高円寺と並んで男子トイレまで歩いていく。
普段、あまり一緒に居ることがないからか、意外な組み合わせにギョッとした視線を向けられるが、トイレに入るとそんな視線もすぐに収まった。人間である以上、別にトイレに行くのは不思議でも何でもない。
とはいえ、別に本当にトイレに用がある訳ではなかった。高円寺も、個室の扉に背を預けてこちらに視線を向けてくる。
正直、聞きたいことはわかっていた――去年のクラス内投票で首輪をかけたことで、高円寺はクラスのために結果を出さないといけなくなった。おそらく、今回の試験ではどのレベルの結果を出せばいいのか聞きたいのだろう。
「それで、ホームズ。今回の特別試験、私はどれだけの結果を出せば、実力を示したと判断されるのかね?」
やはり、質問は予想した通りのものだった。
「勿論、1位――と、言いたいが、今回の試験、ある程度の点数を取ってくれれば途中でリタイアしてもいいぞ」
「ほう?」
「流石のお前も、2週間の無人島サバイバルは大変だろう。無論、問題なくクリアは出来るのはわかっているが、それと苦労を感じるかどうかは別の話だ」
「そうだねぇ。私も、この厄介な首輪がなければ適当に試験をこなして終わりにするつもりだった……だからこそ、その提案は魅力的でもある」
しかし、クラスのことを思えば、高円寺ほどの実力者を遊ばせる余裕はない。だからこそ、オレが飴を渡す理由がわからないのだろう。
だが、原作というほぼ未来予知に近い知識があるオレからすれば、ここから高円寺の協力がなくてもAクラスに上がるのはそう難しいことじゃないとわかっている。そういう意味では首輪を付ける必要もなかったが、アレはアレで高円寺にオレという存在を認めさせるのに重要なことではあった。
「前にも言ったが、オレは本気でお前を縛るつもりはない。その首輪も、表向きお前がクラスに貢献しているという証明写真程度のものだ。だからこそ短時間で終わる簡単な試験ならともかく、長期間の拘束は流石に気が引けてな」
本気で高円寺の行動を縛ろうと思えば、もっとガチガチの条件で動けなくさせることだって出来たのは、高円寺自身が一番よくわかっているだろう。
無論、そんなことになれば、こいつはオレと決別するレベルでクラス移動を強行したに違いないが、オレが敢えて緩い首輪を付けたことで、その最悪の可能性は回避できている。
「1週間だ。1週間で取れるだけの得点を取ってくれ。それが終わり次第、オレの指定したグループに合流してくれたらリタイアしてくれていい」
「ふむ……聞きたいのだが、どうしてそんな提案を? 私に逆らうすべがない以上、無理やり1位を取れと命令することも不可能ではないはずだが?」
「ハッキリ言えば、オレはお前に嫌われたくないんだ。前に、高円寺コンツェルンで働いてみないかと誘ってくれただろう? あれを前向きに検討している。当然、次期社長の機嫌は取るに越したことはない」
高円寺に嘘を言っても仕方ないので考えていることを全て伝えた。勿論、最悪は高円寺経由で、鬼島派閥として動くことも考えているが、出来れば高円寺の下でセフレたちと楽しく過ごしたいというのが本音だ。
「成程……君を愛するガールたちと暮らすためにも、私の庇護下に入るべきと判断した訳か」
「その首輪はあくまでも、オレの力の証明だ。学力や運動能力なんかは、お前だってやろうと思えばオレくらいのレベルにすぐ到達できるのはわかっている。なら、違う所で有能であることを見せつけないと雇ってはくれないと思ってな。だから、本格的に使うつもりはない」
とはいえ、首輪を理由もなく外せない以上、それなりに高円寺には動いて貰う必要があるのも事実。だからこそ、途中リタイアを提案したのだ。
「本音を言えば、放置してくれるのが一番なのだが……この首輪をつけられたのも私自身の油断が招いたことだ。甘んじて、その提案を受け入れるとしよう」
