ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯019 『劇場版のジャイアンみたいなやつ』

 放課後になると、篠原は足早く教室を去っていった。そんな篠原の後を追うように、池も教室を出ていく。それを見て、オレたちも早速行動を始めた――のだが、桔梗が他クラスのグループ相談を持ち込まれて早々にリタイアすることになった。

 申し訳なさそうな顔をする桔梗を見送り、結局は原作通りオレと洋介の二人で、篠原と小宮が待ち合わせているというケヤキモールのカフェに向かって池の動向を見守る。

 

 正直、帰りたいが、流石にここで帰るとは言えないので、仕方なく洋介と共に池の後を付いていった。

 

 原作では、ここで千秋が自分を売りに来るというイベントがあるが、既にセフレとなっており、事情も説明済みなので普通に恵たちと遊びに行っている。

 なので、邪魔が入ることなく、ケヤキモールのカフェに到着した。流石に中に入っては目立つので、窓の外から様子を見るだけにしているが、篠原と小宮は傍から見ても仲睦まじく見える。

 

 池も離れた席から、自分の彼女が別の男と楽しく話す姿を眺めていた。怒りに燃えるかと思ったが、それよりもショックが大きいようで、沈んだ表情で目尻に涙を浮かべている。

 これが現実のNTR――いや、BSSか?

 思えば、池も去年篠原を付き合い始めた当初はもっと初々しく、篠原もあんな感じの笑みを浮かべていたが、どちらも慣れてきたことで良い意味でも悪い意味でも喧嘩が増えていた。池としても、あんな篠原の自然な笑みを見るのは久しぶりだったのだろう。

 

 けど、その笑みを浮かべさせているのが自分じゃないからこそ苦しい――オレには良く理解できないが、洋介は何となく気持ちがわかるようでうんうんと頷いている。

 

 とりあえず、池も暴走して突っ込むようなことはなさそうだったので、この場は様子見で良さそうだった。池も反省した様子だが、その反省の気持ちが今の篠原に届くかどうかは別の話だからな。

 

 とはいえ、二人で監視するのも効率が悪いので、この場は洋介に任せてオレは小宮の方を当たってみることにした。もし、小宮が篠原を略奪するようなことがあれば、池の精神的ダメージは計り知れない。

 ひと夏の思い出を残したいだけなのか、それとも原作と同じく本気で篠原を狙っているのか、小宮の気持ち次第で池のメンタルが左右されるのは大問題だ。

 

「おう。俺たちと組む気になってくれたのか?」

 

 とりあえず、DクラスのことはDクラスの生徒に聞いてみよう――ということで、偶然にも昨日連絡先を手に入れた石崎に小宮のことを聞いてみることにした。

 

 連絡すると、まだ校内にいるということだったので落ち合うことにしたのだが、合流するなり当たり前のように肩を組んでくる。まともに話したのは昨日が初めてだと言うのに、もはやマブダチと言って良いレベルの馴れ馴れしさだ。

 

「その件はまだ検討中だ。今日は申し訳ないが別件になる」

「で、何だよ。俺に相談って」

「それなんだが……」

 

 と、口を開こうとした瞬間、石崎の後ろからこちらに一人の女子生徒が近づいてくるのが目に入ってきた。

 

「何だ、用事って綾小路くんに会うことだったんだ」

 

 石崎の背から顔を出すようにこちらを覗いてきたのは、2年Dクラスの西野武子だった。

 当然、この学校に入学できるだけあって容姿は悪くない。目つきは少し鋭く、ギャルっぽい感じがするが、天沢とは違って媚びを売っている感じはしなかった。人によっては少し近寄りづらいかもしれないが、オレにしてみれば美味しそうな獲物でしかない。

 

 西野は原作でも一年生編から名前だけは出ていたが、二年生編から本格的に顔が出てくるようになったキャラだ。

 オレも前々から興味を持っていたが、彼女が龍園クラスでも目立たって動く生徒ではなかったということもあって、なかなか話すキッカケが持てなかった相手でもある。

 

