ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯018 『俺が最初に好きだったのに』

 学校からのメールが送られ、『試練』のカードが与えられた。原作通りではあるが、すっかり存在を忘れていたのもあって、これをどうするかを考えなくてはならない。

 個人的な望みで言えば、同じ特殊カードでも使い勝手のいい『増員』の方が欲しかった。

 あっちはルール無視でグループの一員になれるという効果なので立ち回りがしやすい――のだが、他の特殊カードは思った通り、『増員』は帆波クラスの網倉に、『無効』は坂柳クラスの矢野の手に渡っていた。

 

 オレの手に『試練』が来た以上、他の特殊カードの配置も変わっていないと思ったが、やはり網倉に『増員』が渡ったのは大きな利点と言って良い。

 原作通りに帆波と坂柳が組むならともかく、今の所帆波はオレが利用する予定なので、もしかしたら『増員』を『試練』とトレード出来る可能性だってあった。

 

 オレと恵が付き合っていたのなら、彼女を救済するために龍園へ『試練』のカードを売りつけることもあったかもしれないが、これを効果的に使えばこの試験で帆波のクラスのCPを大幅に上げることが出来る。

 帆波クラスに貸してあるPPを回収する意味でも、あのクラスのCPが上がるのは望む所だった。そういう意味でも、帆波クラスと『試練』をトレードして、雪や鈴音辺りと組ませて上位を狙わせるのが一番いい。

 

 もしかしたら、坂柳辺りが帆波に手を組もうと誘ってくるかもしれないが、先月の件もあって断る材料には不足していなかった。

 

 まぁ、仮に何もなくても帆波がオレの許可なしに勝手な行動を取ることはないのだが――と、考えていると、寮のロビーを抜けた先で何やら池と篠原が喧嘩をしているのを発見する。

 去年の冬に見事ゴールインして交際を始めた池と篠原だが、夜の相性に多少の問題を抱えつつもそれなりに仲良くしていることが多かった。のだが、今日は珍しく揉めているらしい。

 

「……何があった?」

 

 喧嘩をする二人から少し離れた所で困ったような表情を浮かべる桔梗に声をかけると、良かったと言わんばかりに安心した表情を向けられた。信頼されているのは嬉しいが、流石のオレも事情も分からずこの状況をどうにか出来る自信はないぞ。

 

「えっとね、2年Cクラスの小橋さんから、池くんをグループに誘いたいって声があって。一応無視する訳にもいかないし、丁度篠原さんも一緒だったから、どうするか確認したんだけど――」

「池がお調子に乗って篠原を怒らせた、と」

「うん。まぁ、女子側からすると、彼女のいる男子の反応ではなかったかな」

 

 今回の試験はグループを組む場合、男子と女子の比率で女子が多い必要がある。珍しく女子に頼られて調子に乗った池が、二つ返事で篠原と小橋でグループを作ろうとしたのは想像に容易い。「ハーレムだぜぇ!」とでも言って怒らせたのだろう。

 

「池と篠原はグループを組もうとしていたのか?」

「そう話してたみたいだね。でも、池くんが勝手に小橋さんを迎え入れようとしてああなっちゃったって感じ」

「篠原からすると、自分に許可もなく小橋をグループに入れようとした訳だからな。怒っても無理はないか」

「池くんも池くんで、変にプライドがあるから、『俺がせっかくグループ組んでやろうとしてるのに何で文句言うんだ』って亭主関白丸出しになっちゃってるんだよね」

「池のサバイバル技術が優れているのは前回の無人島試験でも有名だからな。小橋が声をかけてきたのもその技術を買ってのことだろうし、今まで足を引っ張る側だった池が活躍できる数少ない試験ということで調子に乗る気持ちもわからなくない」

「つまり?」

「なるようになるとしか言いようがないな。少なくとも、オレもお前と同じでこの罵詈雑言の嵐の中に飛び込む勇気はない」

 

 ついさっきまでは救世主を見るようだった桔梗の目が、役立たずを見る視線に変わる。とはいえ、そんなジト目を向けられても無理なものは無理だった。

 

 そんなこんなで、池と篠原の言い合いが落ち着くのを待とうとすると――

 