退学の焦りから、本意ではない契約を結ばされたのは、将来の高円寺の糧になるはずだ。
もし、いつか同じような状況になった時、もう迂闊に契約を結ぶこともない。そういう意味では、オレは未来の高円寺グループを救ったと言えなくもなかった。
高円寺も、その可能性を理解しているからこそ、今回はオレの提案を受け入れてくれたのだろう。だが、オレもこれで高円寺を操縦できるようになったとは考えない。自由人なこの男を真に操作など出来るはずがないのは嫌というほどわかっている。
「先行のカードの存在から、試験開始時にある程度のポイントで物資が買えるのは間違いない。お前の分のトランシーバーもこっちで買うから、何かあれば連絡してくれると助かる」
「面倒だが、君と連絡が取れないのは不便だ。多少の荷物は必要経費と割り切ろう」
「まぁ、この試験だけ頑張ってくれ。雪を通じて、この先の試験は大体推測がついているが、もうお前の力を無理に借りなきゃいけないような試験はしばらく存在しない。この無人島試験さえ乗り切れば、ほぼ解放みたいなものだ」
「フフフ、君がどうやって特別試験の内容を先取りしているかは敢えて聞かないでおこう。どうやらズルをしているという感じではなさそうだしねぇ。君の言葉を信じて未来を楽しみにさせて貰おうじゃないか」
そう言って、高円寺はトイレから去っていった。どうやら、オレが雪から情報を得ているという嘘は完全に見抜かれているようだ。
原作でもそうだが、こいつは嘘を見抜くのが上手い。一年の時の干支試験でも、簡単に優待者を見つけていたし、何か嘘を見抜く能力でも持っているのではないかと疑う程だ。
しかし、これで高円寺に協力を取り付けられた。後は、どう立ち回るかだが、基本的には桐山をフォローしつつ、南雲の動きを抑える所からだろう。
もっと欲を言えば、この無人島試験を南雲との決戦の場にしたい。だが、足場もまともに出来ていない状況で南雲が勝負を挑んで来るかどうかは半々――と、すると、意地でも勝負を仕掛けざるを得ない状況を作るしかない。
南雲を動かすなら、やはり朝比奈を使うのが手っ取り早かった。適当な“動画”を見せて、無人島試験を決戦の場にしないと拡散すると言えば意地でも乗ってくるだろう。
勿論、本当に動画を拡散するつもりなど欠片もないが、南雲にしてみれば大事な幼馴染がオレの餌食になっているという形だ。何としても救い出したいと考えても不思議ではない。
まぁ、仮に偶然が重なって南雲が勝ったとしても、朝比奈――否、なずながもう南雲の元へ戻ることはないんだけどな。
◇◆
高円寺との連れション(仮)を終えて教室に戻ると、既に桔梗や洋介を中心に特別試験についての話し合いが始まっていた。とはいえ、まだカードも配られていない現状で言えるのは、茶柱が言った通りに何も考えずに適当なグループを作らないことくらいのことだ。
基本的に、今回の試験は自分たちのクラスで固まって結果を出した方がメリットが多い。しかし、能力の高い者だけでグループを組むと言うことは、それ以外の仲間たちはデメリットを受けやすい状況になりやすいということでもある。
また、うちのクラスだけでグループを作ったとして、もし他所のクラスが手を取り合うようなことがあった場合、Bクラスだけが集中狙いされる可能性だって十分あった。
負けた時のリスクを考えても、他クラスを交えたグループ作りは鉄則と言って良い。
理想的なのは、Aクラス以外の3クラスで同盟を結んで結果を出すことだ。貰えるCPは減るかもしれないが、全てのクラスがAクラスとの差を詰められる上、総合的にうちが有利に立てる。
しかし、原作と違って、この世界だと帆波クラスと龍園クラスはお家断絶状態だった。去年一年を通して、あの2クラスが犬猿の仲なのはもはや周知の事実であり、とてもじゃないが協力など出来る状況ではないだろう。
