5月の中頃から始まった帆波と坂柳の争いがひと段落し、5月も末になると、1年生の中で初めて同学年のみの特別試験が開催されることになった。
相手が同学年のみとはいえ、前回の試験の契約で帆波に救済された1年は試験について相談するように指示されているため、当然のように帆波の元には1年生たちが訪れに来ている。ここで先輩として相談してきた後輩たちを導くことで、信者を増やしていくのが狙いだ。
当然、手を抜くことはしない。『帆波に相談したおかげで、いい結果を出すことが出来た』――と、いう認識を刷り込むためにも、ここではPPを融通してでも相談してきた1年生に肩入れしていく。勿論、帆波のクラスにそんなPPはないので、オレが貸している形だ。
益々借金が増えていく帆波クラスだが、それに見合った見返りも多く得ている。しかし、今回は敢えて1年Cクラスから出るであろう退学者については救済しなかった。
そもそも対象の波田野という生徒は学力が高く、前回の試験で帆波の庇護を受けていなかった生徒であったし、この退学者が原因となって原作でも八神は最終的に足を救われることになる。総合的に判断して、退学して貰った方がメリットが多かった。
流石の石上も、オレが原作知識を持っているとは知らない以上、ここで退学者を出してもオレが見逃したとは考えないだろうしな――と、考えながら、1年の特別試験が終わり、6月も中旬になると、約ひと月半ぶりに七瀬がオレの前に姿を現した。
「おはようございます、綾小路先輩。ご無沙汰しておりました」
前回の特別試験で顔を合わせて以降、たまに姿を見ることはあっても、こうして話すことはなかったので本当に久しぶりだ。
「てっきり、嫌われたと思っていた。オレは何だかんだで宝泉を暴力で従えた男だからな」
「あれは宝泉くんも同意した上での決闘の結果です。私も、彼も、理解しています」
「だが、理解と納得は違うだろう?」
「そうですね。ですが、それでも先輩に対して悪感情は持っていません。このひと月半、顔を出さなかったのは、その、少しばつが悪かったと言いますか……」
七瀬がひと月半前に、オレを悪く言う発言をして雪を怒らせ、土下座までして許しを請いに来たのは記憶に新しい。
あの時は何でもない顔をして去っていったが、常識で考えれば土下座する原因となった先輩になど二度と会いたいとは思わないだろう。とはいえ、こいつの都合上、いつまでもオレとの間に距離を作る訳にもいかないので、こうしてやって来た訳だ。
「だが、今回接触してきたのはほとぼりが冷めてきたからってだけじゃないんだろう? 何かオレを退学に追い込む策でも考えてきたのか?」
何だか可哀想になってきたので、ここはオレの方が譲歩して、こいつの策略に乗るフリをしてやることにした。
しかし、七瀬はそんなこちらの内心も知らず、オレが自分のことを警戒していると思い込んでいる――と、考えると、何だかピエロを見ているみたいな気分になってきたな。
「いえ。策を講じても簡単に通用しないというのは、前回のことでよくわかりましたから。目的を知られている以上、日常生活で先輩を追い込むことも極めて難しいですし……今は、先輩のことを見定めている最中です」
と、言いつつ、本命はどこかでオレとぶつかって仲間になるタイミングを計っている――という感じか。
七瀬に限らず、他の1年も仕掛けてこないということは、今は様子見をしていると見ていいだろう。
宝泉がオレに仕掛けて敗北したというのは既に1年の間でも噂になっているはずだ。幸か不幸か、宝泉は1年の中でも注目株の生徒だった。その宝泉が失敗した以上、他のメンバーも不用意に動けないと考えても特に不思議はない。
まぁ、八神はそもそもまだ仕掛けるつもりはないのだろうし、椿や宇都宮も原作と違ってオレを狙う理由がほぼなかった。石上が何を考えているかは不明だが、今の段階で動きを見せる様子もなさそうだし、そういう意味でも動きがないのはおかしなことではない。
「まぁ、オレとしても背中を刺されないで済むなら何よりだ」
と、冗談を言ってみたが、七瀬は曖昧に苦笑いを浮かべるだけだった。どうも、オレはこういう冗談のセンスがないらしい。
