ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯037 『腹ペコTレックス』

 6日目――朝7時になると、今日初となる指定エリアが公開された。当然、原作通りにB6であり、昨日頑張ってエリアに近づいていたおかげもあって、スルーを回避することが出来ている。

 

 しかし、予想していた通り妨害が酷かった。

 

 昨日同様に、3年Aクラスのグループと思わしき男子生徒たちが手を組んで最短ルートを塞いでいる。もはや隠す気も無いようで、あからさまに進路を進ませないように動いていた。

 また、今日からタブレットのエリアサーチ機能が解禁され、得点を1消費すると島の全域に誰がどこにいるかを調べることが出来るようになっている。昨日までは目視だけの監視だったが、これでより一層逃げることが難しくなってしまった。

 

 勿論、オレ一人なら、原作の高円寺のように木や岩の上を移動して回避するという手段も取れなくはないが、流石に七瀬と一緒だったこともあって素直に遠回りしている。そのまま、何とか到着ボーナスの1点を入手した。

 

 基本移動での得点が難しいなら課題で――と、行きたいが、近場の課題も1年生に独占されているようで枠は残されていない。男女で別れる課題があっても、妨害は男子の方が多いので必然的に枠が埋め尽くされている。

 パッと見た感じ、かなりの数の1年生グループがこちらの妨害に来ているらしく、流石の七瀬も「これは……凄いマークですね」と、この状況に何とも言えない声を出していた。

 

 七瀬もオレの首に賭けられた2000万の賞金のことは当然知っているので、この1年生の集団がオレを狙っていても特に気にした様子はない。

 実際は、オレを倒すためだけに選ばれた八神の手先と思われるが、七瀬にはそんな違いはわからないだろう。結局、狙われていることに変わりはないので、わざわざ詳しい事情を教えてやる必要もなかった。

 

 とはいえ、このままされるがままで終わるつもりはない。この次の指定エリアはA5なので、また原作知識を応用し、敢えて3年生や1年生にこちらを囲わせるように動いていく。

 再び逃げるように砂浜を北上していき、9時でエリアがA5になると同時に、着順報酬の1位と到着ボーナスの1点を頂いて行った。これで、オレの合計も152点まで増えている。

 

「凄いです、先輩」

「たまたまだ、運が良かったな」

 

 七瀬の称賛の声は嬉しいが、原作知識と言うインチキの結果なので手放しに喜ぶことは出来なかった。

 

 それでも、上手く得点を重ねられているのは事実。確かに課題の得点を封じられたのは痛いが、こちらに原作知識がある以上、基本移動での得点だけはどうしても防ぎきれない。

 だが、流石のオレもランダム指定による発生する距離の問題だけはどうしようもなかった。これまでもずっとそうだったが、純粋な距離だけはどうしたって埋められるものではない。

 

 しかし、その問題であるランダム指定も、距離がそこまでなければ話は別だった。

 

 次の13時のエリアはランダム指定でC3になるが、A5からC3は一見遠いように見えて意外と遠くない。

 原作のオレも、ここを問題なく乗り越えて1位の着順報酬を得ていた。とはいえ、その道のりはお世辞にも簡単とは言えない。

 

 原作通り、C3に向かうコースは3つある。

 

 1つ目はA4やB4にそびえたつ険しい山を乗り越えて最短で突き進む方法。

 2つ目は多少のリスクを避けてB4の南からC4の小さな山道を超える方法。

 3つ目は山を登るのを拒否しD5の川辺を通って大きく迂回していく方法。

 

「おそらく、他のグループはC4越えか、迂回を選ぶと思います」

「だろうな」

 

 オレたちの周りをうろついている3年生や1年生たちの目的がオレを妨害することなら、1つ目のルートを選びたいだろうが、流石に険しい崖を登るような難しい道を進むのはリスクが高い。それなら、多少道が厳しいくらいで済むC4を超えるルートを選ぶのがベターだ。

 

「七瀬……疲れは抜けきっていないかもしれないが、ここは少し無茶な道を通るぞ」

 

 だからこそ、オレはここで原作通りに山を越えて着順報酬1位を狙っていくことにした。

 13時になり、指定エリアがランダム指定されると、七瀬も「最短で抜けるんですね?」と、聞いてきたので頷きを返す。オレはともかく、七瀬は体力的に厳しいはずだが、泣き言一つ言わずに後を付いてきた。

 

 だが、そのまま斜面を登っていくと、すぐに大きな崖が目の前に立ち塞がって来る。

 

 また、オレたちの後を追うように付いてきていた3年生や1年生も、これは越えられないと判断したようですぐさま引き返していた。実際、この崖を登るのはオレでも一苦労だ。

 

「これは……」

「怖いなら引き返してもいいぞ? オレはこのまま進むが……」

 

 七瀬も、まさかここまで険しいとは思わなかったようで尻込みした様子を見せる。が、オレが挑発するような声をかけると「い、いけます!」と、長い髪を束ねながら、勢いよく山を登り始めた。

