SIDE:宝泉和臣
龍園がいるE5エリアの手前、E6で俺はずっと待機していた。椿からの連絡を受け、あの男を追いかけるフリをして、真っ直ぐに龍園の元に駆けていく。
正直、あの男との約束がなければ、椿の策に乗るかどうかは半々くらいだった。
しかし、椿の策に乗ったことで、俺が“意図的に龍園を襲いに来た”――と、いう状況から、“綾小路を追っていたらたまたま龍園を発見した”という状況に変わった。後は売り言葉買い言葉で適当に喧嘩を売ってやれば良い。
こちらは既に腕時計を壊してあり、事前に俺の動きを予測して回避するのは不可能な状況だ。逆に、こちらは事前にサーチして目標の位置は補足している。
後僅かだ。
中学の頃から名前だけは知っていた。見た感じは飄々とした蛇のような男――だが、とても強そうには見えない。力だけなら、あの男に適うはずもない雑魚。まずは、お前を片付けて俺は上に行く。
「こんな所で偶然だな、龍園パイセンよぉ!」
獲物が視界に入った。目の前にいるのは3人――龍園翔、葛城康平、橋本正義。こいつらを倒しきってリタイアさせるのが、俺の今回の仕事だ。
「宝泉か。こんな所で何してやがる?」
「ちょっと野暮用があったんだが……テメェとここで決着を付けるのも悪くねぇなぁ」
「おいおい、いいのかこんな所で暴れて? 誰かに見られでもしたら事だぞ」
「ハッ! テメェは知らねぇだろうが、別の事情でここいらに他の生徒がいないことは確認済だ。本命はテメェじゃねぇんだが、いずれ決着をつけたいとは思ってたことだし、ここで会えたなら逃がす手はねぇ!」
「チッ、もうスイッチが入ってやがる。おい、葛城、橋本、一旦下がるぞ」
こちらが一歩距離を詰めようとすると、それに対するように向こうが一歩引いていく。
「おいおい、逃げんなよ。こっちはもう腹ペコなんだ! 殴り合いから逃げるなんて興醒めじゃねぇか」
「勝手に吹っ掛けて来ておいて、勝手に冷めようとすんなよ。ちょっと場が悪いだけだ」
口だけは達者だ。しかし、いつまでも逃がすつもりはない。向こうはこちらに顔を向けながら後退している。必然的に、前進するこちらの方が早い。
そのまま、ある程度の広さが確保できる場所まで出ると、ようやく龍園は足を止めた。
もう逃げきれないとわかったのだろう。仮に背を向けて逃げ出すようなら、もう戦わずに追いかけて一方的にボコるだけだ。
「ったく、面倒な奴に目を付けられたもんだ」
「おい、龍園。本当にやるのか?」
「やらなきゃやられんだよ。俺だって、メリットもなしにこんなゴリラと戦いたくはねぇが、戦わないと生き残れない以上やるしかねぇんだよ」
葛城は戦うことを拒否する素振りを見せるが、龍園は覚悟を決めたようで荷物を捨てて構える。
それを見て、一緒に居る橋本が「まじでやんのかよ」と引きつった笑みを浮かべた。本命は龍園だが、こいつもボコる対象の一人ではある。逃がすつもりはない。
「3対1だが、お前から仕掛けてきたんだ。文句は言わねぇよな?」
「なんだ、3人で俺が倒せるとでも思ってんのか?」
「余裕過ぎてお釣りがくるレベルだろ」
ゆっくりと龍園へと近づいていく。今度はもう逃げなかった。それを見て、葛城がため息を吐いたように荷物を後ろに投げる。
「いくぞ、オラァ!!」
先手必勝――相手は三人であることも考え、大ぶりは避けてまずは様子見で軽くジャブを決めにいく。
向こうも俺との力の差がわからないほど馬鹿じゃない。直撃は貰えないと思ったようで、バックステップを踏んで攻撃を回避してくる。
意外にも、その隙を突いてきたのは橋本だった。
一番乗り気でなかった男が、気が付けばこちらの懐に潜り込んでいる。どうやら狙いはボディのようだが、ここは回避しなかった。
この程度の攻撃など避ける必要もない。打ち終わりを狙って、捕まえてやろうかと思ったが、こちらの意識が逸れたのを見て龍園が懐に飛び込んできた。
そのまま、こちらの顎を狙った一撃を捕まえる。
しかし、追撃は出来なかった。捕まった龍園をフォローするかのように葛城が飛び込んできたので、仕方なく一度手を離して状況を立て直していく。