それに、うちが大きく動き出せば、坂柳も遠慮なくこちらを潰しに来るはずだ。Aクラスからすれば、全てのクラスが入賞しなければCPの差を埋められることはない。
迂闊にこちらが団結する素振りを見せれば、リスク度外視でひたすら妨害行為をし続ける――と、いう戦略を取ってくることも有り得た。そうなれば試験どころではなくなる。
まぁ、いろいろ推測は出来ても、実際にどう動くかについては明日になってからでないとわからない。配られたカードの内容次第でも、戦略は大きく変わるからな。
そんなこんなで放課後になると、洋介や桔梗といったクラスの中でも他クラスとの交流が深く、能力が高い生徒の元にはひっきりなしにグループへの誘いの連絡が届き始めた。
ちなみに、オレや雪、鈴音は、基本的に身内以外とは連絡先を交換していないので、こういう時には意外と連絡が来なかったりする。前回の試験ではOAAを通じてのパートナーの誘いだったからラブコールも多かったが、リアルの連絡先を知らないと今回は誘えないからな。
と、いう訳で、今日は真澄とひよりの美少女二人を侍らせて図書室デートをする約束をしていたので、騒がしい教室を後にして二人と一緒に図書室へと向かう。
真澄とひよりは一見、あまり関わりがないように見えるが、同じ時期にオレのクラスに移動してきたこともあって意外と仲がいい。今日も、本来ならひよりと二人で読書予定だったが、ひよりが気を使って真澄に声をかけた形だ。
「よう……」
真澄もこう見えて意外と恋愛小説にハマっている――と、考えながら廊下を歩いていると、2年Dクラスの生徒である石崎が何やら遠慮がちにこちらへ声をかけてきた。
原作では混合合宿や龍園退学阻止などを経由して仲良くなるが、当然ながらこの世界でのオレと石崎の関係は、去年の二学期の終業式の日にボコボコにした程度の仲だ。真澄が「仲いいの?」と聞いてきたので、オレも「いや」と返している。
実際、ちゃんと話をするのは、それこそ須藤の冤罪事件以来だろう。向こうもそれをわかっているからか、少しばつが悪そうにしている。だが、こちらに用があるようで、このまま挨拶だけして終わりとはいかなそうだった。
怪訝そうな顔をする真澄はともかくとして、ひよりは相手が元クラスメイトということで少し居心地が悪いのではないか――と、思ったが、特にそんなことは感じていないようで、「お久しぶりです、石崎くん」と、普通に挨拶を返していた。
「おう、椎名。元気してるか?」
「はい、石崎くんもお元気そうで何よりです」
元クラスメイトということで、裏切り者扱いされるかと思いきや、まるで何でもないような会話をしているのを聞いて、真澄が不思議そうな顔をしている。
「ちょっと聞きたいんだけど……あんたらって、前から仲いいの?」
「ん? いや、特に話はしてなかったと思うぞ」
「そうですね。たまに会った時に会話する程度の間柄だったと思います」
「それで、この気安さ!? もうちょっとこうさ、思う所とかない訳!?」
まぁ、Aクラスの質の悪いやつらなら、まず間違いなく裏切り者だと騒ぎ立てる場面だ。そういう意味だと、気にした様子もなく普通に挨拶しているこの二人は変なのかもしれない。
「って言われてもな。椎名は別に不正した訳でもないし、クラスを移動したのもうちのクラスが合わなかったってだけだろ? どうやって2000万も貯めたのかは気になるけど、恨むとかダセーことは思ってねぇよ。椎名だって、間違ったことしてないからこうして普通にしてるんだろ?」
「そうですね。ルールに違反した行為はしていません。龍園くんのクラスよりも、清隆くんのクラスの方が馴染みやすかった。ただそれだけです」
「俺もあまり女子のことには詳しくねーけどさ。そういうのはしょうがないもんだろ。椎名が今元気だっつってんなら、それでいいんじゃねぇの?」
石崎は不良ながらも、意外と仲間思いな一面があるらしい。思えば、原作でもそうだったっけか?