「お、おい。西野、ついてくんなって言ったろ? 悪いな、綾小路」

「いや、別にいいんだが……」

 

 そういえば、原作でも西野は小宮との話をする際にちょっかいを出しに来ていたっけか。

 

 ここに来たのは、あくまで小宮の本心を探るのが目的だったが、これはもしかしたらチャンスかもしれない――と、考えていると、そんなこちらの内心など知る由もなく、西野はズカズカと石崎とオレの間に割り込んできた。

 

「石崎と仲いいんだ? なんか意外な組み合わせよね」

「そうだな。まともに話したのは昨日が初めてだった」

 

 特に隠すようなことでもないので素直にそう返す。実際、原作と違って他に仲良くなるキッカケがあった訳ではなかった。

 しかし、それが逆に西野も興味を引いてしまったのか、オレと石崎との関係について探るような視線をこちらに向けてくる。

 

「おま、人の話全然聞いてねぇな! だからハブられんだよ!」

「ハブられる? 西野がか?」

「あぁ、いや……こいつ今、クラスで孤立しててよ。ちょっと問題になってんだ」

「孤立? 別に私は困ってないし」

「とにかく先にケヤキモール行ってろって。な?」

「ヤダ」

「ヤダじゃねぇよ、お前……すまん綾小路、ちょっと待ってくれ。今追い返すから」

「何で石崎が綾小路くんとコソコソ会ってるか興味あるんだけど?」

 

 焦る石崎に対し、あからさまにこちらの関係を気にしてくる西野だが、こちらとしても西野と話が出来る数少ないチャンスだ。ここで帰られてしまっては面白くない。

 

 原作でもそうだが、西野は澪と似た一匹狼タイプで、思ったことは迷わず口にする性格をしている。これまで経験してきた傾向的に、この手の女は2つのパターンに分かれていることが多かった。

 一つは、昔の鈴音のように、他人と関係を持つのを嫌うパターン。もう一つは、澪のように、単純に心を許せるような相手に巡り合えていないだけというパターンだ。

 

 石崎への関係やオレへの興味を見た感じ、おそらく西野は後者の可能性が高い。こういうタイプは、一度心の内側に入り込んでさえしまえば、意外と泥沼から抜けられないので、美味いこと誘導できさえすれば関係を作れる可能性は高かった。

 

「そうだな。西野にも話を聞いて貰った方が良いかもしれない。そっちさえ良ければ相談に乗ってくれないか? 勿論、他言は無用だが……」

「こう見えて口は堅い方」

 

 言葉とは反対に、飄々とした感じが逆に疑わしいが、今更ここで西野を追い返すことなど出来ないので信じることにする。

 

「実はお前たちと同じクラスの小宮のことで、少し話を聞かせて欲しくて石崎に連絡を取ったんだ。あまり人に聞かせる話じゃないから、こんな場所を選んだ」

「小宮くんのことで? どういうこと?」

「小宮がうちのクラスの篠原とグループを組む約束をしたっていう話は知っているか?」

「いや、初耳だな。けど、別におかしなことじゃないだろ?」

 

 確かに、この特別試験で他クラスの生徒と組む――これだけなら決しておかしな話ではなかった。相手の篠原に付き合っている相手がいなければ、だが。

 

「馬鹿ね。おかしなことだらけでしょ。篠原さんは、Bクラスの池くんの彼女なんだから、普通に考えて他の男子と組むのは浮気になるじゃない」

「あっ、そういえばそうだっけか。えっ、でも小宮のやつ、篠原を誘ってるんだよな?」

「ああ。どうも篠原と池が喧嘩したらしくてな。その隙を突いて、小宮が篠原にアプローチをかけているのを目撃した」

「わお。意外と大胆なんだ、小宮くんって」

「他人事なら、オレたちも静観したんだが、これで万が一池と篠原が破局するようなことになれば、池がどうなるかわからない。だから、小宮の気持ちを知りたいんだ」

「つまり、小宮くんが本気で篠原さんを池くんから奪おうとしてるのか知りたいってこと?」

「ああ」

「でもさ、仮に小宮くんが本気だったらどうする訳? 妨害するの?」

 

