12日目――おそらく、この無人島試験最後の晩餐になるであろう夜を楽しむと、朝から事態は動き出し始めた。
7時になり、新しいエリアが更新されると一度サーチをかける。椿のリーク通り、1年生の小グループが数組程、H9やI8に続々と集まって、遠巻きにオレを囲うように動いていた。
真澄たちのグループを巻き込まないように、一足先に動き出す。
サーチで得た情報を見るに、八神、宇都宮、椿の3人も固まって動いているらしく、これはまず作戦が開始されたと見て間違いないだろう。
事前にエリアサーチを繰り返していれば、オレのテーブルは簡単に割れるし、次のオレの指定エリアがH10なのはバレていると見て良かった。
このまま真っ直ぐにいけばすぐにでも捕まる。
勿論、1年生が無理に武力を行使すれば、学校側も流石にオレを擁護してくれるだろう。だが、向こうがもし自傷でもして、オレに殴られたとでも言えば、その時点で喧嘩両成敗にもなりかねなかった。
いくらGPSがあっても、冤罪を証明する方法がない以上、揉め事を起こした時点でこちらの負けは確定となる。
高円寺と組んだとはいえ、オレは実質単独グループだ。仮にリタイアにならずとも、教師に事情を話すために一度スタート地点に戻り、時間を消耗すればマイナスはどれほどのものになるかは想像に容易い。
つまり、原作通り1年生の隙間を縫って逃げるのが、今オレの出来る最善の行動だった。
J9の岩場を駆け抜け、J8の北西からJ7の砂浜を駆け抜けて一気に北上していく。エリアはもうガン無視だ。
10分に1度のペースでサーチをかけると、1年生もすぐに追う動きを見せているが、頭を抑えるよりも抜ける方が早かったため、ギリギリで逃げることが出来ていた。もしエリアを踏むことを考えて逃げるのが送れていたら、まず逃げ切ることは出来なかっただろう。
しかし、悲観することはない。
オレのこの動きを見れば、坂柳も直に動き出すはずだ。9時となり、指定エリアがH9になるが、スルーしてI4から一気に北西に向かって抜けきっていく。
椿や八神には、一見なりふり構わずに走っているように見えるだろう。
だが、13時に更新されるエリアはランダム指定のD4だ。このまま逃げているフリをしながら、次のエリアを踏んでエリアによるマイナスは回避していく。
とはいえ、サーチによるマイナスだけは回避できない。とりあえず、振り切ったことで後ろから追ってくる相手に注意すればいいだけになったので頻度を15分に1度に下げはしたが、それでも1年生たちは諦めずにオレを追う姿勢を見せていた。
13時になると指定エリアがD4になり、ここで何とか1点を回復したい所――だが、坂柳もようやく動き出してくれたようで追手の動きが止まった。
椿としては、おそらくはここでオレに宝泉を襲わせ、表向き倒しにかかるつもりだろう。
仮に駄目だったとしたら宇都宮を差し向ける――と、いう策でオレを追い込んでくると見た。手加減しなくていいとは言ったが、原作同様に本気でオレを退学させようとしているようにしか思えない。
だが、宝泉については問題なかった。
この試験が始まってから、オレは宝泉とは直接の連絡を取っていない。事前に龍園を狙うようにだけ指示し、後は8日目に七瀬に伝言を頼んだだけだった。
ちなみに伝言はそんな難しいことではなく、椿が味方だという情報を漏らしてやっただけ――だが、オレと宝泉の繋がりが周りにバレていない以上、おそらく宝泉にも事前に椿からオレを襲うための作戦は伝えられている。そして、オレが1年を振り切ってここに来ることも、椿は途中から読んでいたはずだ。
オレは今、D4からD5に南に向かうようにして逃げている。既に腕時計を壊しているようで、宝泉が今どこにいるのかはわからないが、そう遠くない位置にいるのだけは確かだった。
D5はエリアの中央に大きな川があり、南に行くにはE5に迂回して下っていく必要がある。そして、そのE5エリアこそが今龍園たちがいる場所だ。
宝泉はオレを迎え入れるように、E5エリアへ直進していき――そこで、オレより先に龍園に会い、売り言葉に買い言葉で交戦を始める。そういう動きになると、何も指示しなくても宝泉ならここまでくれば理解するだろう。
