然――でも、その疑問も一過性のものに過ぎない。人間は慣れる生き物だ。最初さえ乗り越えてしまえば、みんなは綾小路くんの指示を気にしなくなる。
「……わかった。手伝う」
「いいの、紗代ちゃん?」
「帆波ちゃんがそこまで心の内を見せてくれたのに、嫌ですなんて言えないよ。そりゃ、良し悪しで言えば悪しだけど、クラスの辛い部分を帆波ちゃん一人に押し付けるなんて私には出来ない」
「そう、だね……ちょっと怖いけど、みんなが一緒なら大丈夫だよ」
「でも、本当に嫌な子は参加しなくていいからね。千尋ちゃんとか、姫野さんは、多分こういうの好きじゃないだろうから……」
綾小路くんから命令を受けた時、もし姫野さんが嫌そうな顔をしていたら除外してやれって命令があった。
もし、その命令がなかったら、一瞬姫野さんが嫌そうな顔をしていたのを見逃していたかもしれない。私はクラスのことを全部知っている気で居たけど、知らないこともまだまだたくさんあるんだ。
「……いいの?」
「むしろ、これからも嫌なことがあれば遠慮しなくて言って良いからね。周りに合わせるだけじゃなくて、自分の時間を大切にしたい子だっていると思うし」
私がそう笑みを浮かべると、姫野さんもホッとした様子を見せる。そうだよね、誰もが同じことが出来る訳じゃない。
だからこそ、こういう時に参加できない子に悪意の矛先が向かないように、私も注意してあげないといけなかった。
逆に、私に付き合ってくれる子たちも労って、輪が崩れないようにもしないといけない。ああ、意識してクラスを回すのってこんなに難しかったんだ――と、泣き言を言っている場合じゃなかった。
改めて、女子と違って、全く事情が把握できていない神崎くんを始めとした男子に向き合っていく。
女子側の許可が出たことで、改めて男子にも作戦を伝えた。最初は動揺の声が大きかったが、すぐに納得の声や、それはどうなんだという疑問の声も浮かんでくる。
納得してくれたのは柴田くんを始めとした、所謂軟派な男子。疑問の声を上げたのは神崎くんを始めとした、所謂硬派な男子だった。上手いこと真っ二つに意見が分かれている。
「済まない。俺はそういうことに疎いのもあって、あまり理解が出来ないんだが……そんなので引き抜きが出来るのか?」
「そんなのって……女子からすると、かなり恥ずかしいことなんだけど?」
「ああ、済まない。言葉が悪かった……別に網倉たちをどうこう言いたい訳ではなく、単純にそれで引き抜きが出来るのかが疑問なんだ」
「そこは、私たちの演技力次第……かな。本番を想定して少し練習は必要かも」
実際、この作戦を成功させるにはかなりの演技力が必要だった。それこそ、わかっていても騙されてしまうくらいの練度が欲しい。
しかし、練習――と、聞いて、女子が心底嫌そうな表情を浮かべた。気持ちはわかるけど、ぶっつけ本番で失敗しましたでは話にならないので事前に練習は必須だ。逆に女子だけではわからない男子の意見も取り入れながら、クラスがかりで作戦を煮詰めていく。
作戦決行は、明日の放課後――目標は学力評価B以上の一年生の男子生徒10人だ。
一方その頃視点。坂柳と龍園はほぼ原作通りマネーゲームに勤しんでいる。けど、世の中金以外にも魅力的なモノはある訳で。