「あー、そうかい! だったら好きにすりゃいいじゃんか! 行こうぜ、桔梗ちゃん!」

「えっ! でも、篠原さん放っておいていいの?」

「いいんだよ、あんなやつ」

「篠原さん!」

「ああ、いいから連れてっちゃって。もう、顔も見たくないから」

 

 売り言葉に買い言葉という感じで、「こっちのセリフだぜ」と言いながら、池が桔梗を連れて走り去っていく。

 

 騒ぎの片方がいなくなりこの場に残されたオレと篠原だが、一応一晩とはいえ夜を共にしたことがある仲ではあるので、少し気にしてやった方がいいだろう。

 

「いいのか。本当に行かせて?」

「いいのよ。前々から、あいつとはちょっと合わないって思ってたのも本音だし」

「……それは夜のアレか?」

「綾小路くんって意外とえっちだよね。まぁ、そうなんだけど」

 

 まさかの池と篠原の不仲の原因がTレックスとは――笑い話なのだろうが、当人としては笑えない事実だった。

 

 とはいえ、このまま放置するのは問題だろう。桔梗も目線で後は頼んだと言っていたし、何とか篠原の池に対する印象を回復してやる必要がある。

 

「篠原。池は調子に乗りやすいが、根は悪い奴じゃない。お前もわかってるはずだ」

「それでも言って良いことと悪いことがあるでしょ。確かに私は優等生じゃないし、今回の試験で下手したら退学するかもしれないけど、上から目線で『俺がお前を助けてやろうとしてんのに』なんて言われて喜べるはずないじゃない」

 

 それはそうだ。池が悪い。

 

「そうだな。でも、本当に別れるつもりはないんだろう?」

「どうかな。今度という今度は本当に駄目かも。そうなったら、綾小路くんに泣きついてもいい?」

「恵や千秋たちも一緒になる可能性が高いぞ」

「……本当、綾小路くんって大人気で、彼氏にするには難易度高すぎるよね」

 

 それでも嫌と言わない辺り、篠原もTレックスのことを忘れられていないのだろう。まぁ、本当に駄目だった時は、オレなりの方法で慰めてやるか。

 

「篠原」

 

 そんなこんなで、とても通学路でするようなことじゃない話をしていると、後ろから篠原を呼ぶ声が聞こえたので振り返る。近づいてきたのは龍園クラスの小宮だった。

 

「あ、小宮くん……おはよ」

「おはよう。どうした、元気がないように見えるが?」

 

 そう言いながらジロリと小宮がオレを睨んでくる。どうやら、オレが篠原を泣かせた犯人だと思っているらしい。鳴かせたことはあっても、泣かせたことはないので首を横に振る。

 

「ち、違うの。ちょっと嫌なことがあって……綾小路くんは話を聞いてくれてただけ」

「そうか……ならいい」

 

 まるで篠原を守る騎士だな。この世界では池と篠原が付き合ったことで、小宮が入り込む隙はないと思っていたのだが、やはり色恋は人を狂わせるものなのかもしれない。

 

「篠原と小宮は仲がいいのか? こう言っては何だが、あまり接点があるようには見えないんだが……」

「私がバレー部だから。バスケ部の小宮くんとはちょくちょく話す機会があるんだよね」

「ん? 俺の記憶が間違ってなければ、篠原は料理部じゃなかったか?」

「OAAが導入されてから、少しでも成績を上げたいと思って。身体能力を上げるためにバレー部に移籍したんだ」

 

 成程、バレー部もバスケ部も室内スポーツ故に体育館を使う。狭い空間で話し合うこともあるということか。

 

「そういえば、小宮くん。須藤くんから聞いたよ。レギュラー取れそうなんだって?」

「ああ、やっとだけどな」

「いっつも遅くまで練習してたもんね、報われなきゃ嘘だよ」

 

 去年の今頃までは須藤に絡んであまり練習をしていないイメージだったが、この一年で小宮も成長したらしい。篠原に褒められて満更でもなさそうな顔をしている。

 

「ちなみに綾小路は、何で篠原と?」

「たまたま寮を出るのが一緒だったってだけだ」

「それだけか? 結構、親密に見えたが?」

「クラスメイトだからな。一年一緒のクラスに居れば、それなりに話す程度の仲にはなる」

 

 どうも、小宮はオレを、篠原を狙うライバルだと思っているようだが、既に篠原には池という彼氏がいることを知らないのだろうか?