「学校には慣れたか?」
少し気まずい雰囲気になってしまったので、適当な話題を振っていく。七瀬もオレが話を変えようとしているのを汲んで、しっかり話に乗ってきてくれた。
「はい。私を含め、同級生たちも特殊な状況に耐性がついてきたと思います。先輩がどこまでご存知かはわかりませんが、1年生は5月末に2度目の特別試験がありました」
「耳には届いている。退学者が出たみたいだな」
「流石にご存知のようですね。1年Cクラスから男子が一人退学しました」
流石にご存知ではないと思うが、八神にハメられたそいつの退学を見逃したのはオレだ。なので、当然、そいつが1年Cクラスの中でも学力が高かったことや、同じクラスの宇都宮が犯人捜しに熱を上げていることも知っている。
「この学校では、昨日まで笑いあっていた友達が無慈悲にいなくなることがある。後悔しないように学校生活を送る必要があると、改めて強く認識させられました」
「宝泉はどうだ? 退学者のことを気にする素振りなんか……ある訳ないか」
「そうですね。特に気にする素振りは見せませんでした……と、いうより、今は少し大人しくなったと言いますか。勿論、問題行動がない訳ではないのですが、宝泉くんは今、先輩に勝つことに夢中なようでして」
前回の試験で力の差をわからせたばかりなのにもう元気に次を考えているようだ。骨折り損のくたびれ儲けとは言いたくないが、もう少し何か注文を付けておくべきだったか。
「強引な結果論ではありますが、先輩に負けてよかったのかもしれません。あれで宝泉くんの視野は広くなり、1年生たちに向けられていた強い感情が、先輩にも向けられたんだと思います」
「まだ腕も完全には治っていないし、早々の再戦は遠慮したい所だ」
そう言って、ようやくギブスが外れた左腕をひらひら上げると、七瀬もくすりと笑みを浮かべた。
「それは宝泉くんも同じだと思いますよ。今のままでは勝てないのは本人が一番よくわかっているでしょうし、まずは1年を捻じ伏せて力を付けるつもりのようです」
見た感じ、地道に努力するタイプには見えなかったが、意外とRPGではレベリングをするタイプなのかもしれない。
「そういえば、特別試験の結果はどうだったんだ? 1年Cクラスに退学者が出た以上、最下位じゃなかったのは想像がつくが……」
「私たちのクラスは、前回が最下位。今回は3位と、残念ながら結果は振るいませんでした。ただ、今回は上位であるA、Bクラスとは僅差の戦いだったので、CPの開きも僅かで済んでいます」
「再戦は遠そうだな。まぁ、そういう試験があれば、話はまた別なんだろうが……」
そういう意味では、次の無人島サバイバルでは宝泉はどう動いてくるか予測がつかない。原作のように七瀬、天沢と組んでオレを襲いに来るのか、それとも――
「何であれ、私は悔いのない学校生活を送るつもりです。綾小路先輩も、どうか悔いのない学校生活を送るようにして下さい」
まるで忠告するかのように七瀬がそう口にする。
ぶっちゃけ、オレに悔いを残させたくないなら、今すぐにでもその制服を脱いでオレの元に来てくれることを望むのだが――と、流石に面と向かってそんなことは言えないので自重しておく。
とりあえず七瀬には「勿論、悔いが残らないようにするさ」と、適当に答えて、この場は別れることになった。
しかし、椿の件もそうだが、いずれ手に入るとはいえこうして待つ時間はもどかしいものだ。鈴音の時はもっと面倒な下準備までしていたはずなのだが、最近は甘い飴をこうして焦らされるのはなかなかに堪える。
だが、その時は来るのは、もうそう遠くない話ではない。オレに頭を下げて離れていく七瀬の背中を見ながら、まだ少し早い夏の到来をやんわりと感じ取っていた。
◇◆
七瀬との再会からまた少しして、このままのんびりと日々が過ぎていくはずもなく、今日教室に入ってきた茶柱は、いつもと違ってピリッとした空気を纏っていた。
もう一年付き合ってきたのだ。
こういう時は大体特別試験が関わっているというのは大体見当がつく。実際、いつもは出欠と確認事項を終えるとすぐに職員室に戻る茶柱だが、今回はそのままクラスに残り続けていた。