故に、オレが今すべきことは、E5の山側を大回りして龍園と宝泉の戦いを避けて逃げることだ。
龍園にはこれが偶然の遭遇であるように思わせる必要があるし、椿も宝泉が怒りに任せて暴走したと判断するだろう。このままE6を抜けて、再び大回りしながら15時にエリア指定されるD2を踏みに行く。
坂柳からは1年生の足止めには成功したという報告が入ってきた。おそらく、もうそろそろ龍園が宝泉に襲われているという報告も入るだろう。
仮に、坂柳が龍園を救出に動こうとも、宝泉が一人も倒せずに終わることはないはずだ。坂柳か龍園、どちらかのグループはダメージを受ける。そうすれば、上位3組に坂柳と龍園の名前が同時に並ぶという事態は防いだも同然と言って良い。
少し余裕が出てきたので歩きながらランキングを確認しておくことにした。このランキングも明日にはもう見えなくなる。今のうちに把握できるだけ、現状は把握しておいた方がいいだろう。
まず、1位は雪のグループで262点。
2位は南雲で257点。
3位は桐山グループで250点。
4位は坂柳グループで247点。
5位は鬼龍院で242点。
6位は龍園グループで237点。
7位は八神グループで230点。
8位は3年の落合グループで227点。
9位は同じく3年の溝江グループで226点。
10位に桔梗のグループが216点。
サーチをかなり使ったということもあり、ついにランキング外になってしまった。今のオレの点数は203点だ。
しかし、桐山は全力で南雲を抑えても尚負けるとは、想像以上に使えない男だった。
いくら南雲に八神のサポートがあるからと言っても、3年BクラスからDクラスのグループで包囲網を敷いているのであれば戦い様はいくらでもあるというのに。
まぁ、いい。桐山がこの程度なのは折り込み済み――既に南雲を落とす策は用意してある。
後、意外なのは鬼龍院が上がってきたことか。前に会った時は程々で終わらせるようなことを言っていたが、オレが落ちたことで興味が出てきたのか、それともただの気まぐれなのか、どちらにしろこのまま鬼龍院が上位3組入りする可能性は十分にあった。
対するオレは圏外。だが、今日はこのままエリアを踏むだけで特に何かをするつもりはなかった。
否、正確にはもう大きく動く必要はない。事態がここまで進んだ今、後は最後の駒を手に入れるだけで、この無人島試験については終わったも同然だ。
その駒も、そう遠くない内にオレの手元に入る。後オレに出来ることはじっくり状況を確認しながら、イレギュラーが起きていないかを確認するだけだった。
タブレットに視線を落としながらも、15時になったのでD2に入って1点を稼いでいく。1番だが、高円寺がリタイアしているので着順報酬は得られない。
まぁ、着順報酬があろうとなかろうと大きな関係はなかった。今はオレが落ちてランキング外になったという状況だが、もうここまで来れば順位やポイントなど殆どどうでもいい。
チェックまでは後少し――と、考えていた所で、背後から殺気を感じたので振り返る。
見ると、背後の木の影から宇都宮らしき男子生徒がこちらに向かって走り出してくる所だった。
少し前から後を追われているというのはわかっていたが、やはり宇都宮だったか。ここでこいつが来るのも想定通りだ。後は、こいつから必要な情報を入手するだけ――
「はぁっ!!」
しかし、こちらが声をかける前に、宇都宮はオレに襲い掛かってきた。突き出される拳を躱し、繰り出される蹴りを右腕で防御する。
想像以上に動きが早い。片手で捌ききるのは難しいと判断して荷物を落として両手で宇都宮の攻撃を捌いていく。やけに殺気立っており、まるでこちらを憎い仇だと言わんばかりに鋭い攻撃を仕掛けてくる。
とはいえ、いつまでも良いようにさせるつもりはなく、踏み込んでくる宇都宮の動きに合わせてカウンターを合わせ、顔面の前で寸止めした所で宇都宮も動きを止めた。
「……やはり強いな。です。綾小路先輩」
「満足はしたか?」
「はい。一度お手合わせしてみたいと思っていたんですが、これ以上は遊びでは済まなくなるのでやめておきます」