 

 いや、一夜を共にしたという意味では、その警戒心も決して間違ってはいないのだが――

 

「綾小路くんは結構モテるからね」

「別にモテないが、ついさっき篠原には彼氏にするには難易度が高すぎると振られたばかりだ」

「だって本当のことじゃん」

 

 と、篠原が悪ノリすると、冗談でも次の彼氏を探そうとする言葉を聞いて、小宮が少し驚いたような顔を見せる。

 

「彼氏にするには? 篠原……その、池とは別れたのか?」

「あー……ちょっと揉めたの。で、綾小路くんに話を聞いて貰って……」

 

 言葉を濁しているが、篠原の態度から揉め事がかなりの大きさだというのはわかったのだろう。

 篠原にしてみれば嫌な出来事ではあるが、小宮は今をチャンスだと判断したのか、この機を逃さないと言わんばかりに、オレが居ても関係なしに篠原との距離を物理的に詰めていく。

 

「篠原……いや、さつき。昨日、俺がお前にグループを組まないかとメールしたの、覚えてるよな?」

「えっ? あっ、うん……」

「昨日は、クラスの方針や池のこともあるから組めないって断られたけど、もし池と組まないのなら、改めて俺と一緒にグループを組んで欲しい」

 

 そういえば、原作でも小宮は篠原をグループに誘っていたっけか。この世界では篠原は池と付き合っているから、漠然と小宮とは組まないと考えていたが、何だかんだで篠原と小宮は一緒にグループを組む運命なのかもしれない。

 

 とりあえず、まるで告白されたかのように顔を赤くしている篠原を見ながら、ここは空気になった方が良いと判断し、気配を消して二人から少し離れる。

 

 もし、池がこの場を見ていたら発狂しそうだな――と、思いながら、悪くない反応を返す篠原を見て、NTRやBSSとはこういうものかもと一つ学習できたような気がした(まぁ、NTRという意味ではもう、篠原はオレが食べてしまっているんだが)。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 篠原と小宮のちょっとしたラブコメを見せつけられながら教室に入ると、クラスは既に今朝配られたカードの話題で持ちきりになっていた。

 

 生徒会の仕事で先に寮を出ていた雪や鈴音も既に教室に来ていたようで、オレが席に着くと「清隆も災難だね」、「試練のカードを引き当てるなんて、再注目されてるはずよ」と、こちらを気遣うような言葉をかけてくる

 

「朝、同じことで苦悩したばかりだ」

 

 ちなみに鈴音は原作と同じく『半減』が、雪は『先行』のカードが配布されていた。鈴音の『半減』はペナルティを受けるならともかく上位を目指す場合だと使えないが、雪の『先行』は試験開始時のポイントが増える汎用性の高いカードだ。

 

「クラス内で自由にトレードできるならよかったのだけれど、試練のカードは勝てる自信のない相手は絶対に受け取らないでしょうし、勝てる自信のある相手には渡せないというネックがあるわよね」

「でも、使い方によってはかなりメリットがあるよ。どうするつもり?」

「帆波辺りに売りつけるつもりだ。で、お前たちと組ませて上位を狙わせる」

「Cクラスと組むと言うこと?」

「どこかのクラスとは組む必要があるのはお前たちもわかっているだろう。だが、差を詰めるべきAクラスと組むのはメリットが薄すぎる。理想は、Bクラス、Cクラス、Dクラスで同盟を結ぶことだが、クラスの関係性を考えても現実的じゃない」

「と、すると、帆波ちゃんか龍園くんのクラスのどちらかと組むのが理想……けど、龍園くんは裏で何を仕掛けてくるかわからないから、帆波ちゃんと組んだ方が良いってことか」

 

 他にも、CクラスのCPを増やす狙いもあるが、それについては詳しく話す必要はない。

 

「女子ならグループが組めないってことはまずないからな。雪と鈴音、帆波が組めば上位を狙うのはそこまで難しくないはずだ。出来れば1位を取ってほしい」

「待って。一之瀬さんに『試練』を渡せば、Cクラスに差を埋められるわ。私たちにメリットがない」

「ただで渡す訳ないだろう。こちらも『増員』を受け取るつもりでいる。それに、これは投資だ。いずれPPを搾り取るためにも、Cクラスにはある程度のCPを獲得して貰った方がいいんだよ」