即席の仲間かと思っていたが、意外にも上手いこと連携してくる。だからといって脅威度が上がった訳ではないが、ただ殴るよりは歯ごたえがあって面白い。
「いいお供を連れてんじゃねぇか」
「おいおい、マジかよ。本気で殴ったのに全然効いてねぇんだけど……」
「相手は野生のゴリラだ。ちょっとやそっと殴った程度でどうにかなる奴じゃねぇさ」
「白旗を上げる訳ではないが、体格差は歴然だ。下手に攻撃を受ければ即戦闘不能にされかねないぞ」
「んなことわかってんよ。いいか、足止めんじゃねーぞ」
そう言って、龍園が走り出すのと同時に、葛城や橋本も動き出した。どうやら三方向から攻撃して的を絞らせないようにするつもりらしい。
小癪な動きだが、その程度の連携が通じるほどこちらも甘くはなかった。少し下がって木を背にする。これで死角からの攻撃は出来ない。
どんなに細かく動こうとも、視界に入ってさえいれば対処するのは容易だ。真っ向から殴り掛かってきた龍園を捌いて、その後ろにいた橋本に殴り掛かっていく。
「やばっ!?」
自分が狙われたとわかると、橋本はハッとしたようにすぐに防御を固めたが、その上からぶっ飛ばしてやった。
橋本が勢いよくぶっ飛ぶのと同時に、再び龍園が仕掛けてくる。だが、一歩遅い。こちらの攻撃と同時なら回避は難しかったが、向こうも立て直しに一瞬かかったせいで、こちらに対処の暇を与えてしまっていた。攻撃が当たる直前で、その左手を軽く受け止めてやる。
「おっと、随分やんちゃな左手じゃねぇか」
「臭ぇ息吐いてくれんなよゴリラ」
「口だけは上等だな。2年生としてのプライドや実力を見せてくれよ? なぁ!」
掴んでいた手を一瞬離し、今度は腕を掴み直して引きずり込む。そのまま、頭突きで龍園の額にこっちの額をぶつけてやった。
「ッ!!」
流石にこの一撃は予想外だったようで、龍園も苦悶の表情を受けながらよろめく。その隙に前蹴りを腹に叩き込んでやろうとすると、間に葛城が入って攻撃を防御してきた。
しかし、関係ない。間に入ってきた葛城ごと蹴りを繰り出して、葛城と一緒に龍園も一緒にぶっ飛ばしていく。龍園へのダメージは減るが、代わりに葛城も防御の上からかなりの衝撃を受けたはずだ。
「ぐっ……立てるか、龍園」
「誰に物言ってんだ。この程度、何てことねぇよ。おい、橋本! 生きてんなら、サボってねぇで早く戻ってこい!」
「いや、人使い荒すぎだろ! 防御した腕が折れるかと思ったんだぞ! ってか、今も滅茶苦茶痛ぇし!」
「おいおい、威勢よく吠えてからまだ1分も経ってねぇんだぜ? 笑わせてくれるなよ!」
「チッ、クソ硬ぇ石頭が。本当に石でも入ってんじゃねぇのか? クソゴリラ」
また挑発――結局、口だけは達者だが、三対一でこの程度か。やはり、俺を満足させられるのはあの男以外にはいないな。
「どうにも期待しすぎたな、俺が。思った通り、お前じゃ話にならねーか」
「お前が満足する相手がいるとも思えねぇけどな」
「いるだろうが、テメェと同じ学年に綾小路っつーやべぇのが」
「あ? なんだ、テメェも知ってる口かよ宝泉……いや、そうか。やっぱ、あの怪我の原因はお前が――」
何やら納得したような顔で、龍園がこちらに余裕の笑みを浮かべてくる。
「ハッ! 本当はお前じゃなくて、綾小路を狙う作戦だったのさ。だが、目の前にうろちょろしてるのが目に入ったからな。どうせなら先に決着を付けようと思ったんだが……期待外れも良い所だぜ」
これだけアピールしてやれば、少なくとも俺があの男と組んで意図的にこいつを狙ったとは思わないだろう。
俺としてもここであの男との繋がりをバラしたくはないからな。いずれ、どこかの特別試験で龍園とやり合うことになった時、この繋がりが便利に働く可能性もある。
「逆に俺はお前に興味が湧いて来たぜ宝泉。いつどこでやりあった、結果は?」
時間稼ぎのつもりか――いや、この感じは演技じゃない。こいつも、随分とあの男にご執心のようだな。
いや、思えば、こいつもあの男と同学年だ。俺なんかよりも先にあの男の実力を知っていたとしてもおかしくはない。だが、ただで教えてやるつもりなどなかった。
「ヘッ、教えて欲しければ俺に勝つんだな」
