♯046 『これで私たちも〇姉妹だね!』
無人島試験が終了した翌日の8月4日――今日から8月10日までの7日間は、特別試験もなく生徒たちは豪華客船の休みを堪能することになった。
船内にはプールやフィットネスジム、映画館、コンサートホール、展望大浴場にショッピングエリア、カフェテラス等の飲食店を始め、様々な娯楽施設が存在している。
とはいえ、昨日まで14日間もあった無人島生活の疲れもあって、今日は殆どの生徒が部屋でのんびりとしているようだった。
実際、オレの方はまだ体力に余裕があるのだが、流石に女子側が疲れているようだったので初日の今日は完全休日に当てている。
ただ、どうしても南雲退学の真相については知りたかったので、なずなだけはオレの部屋に来るように声をかけた。
改めて、オレと別れた後、どうなったかを聞いてみたのだが、どうやらなずなもどうして南雲が退学になったのかしっかりとは理解できていないらしい。
なずな曰く、オレとの決着がついた後に目覚めた南雲は、タブレットを操作してすぐに動きを見せなくなったということだった。
そして、試験終了後、いきなり教師から呼び出され退学の通達を受けたという。なずなは事前に持っていた半減のカードとPPで退学を免れたが、南雲は仲間にPPを移すだけ移して自分を救済せずに終わったようだ。
「PPが足りなかったのか?」
「ギリギリだったのは間違いないと思う。本当なら、私たちのグループは退学ラインに入る予定はなかったし」
多々良たちを始めとした妨害グループには、最初から半減とPPが渡されていて、いつでも下位に沈む準備が出来ていたらしい。
しかし、南雲の大グループが退学ラインに入るのは完全に想定の外だったはず――なずなを抜いても5人分のPPを即座にひねり出すのは無理があってもおかしくはなかった。
――いや、違うな。
そもそも南雲が退学になるのがおかしいのだ。オレは南雲グループのポイントを消費する際、退学ラインに乗らないように調節していた。
いくら最終日のポイントが2倍とはいえ、あの短い間で順位がそこまで大きく変わるとは考えにくい。つまり、あいつは自分でサーチを使用して自滅したことになる。
問題は、何故南雲はそこまでしてサーチを使おうとしたのか、だ。
勝者であるオレへの当てつけか、それとも自分を裏切ったなずなへの報復か。あるいは、自身の敗北を受け入れられず、最後に何かを壊したかったのか。
「南雲は、お前を恨んでいたか……?」
南雲が敢えて自滅を選んだ理由――いくつかは思いつくが、今の情報だけではどれも決め手に欠けた。
「どうだろう……わからないや。雅、何も喋らなかったし……」
仮に、オレやなずなへの恨みではないとしたら――契約を無効にするため、という可能性も十分有り得るか?
試験前にオレと南雲の間で行われた契約は、あくまで個人間で結ばれたモノだった。その本人がいなくなれば当然効力を失う。
オレが勝った場合、南雲クラスの生徒は卒業まで全てのPPをオレに振り込む契約になっていた。負けた上に、恥の上塗りで仲間を犠牲にしたくないと考えて退学を選ぶというのもない訳ではない。
「そうか……」
しかし、これまで俺様最強至上主義だった南雲が、たった一回の敗北でそこまで精神的に追い詰められるとはとても考えにくかった。
いや、正確には南雲の敗北はこれで4度目か。
体育祭のリレー、生徒会総選挙、混合合宿、そして今回の無人島サバイバル。面と向き合って戦ったのは今回が初ではあるが、合計すれば南雲はずっとオレに負け続けていた。
だが、退学するほどのことではないだろう。
今回退学するくらいなら、それこそ前回の混合合宿で、生徒会の役員であることをはく奪され、半年の停学を言い渡されたタイミングで退学していてもおかしくない。
それだけなずなの件が南雲にとって大きかったのだろうか? オレだったら、仮に雪がオレを裏切って他の男に食べられていたとして、自分が退学するまでのショックを受けるだろうか――否、オレは受けない。