 勿論、常識やBクラスの利益を考えるなら、小宮の行為を妨害するのが理想だ。しかし、ここで西野の好感度を稼ぐのであれば、答えは違う方が良いだろう。

 

「そうだな……小宮の気持ち次第だが、本当に本気なら邪魔はしない。ただ、仮に池と篠原が別れることになったとしても、今のような喧嘩のどさくさではなく、二人が納得して別れられるようにしてやりたい。小宮の邪魔をするというより、全員の気持ちを整理したいって感じだ」

 

 今は池も篠原も互いに冷静になれていない。このまま勢いのまま小宮を突撃させて関係に決定的な亀裂を入れるのではなく、全員の気持ちを整理して答えを出させれば西野も文句を言うことはないはずだ。

 

「……常識で考えれば、彼氏がいる子にアタックしてる小宮くんの方が無作法だもんね。でも、恋って常識だけで測れないし、綾小路くんの言うことの方が正しいのかも」

「おっし、わかった。手を貸してやるよ。どうすればいい?」

 

 悩む様子を見せる西野に対し、ずっと黙って話を聞いていた石崎がそう言って協力を申し出てくる。あまりの即答ぶりに、西野の方が逆に焦っている様子だった。

 

「ちょっ、いいの石崎? あんた、小宮の親友でしょ?」

「親友だからこそ、あいつの真意が知りたい。本気なら応援するし、もっと真正面から行けって後押しするさ」

「そう言ってくれるなら頼みたい。小宮の気持ちを上手く聞き出してくれないか?」

「でもよ、聞きだすって言ってもどうする? 俺が探りを入れるのも変だしよ」

 

 石崎が気のいい奴ではあるが、お世辞にも口のうまいタイプではない。付き合いの長い小宮ならそれはよく知っているだろう。

 ここでオレが下手に小宮から情報を探る言葉を口にさせれば、裏に誰かいるというのがばれる可能性があった。あくまで自然に、石崎が口にしてもおかしくない範囲で様子を探る言葉を探さないといけない――と、考えていると、仕方ないとばかりに西野が口を開く。

 

「小宮くんが篠原さんにアプローチをかけてるのを綾小路くんが見たんでしょ? だったら、それを石崎が見たことにして、どういうつもりなのか聞いてみればいいんじゃない? 池くんと篠原さんが付き合ってるのは割と有名だし、モテない男として僻みを見せれば違和感なく聞けるでしょ?」

 

 確かに。この学校は閉鎖的であるが故に、色恋の噂は特に広がりやすい。去年、オレと帆波と付き合っているという噂も、あっという間に広がっていったからな。

 

 それに、この方法ならオレが指示を出さなくてもいいので、石崎も自然に小宮と会話をすることが出来る。石崎との信頼関係がないオレからはまず出ない考えだった。

 

「モテないは余計だが……よ、よし、それでやってみるぜ。ちょっと待っててくれ」

 

 そう言って、石崎がオレたちから少し距離を取っていく。丁度いいので、こちらは逆に西野との距離を詰めることにした。

 

 西野がいいアドバイスをくれたおかげで、石崎を操作する必要もなくなったし、こちらにもっと興味を持って貰うためにも会話の機会を逃さないのは必須事項だ。

 

「いろいろ意見を出してくれて感謝する。やはり、西野に話を聞いて貰ったのは正解だった」

「まぁ、石崎だけじゃこうはいかなかったかもね。あの馬鹿に恋愛なんか全くわかる訳ないし」

「そういえば、西野は石崎と何か約束をしてたのか? ケヤキモールに行くみたいな話をしていたみたいだが……?」

「ああ……私がまだグループ組めてないから、あの馬鹿が余計なお世話焼いてんのよ」

「Dクラスの中に仲の良い相手がいないってことか」

「私がそもそも、他の子と仲良しこよしするタイプじゃないからね。それに、龍園くんのせいで、Cクラスの生徒はDクラスってだけで睨みつけてくるし」

 