いい加減に時間稼ぎも終わりだ。首を左右に動かして、骨をコキコキ鳴らしながら、改めて龍園へと近づいていく。しかし、龍園は変わらない余裕の表情で口を開いていた。
「いや、その様子を見れば何となくわかるぜ。お前が負けたんだろ? もし、お前が綾小路を倒しているなら、ここで狙う必要もないもんな」
「まぁ、少なくともお前よりは強かったぜ。タイマンで俺とあれだけ戦える奴は、これからも見ることはねぇだろうしな」
「チッ、俺抜きで随分と面白そうなことしてんじゃねぇか」
お喋りはここまで――地を蹴り、龍園へと距離を詰めて拳を再び振り抜いてやる。またも葛城が代わりに防御しようとしてきたので、そのガードを弾き飛ばして拳を顔面にねじり込ませた。
腕によるガードがなければ、鼻の骨くらいは折れていただろう。だが、これで葛城はしばらく動けない。橋本はまだ距離があって援護は無理。これでようやくタイマンだ。
葛城が横薙ぎに殴り飛ばされるのを見ながら、龍園は再び距離を詰めて拳を振り抜いてきた。その一撃をガードして、今度こそ蹴りを腹にぶち込んでやる。
攻撃速度も、威力も、この程度なら相手にならない。龍園翔のレベルは雑魚よりはマシ程度――と、評価を下しながら、上半身を起こそうとした龍園の顔面に追撃の蹴りを入れてもう一度地面にお寝んねさせてやった。
「寝たり起きたり大忙しだなぁ?」
「ってぇなこの野郎……」
「意地だけは一人前だなぁ。けど、もう大体の力はわかった。お前じゃ何回やっても俺には勝てねぇよ」
「ケッ、もう勝ったつもりかよ?」
「ああ。もう終わりだよ。結局、テメェは雑魚を使ってしかのし上がれない男ってことだ」
「今時、一対一で勝つことだけじゃ全てじゃねぇだろ? 現に中学の時、俺とお前の世間の評価は変わらないものだったからな」
「こそこそ逃げ回って直接対決を避けてたもんな。涙ぐましい努力だぜ」
と、会話をしている間に、橋本がこちらに近づいてきていた。葛城の方は起き上がろうとしてはいるものの、思ったよりもダメージが大きいようでまだふらついている。
「っと!」
こちらが軽く周囲の様子を見ていると、その隙を突いて龍園が握り込んだ土をこちらの顔面に向かって投げつけてきた。
流石に視界を封じられるのは面倒なので、腕で土をガードする。その間に、龍園は起き上がってこちらに駆けてきた。合わせるように、橋本も動き出す。
「無駄なんだよ!」
「そうかよ!」
拳を振り抜くふりをして握り込んでいた砂を投げつけてくるが、起き上がった時に両方の手で砂を握り込んでいたのはしっかり見ていた。左の砂を難なく回避し、追撃の右の砂も腕で防ぐ。
そのまま、龍園の顔面を殴――ってやろうとした瞬間、横から橋本が飛び蹴りをかましてきた。自分のパンチじゃダメージにならないと判断して、威力の高い飛び蹴りを仕掛けてきたのだろう。
咄嗟に攻撃をキャンセルし、半身になって飛び蹴りを回避していく。続けて、着地した瞬間の橋本を蹴りで吹っ飛ばしてやった。その隙を突いて、今度は龍園が蹴りを放ってきたが体を捻って回避する――が、ギリギリで足先が顎に掠める。
「チッ! 長い脚じゃねぇか!」
反撃でボディを狙うが、龍園はガードを下げて直撃を防いできた。それでも、耐えきれずにたたらを踏んだ所に追撃で顔面を殴りに行く。
しかし、これも直撃しなかった。またも葛城が間に入って攻撃をガードしてきたのだ。ガード越しに拳を受けて葛城が後ろに倒れ、龍園もまた押し潰されるように後ろに倒れる。
「頑丈な手下だな」
だが、限界も近い。橋本は今の蹴りでほぼ戦闘不能になったようで警告アラートが鳴っていた。一緒に倒れている葛城ももうグロッキー、龍園だけはまだ意地で立ち上がろうとするが、こいつ一人で俺に勝てる可能性はゼロ。
「ったく、マジでゴリラだな。喧嘩自慢だけは認めてやるぜ……」
「そうかい。じゃあ、そろそろ終わりにするぞ。テメェの後にはお楽しみも待っているんでね」
実際、予想外に消化不良だ。この後、勝ち負けを気にせず、一度あの男に挑むのも悪くないかもしれない。勝てなくても、戦いの中で見えるモノだってあるはずだ。