やはり、人間に必要な情緒が育ちきっていないせいか、こういう時に共感をすることが出来なかった。
結局の所、こちらであれこれ考えても、本人に確認が出来ない以上、どうして奴が退学を選んだかなど推測でしか言えない。
なずなにしてみれば、家族に等しい南雲の退学はあまり喜べる結果ではなかったかもしれないが、オレとしては面倒な南雲が消えてくれたのは悪いことではなかった。南雲とそれなりに親しくするルートは、既に原作と言う既知でわかっているので必要ないしな。
「お前にしてみれば、家族が目の前から消えたようなものだ。苦しいだろうが、あまり思い詰め過ぎるなよ」
流石になずなの目の前で、南雲が退学して嬉しいとは言えないので、とりあえずは彼女を心配するフリをしておく。
やはり、なずなもそれとなく気にしてはいるようで、少し元気がなくなってはいるが、「うん、ありがとね。清隆くん」と言いながら、オレの胸に顔を埋めてきた。
「これくらいで気分が回復するならいくらでも貸してやる」
「うん、ごめんね……」
オレには、なずながどうしてこんなに落ち込んでいるのかを共感してやれない。だからこそ、落ち着くまで傍にいる――それが、今のオレに出来る唯一の手段だった。
◇◆
なずながある程度落ち着くと、無人島試験の続きを少しして解散となった。流石になずなも疲れがあるようで「少し休むね」と言って部屋に戻っていっている。
なずなを部屋に返した後も、何となくオレの頭の中にも何故南雲が退学を選んだのかという疑問は残っていた。だが、答えの出ない疑問にいつまでも頭を悩ませるほどオレも南雲に興味がある訳ではない。
少し腹が減ったので何か食べに行くことにした。
月初めということで、CPの変化と共にPPも支給されており、今生徒たちは一番財布が裕福な時期だ。少しばかり奮発しても問題ないくらいには懐が温かくなっている。
ちなみに、毎月1日に更新されるCPやPPだが、今回は3日まで無人島試験の最中だったため、例外として特別試験後の今日、試験結果が反映された上でCPやPPが発表されていた。
結果としては、坂柳率いるAクラスが1068、オレたちBクラスが856、帆波のいるCクラスが569CP、龍園の支配するDクラスが400と、予想した試験結果に何らかのマイナスを受けた形でポイントが反映されている。
どうも原作でもそうだったが、2年になってから理由不明のプラスマイナスが存在するようで、そこまで大きくはないがポイントが変動することが多くなってきていた。
まぁ、それでも無人島試験でのプラスは余りあるくらい大きいので問題はないのだが――と、考えていると、部屋から出て一人でトボトボ歩いているオレの背に、「あー、見つけたー!」という声がかかる。
振り返ってみると、明らかにオレを指さして頬を膨らませている天沢が、ズカズカとこちらに向かって大股で歩いてきていた。聞けば、部屋に行ったけどいなかったから、オレのことをずっと探していたらしい。
「先輩、私頑張ったんだからね! 今度こそ約束守ってくださいよ!」
どうやら、ずっとTレックスをお預けにされ過ぎていて、今回も無下にされるのではないかと気が気ではなかったようだ。
しかし、今回の試験で天沢は完全にこちら側に寝返ったし、もう月城も退陣するので、オレとしてももう天沢を食べるのを我慢する必要がなかった。当然ながら、いつでもウェルカムなのだが――流石に、今は食欲を優先したい気分ではある。
「わかった。わかった。その前に何か食べさせてくれ。お前はもう昼食ったのか?」
「まだ」
「なら、オレが奢ってやるから少し遅い昼飯にしよう」
天沢は何だかんだ無人島試験でオレのためにいろいろ動いてくれていたし、それくらいの役得が合ってもいいだろう。
本人も「やったー!」と嬉しそうにオレの半歩後ろを歩いており、ニコニコと楽しそうな表情を浮かべている。しかし、よく見ると、大きく開かれている制服の胸元に少し青痣があるのが見えた。