しかし、騒がしいのを嫌う一面のあるひよりが、石崎の存在を毛嫌いしていないのはこういう所があるからなのかもしれない。
「で、何か用か、石崎?」
真澄が、もしAクラスにもこういう馬鹿がいたら自分はクラス移動しなかったのかも――みたいなことを考え始めそうだったので、敢えてこちらから声をかけて意識を呼び戻した。
今、お前を満足させているのはオレだ。
真澄もすぐにそれを理解したようで、スッと体を近くに寄せてくる。クラス移動して、ようやく求めていた幸せを手に入れたのだ。もしもなんて関係ないと言わんばかりに、現在側にいるオレの温もりを求めていた。
「おお、悪い悪い。お前の連絡先がわからないから直接来たぜ」
「で、要件は?」
「ちょっとツラ貸してくれよ、そんなに時間は取らせねーからさ」
「なんだ? カツアゲでもする気か?」
「何だそれ、お前にカツアゲできるやつなんてこの学校にいんのかよ?」
何だかんだ、石崎は去年にオレの実力を見ている。冗談を冗談で返してきたというよりも、純粋な感想を口にしたという感じだ。
「何なら、お前らも一緒でいいぜ。デートの時間を減らすのは気が引けるけど、俺らもマジだからさ」
石崎がひよりや真澄にも声をかけたのと同時に、何やら背後に気配を感じる。振り返ると、そこには大きな壁――ではなく、石崎と同じクラスの山田アルベルトが立っていた。
「Hey」
「お久しぶりです、山田くん」
ひよりがアルベルトにも挨拶をする。アルベルトも片手を上げて気さくに挨拶を返していた。
しかし、距離が近い。少し離れようとすると、後ろからアルベルトに肩をガッチリと抑えられる。逃がすつもりはないと言いたげだ。
「ここじゃ何だからよ。適当な場所に移動しようぜ」
「適当な場所ってどこよ?」
「そうだな。どこがいい?」
「そうですねぇ……では、石崎くんのお部屋はどうでしょうか?」
「えっ!? お、俺の部屋はちょっと……女子を呼べるほど綺麗じゃねーし」
真澄が嫌そうな表情を浮かべたのを見て、石崎も乗っかるように首を横に振る。実際、年頃の男子――それも石崎の部屋だ。あまり綺麗でないことは間違いないだろう。
「……適当な喫茶店でいいんじゃないか?」
代案としてオレがそう声を上げると、石崎が「そうだ、そうしようぜ!」と全力で頷きを見せていた。
真澄としても、知らない男子の部屋よりもその方がいいようで、「まぁ、それが無難ね」と頷いている。
ひよりとの図書館デートは中止になってしまったが、代わりに本屋巡りに予定を変更したので問題はないだろう。
と、いうことで、オレ、ひより、真澄、石崎、アルベルトという異色のメンバーで、ケヤキモールの喫茶店に向かっていく。丁度良く、いつも集団で使用している席が空いていたのでそこに腰かけると、早速と言わんばかりに石崎が口を開いた。
「ズバリ、これは俺の提案なんだけどよ。次の特別試験でグループを組まないかって話だ」
まぁ、こうしてわざわざ声をかけてきたことから見ても、要件はそれしかないとは薄々思っていたが、原作ほど仲良くなくてもこうして声をかけられるとは思わなかったので少し驚いている。
「組む……というのは? 具体的に聞かせてくれ」
「具体的にも何も、そのままだろ」
「いや、全然そのままじゃない。オレが誰と組むのかが全く見えてこない」
仮にこの場のメンバーでグループを組むにしても、男女比の問題でオレと石崎が組むとしたら、オレ、石崎、アルベルトの男子グループしか作れないしな。
「別に今は誰とでもいいんじゃね? 俺でもアルベルトでもいいし、女子が良いなら伊吹とか真鍋とかさ。とにかく、俺たちのクラスの中の誰かと組んでくれってことだよ」
「つまり、Dクラス2人の中にオレが入ると?」
「おう。んで、試験が始まったら、残りのDクラス3人とグループ組んで6人にすれば完璧だな。Dクラス5人と綾小路で1位を狙おうぜ」
あまりにも自分本位であり、全く試験のルールを理解していないであろう石崎の発言を聞いて、真澄が「はぁ……」とため息をついている。
ひよりは相変わらずの笑みを浮かべているが、オレがこの提案を受け入れる可能性がゼロだとわかりきっているようで、特に何かを言うつもりはないらしい。
「おっと、抜け駆けはよくないぜ、石崎」
しかし、オレが石崎に質問を返そうと口を開いた瞬間、6人席の残りの席に寄りかかるようにしてAクラスの橋本が話に割り込んできた。
「ゲッ、橋本……お前、どこから聞いてたんだよ」
「お前が綾小路と6人グループを作るって言ってた辺りからだ。悪いが、俺も綾小路には目を付けていてね。そう簡単に譲るつもりはないぜ」