そう言って、宇都宮が頭を下げて離れていく。同時に殺気も消え去り、まるで何事もなかったかのようにこちらに向き直る。
見ると、宇都宮の腕時計が壊れていた。今の攻防で壊れた訳ではないし、どうやらここに来る前に壊して位置を探られないようにしていたとみるべきか。こいつもこいつで、割と本気で奇襲してきたようだ。
「宝泉はどうなった?」
「リタイアしたようです。俺も詳しい状況は聞いていないので知りませんが、2年生の中にも何人かリタイア者が出たということでした」
龍園と相打ちしたのか、はたまた葛城か橋本を倒したのか――どの道、グループのメンバーが欠ければ着順報酬も受け取れなくなる。これで、龍園が上位に入ることはまずなくなったと見て良いだろう。
「しかし、来るのが早かったな。来るにしてももう少し時間がかかると思っていたぞ」
宝泉が龍園とぶつかった以上、後詰として宇都宮がこちらに来るであろうことはわかっていた。原作ではしなかったが、宇都宮とオレをぶつけるという手段は割と有り寄りの有りだ。
こいつの能力がどれほどのものかは知らないが、宝泉とタメを張れるなら、オレを倒すことが出来るかもしれないと考えても、特に不思議はない。
故に、こうして宇都宮が仕掛けてくることは読めていた。が、椿がこちらの味方である以上、その相棒である宇都宮もこちら側の人間だ。
八神は、この試験を通じて椿から宇都宮を引きはがして自分の駒にしようと思っていたようだが、波田野の件は想像以上に宇都宮の復讐心に火をつけている。
椿が八神に黒判定の可能性を出している以上、宇都宮が八神に靡くことはない。だからこそ、こうして襲ってきても裏切られたという可能性は考慮に入れなかった。
「八神はどうだ?」
「かなり怪しいです。4日目から1年Bクラスの生徒を中心にしたグループに指示を出して動かしていました。かなりの数のグループだったはずですが、その指揮能力は流石と言えます。だからこそ、あいつが波田野を唆したと言われれば納得できる……ます」
「椿はなんて言っていた?」
「99%黒だと。100%じゃないのは証拠がないからだと言っていました」
八神は原作と違い、この試験でオレと戦うために実力の一端を見せてしまった。それが椿や宇都宮の疑念を深める結果となったようだ。
これで、宇都宮ももう八神を裏切ることに躊躇はしないだろう。これで欲しかった駒は全て手に入れることが出来た。後はチェックをかけていくだけだ。
「椿からは、ここから先は先輩の指示に従えと言われています」
「何も聞いていないのか?」
「はい」
ふむ。どうやら、椿は八神を警戒して宇都宮に作戦の詳細を話さなかったらしい。
このオレ以外誰も居ない場所で説明をすることも、彼女の作戦の内ということか。
「なら明日、八神に仕掛ける。お前にはそのサポートを頼みたい」
「……荒事ですか?」
「いや、オレの想定通りに事が進むのであれば、おそらく荒事にはならない。正確には荒事にはなっているだろうが、お前が顔を見せれば八神も状況を理解するはずだ」
オレが八神を買い被りすぎていなければ、だが。
「? よくわかりませんが、俺は八神に仕掛ければいいんですね?」
「ああ。後、腕時計はそのまま壊したままにしておいてくれ。万が一にも、八神にお前の存在を悟られたくない。いつ仕掛けるかは、椿を通じて連絡が来るようにしておく」
「先輩は一緒に来ないんですか?」
「ああ。オレはオレでやることがあってな」
嘘だ。やることなどない――が、オレがもう試験などどうでもいいという動きをすることで、南雲の不安を煽ることが重要だった。
オレにはまだ逆転するための手段があるかもしれない。そんな不安を漠然と植え付けることが、最後の策を成功させる伏線となる。
「わかりました。これ、俺のトランシーバーのコードです。何かあればいつでも連絡してくれ……ださい」
「相変わらず敬語が苦手か。別にため口でもいいんだぞ?」
「いえ、先輩にため口を利くなんて、普通の1年らしくないですし」
と、言いながら、宇都宮はオレに頭を下げてこのエリアを去って行った。改めて、宇都宮の最初の蹴りを防御した右腕を握ってみると、まだ若干の痺れが残っている。