ちなみに、今回の確認事項は、8月4日から8月11日までの7泊8日で、去年のように豪華客船でバカンスを楽しめるという話だ。
前回のように、船上で特別試験は行われず、一週間を楽しむことが出来るらしい――が、そんな甘いだけの話があるはずもなく、その前に大きな試練があるであろうことは既に全員が理解していた。
「お前たちとの付き合いも長くなってきた。何となく察してはいるだろうが、バカンスの前には特別試験が開催される。船旅を楽しむには、その特別試験を無事に越えなくてはならない」
上げて落とす――と、いうのがこの学校の基本なので、この程度で落ち込むような馬鹿はもうこのクラスにはいない。
茶柱も「流石に学習しているようだな」と、感心するような笑みを浮かべながら、緊張感を保っているクラスを見て満足そうに頷いていた。
「とはいえ、今日明日すぐに始まる訳じゃない。特別試験は夏休みに行われる」
「夏休みですか、まだ先の話ですが……」
と、洋介が声を上げるが、だからと言って安心はできない。むしろ、事前説明がこれだけ早いことは不安要素でしかなく、バカンスや夏休みと聞けば、嫌が応にも過去のあの試験が記憶に蘇ってくる。
「無論、今日その話をしたのはお前たちを脅すためではない。今年行われる特別試験は、それだけ今までの特別試験とは一線を画したモノであり、過酷かつ厳しいものになるということだ」
十分脅していると思うが、茶柱からすれば事実を言っているだけなのだろう。得られるCPやPPもこれまでの特別試験の中でもかなり大きなものとなるということだし、もうクラスメイトたちも薄々何が行われるか勘付いていそうだった。
「今回の特別試験――お前たちには、『無人島サバイバル』に参加し、競い合って貰う」
勘付いていた生徒はやはりと天を見上げ、無人島と聞いて気づいていなかったクラスメイトたちも嫌そうな表情を浮かべる。無人島でのサバイバル試験は、オレたちにとって初の特別試験であり、体調管理や揉め事などいろいろ苦労した記憶が多いからな。
改めて、バカンスを含めた夏の日程は、7月19日に学校のグラウンドに集合し、バスで出発。港から客船に乗り込んで移動を開始する。
7月20日には特別試験が開始。試験の説明、及び物資の受け渡しなどを行い、ここから約2週間に渡り無人島でサバイバル試験を行う。
8月3日に特別試験が終了。順位の発表を船内にて行い、それに合わせて報酬を支給する。また、8月のPP支給については、無人島試験の結果を適用した後に支給されるということだった。
そして、8月4からは約1週間のバカンス。ここは原作通り特別試験はないが、生徒会主導のPPが獲得できるイベントが開催される。
正式な夏休みは8月11日からということで休みがかなり短くなるが補填などは何もなし。ぶっちゃけ割に合わないが、約1週間のバカンスを考えれば悪いものではないだろう。
「さて、本題に入るぞ。去年も行った無人島サバイバル試験だが、もっとも異なる点は『規模』の違いだ。試験期間が2週間と増えていることに加え、使用する島の面積も以前よりも大きい。そして、同学年だけでなく全学年で競い合う形を取る」
先程、茶柱が言っていた今までの特別試験とは一線を画したモノ――というのは、こういうことだ。様々な面で、前回を超える規模の戦いを強いられる上、その戦う相手も過去最大の数となる。
ハッキリ言ってしまうと、かなり面倒くさい。高円寺ではないが、さっさとリタイアしてクルージングを満喫したい気分だった。
「それは……1年生には純粋に不利になりますし、3年生は有利じゃありませんか?」
「平田の言いたいこともわかるが、どんな試験も100%平等に行うことは不可能だ。お前たち2年生に限った話でも、4月生まれと3月生まれで1年近い差を抱えながらも同じステージで戦っているだろう?」
「それはそうですが……」
「それに何も考慮しない訳ではない。一応、学年別によるハンディキャップは用意されている。低学年になるにつれ受け取れる報酬が増え、受けるペナルティは少なくなる仕組みだ」
