SIDE:篠原さつき
最初のキッカケは軽い好奇心だった。それが浮気になるとわかってはいても、赤信号を全員で渡れば怖くない――という理論で、私は綾小路くんと肉体関係を持ってしまった。
初めては恋人である寛治に上げるはずだったのに、私は軽井沢さんや松下さん、佐藤さんに乗せられて、それまで全く話したこともないクラスのイケメンに処女を捧げてしまったのである。
後悔はあった。しかし、あの圧倒的な快楽の前に女に出来ることなどない。寛治には少し罪悪感もあった。けど、その分、彼との初めての時にはサービスしたので許して欲しい。
ただ、私は不本意(?)にも、綾小路くんと寛治という二人の男性経験を得てしまった。
だからこそ、その違いが明確にわかってしまった――綾小路くんがペットボトルだとすれば、寛治のものはウインナーくらいの大きさしかない。あの奥までズンと来る感覚が、寛治の時には全く感じられなかった。
それでも、愛はあったと思う。
けど、段々と寛治は傲慢さを見せてきた。本人にはそんなつもりはないのかもしれないが、一々私を下に置いて貶すようになってきたのだ。
付き合い始めた頃の、「オレも頑張らないと春樹みたいになっちまうかも」と、自嘲の声を出していた寛治はそこには居らず、気が付けば私のことを子分のように扱ってきた。
そして、この無人島サバイバル試験が始まった――最初は私も自然と寛治と同じグループを組むと考えていたし、自分のことを誘ってくれた小宮くんにもそう言って断りを入れている。
でも、寛治は違った。
あいつは、私の気持ちなど全く考えずに、他の女子からの誘いをホイホイ受けようとしていたのだ。
私も、寛治には負い目がある。だから、今まではずっと我慢してきた。けど、もう我慢の限界だった。何がハーレムだ、ふざけるな、私はあんたの自尊心を満たす玩具じゃない。
気が付けば、付き合う前のように怒鳴り合っていた。売り言葉に買い言葉で、本当なら言うつもりもない酷い言葉も投げかけた気がする。
けど、同時にスッキリもした。
ずっと溜め込んでいた膿を出し切ってスッとした気分になった――そんな時だ。小宮くんが真剣な顔で私を自分のグループに誘ってきたのは。
最初は断ろうと思った。流石に浮気っぽくなって寛治に悪いし――と、思った所で、首を横に振った。
また、私は我慢しようとしている。あの馬鹿が私を裏切ろうとするなら、私だって好きなようにするだけだ。
正直、寛治を見返してやりたいと思った。小宮くんをだしにするようで悪いとも思ったけど、寛治に心配させてやりたい気持ち半分、私一人でも試験を乗り越えられると見せつけたいという気持ち半分で、私は小宮くんとグループを組むことを決めた。
ただ、自分が間違ったことをしているという自覚もあった。私のしていることは悪いことで、本当なら寛治に捨てられてしまってもおかしくない。
でも、ここで引いたら私は一生寛治の下でしか生きられないと思った。なら、もしこれで別れることになったとしても、私は私の意思を貫きたい。
幸か不幸か、佐藤さんはこんな私の話を聞いて、全面的に支持してくれた。ただ、松下さんは冷静に本当にそれでいいのか考えようと、私のことを説得しようとしてくる。
少し怖かった。ここで、本音を漏らしたら、私はやっぱり弱いままでいるしかないのではないかと説得されてしまうような気がしたからだ。でも、軽井沢さんがそんな不安もふっとばしてくれた。言いたいことを言えばいいと言われて、私も改めて決意を固める。
綾小路くんの部屋で、私たちは集まった。
意外にも綾小路くんは私に寛治との仲直りを強制しては来なかった。代わりに、もう一度だけ話をして欲しいと頼んできただけだ。
確かに、私もずっとこのままでいいと思ってはいなかった。寛治にも、今の私の気持ちを伝えたかったし、「わかった」と返事をする。面と向かって会えばまた喧嘩しそうだったので、電話で話をすることにした。
意外にも、寛治は冷静に私の話を聞いてくれた。そして、その上で自分の気持ちを私に伝えてくる。
正直、寛治が私と小宮くんが話しているのを見ただけで、こんなに悲しんでくれるとは思っていなかった。そういう感情を持って欲しいとは思ったけど、想像した以上に寛治は私のことを好きで居てくれたというのがわかってよかった。
結論としては、今回私たちは同じグループになるのを止めにしている。それは、寛治が私の意思を組んでくれたことや、私自身も挑戦したいという気持ちがあったからだ。
その際、小宮くんと浮気しないように釘を刺されたけど、最初から小宮くんとはいいお友達であって恋人にとは考えていなかった。
なので、その心配は無用だ。
私が浮気するなんて有り得ないと笑い、寛治には自分がすぐに他の女の尻を追うのをどうにかしろと文句を言ってやった――けど、この言葉をすぐに後悔することになる。