「待てよ。何勝手に勝った気になってんだ?」
「あぁ?」
「俺が一度でも、お前に負けたと言ったか?」
「その精神力だけは認めてやるよ。それだけを誇りにしてさっさと沈んじまいな」
葛城を退かして起き上がろうとする龍園に再び蹴りを入れて吹っ飛ばす。続けて、踏みつぶすように腹部に足を振り落とした。二度、三度と続けて足蹴にしていると、流石に限界が来たようで龍園の警告アラートも音を鳴らし出す。
それを聞いて、葛城が俺の足を抑えるように動き出した。すぐに振りほどくも、その隙に龍園は起き上がって再びこちらとの距離を取っている。
「平静を装っちゃいるが、体は限界だって悲鳴を上げてるんじゃないか? お前より腕時計の方がよっぽど素直みたいだなぁ!」
「ハッ、腕時計が壊れただけなんじゃねぇか?」
「なら、さっさとリタイアさせてやるよ。そうすりゃ、腕時計を交換する必要性もなくなるだろうしな」
「それはどうかな? まだ勝負は終わっちゃいねぇ」
「……まさか、わざと緊急アラートを鳴らしてセンコーでも呼ぶつもりか?」
「クク、それもいいな。そうなりゃ、お前はリタイアを通り越して最悪退学だ」
「適わないからって被害者ぶるつもりかよ? ダセェな、ダセェぜ龍園よう」
「センコーが怖ぇなら、ここで手を引いといた方がいいんじゃねぇか?」
「残念だったな。俺のGPSはとっくにオフの状態だ。センコーが駆け付ける前にぶっ殺してやんよ」
そう言って再び一歩前に踏み出していく。
だが、その瞬間、背後からガサッと何かが揺れる音が聞こえた。咄嗟に振り向くと、二つの影が飛び出してこちらに飛び掛かってくる。
ここに来る前にサーチを行った時、この周囲には龍園と上にいる綾小路以外は誰も居なかった。仮に戦いが始まってから一直線にここに目指したとしても、辿り着けるような時間はないはず――と、考えながらも不意打ちに対してギリギリで反応する。
こちらを抑え込もうとするのを何とか回避して、飛び掛かってきた大柄な男二人のうち、小さい方に狙いを定めて拳を振り抜いていた。
「チッ! この不意打ちすら躱すかよ!」
おそらく、龍園の狙いはこの二人の援軍に俺を捕まえさせることだったのだろう。もし、一瞬、後ろの音に気付くのが遅れていれば、捕まっていたのは間違いない。
襲い掛かってきた方の一人は黒人のようで、体格は俺とそう変わりはなかった。あいつに捕まっていれば、まず間違いなく俺は身動きを封じられてやられていた。
「回れ、アルベルト!」
「yessir!」
「おい、鬼頭、いつまで寝てやがる! さっさと起きて動け、この役立たずが!」
「……誰が役立たずだ」
見ると、葛城も何とか起き上がろうとしており、橋本もフラフラになりながらもこちらに向かってきている。
5対1――状況は不利だが、それでも俺が負けるはずがない。これくらいの人数差、いくらでも捌いてきた。それに、半分はもうボロボロ、まともに戦えるかどうかも怪しい。
「チッ、どうやってここに来やがった!」
「お前が偉そうに語ってたじゃねぇか。腕時計を壊してりゃGPSで認識されることはない。まぁ、こいつらはお前と一緒で本当なら別の仕事が割り当てられてたんだけどな」
向こうもこちらと似たような策を取っていたということか――と、すると、おそらくこの二人は綾小路への援軍だ。後詰として出てくる俺や宇都宮への不意打ちとして、綾小路の近くに置いておいたのだろう。
「他の1年が2年に捕まってたのは偶然じゃなかったって訳だ」
「状況の整理は終わったかよ」
「まさか、5対1だからって勝てるとでも? つけあがんなよ、雑魚が……!」
「そう威勢よく吠えんなよゴリラ。処刑はこれからだぜ?」
改めて、第二ラウンドがスタートする。
しかし、援軍に来た鬼頭とアルベルトという二人は、予想外にも葛城や橋本以上に戦闘能力が高かった。特にアルベルトの方は力やタフネスだけなら俺とそう大差はない。
自然とこの二人に注意を払わざるを得ず、龍園たちのスタミナも切れかけていたこともあって何とか二人を沈めたものの、それと同時にさらなる援軍として石崎と近藤とかいう奴らがやってきて流石の俺も動きを封じられてしまった。