前回の試験と同じく、学年が上の方が重いマイナスを科せられるということだろう。おまけで、プラスとなる報酬も増えるのであれば、確かに文句は出にくい。
「それらを踏まえた上で、次に進む。無人島サバイバルの新たなルール、その『一部』をこれから説明する」
敢えて強調された『一部』という言葉に、クラスメイトたちが首を傾げる。今日、この場では全てのルールは説明しないということらしいが、それに何の意味があるかは不明だ。
混乱に包まれる2年Bクラスだが、茶柱が「まずは大人しく説明を聞け」と言いながら、正面の大型モニターの画面を切り替えたので、とりあえず説明に集中する。改めて、モニターの上部には『グループ』という文字が大きく書かれ、いろいろな組み合わせの一覧が記載されていた。
「無人島サバイバルでのルールを知っていくには、まずグループに関することを理解して貰う必要がある。この試験では、最大6人までの大グループを組み、協力できるルールを採用している。そして、大グループは同学年であれば、クラスを問わずに組むことが可能だという点を最初に覚えておいて欲しい」
オレの斜め左後ろの席にいる鈴音が「それは、2年生は味方である――ということ?」と、小さな独り言を漏らすが、茶柱は気にした様子もなく話を続ける。
「お前たちは今日から7月16日の終業式までの約4週間の間、2年生の好きな相手を2人まで選び、大グループの元である最大3人の小グループを作る権利が与えられる。ただし、先程も言ったが組むメンバーは同学年の生徒からしか選ぶことが出来ない」
1年生や3年生とはグループは組めないが、坂柳や帆波、龍園のクラスとなら自由に相手を選べるということだ。
ちなみに、1年生は学年別というハンデがあるため、最大人数が4人までとなっている。ただ3年生は2年生と変わらず3人までということで、2年生はあまり旨味がない。
また、自由に組めるとはいえ、男女の割合は決まっているようで、モニターには男女混合の小グループの場合、2/3以上を女子が占める必要があると書かれていた。
つまり、『男子1人』、『男子2人』、『男子3人』、『女子1人』、『女子2人』、『女子3人』、『男子1人、女子2人』と、3人組の小グループはこの7パターン以外に有り得ないということだ。4人組の場合は、これに『男子4人』、『女子4人』、『男子1人、女子3人』の3パターンが追加される。
「また、一度グループが確定した後は、如何なる理由があろうと他グループへ移動することは出来ないから注意しろ。逆に、誰ともグループを組みたくないという人間は一人でも問題ない。次の特別試験はグループの人数に関係なく行うことが出来るようになっているからな。まぁ、人数が多い方がメリットが多いのでお勧めはしないが」
高円寺のように、誰とも組まずに一人で居ても問題はないが、茶柱的にはグループで行動するのが推奨している訳か。
ここで、基本的には一人でいることがまだ完全に抜け切れていない鈴音が、「メリット、というのは?」と、多人数に組む利点について質問の声を上げた。
「今回の試験は脱落方式を採用している。例えば、特別試験の最中、堀北が試験を続けられないアクシデントに見舞われたと仮定しよう。当然、一人で参加していた場合は、その時点で失格となりペナルティを受ける。が、もし堀北、櫛田の2人グループだった場合は、失格となった堀北は船内に戻ることになるが、櫛田は試験を続けることが出来る訳だ」
「……その場合、もし桔梗さんが最後まで勝ち残った場合はどうなるんですか?」
「デメリットは何もない。堀北も同じグループの一員であるため、1位の扱いを受ける。途中で何人欠けようとも、グループは最後の一人になるまで機能する。人数が多いほどメリットが多いというのはそういうことだ」
今の例えでは鈴音と桔梗の2人組だったが、当然3人組、4人組と、人数が多い方が残機も増えるので、万が一の時のフォローも聞きやすい。そう考えると、1人でいるメリットはないに等しかった。
「そして、特別試験が始まると、今度は小グループ同士が集まることが解禁される。3人グループ2つでも、2人グループ3つでも、1人グループが6つ集まっても構わない。ただし、4人以上の大グループを組む場合は女子の割合が5割を超えている必要がある」