 

 しかし、すぐに足を踏み外して落下してくる。

 

 ドンと良い音がすると同時に、形のいいお尻を撫でながら「いたた……」と、七瀬が地面から立ち上がるが、流石に10m近くあるこの崖を一人で登り切ることは不可能だった。原作通り、ここで一度、七瀬には遠回りの選択肢を進めておく。

 

「ここまでだな」

 

 勿論、ここで七瀬に遠回りをしろと、本当に説得するつもりはない。とはいえ、ここでオレが進んで七瀬に手を貸すのは不自然な以上、ここは一度突き放しておく必要があった。

 

「の、登れます!」

「仮に登れたとしても、そこで体力を使い果たしたら意味がない。目的地は山を越えた先にあるんだからな。どうしても登るというなら止めはしないが、回り道してC4を目指した方がいいと思うぞ」

 

 敢えて七瀬のことなんか気にしてません――という体で、厳しい言葉を投げかけていく。

 だが、これで諦めるような女ではないことはわかっていた。むしろ、ここで「はい、わかりました」なんて言われたら、こちらが逆に困ってしまう所だ。

 

 事実、原作通りに七瀬は頑固な性格をしているようで、こちらの忠告を無視して立ち上がって来る。そのまま原作通りにオレが崖を登ろうとすると、やはり七瀬も立ち上がって崖に手をかけてきた。

 

「無理はしない方がいいぞ」

「気にしないでください。私は私で、綾小路先輩を追いかけますから……!」

 

 と、強気なことを言っているが、体は正直なようで疲労で上手く力が出せていない。岩を掴んだ腕は震えており、オレが見放したらリタイア所か大怪我も避けられなさそうだった。

 これが男相手なら黙って見捨てる場面だが、ここで七瀬を見捨てたらこの数日のお遊戯会は一体何だったのだという話になる。仕方なく、先に登って七瀬の方へと手を差し伸べていく。

 

「捕まれ」

「い、いえっ! そういう訳には行きません。手を借りない条件でお供させて頂いてますから……どうぞ私のことは気にせず先に行ってください」

 

 と、言われたものの、ここで「そうか、ならそうしよう」とは言えなかった。ここでオレが七瀬を見捨てれば、七瀬はオレを悪と断ずるだろう。

 自分で勝手についてきた癖に身勝手とも思えるかもしれないが、オレが簡単に人を切り捨てるような行動を取ることは、原作通りに七瀬が親父殿――ひいてはオレに抱いている悪いイメージを肯定させる危険性がある。

 

 そうなれば、ここの特別試験では良くとも、先の未来で七瀬が敵に回りかねない。

 

 何より、せっかくここまで好感度を積み重ねて来たのに、ここで全部を台無しにするような選択肢など取れるはずがなかった。

 

「ここ数日の付き合いでしかないが、ここで可愛い後輩を見捨てるのは後味が悪い。もし、オレの手を借りるのが申し訳ないと思うなら、これも貸しにしてやる。後で纏めて返してくれればいい」

「ですが――」

「無駄話をしている余裕はない。全員が迂回しているとは限らないんだ。一分一秒が惜しい。わかるな?」

「……はい」

 

 こちらに言い包められて悔しそうな表情をしながらも、七瀬はオレの手を借りて山を登り始めた。

 とはいえ、オレとしても余裕がある訳ではない。知識こそあっても、実際にクライミングをした経験はないのだ。残念ながら、童貞ならば喜びそうな七瀬の柔らかい手の感触を堪能する暇はない――ないのである。

 

「先輩……こういうことをした経験はあるんですか?」

「流石にないな。クライミングは今回が初になる」

 

 別のことならもうベテラン級なのだが――と、考えながら、七瀬を引き上げつつ、何とか崖を登り切っていく。

 

 だが、崖を登り切ってもゴールはまだ先だった。肩で息をしている七瀬に「いくぞ」と声をかけて先に進む。

 七瀬も「はいっ」と声を上げて、意地で付いてきた。多少出遅れてはいるが、こちらの背中を追うように懸命にくらいついてくる。

 

 流石に、オレのペースに合わせて歩くと七瀬が付いて来られないので、わからない程度に歩調を緩めて七瀬が付いて来られるレベルに合わせていった。

 そのまま、C3に辿り着くと、着順報酬の1位と到着ボーナスの1点が与えられる。それを確認すると、七瀬が「よ、良かったぁ……!」と、心底嬉しそうにその豊かな胸を撫でおろしていた。

 

「流石に疲れたな。少し休もう」

「は、はい。そうして頂けると有難いです……」

 

 地図ではわからなかったが、この場所は周囲に微妙な岩場がある。ここならば追いついてきた3年生や1年生が来るようなこともないだろう。

 それに、どうせこの近くの課題は追いついてくる1年生に封殺される可能性が高い。急いだ所で何か出来る訳でもないのであれば、ここで少しばかり体を休めた方がいろいろとメリットが多かった。