気が付けば、私は綾小路くんの下半身に舌を伸ばしていた。
浮気などする気はない。綾小路くんのことは好きでも何でもないし、関係もあの夜の一回だけのはずだった。
けど、私は彼の誘惑に耐えることが出来なかった。これは浮気ではなくて、綾小路くんを使った自慰行為――そう言い訳をして思いっきり腰を振っていく。
寛治のモノではずっと感じられなかったあの押し込まれるような強い感覚。この感覚の前にはもう逆らうことは出来ない。この抉られるような背徳感が体を熱くさせていった。
こうして、私はまた浮気をしてしまった。寛治のことを悪くは言えない。私の方がもっと酷いことをしている――でも、悪いことをしているとわかっていても、この快楽の前からは逃れることは出来なかった。
◇◆
SIDE:西野武子
綾小路くんの名前を初めて聞いたのはそれこそ一之瀬さんと付き合っているという噂を聞いた時だった。
その時は、「へぇ」としか思わなかったし、私の世界に綾小路くんが入ってくるようなことはないと思っていた――実際、1年生の時は、全くと言って良い程関わることはなかったし、噂を多少聞く程度で何の興味もなかったと言って良い。
運動能力が高いことや、学力が高いことは知っていたし、やたらと女子にモテる印象はあった。
そんな綾小路くんと石崎がコソコソ会おうとしているのを見てしまったのが、全ての始まりだ。
石崎の後を付けて、私は初めて綾小路くんと話をした。彼は、自分のクラスの篠原さんがうちのクラスの小宮くんとグループを組むという話を耳にして、石崎に小宮くんのことについて聞きに来たらしい。
篠原さんと言えば、一年生の終わりに同じクラスの池くんと付き合ったことで一時期有名になったが、その彼女が別れたという話は聞いていなかった。
つまり、綾小路くんの話が本当だとするのなら、彼女は浮気をしようとしているということになる。聞けば、篠原さんは池くんと喧嘩をしたようで、その隙を突いて小宮くんは篠原さんにアプローチをかけたということだった。
略奪愛――ドラマや映画では良く聞く話だけど、まさかこの学校でそんな物語のような事態に直面することになるとは思わなかった。
綾小路くんに協力したい気持ちはある。小宮くんの方が無作法をしているし、普通に考えて浮気を許すのは良くない。けど、小宮くんは同じクラスの仲だし、出来れば幸せになってほしいという気持ちもあった。
私が少し迷いを見せる――と、石崎は二つ返事で綾小路くんの頼みを引き受けていた。「親友だからこそ、あいつの真意が知りたい。本気なら応援するし、もっと真正面から行けって後押しするさ」と、悩んでいた私が馬鹿みたいに真っ直ぐな言葉を口にしている。
だけど、この馬鹿に恋愛なんてわかる訳がない。結局は、私がアドバイスして、石崎が小宮くんから話を聞くことになった。
石崎が電話している間、綾小路くんと二人きりになり当たり障りのない話をする。
こうして話してみると、綾小路くんは意外と普通に良い人だった。私の事情を聞いて、今回のお礼に助けてくれると言ってくる。
お世辞にも、私はあまり女子受けのする人間じゃない。だからクラスでも浮いているし、グループがなかなか組めなかった。
そんな私を、綾小路くんは普通の女子のように扱って助けようとしてくれる。それがちょっと嬉しくて、たまには素直になってみようかと思った。
石崎との要件が終わると、私と綾小路くんは櫛田さんに連絡が付く間、ケヤキモールを歩き回ることにした。
時間を潰すだけのつもりだったけど、綾小路くんは聞き上手で、意外と話が弾んでいる。彼自身がそこそこ有名なこともあって話題は尽きず、割と楽しく話をすることが出来た。
挙句の果てにはクレープまで奢って貰って、少し彼氏彼女の気分を体験できている。正直、不思議だった。これで彼女がいないって噓でしょ。前に一之瀬さんと付き合っているという噂は流れたけど、それも嘘だと本人が否定している。
勉強が出来て、運動が出来て、割とイケメンで、女子に気が使える――これでモテないはずがなかった。
しかし、綾小路くんは自嘲の笑みを浮かべながら、自分はモテないと言っている。理想が高いのかと思ったがそうではないようで、少し言葉を詰まらせる様子を見せた。
ここまで来てお預けなど出来るはずがない。
綾小路くんは、女子に聞かせるような話じゃないと言って逃げるが、その逃げ道を塞いでいく。
すると、観念したように綾小路くんは悩みを打ち明けてきた。男の子のアレが大きすぎて困っており、そのせいで女子と付き合うのを遠慮してしまうのだと。
思わず、顔が真っ赤になった。
私から聞いておいてアレだが、流石に予想外の悩みで思わず視線が綾小路くんの股間に向いてしまう。ズボンの上からは普通にしか見えないが、あの下にそんな凶暴なモノが隠されているとは――
って、セクハラ!