つまり組み合わせとしては、4人組の場合は、『男子2人、女子2人』、『男子1人、女子3人』、『女子4人』の3パターン。5人組の場合は、『男子2人、女子3人』、『男子1人、女子4人』、『女子5人』の3パターン。6人組の場合は、『男子3人、女子3人』、『男子2人、女子4人』、『男子1人、女子5人』、『女子6人』の4パターンしかないという訳だ。
1年生だけは例外的に4人までが小グループ扱いだが、仮に男子4人でグループを作った場合、残りの枠は2つしかないので必然的に大グループは作れないということになる。
「ここまで聞くと、特別試験が始まってからグループを組めばいいと考えるやつもいるかもしれないが、そう簡単にはいかないことになっている。自由に組めるとはいえ、大グループを作るには条件があり、難易度は非常に高い。最大の6人グループは望んでも組めないというケースも多数出てくるだろう」
ただ単純にグループを組みたいと言って組めるほど甘くないということだった。そう考えると、やはり3人グループを作るのがとりあえず無難な攻略法だろう。
1年生にしても、無理に最大人数の6人グループを狙うのは諦めて、最初から最後まで4人組で過ごした方が最終的なアドバンテージは高いかもしれなかった。
1学年約160人、各クラス約40人。仮に全員が3人グループを作ったとして一つのクラスで、約13グループ、1学年で約52グループ、全学年で約156グループだ。
勿論、退学者の数や1人組や2人組のパターンで、逆にグループ数が増えたり減ったりすることもあるので、もっとグループの数は前後するだろうが、それだけの数のグループが競い合うのであれば、これはもう個人でどうこう出来るレベルを超えていた。つまり、どれだけ集団を支配できるかが勝敗のカギとなってくる。
「とはいえ、いきなりグループを作れと言われても、どんな試験が行われるかわからない今、迂闊に仲の良い友人だけでグループを組む――と、いう訳にもいかないだろう。グループの総合力は、そのまま特別試験の成績に繋がる可能性が高い。関係性だけで能力の低い者同士が組めば勝ち上がるのは難しいのは火を見るより明らかだ」
「先生……なんか、ヒントみたいなのないんですか?」
池が困ったようにそう問いかけた。流石の池も、茶柱が馬鹿正直に隠しているルールを説明してくれるとは考えていないだろう。
ただ、何かヒントがあればグループを作る指針にしやすい。こういう時に、迷わず問いをかけられるというのは、ある意味で才能なのかもな。
「そうだな……内容については説明できないが、どんな能力が必要になるか――と、いう点に関しては教えられるかもしれん」
「おおっ!」
「去年の無人島サバイバルと違って、今年は『全ての能力』が必要になる。学力、身体能力、精神力、コミュニケーション能力……今挙げた能力以外にも、自分が得意とする能力を生かせる可能性は大いにある」
「学力も……っすか?」
質問した池が意外な回答に首を傾げる。無人島でサバイバルをする以上、必要になってくるのは身体能力や精神力だと思っていただけに、予想外の言葉が来て驚いたという感じだ。
「池くん、例えば学校側が食料を配給するってなった時に、問題に正解しないと食料が貰えない――みたいなルールだと、学力も重要になると思わない?」
「あっ、成程! 流石は椿ちゃん」
「でも、そう考えると迂闊に体力自慢だけを組ませて高得点を狙うっていう作戦は難しそうだね。これは意外と難しい試験かも……」
学力と身体能力を両立させている生徒はそう多くない。雪もいろいろ考えているようだが、そう簡単に行かないのが今回の試験だった。
「それから、肝心の報酬についてだが、まずはこれを見て欲しい」
再びモニターの画面が変化し、オレたちが見ているタブレットも同時に報酬についてのページが開かれる。
【報酬】
1位のグループ・300CP、100万PP、1プロテクトポイント
2位のグループ・200CP、50万PP
3位のグループ・100CP、25万PP