 去年から続くCクラスとDクラスのお家断交状態は、こういう時にも大きな問題となっているようだ。桔梗が各クラスに呼ばれるのは仲裁係も兼ねているのかもしれない。

 

「西野さえ良ければ、Bクラスの生徒を紹介するぞ?」

「Bクラスの?」

「うちには元Dクラスのひよりもいるし、桔梗が交友関係を広く持ってるから、西野にあったメンバーを選べるかもしれない」

「いや、でも、迷惑になるし……」

「西野はオレを助けてくれた。興味本位であれ、救われたのは事実だ。その恩を返すのに迷惑も何もない」

「でも……」

「オレとしても、せっかく知り合えた西野が退学するような事態は避けたい。勿論、お前が本当に一人で何とでも出来るなら無理強いはしないが、そうじゃないならこちらの提案を受け入れてくれると嬉しいんだが?」

「……綾小路くんって意外と押しが強いんだね」

「今も言ったが、嫌なら無理強いはしないぞ」

「ううん、お願いしてもいい? このままだと石崎に情けをかけられそうだし……」

 

 原作だと、西野は結局相手が見つからずに石崎と組んでいたのでその予想は正しかった。

 

「じゃあ、この後少し時間良いか? 桔梗に連絡を取ってみるから」

「いいよ。どうせ、石崎に付き合わされてケヤキモール行くだけだったし」

 

 と、軽くデートの約束を取り付けると、石崎も丁度電話を終えたようでこちらに戻ってくる。何やら若干興奮した様子を見せており、小宮の影響を受けたのは想像に容易かった。

 

「小宮のヤツ、結構マジっぽいぜ。無人島試験で、池じゃなくて自分を選んでくれって告白するつもりらしい」

「略奪愛だね。物語としては燃えるんだけど……」

「どうするよ、流石に止められないぜ?」

「わかっている。小宮の気持ちを探ってくれただけで十分だ」

 

 先程も言ったが止める気はない。小宮がそれほど本気なら、仮に今回妨害した所でいつかどこかで告白するだろうしな。

 なら、こちらはそれを受け止めさせるために、池や篠原に心の準備をさせるだけだ。それで池と篠原が別れることになったのだとしたら、あの二人はそういう運命だったというだけだろう。

 

「それと、西野のグループ作りの件だが、今回のお礼に桔梗を紹介することにした」

「おいおい、見返りなんて求めてないぜ」

「困った時はお互い様だからな。それに西野も、その方がいいって言ってくれた」

「ん? そうなのか?」

「まぁね」

「そっか。んじゃ、西野のことはお前に任せるぜ。なんなら一緒のグループ組んじまえよ」

「西野のことは嫌いじゃないが、オレはオレでちょっとトラブルを抱えててな。そのせいで自由にグループが組めないんだ」

「トラブル? 手ぇ貸すか?」

 

 それまでのおちゃらけた様子が嘘のように、真剣な顔をした石崎が袖を捲るような仕草を見せる。こういう部分が、石崎の良い所だ。

 

「いや、問題ない。だが、何かまた困ったことがあったら相談させてくれ」

 

 しかし、オレのトラブルは残念ながら石崎ではどうしようもないので、気持ちだけ有難く受け取っておく。

 

 こちらの要件が済み、西野との約束もなくなった石崎は、「なんか、いろいろ大変そうだけど頑張れよ」と、こちらに声をかけて去っていった。

 原作でもそうだが、石崎はやはり気のいいやつだ。劇場版のジャイアンという感じで、もしかしたらまた何か相談することもあるかもしれないな。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 西野に桔梗を相談することになったのはいいが、今回の試験では桔梗も忙しくしているのでなかなかスケジュールが抑えられなかった。