いや、無理やり聞いたのは私だけど、流石に「女子としてはどうなんだ? その、アレが大きすぎる男というのは?」というのはライン越えだ。
でも、綾小路くんは真剣な顔で私に相談していた。だから、私も恥ずかしいけど、真剣に答えを返していく。
しかし、入らないほど大きいと言われると、私も思わず呆けてしまった。そんなモノは物語の中だけのものだと思っていたからだ。
綾小路くんはそんな私の様子を見て、すぐに忘れてくれと声を上げた。私としても、ここで終わらせるべきだと思ったのでそれに同意する。
でも、正直、見てみたい気持ちもあった。
もし、私と綾小路くんがもっと深い仲だったら、漫画のように実際に綾小路くんのモノを見るという展開もあったのだろうか――と、思わず想像してしまう。
綾小路くんは、「西野はいろいろ話しやすいから余計なことまで話してしまった」と、謝ってきてくれた。
この学校に入ってからずっと一人で居て、話しやすいなんて言われたのは初めてだ。続けて、「オレも、普段はここまで話すことはないんだが……やはり西野には相談に乗って貰ったからか、少し甘えてしまっているのかもしれないな」と言われ、表情が崩れそうになる。
嬉しかった。あの綾小路くんが私を頼ってくれている――もしかしたら私のことを好きになってくれるかも。なーんて、夢のようなことまで考えてしまう。
そんなはずがないというのはわかっている。でも、何でか、私は綾小路くんのことが気になるようになってしまった。
結局、この日は櫛田さんの都合が付かず、後日にまた綾小路くんが場をセッティングしてくれることになる。つまり、また綾小路くんと会える――それが堪らなく嬉しかった。
次の日、私たちはまたケヤキモールで時間を潰すことになった。昨日よりも少し距離が近いような気もするが、正直それが心地よいと感じられる。
途中、ゲームセンターで綾小路くんがぬいぐるみを取ってくれた。別に凄い可愛いという訳ではない。けど、今まで貰ったどんなプレゼントよりも嬉しいと思えた。
けど、天国の時間はすぐに終わりを迎えることになる。櫛田さんと合流してグループの斡旋が始まると、櫛田さんはまるで自分のだと言わんばかりに綾小路くんの体にくっついたのだ。
これはあからさまなけん制だった。
綾小路くんは特に気にならないのか変わった様子はない。と、すると、櫛田さんの独り相撲だが、やはり綾小路くんを好きな女子は普通に存在していた。本人が気づいていないだけだ。
でも、それは当然だった。
こんなに優しくて、格好良くて、いい男がモテないはずがない。別に、私は綾小路くんのことが好きという訳ではないけど、ただ仲良くなった男子が取られるようで少しいい気はしなかった。
それでも、綾小路くんが櫛田さんにお願いしてくれている形だからこそ、私も表立って文句は言わない。ここで櫛田さんと揉めてしまえば、彼の顔を潰してしまう。
最終的に、私のグループメンバーは、元Aクラスの神室さん、元Dクラスの椎名さんに決まった。でも正直、もうメンバーについてはどうでもよかった。今は綾小路くんが取られないかどうかしか気にならない。
今は櫛田さんの片思いでも、もし綾小路くんがそれを受け入れてしまったら――と、考えると、もう夜も眠ることが出来なかった。
そして、その日から綾小路くんの名前がそこかしこから聞こえるようになる。同じクラスの真鍋さんが「一緒にグループを組みたいなぁ」だの、山下さんや藪さんが「格好いいよね」だのと、彼を持て囃す声が聞こえてきた。
私のクラスだけでさえ、こんな調子だ。同じクラスならもっとだろう。もし、この試験に乗じて告白するような女子がいれば綾小路くんは付き合ってしまうかもしれない。
いや、大丈夫だ。彼には悩みがある。知っているのは私だけ――でも、その悩みすら受け入れてくれる女子がいたら? 本当に大丈夫? このままでいいの?
グループも決まって、特別試験への悩みはなくなったはずだった。けど、私は試験が始まって綾小路くんに再会するまで、ずっとこのモヤモヤを抱えて過ごさなくてはいけなくなってしまった。
篠原の内心と西野からみた清隆です。蛇足かもですが、入れといた方がいいかなって。