上位50%(1位~3位含む)に入賞したグループ・5万PP
上位70%(1位~3位含む)に入賞したグループ・1万PP
※上位3グループが得るCPは下位3グループの学年から移動される。CPに関しては、人数に関係なくクラス数で平等に分配される(四捨五入)。
「これが今回の報酬一覧だ。今回は同学年以外でグループが組めないため、必然的に学年別の争いとなる。しかし、報酬やペナルティの影響は『グループ毎』に行われるため、もしBクラスだけで結成されたグループが1位の場合、報酬は全てBクラスのもの。逆に4クラス混合グループが1位の場合、4クラスで均等に報酬を分け合うことになる」
つまり勝率だけを考えて、各クラスの最強格をかき集めたグループを作ってもCPは変動しない。CPを稼ぐことを考えれば、どうしても自クラスで固まった方が良いと言うことだ。
まぁ、やろうと思えば、オレと高円寺がそれぞれ単独で上位2位までの報酬を独占することだって不可能ではない。
500CPがプラスされればAクラスは確定だし悪くはないが――無理に勝ちに行くと言うことは、ここまで耐えてきた七瀬のフラグを折るということでもある。それだけは有り得ない。何のために、ここまで下手に手を出さずに我慢してきたんだという話だ。
おまけに、月城のイベントもあって、オレの退学を狙っているであろう1年の妨害も考えられる以上、やはり下手に動くのは得策ではない。
それにあまり高円寺を良いように使うのはデメリットも出てくる。いくらあいつが超人でも、二週間の無人島サバイバルはストレスをためるだろうし、将来的に仲よくするためにもここはあいつの好印象を買っておきたい所だ。
「また、上位に与えられる合計で600にもなる膨大なCPは、下位3グループに沈んだ生徒から平等に徴収することになっている。もし1位が2年のグループで、最下位が1年のグループだった場合、1年生の各クラスからCPが回収される仕組みだ。2位の場合は下から2番目、3位の場合は下から3番目のグループと学年が比較される」
つまり、仮に2年が誰も上位3組に入らず、逆に下位3組に沈んだ場合、各クラス合計150CPがマイナスされるという形か。
また、上位と下位のグループが同学年だった場合は、最下位に含まれたクラスは100、下から2番目は66、3番目が33のCPが上位に支払われるらしい。
1クラスで単独1位を取れば300CPを得られるが、同学年が最下位も取った場合はそこから100CPが差し引かれる訳だ。また、4クラス混合のグループが最下位を取った場合は、支払うCPが少しだけ減り、最下位が75CP、下から2番目が50CP、3番目が25に減るというシステムになっていた。
「なお、徴収するCPが報酬額に満たない場合、残りは学校側が補填する決まりだ。例えば、2年Bクラスが単独1位を取り、2年Dクラスが単独最下位を取った場合、最下位が300CP丸々払うというようなことはなく、払う額はあくまで100CPのままで、足りないCPは学校側が支払う。これは他学年から徴収する際も、同様のルールが適用される」
つまり、最大でもCPのマイナスは199で済むということだ。とはいえ、余程のことがなければここまでのマイナスは受けない。
上位と下位が同学年で被らなければ、マイナスは等しく平等になる――他のクラスとしても、下位3グループに2年の生徒が入るのは得策ではないと考える以上、状況によっては同学年での共闘も十分考えられるだろう。
「そして、下位に沈んだグループには当然ペナルティが与えられる。奪われるCPは、下位3グループの結果から参照されるだけだが、それだけではなく下位5グループに属する結果となってしまった生徒たちには退学して貰うことになる」
「ってことは、もし2年Bクラスだけが退学の対象になったら……」
「お前の想像通りだ、池。5グループ、最大30人がターゲットになる以上、最悪の場合は11人になってしまうだろう。だが、その心配はまずない。万が一ペナルティを受けてしまった場合、600万PPを支払うことで救済とする。この金額はグループの人数で割られるため、6人であれば1人当たり100万PPだ」