 勿論、オレが一言来いと命令すれば、他の用事を投げ捨てても来るが、下手にすぐ呼び出しても旨味がない。むしろ、桔梗が忙しくしていることを逆手に取って、ここは好感度稼ぎのためにも西野とデートをすることにした。

 

 これが天沢くらいこちらに強い興味を持っていてくれるのであれば、オレとしても話は簡単なのだが、西野とは間違いなく今日が初対面である。

 向こうも多少の興味こそあれ、別にオレに対して強い好意を持っているという訳ではない。どちらかといえば、なずなを攻略した時に近いが、なずなの場合は南雲というわかりやすい隙があった。

 

 だが、西野にはそんな隙は無い。

 

 とはいえ、何もないからと言って諦めては男が廃る。幸いにも、西野の方もオレに対して特に悪感情を持っているという感じではないようなので、少しずつでも距離を詰めていく。前々から興味はあったのだ。どうにかして西野と深い関係を築きたい。

 

 時間を潰す――と、いう体で、軽くケヤキモールを歩きながら話をする。西野は意外とお喋りな性格をしているのか、こちらが話を振るとすぐに乗ってきてくれた。

 

「じゃあ、やっぱり一之瀬さんとは本当に付き合ってる訳じゃないんだ」

「去年の今頃だったか。クラスメイトに告白されて、上手く断りたいということで、他クラスの知り合いだったオレを隠れ蓑にさせてほしいと頼まれたんだ」

「でも、一之瀬さんとはどういうキッカケで仲良くなったの?」

「あー……Dクラスの西野には言い難いんだが、その当時オレたちのクラスは須藤が暴力を振るったって訴えがかけられていてな。その件で一之瀬と話す機会があったんだ」

「ああ、あの事件ね。あれって結局本当に須藤くんは殴ってないの? 実は私、よく知らないんだよね」

「殴ってない。石崎や近藤、小宮が自分たちで殴り合ったと半ば自白もしたしな」

「はー……そう思うと、綾小路くんと石崎って結構前から知り合いなんだ」

「まともに話をしたのは本当に昨日からだけどな。いきなりグループを組んでくれって誘われた」

 

 同じ一匹狼気質でも、澪は結構話を振っても途中で終わることが多いのだが、西野は上手く話題を広げてくれるので話しやすい。西野もなかなか楽しそうにしているし、美味いこと興味を引けていると見ていいだろう。

 

 ここでもう少し好感度稼ぐために、クレープを西野に御馳走する。前回、真澄やひよりとデートした帰りに食べたので味は保証できる逸品だ。

 

「ありがと……綾小路くんって、結構気の付くタイプだよね」

「それは、褒められてると思っていいのか?」

「褒めてる褒めてる。モテるでしょ? 椿さんとか堀北さんと付き合ってるんじゃないかって噂も聞いたことあるし」

「どんな噂だ。雪は幼馴染で、堀北は一年の時から席が近いだけだ……」

「えーでも、結構綾小路くんは噂になるよ。それこそさっき話した一之瀬さんとの件だったり、体育祭での活躍だったり、前回も試験で満点とか取ってたし」

「そんなにか?」

「後は、女の子をとっかえひっかえしてるとか? 実際、なんか女の子の扱い手慣れてるよね」

「まぁ、仲がいい相手に女子が多いのは認める……」

「でも、付き合ってる相手はいないんだ?」

「いないな。一之瀬に名前だけ貸してるだけだ」

 

 ふーんと、改めて西野がオレのことを上から下まで舐めるように視線を向けてくる。

 

 どうやら、これまでの会話で上手くオレに意識を向けることが出来たらしい。今までと違って、視線に探るような感じがする。

 