と、言いながら、向かいに座る真澄に気付いた橋本が「久しぶり、神室ちゃん」と声をかけている。
橋本も、特に真澄を裏切り者扱いするつもりはないようだが、その気安さが癪に障るのか、真澄も「ちゃん付けは止めて。キモい」と、なかなか辛辣な言葉を返していた。
「おら、キモいってよ。お前、もうどっか行けよ」
「そうはいかないね。この試験で上位を狙うなら、能力の高い生徒と組むのは常道だ。まだ姫さんからの指示があった訳じゃないが、俺は個人的に綾小路は放置できないと考えてる」
どうやら橋本がここにきたのは坂柳の指示ではなく自分の判断らしい。徐々に、橋本も坂柳に見切りをつけ始めているのかもしれないな。
「それに、お前の条件じゃ綾小路にメリットがなさすぎる。綾小路以外をDクラスのメンバーで囲っても、綾小路には一ミリも得がないだろ」
「んなもん、俺たちがAクラスに上がったら綾小路を2000万で迎え入れてやればいいだけの話じゃねーか」
「ポイント差を考えろよ。AクラスとDクラスは600以上のCP差があるんだぞ? 仮に何か上手く行って今回の試験で1位から3位の報酬を全取りしたって、お前らはAクラスには上がれない。つまり、その提案はただの妄言でしかないんだよ」
実際、橋本の言う通り、石崎の提案には具体的なメリットが一つもない。そもそも、大グループを作るのにも条件があるし、全体的に見通しが甘すぎる。
「なぁ石崎。今回のその提案、龍園を通してないんじゃないか? 俺にはどうも、龍園がそんな提案をするとは思えないんだけどな」
「ぐっ……確かに、今回の誘いは俺の独断だ。龍園さんは何も言ってねぇ。けど、ルール上は他クラスと組むことに問題はないはずだろ。俺が綾小路を必要だと判断して誘うのにおかしな所はないはずだぜ」
「へぇ、随分と綾小路を買ってるんだな」
「当たり前だろ。こいつは龍園さんと同じくらい凄い……運動能力は言うまでもなく、頭の回転の速さみたいなもんも龍園さんのお墨付き。おまけに、前回の特別試験じゃ全教科で満点を取るなんてとんでもないことをしたんだ。綾小路を制する者は特別試験を制す。誘わない方が馬鹿だ」
どこかのバスケ漫画の名言を応用したような言い回しだが、石崎はオレが龍園たちと殴り合いをして勝ったことについては言及しなかった。
こいつなりに、オレの情報を伏せようとしたのか、オレがそれを広められるのを望んでいないとわかっているのか――どちらにしろ、気を使ってくれたのは確かだろう。
「確かにな。俺もほぼ同意見だ。こいつは姫さんを倒せるだけのポテンシャルがある。だからこそ、みすみす他クラスに取られる訳にはいかねーんだわ」
橋本も引く気はないようで、バチバチに睨みあっている。とはいえ、男子にモテても特に嬉しくないし、後の予定が詰まっているのでそろそろ話を終わらせたい所だった。
「今回の特別試験の肝は、2年生の保有するCPを取られないようにすることです。当然ながら、総合順位で上位を狙う必要がある……そのために必要なのは綾小路くんだというのがお二人の意見であることはわかりました」
オレがサクッと提案を蹴ろうとすると、今の今まで黙って話を聞いていたひよりがそう口を開いた。続けて、呆れた顔をしている真澄も言葉を発していく。
「まぁ、話にならないけどね。仮に私がこいつでも、あんたらとはまず組まない。組むだけのメリットがなさすぎるのよ」
「おお、厳しすぎるお言葉……」
「なんでだよ! 2000万PPじゃ足りないってのか?」
「金額云々の話じゃないのよ。あんたたち、結局どっちも自分のことばっかでこいつの事情を何も考えてないじゃない。それに、クラスのリーダーの許可も取ってないって言うし、そんなやつとグループなんて組もうなんて普通は考えないでしょ」
「それに綾小路くんにはDクラスの誰と組んでもいいと石崎くんは言いましたが、それも問題です。無人島サバイバルは個人戦ではありませんし、本当に上位を狙うなら強力なメンバーと組まないと勝率も低くなってしまいます」
女子二人の的確な指摘に、橋本はお手上げとばかりに両手を上げ、石崎は汗をかくかのように慌てている。
「そ、それじゃ誰ならいいんだよ」
「そうですね……もし私がDクラスとグループを組ませるのであれば、龍園くん、金田くん、綾小路くんの3名ですかね。金田くんの所は山田くんでも構いませんが、やはり勝つのであれば龍園くんは欠かせない存在だと思います」
「Aクラスで組むなら、鬼頭や葛城辺りじゃない? 坂柳自身と組むのも有りだけど、少なくともあんたは論外。いつ裏切られるかわかったもんじゃないしね」