救済措置があると聞いて、クラスメイト達もホッとした様子を見せる。とはいえ、そこまで都合のいいものではなかった。
茶柱曰く、無人島試験が始まってからは携帯に触ることが出来なくなる。つまり、PPの貸し借りは出来なくなるため、試験前の段階でPPを所持しておく必要があるということだ。
その話を聞いて、洋介が手を挙げる。
「ペナルティを受けるグループ内でも、PPを出せる生徒と出せない生徒がいると思いますが、1人でも残金が足らない場合、どうなるんでしょうか?」
「その点は安心しろ。6人の内、何人かの残金が不足していたとしても、所持金の足りている生徒はそのまま100万PPを払うことで救済される」
「では、逆に足りない生徒の分のPPを多く支払うということは出来ますか?」
「もし、平田が下位5組に入っていれば、清算時にPPを他人に融通するという行為も可能だろうが、お前が下位5組に入っていなければその機会は訪れない。他人の心配をするのであれば、不安な生徒に先にPPを分けておく方が利口だろう」
洋介としても、いざとなった時に仲間を救えればと考えたのだろう。しかし、その場に洋介がいればともかく、いないのであれば助けようがないということだ。
流石の洋介も、わざと下位5組に入ろうとは思わない。出来ることと言えば、茶柱の言う通り不安な生徒に先んじて保険のPPを渡しておくくらいしか対策はないが、そんな生徒は探せばいくらだっている。結局、PPに余裕がないうちに出来ることは限られていた。
「最後に、これを見て貰おう。今、前のモニターやお前たちのタブレットに表示されたのは、今回の特別試験に影響を与えるモノだ」
茶柱の声と同時に、モニターとタブレットの画面が再び切り替わり、8つの項目が表示される。
【基本カード一覧】
先行――試験開始時に使えるポイントが1.5倍される。
追加――所有者の得るPP報酬を2倍にする。
半減――ペナルティ時に支払うPPを半減させる(このカードを所持する生徒のみ反映される)。
便乗――試験開始時に指定したグループのPP報酬の半分を追加で得る(指定したグループと自身が合流した場合は効果が消滅する)。
保険――試験中に体調不良で失格した際、所有者は一日だけ回復の猶予を得る(不正による失格などは無効とする)。
【特殊カード一覧】
増員――このカードを所有する生徒は7人目としてグループに存在できる(本試験開始後から効力が発揮され、男女の割合にも左右されない)。
無効――ペナルティ時に支払うPPを0にする(このカードを所持する生徒のみ反映される)。
試練――特別試験のCP報酬を1.5倍にする権利を得る(ただし上位30%のグループに入れなかった場合はペナルティを受ける。また、増加分の報酬は学校側が補填する)。
「な、なんですかこれは!?」
「これは今回の試験で、個人個人に1枚ずつ配られるアイテムのようなものだ。各生徒はこの8種類の中から1枚をランダムに得る。配布のタイミングは明日の朝で、得たカードは特別試験開始の間、他のクラスの同じ学年に限り譲渡やトレードすることが出来る」
この基本カード、特殊カード共に、同じ学年の別クラスであればトレードは出来るが、クラス内でのトレードは不可能ということだ。
「誰が何を所持しているかはOAAでいつでも閲覧可能だ。買いたい生徒に売るもよし、一人集めて複数所持することも可能だ。ただし、同じ効果の倍増はしないため、同じカードを複数枚持つ意味はない。また、特殊カード3種は、学年毎に1枚ずつしか存在せずランダム配布だ。そのため一つのクラスが偶然特殊カードを3枚持つということも可能性としてはあり得るだろう。以上だ」
長かった説明が終わるが、これでもまだ全てのルールが開示された訳ではない。これまでの特別試験の中でも攻略難易度も過去最大と言って良かった。
また、茶柱の説明が終わると同時にチャイムが鳴り、これで一時間目の授業も終了となる。
「今回の説明だけでは全てを理解できなかった者もいるだろうが、昼休みまでには自動的にタブレットに特別試験用マニュアルが配布されるため、そこで確認が可能だ」
「せんせー、ヒントくださいよー!」