「それ、雪にやられた痕か?」
「ありゃ、見えちゃった? まぁ、言い訳になるけど……雪先輩、ホワイトルーム落第生の癖に現役張りに強くて少し苦戦しちった」
天沢もオレ以下とはいえ決して弱くはない。それこそ、この学校内でも五本の指に入るくらいの実力者だ。
原作でも、鈴音や澪が連携を結ぶくらいに協力した上で、怪我で体力を失った状態の天沢にワンチャンスあるかどうかくらいの実力差があった。
それをほぼ互角とは、雪の戦闘能力もなかなか侮れないレベルだ。正直、オレの中では、ブランクのある雪よりも天沢の方が評価が高かったのだが、雪も短い期間で過去の実力を取り戻しつつあるということか。
「まぁ、あたしもこの様だけど、雪先輩も多分似たような状況だと思うよ。とりあえず、しばらくは水着は着られないんじゃない?」
「そんな状態でよく、オレに報酬を強請りに来たな」
「だって、先輩の気が変わっちゃうかもしれないじゃん! そうしたら、またお預けになっちゃうと思って……」
言葉尻が弱くなると同時に、しょんぼりと目に見えてわかるように天沢の元気がなくなる。とりあえず、軽く頭を撫でて無用な心配だとわからせてやることにした。
「月城も退陣するし、お前も正式にオレ側に着くと明言したんだろ? もうお預けにする理由がない」
「ほんと?」
「嘘を付いてどうする。なら、その証拠に月城からの伝言を教えてやる。『命令に背いた天沢一夏は失格の烙印を押される。戻るべき場所はもうないでしょう。この学校に留まり続けるも、去るも、好きなように』だとさ」
普通ならショックを受ける場面だが、天沢は月城からの伝言を聞いて満面の笑みを浮かべる。
「よっし! これでずっと先輩と一緒!」
「むしろ、嫌だと言っても離す気はないぞ。これで安心できたか?」
「うんっ! あーあ、なんか、安心したらお腹空いてきちゃった」
「ふむ、いい具合に時間がズレたおかげで込んではいないな。さて、何を食うか……」
本来ならこの船自慢のビュッフェを味わいたい所だが、ビュッフェは朝と夜だけなので丁度お昼にはやっていなかった。
かといって、天沢と一緒に居るのに売店で済ませるのは微妙なので、出来れば適当なお店で美味しくお腹を満たしたい所ではある。
「こういう時は激辛の麻婆を食べてヒーヒーするのが良いって本で読んだよ!」
「まぁ、ヒーヒーするかどうかは別として中華というのは悪くないな――」
――と、話していると、背後に感じていた気配が急に動き出し、後ろからグイッと腕を引かれてバランスを崩しかけた。
「離れて下さい、先輩!」
見ると、いつの間にか傍に来ていたらしい七瀬が、真剣な表情でオレを引っ張って天沢のことを警戒している。
「ありゃりゃ、嫌われちゃってるね」
「七瀬、大丈夫だ。天沢とは既に和解している。小宮と木下を突き落としたのも天沢じゃなかったんだ」
本当は天沢が犯人だが、もうこいつは身内なので犯人から除外して真相は闇の中に紛れ込ませていく。
しかし、オレが説得しても七瀬は信じられないという表情を隠そうともしなかった。ぎゅっと腕を抱かれ、七瀬の立派なモノで腕が幸せに包まれる。
「……無人島試験の終盤、彼女は時計を壊して行方をくらませていました。人様の目を避ける何かをしていたのは間違いありません」
「終盤はオレと会っていたんだ。こいつは、オレが月城にハメられそうになっているのを伝えに来て、オレを助けようとしてくれた。そのせいで、月城からは裏切り者扱いされている」
「……本当ですか?」
「本当、本当! その証拠にほら! これ、司馬先生にやられた傷」
ペロンと服をめくって、天沢が自分の腹を見せた。カラフルなブラに包まれた乳房も見えるが、それよりも雪との戦闘で出来た傷や痣が酷い。
七瀬もいきなりのことに驚いたような顔を見せるが、すぐにハッとなって「か、隠してください」と、顔を少し赤くして慌てた様子を見せている。