「なんで、彼女作らないの?」

「相手がいないからだ」

「またまた、告白の一つくらいされたことあるでしょ?」

「実はないんだ。モテるモテるとよく言われるが、女子にそういう声をかけられたことはない」

「なんか意外……あっ、もしかして女の子同士でけん制し合ってるとか? モテすぎて、モテないって感じ?」

「さてな。まぁ、仮に告白されても受けるかどうかはわからないが」

「理想が高いの?」

「いや、オレのことを好きになってくれるなら嬉しいし、付き合えるなら付き合いたい……が」

「が?」

 

 ここで、少し心理的な技術を使って西野との距離を縮めていく。敢えて、思わせぶりな表情を浮かべながら言葉を引っ込めることで、向こうに興味を持たせる。

 

「いや、何でもない」

「ちょっ! ここまで来てお預け!?」

「良く考えれば、女子にするような話じゃなかった」

「余計に気になるって! 私は気にしないから話してみって!」

「……本当に聞きたいのか?」

 

 こちらは嫌そうな演技をする――が、そう言われて聞きたくない相手などいないだろう。西野もブンブンと首を縦に振っていた。この反応を待っていたのだ。

 

「……アレが大きすぎるんだ」

「あれ?」

「男の、その、アレだ」

「あっ……」

「何と言うか……いざそういうことになった時、付き合った女子が困るんじゃないかと思って付き合うのを遠慮してしまうんだ」

 

 正確には、『いざそういうことになった時、Tレックスが大人気過ぎるせいで、独占のような形になる交際は、付き合った女子が他のセフレたちの批判を受けて困るんじゃないかと思って付き合うのを遠慮してしまうんだ』なのだが、意図的に少し文字を削減して西野の勘違いを誘発させていく。

 

「あー……えっと……」

 

 流石の西野も、直球でセクハラをされるとは思わなかったようで顔を赤くしていた。しかし、聞きたいと言ったのは自分なので文句も言えない形だ。

 

 当然ながら、Tレックスの大きさで交際を悩んでいるなんていうのは大嘘だった。これも、西野にオレを男として意識させるための一環でしかない。

 先程までの問答で、西野はオレを意識し始めていた。そこに、男のイチモツが云々と聞かされれば、嫌でもオレのTレックスを意識してしまうだろう。

 

「えーっと……そんなに大きいの?」

「混合合宿で、オレと同じ大きさの相手は高円寺くらいしかいなかった」

「そ、そうなんだ……」

「もう、ここまで来たら聞きたいんだが、女子としてはどうなんだ? その、アレが大きすぎる男というのは?」

 

 あくまで、毒をくらわば皿まで――という空気を出しながら、西野を卑猥な話に乗せていく。

 

 男女でこういう話をするというのは、それだけの関係でもあるということだ。西野が逃げない時点で、オレに興味があると見てまず間違いない。ここで一気に西野の意識にTレックスの存在をぶち込んでいく。

 

「まぁ、私も……その、経験がないからアレだけど……それは当人たち次第じゃない?」

「努力でどうにかなるか?」

「別に、その、入らない訳じゃないでしょ?」

 

 と、言いながら視線がTレックスに向けられる。正直、かなりほぐさないと厳しいサイズなのは自覚しているので迂闊に頷けなかった。

 

「……はい、らないの?」

 

 まずい。逆にドン引きさせては面倒なことになる。今は興味を誘うくらいでいいので、ここいらで一度話を終えてしまうことにした。

 

「いや、そうだな。こういうのは努力でどうにかするものだろう。少なくとも、こんな往来で女子にする話じゃなかった。すまない、忘れてくれ」

 

 そう言われれば、西野も話を続ける訳にもいかないだろう。「あっ、うん、別にいいけど……」と、歯に何か挟まったような感じで引いていく。

 

 しかし、興味はしっかり与えられたようで、先ほどまでに比べてTレックスに向けられる視線が増えた。

 男子が女子の胸を見てしまうような感じで、西野もTレックスをチラチラと見てくる――確かに、女子がそういう視線がよくわかると言っているが、見られているというのは意外とわかるな。