 

 今現在、帆波を通じてCクラスは借金返済のために入手PPの75%をオレに渡す契約をしている。そういう意味でも、CPを増やした方が借金返済は早くなり、オレの懐も温かくなる訳だ。

 

「あなたも龍園くんと同じでCPよりPPを重視する考えなの?」

「どちらも必要ってだけだ。それに最終的にオレたちがAクラスになれば、他のクラスが何ポイント持っていようが関係ないだろう。今の時点での変動なんてたいした価値はない」

 

 勿論、このままうちのクラスで『試練』のカードを使って上位入りし、CPを増やしてAクラス入り――という選択肢もない訳ではなかった。

 

 しかし、ただでさえ1年生だ、月城だと周囲がうるさい中、2年生全体を敵に回すのはいろいろと面倒が多い。

 まぁ、月城はこの無人島試験で退任するだろうし、それに連動して夏が終われば1年生も大人しくなるかもしれないが、代わりに停学明けの南雲が動き出し八神も抑えがなくなって本格的に動いてくる。

 

 帆波クラスだって、今は落ち着いているがCPに差をつけたままうちがAクラスになれば、同盟を破棄してうちのクラスを狙おうという声が出て来てもおかしくなかった。いくら帆波でもそれらの反発を全て押さえこむのは無理だろう。

 

 そこに、龍園や坂柳が合わされば――やはり、ここでAクラスを目指すのは無しだな。まだ攻略していない女子も多いし、ここで全方位を敵に回しても百害あって一利なしだ。

 

 それに前にも言ったが、将来的に帆波クラスにはうちと同じくらいのCPを稼がせたいと考えている。

 うちとのCP差がそこまで大きくなくなれば、仮にオレたちがAクラスになっても、「頑張って追いつこう!」という雰囲気を維持できるし、2年全体を敵にするリスクも少なくなるはずだしな。

 

「それで、私と鈴音ちゃんが帆波ちゃんと組むのはいいけど、清隆はどうするの?」

「オレは一人で参加するつもりだ。雪も鈴音も何となく知っていると思うが、これでも狙われている身なんでな」

 

 オレの首に2000万の賞金がかけられているのは、雪を通じて既に鈴音も知っているはずだ。前回の試験で、宝泉もそれとなく漏らしていたしな。

 

「えっ、それマジ?」

 

 と、ここで教室にやってきてから気配を消して話を盗み聞きしていた千秋が声を漏らした。

 まぁ、盗み聞きも何も、千秋の席はオレの真後ろだから何もしなくても話は聞こえるんだけどな。

 

「なんだ、静かにしているから話に入る気はないかと思ったぞ」

「いや、最初はスルーするつもりだったけど、流石に聞き逃せないよ。私も清隆くんと組むつもりだったし、それに狙われてるってなに?」

「ちょっと家庭の事情でね。清隆ってばお父さんに退学させられそうになってるんだよね」

 

 と、いうことで、改めてこの場にいる3人にも、今のオレの現状について軽く説明していく。

 

 父親がオレの退学を目論んでいること(本当は目論んでいない)。そのために月城理事代理が派遣されたこと。表向きはオレを退学にさせないといけないから優秀な1年生を選出してオレを退学させるために動かしていること。

 

 ホワイトルームのことには触れずに、オレが退学の危機であることだけを上手く伝える。話を聞き終えた鈴音は有り得ないと言わんばかりの表情で頭を抱えていた。

 

「……正直、未だに信じられないわ。自分の息子を退学させるために、2000万もの賞金首に仕立て上げるなんて」

「ってか、何で静かにしているの? 私たちで大騒ぎすればこんな試験潰せると思うけど」

「下手に潰されても困るんだ。1年生が相手ならまだ何とでもなるが、これで下手に南雲を動かされたり、それこそその道のプロを呼ばれたりすると面倒なことになる」

 

 まぁ、南雲はともかく、その道のプロが来るなんてことはまずないんだが、それでも親父殿へのアピールとして騙されているフリをしないといけない。

 

「結局、清隆としても、月城理事長代理がいなくなるまでは今の状況をキープするのが一番安全なんだよね」

「とはいえ、月城もそろそろ任期の終わりが近い。月城自身にその気がなくても、上からの命令で大きく動くことはあり得る。だからこそ、今回は一人で動くんだ。お前たちを巻き込みたくないし、万が一の時は足手纏いになりかねない」