 

 七瀬も、もはや意地を張る気力もないようで、その場に座り込むと水分を補給していく。

 

「高校生になって、いきなり無人島生活をさせられるのは流石に驚いたか?」

「それは勿論です。凄い学校だなって思いました」

「去年のオレたちもそうだった。最初の特別試験が無人島で……この学校は普通じゃ有り得ないようなことも普通にしてくると学んだ。まぁ、だからこそ面白いんだが……」

「先輩は、この学校が楽しいですか?」

「そうだな。大変なことも多いが、この学校が楽しくないと思ったことはない」

 

 もしこの学校に来られなかったら、オレは生きたまま死んだように生活していただろう。改めて、原作知識や前世の記憶を見せてくれた“俺”には感謝しかなかった。

 

「卒業までは長いようで短い。だから、悔いのないように過ごせたらといつも考えている」

 

 悔いのないように、女性キャラを攻略する――七瀬もまた、その一人にすぎない。

 

「……卒業」

「どうした?」

「い、いえ、何でもありません」

 

 ふと、七瀬が今さっきまでとは異なる気配を見せた。オレを否定して、雪の怒りを買ったあの時の気配によく似ている。

 とはいえ、それは一瞬のことだった。既に七瀬はいつもの笑みを浮かべている――まぁ、このことについても今触れるべきことではない。

 

 それに七瀬のことばかり気にしてはいられなかった。次の指定エリアについては原作知識にもないので、時間になるのを待つしかないので先手を取ることが出来ない。

 

 結局、15時になるまでゆっくりと休み、公開された次の指定エリアはC5だった。D4の南側とC5の大半は山だ。最短で向かうなら、再び山を越える必要がある。

 しかし、2時間休んだとはいえ、今の体力で山を越えるのは無理があった。いや、オレは無理をすれば行けるが、七瀬は今度こそ怪我をするかリタイア間違いなしだろう。

 

 それに、明日朝1番に再び指定エリアがC3になることがわかっている以上、ここで無理して山を越えても無駄だ。何より今後の七瀬のことを考えても、明日オレに仕掛ける体力を残してやる必要がある。

 

 いろいろ考えた結果。C5はスルーして、今日はD3でキャンプすることにした。仮に明日、C5から次の指定エリアが選ばれるとして、D3にいれば先んじてエリアを踏む危険はない。

 今、オレたちはC3の南西端に居たので、山を完全に下り川辺を回ってD3まで向かって歩いて行った。かなりスローペースで歩いたので1時間半程かかったが、流石の3年生もオレが指定エリアに向かっていないとわかると積極的な追跡を止めたようだった。

 

 七瀬も疲れを取るために、今日は早めに横になっている。とはいえ、いつもテントに入る時間は早いので、正確には今日“も”早めに横になっているが正しい。

 

 オレもまた休むことにした。

 

 明日はそのまま、7時のC3で着順報酬をゲットしつつ、9時のランダム指定で選ばれるE2へ向かうために、原作通りにD3の山を登ってその北部で七瀬と戦闘になる――紆余曲折あったが、結局はこのシナリオに行きつくように進んでいた。

 

 ようやく、明日は七瀬を食べることが出来る。

 

 本当に長かった。去年と違って遊ぶ余裕がないので禁欲生活を強いられ、本当に苦しい思いをさせられたものだ。

 この試験に入ってからずっと腹ペコだったTレックスが今か今かとその時になるのを待ちわびているが、まだもう少し我慢させる。ここで手を出しては全て台無しだ。

 

 明日、七瀬のイベントを終えると、豪雨で試験が一時中断になる。お前が活躍するのはそこからだ。慌てる必要はない。オレのために、天は時間を与えてくれる。

 

 

 




 原作との変化点。

・南雲、八神の妨害が本格的に始まった。
 サーチが解禁されたことで逃げられなくなっている。また、課題も封殺され、思うように得点が取りにくくなった。

・崖を登った。
 原作通りだが、清隆の視線はもう七瀬の桃やメロンに度々向けられており、柔らかい手の感触にTレックスも首を上げそうだった。後、一日の我慢である。

・実は分割している。
 本当は次話と合わせて一話の予定だったが文字数が16000字を越えたため分割して先出しした。そのため、内容が少し薄いが次が11000字あるので今回は繋ぎの回。


 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 崖から落ちてさすられる桃や、走ることで揺れるメロンを見てTレックスがこんにちはしそうになっている。とはいえ、あからさまに視線を向ける馬鹿な真似をするはずもなく、基本は七瀬の全身を視界に入れて誤魔化している。去年一年を通して、女子が気にしない視線の向け方は既に学習し終えていた。

・七瀬翼
 何気ない姿がもはやエロく見える不思議。地味に、南雲の妨害のせいで最短距離を歩けずスタミナを奪われている被害者。


※この話短すぎるので、今日だけ8時、12時、20時の3話構成にします(次はSIDE)。


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