勿論、戦闘に支障が出るほどではなかったが、宇都宮の戦闘力は原作でもはっきりしていないし、もしかしたらオレが想像している以上の力を持っているのかもしれない。
◇◆
13日目――無人島サバイバル試験も、今日を含めてあと二日。ここからはランキングも確認できなくなり、誰が上位と下位の3組に入るか確認できなくなる。
今日はまだいい。昨日までのデータで大体の推移が予測できる。だが、最終日は全ての得点が2倍になるという7日目に試験を中断したことによる補填があった。そこの結果次第では誰がどうなってもおかしくはない。
だからかはわからないが、今日は全員がピリピリした様子を見せているようだが、オレはもう全ての指示を出し終えているので今もうすることが何もなかった。
本番は明日。南雲を倒して月城と対峙してこの試験を終了する――その終わりがもう見えている。と、考えていると、朝7時に更新されたC3に向かっている途中で、オレ用のトランシーバーに坂柳からの連絡が入ってきた。
『おはようございます、綾小路くん。昨日はいろいろと大変でしたよ』
「それは済まない。だが、坂柳のおかげで助かった」
『代わりにこちらは被害甚大です。うちのグループの鬼頭くんと山田くんがリタイアして、うちは戦力半減です。伊吹さんを始め、森下さんや山村さんも頑張ってくれていますが、うちのグループが上位3組に入る可能性はなくなったと言って良いでしょう』
「何があったんだ?」
あくまでも、何も知らないという体を貫く。おそらく、坂柳も宝泉が龍園を襲撃したのは意図的なモノを感じているかもしれないが、それがオレの仕業だという確証はないのだろう。会話に探る感じが伺える。
しかし、白を切り通せば問題はない。
宝泉はあの性格だし、負けたとしても依頼主のオレの情報を漏らすことはあり得ない。
それに、坂柳からすれば椿や八神を始めとした1年が、上位を落とすために小グループである龍園を狙ったと考えても不思議はない場面だ。
『龍園くんのグループが宝泉くんの襲撃に会いました。幸い、龍園くんも試験続行不能になるようなことはなかったようですが、彼の救援に鬼頭くんと山田くんを向かわせたことで、こちらは手痛いダメージを受けてしまった形です』
「そうか、宝泉が……こっちには宇都宮がやってきた。ご丁寧に時計を壊して奇襲を仕掛けて来てな。反応が少し遅れていたら手痛いダメージを受けていた」
と、ここでこちらも被害者だと声を上げる。
『綾小路くんの方にも襲撃があったんですね』
嘘ではない。坂柳も、宇都宮が腕時計を壊しているという情報はサーチで知っているはずだ。宇都宮は1年の中でもリーダー格の一人、その居場所を常時警戒しないはずがない。
そして、オレがその情報を持っている以上、オレと宇都宮が接敵したことを疑いはしないだろう。また、オレが襲撃を受けたことで、宝泉が龍園に仕掛けた行為が1年によるものだと思考を誘導できる。
「ああ。オレが逃げ切って安心した瞬間を狙ってきたんだろうな」
『そうでしたか……お怪我などは?』
「途中で他の生徒が近づいてきたことで宇都宮が撤退したから何とかなった。仕掛けられたのが指定エリア付近じゃなかったらヤバかったかもしれない。実際、宇都宮はかなりできる。あのまま続けていたらどうなっていたかは見当もつかないな」
実際、本当に手合わせしたからこそ、オレの言葉に嘘はない。坂柳も、嘘だとは感じないはずだ。
『……あなた相手に探り合いをしても無駄ですね。正直に聞きます』
このままでは埒が明かないと思ったのか、坂柳が降参とばかりの声を出して、改めて質問を飛ばしてくる。
『昨日、龍園くんに宝泉くんを仕掛けたのは、綾小路くん……あなたですね?』
「オレが? どうして、そういう結論になった聞いてもいいか?」
『昨日の龍園くんへの襲撃は少し妙でした。あの時、綾小路くんの背後から迫る1年生を止めた際、あなたの前方には宝泉くんと龍園くんのグループがいました。最初は、たまたま逃げた綾小路くんを封殺する形で宝泉くんが動こうとし、紆余曲折あって先に出会った龍園くんと対峙することになった――と、思ったのですが』
ですが?