 

 後は、ここで上手く話を終わらせるだけだ。

 

「本当に、すまない。西野はいろいろ話しやすいから余計なことまで話してしまった」

「いや、私も、悪ノリしちゃったから……ごめん」

「オレも、普段はここまで話すことはないんだが……やはり西野には相談に乗って貰ったからか、少し甘えてしまっているのかもしれないな」

「そ、そうなの……?」

 

 西野は少し嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 ピークエンドの法則――と、いうものを知っているだろうか? 分かりやすく言うと、『終わりよければ全て良し』という考え方で、恋愛においてはデートの『終わり方』や『最も感情が動いた瞬間』が、そのデート全体の印象を決定づけるという心理法則だ。

 

 だらだら話すだけでは女の心は揺れ動かない。相手に自分を意識させるには、ここ一番の演出で雰囲気を盛り上げることで、強い印象を与えることが重要という訳だ。

 今回に関して言えば、Tレックスという存在で西野の感情を強く動かした後、こんな話をしたのは西野が特別だからだ――という優越感を与えて話を終わらせることで、自分だけが特別と自尊心を刺激することが出来ている。

 

 こうなれば、嫌でもオレを意識せざるを得ない。次を匂わせれば、西野は容易く頷くはずだ。

 

 今回はこのまま終わりでいい。少なくとも、この短期間の中で既に西野の中にはオレという存在が強く刻まれ、そのオレが自分を頼ってくれていると錯覚しているはずだ。

 後は、時間をかけてその感情を育てていくだけでいい。この年頃の男子はよく、女子がそれらしい仕草をすると自分を好きなのかもしれないと勘違いするが、それは別に男子だけに起きることではなかった。

 

 西野に、もしかしたらオレが自分のことを好きなんじゃないか――と、勘違いさせる。

 

 そして、向こうが気持ちを伝える前に関係を作ってしまえば、もはやこちらのものだ。恋心と快楽で縛り、オレから離れられなくさせる。

 一匹狼気質な人間ということは、裏を返せば自分の気持ちを相談できるような相手はいないと言っているようなものだった。一度、転がり落ちてしまえば、もう助けてくれる相手はいない。

 

 今回は適当に理由を付けて桔梗と合わせるのを止めにした。代わりに、明日またオレを経由して桔梗とコンタクトを取るという約束をする。

 おそらく桔梗は西野の連絡先も持っているので、本来なら間にオレが立つ必要性などないのだが、西野も無意識にオレと会える機会を逃したくないのだろう。特に疑問を持つこともなく、明日会う約束を取り付けることが出来た。今の所は順調だな。

 

 

 




 原作との変化点。

・池のBSSシーンを堪能した。
 原作と違って、千秋からの勧誘もなく一部始終を見ていた。篠原も罪な女である。

・石崎に連絡を取った。
 まだちゃんと話したのは2回目だが、もはや原作並に馴れ馴れしくなっている。

・西野攻略に踏み切った。
 西野も原作キャラなので当然攻略対象。修学旅行の時の浴衣姿が俺くんも好こだったので、これでもかというくらいこちらを意識させている。改めて見ても、こいつマジでホストやな。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 丁度いいので、西野の相談に乗るフリをして食べる算段をし始めた。本文でやっているのは全部演技。

・篠原さつき
 罪な女。このまま原作通りになるかどうかは未定。

・西野武子
 原作通りに出会った。ここを逃すともう接触の機会がないため、清隆も攻略に動き出した。

・平田洋介
 池を心配している┌(^o^┐)┐

・池寛治
 BSSで新しい扉を開きかけている。

・石崎大地
 一年の頃の気難しさはどこへ行ったというくらいに気安い態度。勿論、多少は良い印象を持たせて清隆と組みたいという下心有り気だが、本質が劇場版ジャイアン。

・小宮
 よし、行ける(行けない)。


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