俺の方が強いのは間違いない――が、それでも葛城、橋本、石崎、近藤と、男子4人に体を抑え込まれれば抵抗することが出来なかった。
龍園が勝ち誇った表情で、動けない俺を殴ってくる。一人じゃろくに戦えない雑魚野郎が、調子に乗りやがって。
意識が段々と遠のいていく――だが、これは負けだが、敗北じゃない。タイマンで勝てない龍園の小細工に嵌っただけだ。
いつか、必ず殺し返してやる。
綾小路清隆とは別に、龍園翔が俺のぶち殺しリストに名前が載った。しかし、実力では負けていない。やはり、俺を完全に倒すことの出来る人間は、あの男だけだった――
◇◆
SIDE:坂柳有栖
無人島サバイバル試験12日目――竹本くんを通じて、綾小路くんからエマージェンシーが飛んできた。
5日目に綾小路くんから、1年生が彼を狙っているという話は聞いており、サーチが解禁された日の夜から毎夜毎夜サーチをかけて1年生の動きを見張っていたので、11日目の夜中に1年生が彼の近くに移動していたのは勿論把握している。
「動き出したようですね」
現在時刻は7時半――サーチを開始すると、綾小路くんが1年生の包囲を抜けようと動き出した所だった。
こちらもスタンバイは済んでおり、いつでも動ける体制を整えているが、綾小路くんの動きを見て指示を出すのを止める。
今、綾小路くんはJ9から北上しようとしていた。
対する敵の追っ手は二手に分かれたようで、3つのグループがH9を西に動いており、2組のグループが綾小路くんの頭を塞ぐように動いている。
しかし、綾小路くんなら、間を抜けて北上していくだろう。そうなれば、残りの2グループは後ろを追う形になる。にも関わらず、別のグループを山越しに行動させている所から見ても、敵がD3~D6、E3~E6のどこかで綾小路くんを挟み撃ちにしようとしているのは明らかだった。
「各グループ、指示を出し直します」
相手の動きを見て、こちらも動きを変える。
ここですぐに動いて敵の頭を抑えるよりも、こちらに呼び寄せた方が後詰を叩きやすい。
敢えて、綾小路くんがこちら側に逃げて来るまでは手を出すことをせず、しばらく状況を放置することにした。
その間に、指定エリアや課題を目指しているこの時間、全く動いていない1年生を探していく。7時の段階から動いていないGPS反応は3つ――八神拓也くん、宇都宮陸くん、椿桜子さんの三人だ。この3人の誰かが、おそらく1年生を指揮している。
しかし、椿桜子さんは綾小路くんの相棒である椿雪さんの妹であり、彼と繋がっている可能性が高い。つまり、黒幕は八神拓也くんか宇都宮陸くんのどちらかと見て良いだろう。
敵はF9にいるようだったので、鬼頭くんを使って黒幕を探りにいく。すると、宇都宮くんがそれを妨害するように出てきた。この時点で、宇都宮くんが指揮官という可能性はなくなり、自然と敵は八神くんに絞られたので鬼頭くんを撤退させる。
その後、13時が過ぎた辺りで、綾小路くんが予想通りの動きで敵をこちらに連れてきてくれたため、こちらも用意しておいた駒を使ってそれを足止めしていく。
だが、足止めすると言ってもそう簡単ではなかった。いくら地図上で同じエリアにいるといっても、無人島は広いので会えない可能性もある。
とはいえ、これまでの12日間で無人島の内部は少しずつ地形の変化が起こっていた。日々、生徒や教師が島内を駆けまわっているおかげで、他よりも道が整っており、移動するためのルートはある程度決まってきている。
そこから逆算すれば、直接現場を見ていなくても敵がどこにいるのかを見つけるのはそう難しいことではなかった。南から北上するグループ、北から南下するグループ――綾小路くんを追っていた合計5グループの動きを止める。
「おや、動き出しましたね」
それと同時に、宇都宮くんが腕時計を壊したようでGPS反応が消えた。おそらく、綾小路くんを襲うために動き出したのだろう。
綾小路くんとの契約は、彼を追う1年生を対処する――と、いうものなので、こちらも動く必要があった。