『あまりにもタイミングが良かったので、もしかしたら宝泉くんは最初から龍園くんを狙っていたのではないかと思ったんです。龍園くん曰く、彼のグループが最初は撤退に動いていたにも関わらず、宝泉くんは後を追ってきたとのことでしたので』
「確かに、宝泉の性格なら逃げる獲物には興味を失いそうだ」
『私もそう思います。だからこそ、あれは誰かから龍園くんを襲うように指示を受けていたのではないか、と思いまして』
「それがオレだと?」
『可能性として有り得ると思っただけです。椿桜子さんが指示して襲わせた線も十分に有り得ます。私や龍園くんのグループが上位に入っていましたからね……ですが、何となく私は綾小路くんじゃないかと思ったんです』
何となく――つまり、確証はないということか。
実際、オレが宝泉に指示したというのは、オレか宝泉が自白しないと知り得ないが、どちらも死んでも自白はしない。故に、いくら坂柳でも確証を得ることは不可能のはずだ。
『フフ、恋する乙女の直感かもしれませんね』
「直感で疑うのはやめてくれ。オレと宝泉は確かに前回の特別試験で同じペアを組んだ仲ではあるが、この特別試験中は顔を見てすらいないんだ」
『すみません。綾小路くんも宇都宮くんに襲われたということですし、私の思い違いだったようです。ただ……特別試験前に、綾小路くんと椿桜子さん、宇都宮陸くんが接触していた、という情報もありましたので、もしかしたらと思ったんです』
これはもうほぼ確信しているな。だが、坂柳としてもこれ以上追及は出来ないし、そもそもするつもりもないだろう。
オレが宝泉、椿、宇都宮とも繋がりがあることがわかった。同じ手はもう通用しないぞ――と、釘を刺しているのだ。
「坂柳……それはオレじゃなくて雪に会いに来たんだ。雪と椿が姉妹なのはお前も知っているんだろう?」
『そうでしたね。傍から見ても仲の良い姉妹だというのがよくわかります』
「誤解が解けたなら何よりだ。今回の件は、前にも言った通り借りにしておく」
『そういえば、竹本くんのグループがお世話になったようですね。彼から伝言を聞いた時は少し驚きましたよ』
「3年の動きが思ったよりも派手でな。オレからお前に連絡する余裕がなかったんだ」
どうやら、竹本はしっかり坂柳に連絡をしてくれていたらしい。そうでないと白波を助けた意味がないので、しっかりと借りに感じて欲しいものだ。
『聞けば、逸れた白波さんを助けるために何度かサーチまで使われたということですし、今回の件は貸し1つにまけておいてあげます』
「それは助かる」
『それで、1年生や3年生はどうするおつもりですか? 昨日程の強硬手段には出ていないようですが、変わらず綾小路くんの周りでうろうろしているようですし、向こうは諦めてはいないみたいですが……』
「問題ない。欲しかった最後の駒も手に入ったし、1年に関しては近いうちにケリをつける。3年――と、いうか、南雲とはおそらく明日、直接会うことになるだろう」
『勝算があるなら何よりです。せっかく助けたのにすぐに退場されてはリタイアした鬼頭くんや山田くんが浮かばれませんからね』
「おいおい、鬼頭やアルベルトは別に死んだわけじゃないだろう。物騒なことを言うな」
思わずツッコミを入れると、坂柳は『冗談ですよ』と、鈴のような笑いを零した。
『では、失礼します。私のグループの上位入りの目はなくなってしまいましたが、それでも出来ることをやるつもりです。綾小路くんも頑張ってください』
そう言って、坂柳は通信を終える。正直、暇を持て余していたのでもっと話していても良かったのだが、坂柳としてもまだまだすることがあるのだろう。
坂柳の大グループは2名のリタイアを出した。つまり、ここからは着順報酬が得られず、到着ボーナスも2人分少なくなる。昨日まではまだ上位に居たが、今日から明日へとスパートをかけられればたちまち沈んでいくことは目に見えていた。
とはいえ、だからといって坂柳に出来ることがなくなる訳ではない。それこそ、もう下位入りの危険がないグループを使って課題を独占して龍園に斡旋したり、備蓄していた水や食料などを融通したりと、龍園グループの上位入りへのフォローに動くであろうことは想像に容易かった。
まぁ、オレとしても、龍園グループ一つだけなら上位入りしても問題はないのでこれ以上の妨害をするつもりはない。最悪の場合は天沢を使っての妨害も考えたが、坂柳はオレと天沢の関係を知っているし、その辺りもしっかりと警戒しているだろう。