 

 あまり酷いことは言いたくないが、ハッキリと足手纏いになることを伝えないと、彼女たちも善意でオレを助けようと動くかもしれない。

 正直、オレ一人では何とでもなる状況でも、下手に人質を取られたら面倒なことになる。鈴音も千秋も馬鹿ではないので、オレが敢えて強い言葉を使った意味も理解できているはずだ。

 

「そうね。どの道、上位を狙いながらあなたを助けるのは難しいわ。私は指示通り、今回の試験で上位を取る。それでいいのよね?」

「ああ」

「うーん……まだちょっと納得はできないけど、清隆くんがそこまで念押しするってことはそういうことだもんね。今回は諦めて、また裏方に回っておく」

「いや、千秋はもしかしたら雪たちに合流させるかもしれない。もし、『増員』のカードが手に入った場合、6人グループ解禁までは雪に『増員』を渡して1人グループに、帆波、鈴音、千秋の3人グループを組んだ方が効率がいい」

「あっ、出番ある感じ? だとしたら頑張んないとかな」

「おそらく、『増員』はほぼ確実に手に入る。お前も、もう能力を隠さず全開で動いてくれ」

「りょーかい。ここで全力出すよー!」

 

 と、千秋が気合を入れていると、窓側の席から「はぁ!? なんだよそれ、俺と組むんじゃないのかよ!!」という、池の大声が聞こえてきた。

 

 いきなりの騒ぎに、クラス中の視線が池とその話し相手である篠原に集中する。

 

 どうやら、今朝の件がまだ尾を引いているらしい。まぁ、全面的に池が悪いので仕方ないが、篠原も小宮に誘われていたし、このままだと原作通りの流れになりそうな感じだな。

 

「組もうとは言ってたけど、組むとは言ってなかったでしょ。あんたが鼻の下伸ばして他の女との逢瀬を楽しんでる間に、組んで欲しいってお願いされたのよ」

「た、楽しんでなんかねーよ! その証拠に、お前のために断ってやったんだぜ!」

「断ってやった? ずっと前から思ったけど、その上から目線止めてくれる? 私はあんたの子分でもなんでもないんだからね」

「別に俺はそんなこと……つか、クラスの許可なくグループを組むのは禁止されてるはずだろ!」

「禁止も何も、まだ正式には確定させてないし。ま、今日確定するつもりだけど」

「なっ……だ、誰と組むつもりなんだよ」

「別に関係ないでしょ?」

「あるよ! 俺はお前の彼氏だぞ! 彼女が変なやつに捕まりそうになって黙ってる男がいるかよ!」

「そうね。私はそんなあんたの彼女なのに、彼氏が他の女の尻を追っかけていくのを見させられた訳だけど、それについて何か反論はある?」

 

 まさに、ぐうの音も出ないとはこのことのようで、池も何も言えなくなる。先に信頼を裏切ったのが池である以上、篠原を罵倒する資格など無い。まぁ、そういう意味だと、本当に先に裏切ったのは、オレに食べられた篠原の方なのだが――

 

「後ね。組むのはDクラスの小宮くんよ。別に変な奴でもなんでもないし、あんたよりずっと真剣に私のこと考えてくれてたんだから」

「は? 小宮? 小宮ってあのバスケ部のチャラい奴かよ。マジありえねー」

「別にチャラくないし。少なくとも、彼女を放置して他の女の所に行く男よりはマシでしょ。あんたも小橋さんとでも組めばいいじゃない。別に付き合ってるからって絶対組まなきゃいけないルールなんてないんだから」

 

 そう言って、もう話たくないと篠原が前を向いて顔を背ける。池の席は篠原の後ろな以上、前を向かれてしまってはもう顔も見ることも出来なかった。

 

「あー……あれはかなりやばいね。破局手前って感じ」

「ついこの間まで熱々カップルだったのにねー」

 

 同じ女として、篠原が本気で怒っているというのがわかるのか、いつの間にか登校していたオレの隣の席である恵があちゃーという仕草を見せる。

 また、恵の後ろの席である佐藤も、池と篠原の喧嘩を見て、何とも言えない顔をしていた。千秋も、恵や佐藤と同意見なのか、「あのままじゃ別れるのも時間の問題ね」と頷いている。