「……今の段階で言えるのは、どう言ったグループ戦略を立てていくかゆっくり考えることだ。時間はある。あまり急いで結論は出さない方がいいだろうな」
池の泣きつくような声を聞いて、茶柱がそう言い残して教室を去っていく。何だかんだ、ヒントは残してくれるので池もつい甘えてしまうのだろう。
とはいえ、池だけに限らず、これからどう動くかは問題だった。今回の試験は2年だけでなく、1年や3年も関わってくる以上、駒の動かし方一つでいろいろな結果を導き出せる。
3年でまず注意しなくてはいけないのは南雲だ。あいつも、長い停学がもうすぐ終わる。夏の特別試験には満を持して参加してくるだろう。
しかし、原作のように好き勝手は出来ないはずだ。桐山を始めとした3年Bクラスが離反してAクラスに猛追をかけているし、その結果や帆波経由でのアプローチで3年CクラスやDクラスも、もう殆ど南雲の派閥から離れている。
使えるのは精々、同じクラスの生徒――南雲はずっと停学していたので下級生との伝手もないし、この試験では素直に上位を狙うしか出来ないだろう。
1年で注意すべきなのは八神だが、こいつもおそらくこの試験ではまだ動いて来ない。原作でも月城の命令を鬱陶しく感じている節があるし、多少の火遊びはしても大きく動いてくることはないはずだ。
七瀬に関しては原作通りに進めるとして、宝泉がどう動くか。天沢をどう使うか。椿や宇都宮をどう動かすか――同学年以上に、他の学年の動きを支配する方が大変だ。
同学年に関しては、そこまで深く考えてはいないが、ぶっちゃけどうでもいいというのが本音だった。
仮に今回の試験で帆波や龍園クラスに追いつかれてもこの先追い抜くチャンスはあるし、坂柳がいくら頑張ってもこの試験は何だかんだ運動能力がモノいう以上、状況次第ではあるが原作のようにギリギリ3位入賞が関の山と見て良い。
原作と違って、高円寺というジョーカーが自由に使える以上、このクラスの負けはないに等しかった。やろうと思えば、去年までの南雲のように、早々にクラス順位に差を付けて坂柳と龍園が結託して挑んでくるのを待つというのも不可能ではない。
とはいえ、あまり調子に乗りすぎると、高円寺もこちらを見放して別のクラスに移動するという可能性もある。あまり便利に使い過ぎるのは、やはり禁物だろう――と、考えていると、高円寺が席を立って廊下を指さしてきた。
話があると言うことだろう。休み時間に入ったことで、オレの席の周りは洋介や桔梗が来ててんやわんやしているが、ここは男同士たまには連れションにでも行こうではないか。
原作との変化点。
・1年生の特別試験に遠隔介入した。
これにより、1年生の信者はより帆波に感謝の意を示している。
・七瀬と再会した。
原作通りだが原作通りではない。若干、雪を恐れているため、一人で行動している所を狙っており、雪がいる時は近寄って来なかった。
・無人島サバイバルの説明を受けた。
基本的に原作通りだが、うちの清隆は原作と違って同学年だけでなく盤面全体を支配するため動き出そうとしている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
七瀬とのやり取りにもどかしさを感じている。無人島試験でいろいろなことに清算を付けるつもりでいる。
・堀北鈴音
前回の試験で失敗したので今度こそ結果を残そうとやる気。
・茶柱佐枝
何だかんだクラスに甘い。いろいろアドバイスをしてあげている。
・七瀬翼
立場的にも、このまま距離を置く訳にはいかないので気合を入れて清隆に会いに来た。相手が一人の時は大丈夫だが、雪と一緒の時は遠慮するようにしている。
・平田洋介
誰かが退学するかもしれないと危惧している。原作では弱者救済に動いていたが、こんな動ける駒を遊ばせるつもりはない。
・池寛治
困った時の質問担当。いい意味で空気が読めないから、みんなが疑問に思うことを率先して聞いてくれる。愛されし馬鹿。
・高円寺六助
最後にのみ登場。地味に、クラスのために協力しなくてはいけないという契約を交わしており、高円寺としても原作のように嫌がれない状況。