的確なチョイスだ。元同じクラスの二人だからこそ言える反論の隙も無い指摘――だが、それで納得するほど、男子二人も諦めが良くなかった。
「む、無茶言うなよ! 俺の作戦なんかに龍園さんが賛同してくれるわけねぇだろ!」
「姫さんもそうだな。俺が進言しても聞き入れてくれなかったし、だからこうして隠れて誘いをかけに来たんだぜ?」
「どちらにしろ、今日の所は石崎くんや橋本くんの想いを伝える場に出来た――と、いうことで満足しておくべきだと思います」
「それに、明日になればまた状況は変わるでしょ。今日、すぐに答えを出すのは下策も下策だと思うけど?」
明日の朝に配布されるカード次第で戦略もまた変わってくる。そういう意味だと、二人の言う通り、今回は組む意思を見せるだけで満足しておくべきだろう。
アルベルトも、ここが引き時だと判断したようで、優しく石崎の肩を叩いている。渋々と言う様子で石崎が矛を下げると、橋本もそれに続くように「わかったよ」と言葉を発した。
「確かに、クラスの戦略なんかもある。今回は、俺の気持ちを伝えるだけにしておくよ」
「……そうだな。そういうことなら仕方ねぇよな」
しかし、石崎はそれでも諦めきれないのか、「これ、俺の連絡先! 気が変わったらいつでも連絡しろよな!」と、強引にこちらに連絡先を押し付けて去っていった。アルベルトもこちらに小さく頭を下げて、去っていった石崎の後を追っていく。
橋本も「んじゃ、またな」と言って、この場から離れていった。これでようやく邪魔がなくなり、真澄が「無駄な時間だったわ」と文句を言いながら立ち上がる。
ひよりも、「では、本屋さんに行きましょうか」と嬉しそうにオレと腕を組んできた。それを見て、真澄も反対側の腕を取っていく。美少女二人にくっつかれるのは嬉しいが、外だと目立つ――結局、本屋についてひよりが離れるまで、サンドイッチ状態で周囲の視線を集めてしまった。
とはいえ、勿論それに見合った報酬は頂く――ということで、この日の夜は真澄とひよりの二人を後ろから押し潰してプレスTレックスサンドの刑に処している。トロトロのソースに包まれたTレックスが絶品。と、いうことで、日が昇るまで二人の張りのある体を美味しく貪らせて貰った。
その後、朝になり、二人が部屋に戻ってからしばらくして、学校から送られてきたカードが原作通りに『試練』だったせいで、対処について頭を抱えることになる――のだが、とりあえず今は目の前の食事を楽しもうということで、乱れるひよりと真澄の心地よい声を聞きながらTレックスをプレスしていった。
原作との変化点。
・高円寺と無人島試験で取引をした。
高円寺も、清隆が自分を立ててくれようとしてくれているのを理解しているため揉め事にはなっていない。もし、ここで清隆が自分本位に自身を利用する素振りを見せた場合は敵対ルートも有り得た。
・ひより、真澄とデート。
グループ作りもまだ本格化していないから余裕がある。しかし、石崎や橋本に邪魔された。
・石崎&橋本から勧誘を受けた。
石崎とは原作と違って仲良くないが、能力が高いということで一目置かれている。石崎もダメ元で会いに来たが、清隆が意外と話しやすい性格をしており、ここから原作通りに仲良くしようと考える。橋本は気が付いたらいた。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
高円寺説得後、石崎&橋本から勧誘を受けたが、原作通り一人で参加する気でいる。プレスTレックスサンドは絶品だった。
・神室真澄
原作から乖離しているキャラその1。早々に坂柳クラスに見切りをつけたため、橋本ともそこまで仲良くない。
・椎名ひより
原作から乖離しているキャラその2。早々に龍園クラスに見切りをつけたが、石崎とは挨拶程度はする仲。
・橋本正義
清隆に気付くのが原作よりも遅かったことも有り、2年になってからは割と露骨にアプローチをかけてきている。
・石崎大地
今回の特別試験で勝つにはどうしたらいいかを無い頭で考えて、綾小路と組むことを思いついた。今回の無人島試験は同学年が味方という側面があるからこその発想。
・山田アルベルト
去年石崎と一緒に清隆にボコられ、清隆の真の実力を知る数少ない一人。なので、石崎の考えに納得して同行している。
・高円寺六助
清隆が素直に自分の目的を打ち明けたことで、今回の試験は協力することに決めている。もし、原作のように裏でコソコソしていた場合、上記のように敵対ルートもあった。地味に地雷が多いから油断すると死ぬ。