しかし、咄嗟の嘘とはいえ、自分の傷を当たり前のように司馬のせいにしたな。原作では確かにそうだが、この世界では雪がやったので普通に冤罪だ。
「し、司馬先生も月城理事長代理側だったんですか?」
「ああ。最終日に二人がかりで襲われた」
「えっ、大丈夫だったんですか?」
「こうして五体満足でいるんだ、大丈夫だったさ。まぁ、援護がなければ危なかったが……」
まぁ、援護してくれたのは鬼龍院なのだが、敢えて誰が援護してくれたかをボカすことで天沢が援護してくれたように七瀬に錯覚させる。
七瀬もジッと天沢を見るが、当の天沢はいつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。だが、こいつとしても七瀬と積極的に揉めるつもりはないはずだ。
「……わかりました。今は先輩を信じます。ですが、油断はしないようにしてください」
嘘に嘘を重ねたことで、どうにか信用を勝ち取ることが出来たようだった。
「んじゃ、和解できたってことで、七瀬ちゃんも一緒にご飯食べよーよ!」
「えっ、いえ……私は……」
「七瀬はもう昼を食べたのか?」
「まだ、ですけど……ご迷惑では?」
「そんなことはない。それに、天沢とオレを二人きりにしていいのか?」
「ちょっと先輩、それ普通は女の子が言うセリフなんですけどー」
ブーブーと天沢が文句を口にするも、オレの言うことも一理あるのか、七瀬も仕方ないとばかりに小さく笑みを浮かべる。
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「そんじゃ、先輩! 麻婆ゴー!」
「七瀬は中華で大丈夫か?」
「好き嫌いはないので大丈夫です」
こうして、遅めの昼食を三人で取ると、そのまま個室に帰還して天沢の記念の日を迎えた。オレの部屋に連れていかれる意味を理解した七瀬は辞退しようとしていたが、オレが借りを口にし、天沢が背を押すと抵抗もなくなっている。
しかし、天沢は痛みが強いタイプだったようで、いざ本番となると「いったーい! 雪先輩に殴られた時よりもいたーい!」と泣き叫んでいた。
そのせいで、「雪先輩に殴られた?」と七瀬が首を傾げそうになったが、とりあえず全力で気持ちよくさせて、何も考えられないように誤魔化している。
最終的には滑りを良くすることで何とか天沢も大人しくなり、回数を重ねると痛みも引いたようで大喜びで七瀬と一緒に声を上げていた。
余裕が出てくると、天沢も七瀬のことをいじり出し、一番立場が弱くなった七瀬がさくらんぼを収穫されて良い声で鳴く一幕もあったが、裸の付き合いをしたことで原作よりも天沢と七瀬が少し仲良くなったような気もする。
天沢は笑顔で、「これで私たちも竿姉妹だね!」と笑顔で七瀬にくっついていたが、その姉妹20人くらいいるぞ――と、いうのは、雰囲気をぶち壊しそうなので言うのをやめておいた。
原作との変化点。
・石崎が来なかった。
清隆が個室を借りているのを知らないので誘いに来られなかった。代わりに、なずなから南雲について話を聞いたが真相は闇の中。
・天沢、七瀬と過ごした。
七瀬に天沢の無実を伝えたが信じられていない。今も100疑っていたのが90になったレベルで疑いは変わらず持っている。清隆の言葉で引いただけ。
・天沢初体験。
1年生二人目。とはいえ、体中痣だらけでそういう雰囲気にするのは無理なので今回はギャグ調。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
天沢の貫通式をした。が、Tレックスが大きすぎて痛みを訴えたので急遽対策している。
・天沢一夏
殴られるよりも痛くてびっくり。あまりの痛さに馬鹿正直に雪に殴られたことを口走ってしまった。
・七瀬翼
何だかんだ勢いで3Pしている。天沢が雪に殴られた件については清隆のテクで記憶の彼方に葬り去られた。
・朝比奈なずな
南雲退学でショックを受けている。流石にそんななずなを空気を読まずに食べる程鬼畜ではなかった。