 

 ちなみに雪は基本、オレ以外はどうでもいいという感じなので無反応。鈴音に至っては、他人の色恋なんて関与すべきではないと何も聞いていないフリをしていた。

 

 クラスとしても、池と篠原の喧嘩はそう珍しいことではない――と、多少の噂話にはなれど、特に大きな騒ぎになるようなことはなかった。

 しかし、桔梗や洋介のリーダー格は、これをまずいことだと判断したらしい。喧嘩する二人の様子を見て、少し慌てたように雪や鈴音のいるオレの傍までやってきた。

 

「ちょっといいかな。池くんたちのことなんだけど……」

「あれは放置するとまずいよ。最悪、本当に別れちゃうかも」

 

 オレたちの席は廊下側ということで、窓際の席である池や篠原とは少し離れている。そのため、少し声を潜めれば内緒話をするのは難しくなかった。

 

 恵や千秋、佐藤も、身を寄せ合うようにして近くに寄ってくる。しかし、慌てているメンバーとは正反対に、雪や鈴音の反応はかなり冷たいものだった。

 

「放っておけばいいじゃない」

「そうだよね。あまり他人が関与すべき問題じゃないと思うけど?」

「いやいや、あれ放置したら池くんがショックで寝込んじゃうよ。雪ちゃんや堀北さんだって、好きな子が自分じゃない相手に取られたら心中穏やかじゃ居られないでしょ?」

 

 桔梗にそう言われるも、二人ともピンと来ないのか、意外と反応が鈍い。雪は特に、それがオレの望むことなら受け入れるという考えなので気持ちが理解できないのだろう。

 

 もし、今の問題が起きたのが、去年まだ入学して間もない頃だったのなら、もしかしたら雪も桔梗側の意見を言っていたかもしれない――この一年で、雪は完全にオレにアジャストしてしまったからな。

 

「だとしても当人同士が解決すべきじゃないかしら」

「そうだよね。私たちも、特にあの二人と仲良しって訳じゃないし……」

「いや、池くんと篠原さんだけに任せるとまた揉め事になるだけだと思うんだ。言い方は良くなかったけど、池くんの知識や経験が凄いのは本当だし、クラスのためにも上手く二人の仲を修復してあげたい」

「そうだよね。最悪の場合、本当に別れちゃって、池くんが無人島試験で実力を発揮できなくなっちゃうかもしれないし」

 

 桔梗の言葉を聞いて、恵もまた同感とばかりにうんうん頷いていた。

 

「恋に振り回されて退学~とか?」

「恵ちゃん……それ、意外と冗談じゃ済まないかも」

 

 佐藤としては割と現実的に有り得そうだと思ったようで、恵のブラックジョークに苦笑いしている。

 

「まぁ、恵の冗談はともかく、篠原さんのことが気になって試験に集中できないとかはあるかもね」

 

 千秋の言う通り、このまま池と篠原が喧嘩したまま別グループになった場合、池が去年のようなパフォーマンスを発揮できるかはわからない。

 

 とはいえ、変にお節介を焼いても余計なお世話にしかならないだろう。下手に口を出しても池が見栄を張るのは目に見えているし、篠原もオレたちに何か言われても逆に頑なになりかねなかった。

 

「こうなったら、私たちでちょっと探りを入れてみるしかなさそうね」

「そうだね。私たちと話せば篠原さんも少しは落ち着くかもしれないし!」

「逆に絆されないといいんだけどね。麻耶は意外と人情に厚いから……」

 

 と、いうことで、とりあえず比較的仲の良い、恵、千秋、佐藤の三人で、篠原と話をすることになった。

 

 もうすぐ授業が始まるので、詳しいことは昼休み――と、いうことで、昼食の時間になると、恵たちが篠原を連れ出して上手く話を聞いてくれている。

 

 結果、千秋の懸念通り、佐藤が篠原に感化されて池の敵に回り、恵が苦笑いで何とか暴走しないように手綱を握っていた。しかし、何だかんだ恵や千秋も、篠原寄りの意見のようで、最悪の場合は池と別グループも止む無しという感じだ。

 