つまり、今のオレに出来ることはもう何もないということだ。9時に再びD2が指定されたので来た道をゆっくり戻る。
もう課題を受ける必要もないので、のんびりするだけでいい。そして、9時半になるかならないかの時間になると、オレのトランシーバーに八神が白旗を上げたという連絡が入った。
「八神……お前の敗因は、オレ以外を敵と認識していなかったことだ」
原作でもそうだが、ホワイトルーム生であることに誇りを持ちすぎているが故に他者を見下し慢心する癖がある。今回はその隙を突いて勝たせて貰った。
しばらくしてサーチを使って状況を確認してみると、オレを妨害するように動いていた1年生たちが綺麗サッパリと消えている。とはいえ、だからと言って急いで課題を受けることもなかった。
13時に更新されたランダム指定のF3を、原作知識を使って楽に踏んでいく。その後、15時になってこの日最後のエリアであるG3を踏み、得点が219になるとそのままG3でキャンプし、明日に備えて早めに体を休めることにした。
最終的に、今日の得点は4得点だけ。途中でサーチを一回使ったので実質3得点だ。
もし、今日もランキングを確認できるのであれば、オレはもう上位10組はおろか上位20人にも名前はなくなっていただろう。
だが、このランキングが確認できないというのはミソだった。南雲はおそらく、今日一日オレの動きを注意深くマークしていたはずだ。そのオレが課題も受けずにのんびりと無人島を歩いていただけという状況を見て、不気味さを感じないはずがない。
何をしようとしているのか、どんな策を考えているのか――直接会って確認したくなるだろう。
オレは南雲のトランシーバーのコードなど知らない。向こうも、オレのトランシーバーのコードなど知らなかった。だからこそ、原作のようにオレの位置を確認して、偶然を装って接触しようとしてくる。
その時が、南雲の終わりだ。
勿論、南雲がオレのことなどもうどうでもいいと無視する可能性もあるが、その場合はもう一枚の切り札を切ればいいだけだった。どう転んでも、最初から南雲に勝ち目などない。
ただ、この切り札を使った場合、少しばかり面倒なことにもなるので、出来れば南雲が釣れてくれることを願う。だが、オレは高確率で南雲が原作通りにオレに接触すると踏んでいた。
なずなの件もそうだが、あの男はオレに完全勝利したいと考えている。こんな数に物を言わせただけの勝利ではなく、1対1の勝負を望んでいるはずだ。
だからこそ、まず間違いなく接触してくる――あいつはまだ自分がずっと舞台上で踊っているだけのピエロだということに気が付いていない。そんなことだから、なずなも簡単にオレに奪われてしまったのだ。
結局、愛や恋なんていうどうでもいい感情に振り回されてしまったが故に、女も、金も、立場も、全てを失うことになる。
可哀想な男、南雲――もし、もうお前に次は存在しないが、もし生まれ変わってもう一度同じ人生をやり直すのであれば、もうオレには関わらずになずなを大切にして生きるんだな。
原作との変化点。
・宇都宮が追撃に駆り出された。
原作では危険を考えて温存されているが、このSSではこの追いかけっこ自体が茶番なので普通に追撃(連絡要員)として出している。まだ隠された力があるらしいし、宇都宮はやはり禁止区域出身では? と、ボブは怪しんでいる。
・坂柳グループの男組がリタイアした。
龍園の救援に走った鬼頭とアルベルトがリタイアしている。そのため、必然的に坂柳グループも失速せざるを得なくなった。ここからは龍園グループをフォローすることで上位を狙う策にシフトしている。
・坂柳が清隆の関与に勘付いた。
あまりにも緻密で計算された策であり、ほのかに清隆の香りがすると、直感的に気付いた。とはいえ、証拠はなくそうではないかと思った程度。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
宇都宮が想定外に強くて驚いた。もし、完全に決着をつけるつもりで戦っていたら、もしかしたら傷の一つでも負っていたかもしれない。
・坂柳有栖
恋する乙女の直感です! で、清隆の関与を感じ取れるやべー女。誇張ではなく、原作でも裏に清隆がいれば気付くと言っている。
・宇都宮陸
椿のメッセンジャー。だが、清隆の実力が気になり、つい勝負を挑んでしまった。探り程度でお互いに全く本気は出していない。