ただ、こうした後詰が出てくるのは事前に予想できていたため、黒幕探しを終えた鬼頭くんと、その援護として山田くんには、事前に腕時計を壊して綾小路くんの近くで待機するように命じてある。
このために、綾小路くんが襲われた時に救援をすぐには出さず、彼に私の駒が居るこちら側のエリアに来て貰ったのだ。後は宇都宮くんが綾小路くんに接触するのを待って、それを取り押さえるだけ――
しかし、ここでイレギュラーが起こる。
橋本くんから、龍園くんが宝泉くんに襲われているという救助を求める連絡が入ってきたのだ。
タブレットを確認すると、宝泉くんも腕時計を壊しているようで、GPSの反応が探知できない。それを見て、敵が切り札を二つ用意していたことを察する。
おそらく、本当なら後詰として宝泉くんを綾小路くんに当て、宇都宮くんはそれを凌がれた場合の保険だったのだろう。だが、宝泉くんは指示を無視して、たまたま近くにいた龍園くんに襲い掛かった。
「いえ、本当にたまたまなんでしょうか?」
あまりにもタイミングが良すぎる気がする――思えば、鬼頭くんをF9に向かわせた時、彼は「椿桜子が指揮官だった」と、私に報告してきた。
ですが、それはおそらくフェイク。私たちを誤魔化すための嘘だと判断していたが、もし本当に指揮官が椿桜子で、この状況が作られたものだとしたら?
と、考えている場合ではなかった。
ここで龍園くんを見捨てるのは容易いが、一応は同盟を結んでいる状況――橋本くんからの救援要請もあっては、流石に無視する訳にはいかない。
仕方なく、ここで綾小路くんの救援用に用意しておいた鬼頭くんと山田くんに、龍園くんの援護に行くように指示を飛ばす。しかし、宝泉くんの実力は未知数である以上、5対1でも勝てるかは怪しいと判断し、さらに石崎くんと近藤くんにも救援を求めた。
結果として、宝泉くんを倒すことに成功したということですが、代わりに救援に行った鬼頭くんと山田くんが意識不明でおそらくリタイア――手痛い代償を支払うことになっている。
リタイア者が出た時点で、着順報酬は得られなくなり、到着ボーナスも2人分マイナスとなってしまう。頑張ってくれている伊吹さんや森下さん、山村さんには申し訳ないですが、この時点でうちが上位3組に入るのはほぼ不可能と言っていいでしょう。
こうなれば、何がなんでも龍園くんのグループを上位3組に入賞させる以外にはなかった。
龍園くんも流石にこの事態には文句は言えないようで、ここからは私の指示で動いて貰うことに同意してくれている。
まずは、こういう時の保険のために用意していた六角さんのグループと龍園くんのグループを合流させることにした。一時的に平均得点は下がってしまうが、大グループのメリットは説明するまでもないだろう。
その後はAクラスとDクラスのメンバーを使って、3年生や1年生がやっているように課題を独占し、龍園くんのグループに斡旋して得点を増やしていく。
後は最終日の得点2倍の状況で稼ぐだけ得点を稼いで貰うだけだ。こういう状況では、どうしても無人島内を動けない私よりも、元気に動き回れる龍園くんの方が人数的に有利になる。結果的には倒れたのが彼でなくて良かったのかもしれません。
まぁ、龍園くんたちも宝泉くんにやられた傷が厳しいようですが、残り2日半――泣き言は我慢して動き回って貰いましょう。
一方その頃視点その3。宝泉VS龍園は、最初から3対1で戦っていたから周囲への警戒もしていたおかげで鬼頭&アルベルトの不意打ちに気付いた。原作だとタイマンだと思い込んでいたからこそ反応が遅れていたが、このSSでは不意打ちに気付けている。
結果、最終的には7対1で抑え込むことになった。とはいえ、石崎、近藤が来た頃には、龍園側ももう死屍累々の状況で、流石の宝泉も疲れから不意打ちに反応するのが遅れて捕まった形。正直、石崎&近藤が来なかったら龍園は良くて引き分けに持ち込むのが限界でリタイアしており、坂柳と龍園の両方が落ちていた可能性もある。そこは、坂柳の応援判断が最悪を凌がせた。
坂柳SIDEでは、清隆が後ろにいる可能性に至るまでの流れを書いた感じ。この後に、冷静になって考えると、いろいろおかしい点があることに気付いて清隆まで行きつく。