 それでも、今日の放課後にカフェで小宮と打ち合わせをするという情報を回収してきてくれており、洋介が様子を見に行くと言っている。

 ちなみに雪と鈴音は生徒会があり、恵、千秋、佐藤は、池のためにそこまでする気にはなれないということで、消去法でオレと桔梗が洋介と一緒に行くことになった。ぶっちゃけ、オレとしても池のためにそこまでする義理はない。桔梗がいなきゃ拒否ってたぞ、マジで。

 

 

 




 原作との変化点。

・池と篠原の喧嘩に遭遇した。
 池が悪いように見えて、篠原も大概だった。ちなみに、篠原がバレー部に移籍したのは独自設定。正確には、料理部だったりバレー部だったり記載があって、どっちかわからなかったからOAA導入で移籍したことにした。所属しているのは原作通り。

・小宮の勧誘。
 勧誘というかもはや告白に近い。この時期の篠原はヒロインしていたんだけどなーと、この時点の最新刊を読んでいて思った。

・無人島試験での戦い方について。
 基本的に清隆は原作通り一人。これについては、月城の動きが読めないのとまだ1年生が綾小路退学2000万チャレンジをしているため。なので、雪に増員を持たせ、鈴音、帆波、千秋で小グループを1つ、神崎、柴田、平田で小グループを1つ組ませて、最終的には7人が集まって大グループにし、2年B&C最強グループを作って勝つ予定。

・坂柳クラスと帆波クラスの亀裂。
 原作と違い、5月に起きた騒動で二クラスの中には若干の亀裂が入っている。また、帆波クラスは元々龍園クラスともお家断絶状態の為、原作以上にクラス間の関係が悪くグループが上手く作られていなかった。

・桔梗大忙し。
 地味に原作以上に忙しくしている。と、いうのも、上記のクラス関係のせいで、いろいろな所からグループを作る相談を受けており、緩衝材として動きまくっていた。本人も本当はクラスのことに集中したいが、この無人島試験は対他学年の色も強く、2年生同士は仲間でもあるので無視できない形。そうでなくても、まだみんなに優しい櫛田桔梗のガワを被っているため、お願いされたら無視することは出来なかった。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 無人島は一人行動予定。おそらく原作通りに前半は七瀬と行動を共にすることになる。つまり、7日目が勝負。おや、7日目は天候が悪くて試験が一時中止になる? 大雨で誰も動けない? ほう、それはそれは……

・椿雪
 増員を渡される予定。正直、増員持ってれば最初から4人グループにしていいのかがわからないので、大グループ作成の許可が出るまでは一人で行動させるつもり。

・堀北鈴音
 清隆の指示で1位を取りに行く。今にして思うと、うちの鈴音は原作と違って指示に従う動きが多いため、堀北鈴音としての能力はそう変わらなくても、リーダーとしての能力はかなり低い傾向にある。

・櫛田桔梗
 上記の通り、右へ左へ大忙し。けど忙しい=頼られてるで、自分の承認欲求を満たしているスゲー女。今回は忙しそうなので、メインからは外している。

・松下千秋
 前々から裏で活躍して貰っていたが、今回はその能力を見出されて抜擢されている。鈴音や帆波と同じグループで活躍させる予定。

・軽井沢恵
 原作以上に、千秋や佐藤と仲が良い。最近は名前で呼び合うようになった。

・佐藤摩耶
 篠原を説得するつもりが説得されてしまった。が、こうなることはわかっていたので、恵や千秋が手綱を握っている形。

・篠原さつき
 下手をすると今がピーク。池と小宮に挟まれて、私を巡って争わないでとヒロイン状態。でも、そんな篠原の頭にはTレックスの記憶が大きく刻まれているという、もはや大混乱状態だった。

・平田洋介
 意図してそういう台詞にした訳ではないが、改めて見ると池や篠原の関係がどうなるかよりも、篠原との関係で池が傷ついてしまうことを気にしているように見える┌(^o^┐)┐

・池寛治
 知らない所で彼女がBSSやNTR状態になっていて驚き。本人からすると、篠原を大事にしているつもりだが、初めての彼女ということもあって動きに失敗している。

・小宮
 ここしかないというタイミングで篠原を勧誘した。しかし、原作と違って池と付き合っているのもあって、篠原も小宮に対する恋心は持っていない。実は一番のピエロ。


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